やんまの目安箱

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ドラマ(特撮)、アニメ等の話を中心に色んなことをだらだらと、独り言程度の気持ちで書きます。自分のための備忘録的なものなのですが、読みたい方はどうぞ、というスタンス。執筆時に世に出ている様々な情報(つまり僕が知り得るもの)は特に断りなしに書くので、すべてのものに対してネタバレ注意。記事にある情報、主張等はすべて執筆時(投稿時とは限らない)のものであり、変わっている可能性があります。

エボルトの目的と正体(特雑自説発表会 第2回)

今回は「エボルトの正体」についての自分の考えを発表したいと思うんですけど、そもそもなぜこのテーマについて考えるかというと、単純に「エボルトがただの宇宙人じゃあつまらない」と思うからです。
現状の『仮面ライダービルド』を十分面白いと思ってる人には必要のない解釈だと思うし、逆に『ビルド』を大嫌いな人が認識をひっくり返すほど突飛な話でもないと思います。
あくまで『ビルド』に散らばってる要素要素を拾っていくと、割と自然に連想される「ありがちな設定」を紹介する感じですね。

内容としては、僕が以前の特撮雑談クラブ 第8回「赤青」でした話をしっかりまとめたものになっています。

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はじめに:無意味な議論

まず、作中においてエボルトって、結構な頻度で人類や科学についてネガティブな持論を展開して戦兎たちを精神的に追い詰めようとしてましたけど、それが本当に全部嘘だとしたらすごくバカバカしいなと思うんですよ。
主なところだと、共有したツイートの画像にもある10話と35話。どっちも「科学の行き着く先は破滅」だと主張してる訳ですけど、もしエボルトがなんの根拠も信念もなく、ただ口からでまかせを言っているだけだとしたら、『ビルド』でやってる議論の8割くらいは無意味なものになっちゃうんですよ(※1)。

この感覚がより顕著に現れてるのが、マッドローグに変身してからの内海で、エボルトのマネをしてなのか分かんないですけど、しばらくの間はマッドローグがライダーをバカにして、それに反論するってかたちでドラマ的な見せ場をつくってるんですよね。画像に挙げたのはジーニアスフォームの初登場とか、グリスがツインブレイカーを2個使うとことか、ローグが「仮面ライダーは不滅だ!」って叫ぶところなんですけど(※2)。
内海がマッドローグになったのはエボルトを倒すための演技だったので、この画像の中にある発言で本気で責めようとして言ってることっていうのは多分1個もないはずなんですよ。
ビルドの終盤になんか無理やり引き伸ばしてるな〜って感じた人はそれなりにいると思うんですけど、本当にただ番組の時間稼ぎのために適当な雑談をしてるだけなんですよね、この辺の内海は。
まぁ、例えば僕の好きなゼロワンにも同じようなことは言えたりもするんですけど。

 

もちろん、それに対して反論する仮面ライダーたちの方は本気の主張をしている訳なので、100%ドラマ的な意味がないってことにはならないんですけど、双方ともに信念があった上でぶつかってる作品に比べたら一段劣るのは当たり前で、しかもそういう気持ちがこもってない悪役の詭弁でヒーローたちがいちいち落ち込んだりするというのも、ちょっと情けないなと思ったりするんですよ。
況して、マッドローグが活躍するのはせいぜい5話とかそんなもんなのでまぁいいですけど、序盤も序盤から暗躍してたエボルトがずっとそういう無意味な発言をしてきたってことになるのは、流石に僕としては我慢ができないというか、何らかの意味を持たせたくなっちゃうんですよね、どうしても。
前に『ONE PIECE』の魚人島編はホーディに信念がなくてガッカリしたって話をしたと思うんですけど、そんな空っぽの敵で1年間もストーリーを引っ張れるはずがない。

 

「全部が全部嘘って訳じゃない。たまに感動してウルッとしたし、騙して悪いなとも思ったよ」っていうことをマスターは言ってましたけど、この発言自体が大嘘だったなんてことにはしたくない。すごくいいセリフだと思うんですよ、ここ。
3枚目の画像はエボルトの人類に対して好意的なセリフから、嘘っぽいものも含めていくつかピックアップしてみたんですけど(※3)、一番ひっかかるのは美空ですよね。東都のボトルは第一章で浄化し終わったんだから、これ以上ベルナージュを生かしておく動機っていうのは理屈で考えればエボルトには全くないはずで、事実彼女を野放しにしていたから、何回か計画を狂わされてる訳ですし。にも関わらず「大事な娘にそんなことするかよ」と言っている。
単なる悪役にありがちなナメプではあるんですけど、それじゃあつまらないので、そこに何かを見出したいと。


