やんまの目安箱

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ドラマ(特撮)、アニメ等の話を中心に色んなことをだらだらと、独り言程度の気持ちで書きます。自分のための備忘録的なものなのですが、読みたい方はどうぞ、というスタンス。執筆時に世に出ている様々な情報(つまり僕が知り得るもの)は特に断りなしに書くので、すべてのものに対してネタバレ注意。記事にある情報、主張等はすべて執筆時(投稿時とは限らない)のものであり、変わっている可能性があります。

仮面ライダーゼロワン 第39話「ソノ結論、予測不能」 感想

キャラクター

 飛電或人
・飛電の責任
無邪気に天津を責める或人だけれど、彼の正当性を示すものは一体何があるか。
前提として、ヒューマギアの最も重要な有用性は人手不足の解消にある。子供を生み、何年もかけて一人前の大人に育てるのと比べて、どう考えても効率が良い。精神的にはともかく肉体的には人間よりも頑丈なので、限度はあるにせよ人間よりはハードな労働に対する耐久性も高い。

ただ、ゼロワンの世界が人手不足に直面しているかどうかは判断が難しい。例えばかなりヒューマギアに頼っていたはずの医療現場だが、唯阿の入院していた病院に限ってはそれほど困ってる様子はなかった(36話 12:42)。僕はゼロワン特有の"敢えて"矛盾してるように見せる逆張り精神が表れてる描写だと勝手に受け取っているので、あくまで「ちゃんと回ってる病院を選んだ」が故におかしく見えるだけで、全体を俯瞰してみればしっかり困っている、という風に捉えている。

これは病院回(8,9話)で或人がヒューマギアを再起動したことについて使ったロジックなんだけど、「人手不足に対しては或人はヒューマギアを流通させる以外には何もできないが、マギア化問題はゼロワンとして対処できる」が故に、或人の視点からはヒューマギアを広めることって筋が通ってるのよね。「社会のために自分にできることをやる」のなら、ゼロワンとしてマギア退治に専念するのが最適解。もちろん暴走しないように研究してもらうことも必要だけど。
(参考:仮面ライダーゼロワン 第11話「カメラを止めるな、アイツを止めろ!」 感想)

仮面ライダーが到着するまでにデイブレイクタウンの近くでマギアが殺す人の数と、全国で暴走せずまともに働いてるヒューマギアの数、どちらが多いと思うだろうか。少なくとも"人手"に着目する限りにおいてはどう考えても、暴走の危険があることを踏まえてもヒューマギアを受け入れた方が良いように思える。
また、36話で自分を責める唯阿の前ではその負担を減らすように自分の責任を認めたことがある。彼がこれまで滅亡迅雷や天津に対して一貫して否定的な態度をとってきたのは、あくまで向こうが自らの否を認めようとしなかったからなのかもしれない。果たしてどっちが先に否を認めるべきなのかは議論の余地が残るだろうが。

・無意識の赦し
天津の強迫観念を知ってのことでは全くないが、鬱陶しいからとかそのくらいの軽い気持ちで放たれた「1000%ってのやめれば?」という言葉が、ひょっとすると彼にとっては「無理に1000点を目指さなくていいよ」という救いになるかもしれない。後述するように、そういった小さなボタンの掛け違いが時に計り知れないほど重要な意味を持ったりするのが、人間関係の面白いところ。
もちろん、逆効果で「お前に何が分かるんだ」となる可能性もあるけれど。

・ど素人社
或人は本人も言ってた(13話 04:38)ように、能力的にはマジで戦うくらいしかできないポンコツなんだけど、逆に彼が何でもできてしまったら、それこそ本当の意味で"ワンマン"経営が可能になってしまう。
能無しで他の人を頼らないといけないからこそ、人と人(ヒューマギア)との繋がりを大事にしなければやっていけない。それが或人に対するストッパーの役目を果たしている。
新たな仮面ライダーのデザインについても、(本で勉強してたとはいえ)実現可能性とかが厳密には分からない無茶な発想をするからこそアークの予想を超えられるかも、というのはそこそこ理に適ってるように思う。
机上の空論で超えても実現できなければ意味ないじゃないかというのは尤もだけれど、人間関係においては「論点の先取り」が重要な意味を持つ場合がある。
シンケンジャーの丈瑠が良い例だけど、彼は殿としての資格があるから殿をやっているのではなくて、無理やり殿という嘘の仮面を自らに課しているに過ぎない。
これは仕事における"上司"にも同じことが言えるように思う。誰も最初からノウハウを持ってる訳がなくて、でも実際人の上に立たされてしまった以上は引き返せないとあれやこれや苦心している内に、いつの間にか上司として認められるようになるのではないか。
もしそうやって身に余る地位を与えられなかったら、そこまでの努力はしなかったかもしれない。無茶な要請があればこそ、開けるものもあると思うのよね。
ウインダムの充電問題でも似たような話したけど。あとキラメイの充瑠も似たような役割を負ってるね。

(参考:ウルトラマンZ 第4話「二号ロボ起動計画」 感想)

 

 天津垓
・AIへの愛憎
まず語りたいのは、新旧さうざーを同一視することについて。
ひとつは本当に飛電製犬型ロボってことだけを根拠に天津の投影で成立してる可能性が挙げられるけど、もうひとつ考えられるのは動きを似せているケース。つまりゼアがどうにかして旧さうざーの情報を手に入れることはできるのかという話。
もしも当時の飛電が個体ごとのバックアップを取る方針だった(或いは任意のものを天津が利用していた)なら、単にそれを参照したと見ていいだろう。
そうではないとするなら、現在から遡って知る必要がある。なんとなく可能そうな理屈をこねるなら、サウザーへの変身時はゼロワン同様天津の脳も思考補助AIと接続されているはずなので、サウザーのシステムをハッキングして閲覧することで過去の記憶データをサルベージできる、とか?
また少々突飛に聞こえるかもしれないが、今の天津の言動等から過去の経験を逆算することも全く不可能ではないと思う。ゼロワンがアサルトグリップを使ったことについて唯阿が言っていたように、ゼアがラプラスの悪魔に匹敵する情報把握能力を持っているのであれば、未来の予想だけでなく過去の出来事を推測できてもおかしくはない。
前者はゼアがサウザーシステムにアクセスできること、後者はデータベースの豊富さと推測能力の高さを仮定した元で成り立つ話なので、各々納得の行く方を採用してもらいたい。
同一性という話でいくと、今回のOP後に2番が流れる演出もちょっと重ねて見られる。間に提供が挟まってたりして"地続き"では明らかにないんだけど、ヒューリスティックな人間の感覚を以て脳内補完して捉えれば、続いてると了解することができる。

ここからは「飛電への愛」に話をスライドする。
犬型AIが好きだったからと言って飛電を好きなことにはならないんじゃないかという意見をそこかしこで目にした。一般的な感覚で言えば確かに尤もだけれど、今話の中心にいるのは誰あろう天津垓であることを思い出していただきたい。
彼は会社全体の利益を最優先課題とし、その為には社員をはじめとする"道具"ひとつひとつの犠牲はまるで厭わないような、徹底的な全体主義者だ。アークに悪意をラーニングさせたのも、おそらくは「AI(ヒューマギア)を野放しにする限り、彼らがいずれ人間から悪意を学び人類は滅ぶべきとの結論を出すことは、長期的に見れば避けられない」との信念を元に、避けられないならば敢えて起こしてビジネスチャンスとして利用してやろう、という考えだったのだと推測できる。
いくつかの暴走事例を根拠にヒューマギア全体を廃棄すべきと断じるのもそうだが、大局を見過ぎて目の前の些事に頓着しなくなるほど"視野の広い"彼ならば、眼前にある犬型AIロボではなくその背後にある飛電インテリジェンスに意識を向けていても不思議ではないし、何ならこの理屈を利用して新旧さうざーを同一視したことすらも説明し得る。

・謝意の表し方
全人類(と1匹)が思ったであろうことを言わせてもらうが、悪いと思ってたら呼び出したりせずに自分から出向くだろ、普通。
昔から思ってるんだけど、日本語には謝罪の気持ちを表す言葉がない気がするんだよな。「御免なさい」は免罪の免で「許してくれ」だし、「済みません」は「気が済まない」で「申し訳ない」は「言い訳できない」。
前2つは両方自分のことを気にした表現だし、最後のに至ってはただの事実確認でしかない。「悪かった」とか「謝ります」ってのもピンとこないね。
本当の意味で迷惑をかけてしまった"相手"のことを思った時に発すべき言葉が、思い付かない。強いて言えば「何でもします」だろうか。
何か良い表現があったら教えてください。

 

 刃唯阿
・脳内補完と投影    
唯阿って基本的には寡黙で、自分の考えてることをあまり表に出さないキャラじゃない。だから視聴者としては何考えてるのか分からないと感じてしまうこともあるんだけれど、実際に関わる中では、だからこそ「何か考えがあると思える」とも言える。
僕もバイトしていた時は、上司から納得できない指示を受けても一旦は「自分の知識が不足してるせいでその理が分からないだけで、きっと何かしら筋が通っているのだろう」と丸呑みするようにしていた。その仕事をやってみる中で言ってたことが理解できることもあるし、何度考え直しても効率が悪いように感じたらその時は提言してみる。

前にTwitterでちょろっと言ったけど、人間って黙ってるのが一番頭よく見えるのよね。
最近配信してるハリケンジャーの、初期のゴウライジャーなんかはまさにその典型で、喋っても「フン」としか言わないし、行動に目を向けてもアクティブというよりは省エネ寄りで、色んなものを無駄と判断し嫌うニヒリズムが顔を覗かせる。
続きを見ていくと、実はあんなに訳知り顔してたのに地球を腐らせるのとは別のアレの出し方は結局知らなくて、そのせいでひと悶着起こるという割と間抜けな連中なんだけれど、少なくとも本格登場する(喋ったり動いたりする)前は何かしらの"格"みたいなものを纏っていた。