エボルトが単なる宇宙人なのであれば、正体が判明してからもなお石動惣一の姿、っていうより前川泰之さんの姿を使い続ける意味ってそれほどないはずで、変身後の見た目と声でやりきればよさそうな気がするんですよね。
人間の表情を使って演技をするからには、何かしらセリフで言ってるだけじゃない含みというか、裏腹な気持ちみたいなものを表現したいっていう意図があったんじゃないか……っていう、そういう考えをベースにして、エボルトの正体について話していこうと思います。

 


エボルトとは?

なぜブラッド族は星を狩るのか

最初に、本編で設定として明かされている部分からエボルトがどういう存在なのかをざっと確認します。
地球からはまだ観測されていない惑星から来た宇宙人で、火星をはじめとするたくさんの星を滅ぼして自分の一部に変えてきたと。
星を滅ぼすためには、まずその星にまつわるエレメントを集めたフルボトルを60種類つくることでパンドラボックスを開けて、パンドラタワーっていう謎の塔を建てる必要があると。そうすると上空にブラックホールが現れて、全部吸い込まれてエボルトの力になる。

この基本設定から、まずパンドラタワーってのは明らかにバベルの塔で、パンドラボックスを開けるための鍵であるフルボトルっていうのは、謂わばその星がどれだけ発達しているかを測る尺度みたいなもので、生物が30種類、無機物……っていうか人工物が30種類、合わせて60種類もの多様な概念が確認できたら、少なくともブラッド族の価値観的には「滅ぼすに値する高度な文明」という認定がなされるって仕組みなんだろうな……ってところまでは、まぁ妄想とか考察とかそんな仰々しい言葉で括るまでもなく自明のことだと思います。
この時点で、ただ単に世界を滅ぼして自分が最強の存在になろうとしてるイカれた宇宙人では絶対になくて、発達しすぎた文明に対してその傲慢さを指摘して戒めるような役割みたいなものを背負っていて、だからこそ人類は愚かだと再三に渡って言い続けていたんだなというのは、まぁ分かるんじゃないかなと思います。

 

『第九』に表される人類補完計画

ここからは直接今回の議論に関係する訳ではないんですけど、29話の冒頭でパンドラタワーの建設をバックに難波が指揮を振っていた『歓喜の歌』……いわゆる第九ですね、そこから読み取れることをまとめていきます。

youtu.beエボルドライバーの音声が第九のアレンジになっていることはメタ的な都合としてここでは細かくツッコまないですけど、ビルドドライバーの「イェーイ!」は歓喜の声だし、「トンテンカン」は大工さんだしって感じで、この歌が玩具段階からかなり重要な要素として設定されてるのはまず間違いないと。

世間的には『エヴァ』のイメージが強い曲だと思いますけど、今回たまたまその歌詞の和訳を初めて読んでみたら内容がかなり人類補完計画に沿ったものになってて、ちょっと感動したんですよね。画像はWikipediaから引っ張ってきてツギハギしただけなんで、句読点の位置とか間違ってるかもしれませんけど。
全体的にはバラバラだった人類とか全生物たちが、神様の元に集まって一体になるようなイメージについて歌っていると思うんですけど、画像の後半みたいに「友達も恋人もいないような不適合者は泣く泣く立ち去れ」みたいなことも言っていて、すごく意外だなと。
人類補完計画だったらそんな風にハブったりはせずにみんなでひとつになりましょうって感じじゃないですか。でも、なんか僕はそこのところがすごく心に残ったりもしたので、一応載せときました。合唱の中でもその部分は、輪に入れなかった人たちの寂しさだったり、そういう人たちを横目にみんなでひとつになる喜びを分かち合ってる罪悪感だったりが感じられるように表現されてたりもしていい感じです。
それで、もしエボルトの目的がこの第九に強く表れているとしたら、さっきまでの文明の傲慢が云々みたいな話は一旦なくなって、単に宇宙規模で人類補完計画をやろうとしてるだけって説も出てくるのかなと。
第九の歌詞には、バベルの塔で言う人類が神様のいる天空を目指して塔を建てたから、そんな無礼なことをするやつにはバツを与えてやるぞみたいなニュアンスは多分なくて、むしろ神様のいる聖域に入って行くぞ!みたいなことを高らかに宣言して、その上でみんなは歓びに包まれてる訳ですから、全く逆のイメージですよね。