僕自身は、人と話してる時や感想を書いてる時によく痛感する。ウルトラマンZの感想( 第1話「ご唱和ください、我の名を!」 感想)で如実に現れてるけど、考えれば考えるほど自分の意見に対する反論というのは浮かんでくるものなので、それを考慮していてはどうしても閉口せざるを得ない。「誰かを救うということは誰かを救わないこと」なんて有名なセリフがあるがまさにそんな感じで、何かを選んで口に出す為には別の何かの視点を犠牲にするしかない。
ロッコ問題を前にして迷わず知り合いを助けるためにレバーを動かすような人は、必ず引き換えに人殺しの汚名を被せられる。ある程度以上に頭がよくて自分の選択に対するデメリットが見えてしまう人は、迷って動けなくなる。「それだけは、無意味」だと思うけど。
そういう訳なので、黙っているというのはそれだけで色んな可能性に考えを巡らせて熟考しているように見えてしまうものなのよね。だから、ほとんど関わりの描かれなかった栄田と尾野が唯阿に信頼を寄せているのは、そういう理屈を想定すれば得心できる。

特に唯阿はZAIAとA.I.M.S.両方に籍を置いていた経歴があるので、ただZAIAから一方的に命令が下る状況の中では彼女の存在は一際輝きを増す。「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ」てな感じで、トップダウン方式に於ける認識の齟齬は問題になりがちだが、唯阿は双方の立場を分かっている訳なので、間に立って便宜を図ることができる。……と、隊員たちは思っていたのだろう。
やっぱり何事も当事者の声というのは力を持つものなので、ZAIAとA.I.M.S.両方の当事者である唯阿が支持に従っているということは、きっとこれが現実的な折り合いなのだろうと納得する材料になり得る。

隊員たちのその認識が事実かどうかというのは大した問題ではなくて、大事なのは「そこに彼らが(ありもしない)希望を見出していた」こと。タイムレンジャーの感想で詳しく話したけれど、人はそうやって擬似的に無から有を生み出す。
「あいつ俺のこと好きなのかな」という勘違いへの返報としてある人を好きになり、相手は相手でそうして生まれた好意への返報というかたちで本当に好きになるようなこと、きっとあるだろう。恋愛のステージで考えると少しハードルが高い気もするが、はっきりとした馴れ初めが思い出せない"友達"の発生に際しては、ほとんどがこのパターンなのではないかと思う。

言動の「好意ゆえのものと解釈できる度」を数値で表してみる。
例えば挨拶くらいなら割と誰もが誰にでもするだろう。これを0.1だとして、Aさんに挨拶されたBさんは自分の中で0.1相当である世間話(いい天気ですね、くらい)を返したとする。AさんがBさんよりも奥手な性格だった場合、Aさんにとって世間話に対するハードルは0.2で、Bさんはこちらに0.2好意を抱いている(のかもしれない)と解釈する。すると今度は0.2相当のお返しをする。
また人の行動には気分という振れ幅があるので、相手に抱いている好意が0.2だとしても、返す行動には上下に多少のファジィさを設ける必要がある。そうやって少しずつ溜まっていく"解釈のズレ"がインフレーションを起こしたとき、ついには好意が1を超え「自分はこの人が好きなのかもしれない(と同時に相手も自分を好きかもしれない)」と気付く。まさに嘘から出た真。

かようにして人は他人に自分を重ね投影し、無数の勘違いの上に感情を生み出していく。
「ポッと出のアイちゃんがすべてを解決している」のではなく、「アイちゃんを契機としてキャラたちがそれぞれ"一人で勝手に助かってる"」というのが正しい。不破も唯阿も天津も、本人たちは曲がりなりにも40話近くに渡って積み上げてきたものがある訳で、それらがアイちゃんに投影されて現出しているに過ぎない。

今回天津に対して怒りをぶつけてたのも、それ以上に自分のことを許せないと思ってるからこその言動に見えた。だから謝らないという話ではないが、「謝って済むと思ってるのか?」と。不破本人はカラッとしてるので、そこまで絶対許さないとは思ってないみたいだけど。
主人公がすべての元凶ってのが軸である『ビルド』という作品において、エボルトに責任転嫁するあのセリフ「元はといえばあんたのせいだろ!」は一番言っちゃいけなかったと思うんだけど、この心理を使えば受け入れられないこともないと言う訳でもなくもない。

(参考:未来戦隊タイムレンジャー Case File2「見えない未来」 感想)

 

 

 

 アークはすべてを理解の内に収めようとする。その結果として唯一の対等な他者であるゼアをも取り込み同化した。
対して、多様性を認めるゼアが導き出した結論が「わからない」だったことは意味深い。
僕は例えば33話で飛彩が裏切ったことに対してまったく気持ちが分からないのだけれど(だってあのまま邪魔しなければクロノス倒せたじゃん)、僕に理解できなくてもあれが紛れもない彼の意志ではあるはずなのよね。
無知の知じゃないけれど、よく分からないものをよく分からないままに認めること。それこそが自由意志の肯定に必要な鍵なのかもしれない。

 

ゼロワン感想一覧

前話

仮面ライダーゼロワン 第38話「ボクは1000%キミの友だち」 感想

次話

仮面ライダーゼロワン 第40話「オレとワタシの夢に向かって」 感想