 

もうひとつの可能性として、割とありがちなどんでん返し系の設定で、「人類は実は地球で生まれた生命ではなくて、宇宙人が撒いたタネから生まれたのだ」みたいなやつも考えられます。それこそ『エヴァ』の第一始祖民族?なんかはまさにだし、近年の作品だと野崎まどさんの『正解するカド』とか、デスノートのコンビの新作『プラチナエンド』なんかもそういう設定ですよね。
第九の歌詞には、もともとひとつだったものが別れて、それがまたひとつになるっていうニュアンスがあるので、エボルトが吸収していく全ての生命体は、元はブラッド族が撒いたタネだったと考えることもできるかなと。この可能性はどちらかというと、エボルトのマッチポンプ感みたいなのに合致するからありえるなって側面が強いです。
もしブラッド族が人類の起源に関係してるなら、エボルトを倒すのは"親殺し"になりますしね。
ただ個人的にはこの説はあんまりかな(応用可能性が低い)って感じなんで、今回はパンドラタワーはバベルの塔だよねってところから「エボルトは発達しすぎた文明に対して罰を与える存在」っていう方を採用します。

 

 

ベルナージュとは?

火星とエボルトの因縁

次に考えておきたいのは、ベルナージュについてですね。ベルナージュは下手するとエボルトよりも謎が深くて、結局どういうやつだったのか情報が少ないし、推測するための材料もほとんどない。まぁ、今回みたいに独自解釈をする上ではかなり自由に都合よく扱えることにもなるので、便利ではあるんですけどね。

 

本編で示されてる要素といえば、基本的にはエボルトの対極にいる存在って感じで、エボルトの力であるネビュラガスを浄化する能力を持ってて、カラーリング的にも赤と緑で対比されてますし、まぁ人類に対しても好意的だと。カラーリングっていうのは、エボルトとベルナージュが人間に憑依したときの目の色が、それぞれ赤と緑ってことですね。
そんな感じなんですけど、そもそもベルナージュがいた火星文明っていうのは、エボルトにとっては今までたくさん滅ぼしてきた星の中のひとつに過ぎないはずで、エボルトと同じくらい強い力を持っていたから対抗できたっていうならまだ納得感もあるけど、何故かちょうどぴったり相反する力を持っていたというのが、偶然にしてはできすぎな感じがするんですよね。
パンドラボックスもフルボトルもどっちもブラッド族のアイテムのはずなのに、ベルナージュがそれをどうこうできる能力を持っているというのは、素朴に考えるとおかしい。

これは自分の中でまだ答えが出てないんですけど、エボルトは火星探査にやってきた石動惣一の記憶からフルボトルを60本つくったらしいので、つまりエボルトは自力でフルボトルをつくってパンドラボックスを開くことができるはずなんですよ。にも関わらず、本編では滅ぼそうとした火星文明の生き残りであるベルナージュの力に頼って東都のフルボトルを浄化していて、なんでベルナージュにそんなことができるのかも、なんでエボルトがベルナージュを頼るのかも全く分からないんですよ。
エボルトが自分でできるんだったら、美空に浄化をさせるためにわざわざ戦兎を仮面ライダーにしてヒーローごっこをやらせる必要は全くなくて、ビルドそのものが始まらない。

逆に、ベルナージュはベルナージュでエボルトに対して謎に執着心が強いんですよね。火星を救えなかった後悔から地球を同じ目に遭わせたくない、もしくはエボルトへの恨みでもって計画を邪魔してやりたいというのは最低限の動機として通ってるけど、それだけだと若干弱いような気がしてて。というのも、ベルナージュは消える瞬間に「エボルトが消滅した、これで役目は終わった」って言ってたんですよね。この役目って表現がどうにも引っかかるんですよ。
ベルナージュに王妃としての役目があるとすれば、それは火星を守ることであって、今更エボルトを倒すことでも地球を守ることでもないはずですよね。絶対にそういう表現をしないとは思わないけど、少なくとも一番しっくりくる言葉ではない。
この辺の疑問を解消するためには、エボルトとベルナージュには何かしらの繋がりや因縁があると仮定するのが一番都合がいいんじゃないかなと、僕は思うんですよね。

 

パンドラの箱は誰のもの?

元々本編内での扱いとしても、パンドラボックスとかスタークが使う不思議な力は、きっと火星の力でしょうってことで前半部分は進んでたんですよね。これは今からすればミスリードだったんだねってことで終わらせることもできるんですけど、僕としては、途中まではどっちにも転がせるようにぼかしていたんじゃないかなと思っていて。
直接は関係ないんですけど、実際、万丈が人間じゃないというのは決まってたけど、元はベルナージュのお兄さんみたいなイメージだったところから、エボルトの一部って設定に変化したみたいな話もあったりします。

そもそも、いわゆるパンドラの箱に関するお話と見比べてみると、まずプロメテウスが人間に火を与えて、それに怒ったゼウスがパンドラっていう人類最初の女性を送り込んで、彼女が開けちゃいけない箱を開けてしまって大変なことになる……っていうのが大まかな内容ですけど、これは結構、さっき話したバベルの塔の話とニュアンスは近いですよね。人間が過ぎた力を手に入れてしまったので、神様が罰を与えるって意味で、当然ビルドにおける科学の扱いに合致する訳です。まぁ、バベルの塔旧約聖書で、パンドラの箱ギリシャ神話なんで混ざってますけど、ともかくパンドラは、どちらかといえばエボルトと同じく人間を罰するために用意された存在だと。で、ビルドにおいてパンドラボックスを開いてしまった女性といえば、美空とベルナージュな訳です。

 

このパンドラが開けちゃった箱なんですけど、ゼウスがパンドラに持たせて送り込んだって説と、元々プロメテウス陣営がそういう箱を持っていて、それを開けさせるために好奇心旺盛なパンドラを送り込んだだけっていう説があって、結局パンドラの箱はパンドラの持ち物なの? どうなの? ってところがよく分かんないんですけど、これはたまたま、ビルドにも同じことが言えるんですよね。
ベルナージュはネビュラガスを浄化してパンドラボックスをどうこうする力を持ってる訳だけれど、パンドラボックスは火星の力なの? どうなの? っていう。

とりあえず今回の話の中では、エボルトとベルナージュには繋がりがある、同じようなルーツを持つ存在である、という仮定を採用して、ブラッド族は火星の文明が手に負えなくなって遠くの星に追放した奴らだということにします。
そうすることで、ベルナージュがボトルの浄化をできることと、ベルナージュが既に火星が滅んでるにも関わらず、エボルトを止めることに対して"役目"という義務感を持っていたことの2つが納得できます。

 

 

地球人との関係

エボルトを倒すのはテーマに反する

ここからは『ビルド』が本編で描いてきたテーマとすり合わせながら、エボルトとベルナージュが人間とどういう関係にあるかについて話していくんですけど、もしエボルトが人類とは全く関係ない宇宙人だとすると、本編で描いてきたこととやや矛盾して見えるんですよね。
『ビルド』の世界にはスカイウォールがあって、その壁の向こうにいる他者と、戦争するんじゃなくて団結しようよって話だったはずなのに、況して戦兎は「敵も味方も死なせない」ことを信条としてずっとやってきたのに、エボルトを消滅させて終わりなんていうオチは納得がいかない。地球人じゃないからどうなってもいいって理屈がまかり通るなら、北都や西都だって東都民じゃないからどうなってもいいってことにもなりかねないですよね。どっちも先に侵略してきた訳ですし。
実際に放送された『ビルド』の終盤は、どういう意図なのかは分からないですけど、ともかくすげー悪い宇宙人がいるからみんなで力を合わせてぶっ倒そうっていうすごく単純化された構図に見えるようにやや路線変更されてますよね。

僕はそこに納得がいかないので、エボルトと人間に何らかの繋がりを感じる描写がなかったかを探してみると、3つくらい都合のいい要素があります。

 

元々エボルトは人間だった?

1個目はちょっとつまらないですけど、エボルトが本来の力を使うために、エボルドライバーっていう外付けアイテムを使う必要があること。これはおもちゃとして売るっていうメタ的な都合が絡んでる話なので説得力としては弱めですけど、地球の生物であるコブラの力を使ってるんだから、エボルトは地球と関係がありそうだし、もしかするとベルトさえ使わなければ元々は人間に近い生物なんじゃないかっていう話です。

2つ目は、万丈がグレートクローズに変身したときに、エボルトの遺伝子を体内で新たにつくったっていうこと。エボルトが本当に地球外生命体なんだとしたら奇跡って言葉じゃ納得しきれない荒唐無稽さがあると思うんですけど、もしもエボルトが元々人間と似たような生物で、遺伝子が変異を起こして進化していった延長線上にいる存在だったとするなら、奇跡が起こればギリそういうこともあるかもしれないと思えるかなと。

最後の3つ目は、ジーニアスフォームの攻撃によってエボルトに感情が芽生えたこと。これもぶっちゃけ、当時は全く意味不明な展開だと思ったんですけど、もしエボルトが人間と似たような生命体だったとしたら、若干だけ納得の余地が生まれます。
そもそも、ジーニアスフォームはエボルトに感情を与える能力を持っているっていうのが意味不明ですよね。戦兎もしくは葛城巧や忍が、人間らしい感情を与えることでエボルトが改心する可能性に賭けようとしてたとかそういうことがあれば別ですけど、まず葛城親子は昔から一貫してエボルトはぶっ殺すつもりですよね、龍我のことすら早めに倒すべきだって言ってたぐらいですから。でもって、敵も味方も死なせたくない戦兎くんは全く予想外だって反応してるので、誰もそんな機能は付けてないはずです。
強いて言えば、美空からもっと仲間を信じろと諭された葛城巧が、万丈だけに留まらず仲間じゃないエボルトのことも改心してくれると信じちゃって、そういう機能を付けた……という可能性はギリ残ってますけど、動機的にはそれでいいとしても、エボルトという宇宙人に感情を与える方法なんてものがどっから湧いて出てきたのか完全に謎ですよね。

なので、エボルトに感情が芽生えたことは誰にとっても予想外だったということを前提に、じゃああのときの戦兎は本来何をしようとしてたのかなって考えると、普通に考えたらジーニアスフォームの機能として明言されてる、ネビュラガスを中和する能力を使ってエボルトを弱体化させようとしたんじゃないかなと思うんですよ。
その結果としてエボルトに感情が芽生えたってことは、多分エボルトには本人が知らないだけで元々人間と同じ感情が備わっていたんだけど、それがネビュラガスによって抑圧されていたと考えればどうかなと。

ネビュラガスによって感情が抑制されるなんて話が本編にあったかって言われると微妙なところではあって、例えばスクラッシュドライバーなんかはネビュラガスの影響を強く受けることで好戦的になってしまう副作用があった訳なんで、そこを見ると全く逆じゃんって感じなんですけど、その一方で、通常のスマッシュとかビルドのハザードフォームなんかは、自我を失ってしまって人間らしい感情っていうのがなくなってるようにも見えますよね。

どういう理屈なのかはさっぱり分かんないんですけど、エボルトに関しては後者の、感情を抑制する効果の方が強く働いていたとしたら、ジーニアスフォームにはネビュラガスを中和する能力の他に感情を与える能力なんていう意味分かんないものも付いているということにしなくても、中和能力だけにまとまってスッキリしますよね。オッカムの剃刀っていうやつです。
それに、感情が芽生えたとか言ってたけどどう見たってこれまでのエボルトにも感情はあるように見えただろって感じた人も多いと思うんですけど、この疑問についても抑制されてただけで元々あったんだとすれば解消できるので便利です。

長くなっちゃいましたけど、この3つの観点から、エボルトは本来人間に近い肉体と感情を持っている生物なんじゃないか、っていう推測ができます。

 

 

ブラッド族 誕生のあらまし

ここまでを踏まえた上でもう一回本編のテーマと照らし合わせてみると、『ビルド』で一番重要視されてたのは科学者の倫理観と責任みたいな概念ですよね。兵器利用されるかもしれないものをつくってもいいのか、つくったとしてそれは罪なのか。あとそれを少し一般化して、兵器をつくったりそれを使って戦争をしてしまう人間は愚かな存在なのかどうかっていうのが大まかな軸になってて、ここに異論がある人は少ないと思います。
これまでしてきた話をこのテーマとうまく合致するように組み合わせて解釈すると、エボルトっていうのは人間が戦争のために生み出した生物兵器(改造人間,生体兵器)であって、科学の負の側面を体現する存在だと理解するのが一番自然だと思うんですよ。

 

予想される本編までの時系列

ざっくりとした流れを予想すると、まず20XX年に人間が人体実験などをして科学を進歩させていって、その結果としてブラッド族のような生物兵器が生まれてしまう世界線があったとします。
ちなみにここは本編でも、ファウストの目的は究極の生命体をつくることだっていう風に幻徳が明言してたりするので、そういうファウストに所属してたような奴ら、葛城巧の信者になってたような人たちがやったんだろうなと思います。

科学の発展と引き換えに地球の環境は破壊されてどうにもならなくなってしまって、歴史をやり直すために人類は遠い過去の火星に移住します。多分普段は火星から地球を観察していて、必要があればこっそり干渉して、破滅の未来に行かないように少しずつ誘導していたんじゃないかなと思います。
この辺は役割的にはプロメテウスが火を与えるのとちょっとだけ似てますね、火星ですし。あとこの時点でおそらく現代のような肉体を持った人類というのは滅んでて、劇中に出てきたベルナージュがそうだったように、精神体みたいな存在に進化というか変化することを余儀なくされてたのかなと。

で、どのタイミングなのかは分かんないですけど、自分たちが生み出してしまったブラッド族が手に負えなくなって、火星人は彼らを遠い宇宙に追放したんだと思います。いつかは彼らを完全に倒せるだけの技術を確立することを目標にして。ベルナージュが背負ってた"役目"というのはこれで、火星人の王族に代々使命として受け継がれてきたことなのかなと。

ブラッド族はブラッド族で何回か世代交代をする中で、彼らは勝手に生み出されて勝手に捨てられた訳なので、科学に対する罰を与えるために宇宙にある文明を滅ぼすことを使命として生きることになります。
そのうちキルバスが王になって自分たちごと宇宙を滅ぼそうとして、自分たちが死ぬのは嫌だなっていうブラッド族の生き残りが、エボルトと映画の4人として宇宙を旅していくと。
そんな感じで、ビルドの本編に繋がってくるんじゃないかなと思います。

 

本篇では、なんか知らんけどエボルトに滅ぼされて、なんか知らんけど地球を助けるために力を貸してくれるっていうふわふわした立ち位置だったベルナージュが、自分たちが生み出してしまった罪の責任を取るっていう『ビルド』のテーマに沿ったキャラクターになる辺りは、解釈としてかなり収まりがいいんじゃないかなと思います。
それに、エボルトが人類の科学によって生み出された存在だとするなら、彼が人間の愚かさを指摘することの説得力は十分ですよね。

 

"地球B"は新世界創造の犠牲になったのか

こういう筋書きを想定することによって、地球B(B世界だったり世界Bだったり色々表記はありますが)と融合して新世界を創造するっていうラストの展開についてもかなりスッキリ理解できるようになります。
僕は昔からあの展開には疑問があって、今まで散々エボルトの手のひらの上でいいように踊らされてきた訳じゃないですか。葛城巧が戦兎になったのも戦兎が仮面ライダーになったのも、これまでのいろんなパワーアップも、ずっとエボルトが裏で暗躍してたおかげで成し得たことだったのに、最後の最後でもまたエボルトの力に頼るのかよっていう風に僕は感じて、しかも普通に倒すんじゃなくて、エネルギーとして消費することで消滅させるっていう、モノ扱いをしてるのがなんか気持ち悪かったんですよね。

なんですけど、エボルトが科学の産物だったなら、モノ扱いすることにも多少納得はできるんですよね。兵器として使われちゃうライダーシステムを使って人々を守るのと同じように、"使い方"によって善にも悪にもなるよっていうテーマから逆算して、エボルトは科学によって生み出された最悪の兵器だけど、使い方によっては世界を救うこともできると。そういうことを描きたいがために、じゃあエボルトの莫大なエネルギーを使ってハッピーエンドをつくる、っていう流れにするにはどういうギミックが必要かを考えた結果として、映画の文脈も踏まえて平行世界の地球と融合するっていう結論に至ったんじゃないかなと。

それにプラスして、地球Bは巻き込まれただけでいい迷惑だっていう昔から散々されてる議論についても、この地球Bっていうのがもしさっき言った「将来的にエボルトを生み出してしまう元々の世界線の地球」だったとしたら、この問題はほとんど解決しますよね。タイムマシンによって分岐した世界線をひとつに戻しただけなので、全く関係ない平行世界を巻き添えにしたことにはならなくなります。
そういう意味も含めて、今回の話はかなり便利な解釈なんじゃないかなと思ってます。

 

 

おわりに:エボルトの真意

最後に、最初の話に戻るんですけど、エボルトがただなんとなく文明を滅ぼしたいだけの宇宙人じゃなくなったことで、彼の中にあったかもしれない裏腹な感情っていうのがちゃんと意味を持つようになってきます。画像の3枚目ですね。
エボルトを始めとするブラッド族は、科学によって自分たちのような破壊兵器が生み出されてしまったことを悲しいこと、許せないことだと捉えてるからこそ、行き過ぎた文明を粛清してやろうなんてことを考えてるはずなので、科学に対して絶望しながらも、もし破滅に向かわない道があるのであればそれを見てみたいっていう気持ちも、心のどこかにはあってもおかしくない訳です。オーマジオウとか、『Fate』のエミヤみたいな心情ですね。
ベルナージュを殺さなかったことも含めて、人間が自分の提示する破滅の未来を乗り越えて、自分を倒してくれることを期待していたとするなら、ただのナメプじゃなくてきちんと心の葛藤を描くドラマとして意味のある行動になります。
これでようやく、僕の好きだった「全部が全部嘘じゃない」ってセリフが嘘じゃなくなった訳ですね。

 

僕が今回話した説は、正しいかどうかとか、脚本家がそういう風に考えていたかどうかとか、小説版がどうなるかとかはどうでもよくて、「そう考えた方が自分は面白いと思う」っていうだけを頼りに組み立てた話なんですけど、だからこそ自分が本編に抱いてた疑問とかモヤモヤが何個も解決するって意味で、すごく便利な解釈なんですよね。
この発表会っていうのは、公式の情報じゃないっていうところが大事なコンセプトなので、すごくぴったりな議題なんじゃないかなと思って、今回は発表させてもらいました。
みなさんもなんかそういう話があれば、ぜひ参加してほしいなって思います。ありがとうございましたー。

 

前回

86ma.hatenablog.com

 

 

※1

科学の未来
10話
「ライダーシステムは多くの血が流れることを想定してつくられた軍事兵器だ。科学者の理念? そんなものはエゴに過ぎない。お前だって分かってるはずだ、科学の行き着く先は破滅だということを。科学が進歩すれば、それだけ人間は退化し、環境は破壊され、世界は滅びる」
35話
「本当にそうか? もし俺が地球に来なくても、お前たちはいずれ戦争を引き起こしていただろうよ。前にも言ったはずだ、科学の行き着く先は破滅だと。科学が発展し便利になるほど、人は考えることを放棄していく。やがて、何も分からないまま争いに身を投じる。それが科学のもたらす未来だ!」

※2

無駄話
39話
「笑わせるな! なら君がつくったライダーシステムはどうだ? 戦争の道具として多くの犠牲者を生み、更にはエボルトを復活させて、人類を破滅に導こうとしている!
君はこうなることを予見していたはずだ。それでもつくったのは、科学者としての矜持。自分の力が絶対だと世界に誇示したかったからに他ならない!」
40話
「お前たちがどれだけ戦っても、エボルトの支配からは逃れられない。いい加減、自分たちが操り人形だと気付いたらどうだ?」
→「俺たちは操り人形なんかじゃない!」
42話
「結局お前は父親の意志を継げなかった。氷室首相も哀れだよなぁ? こんな無能な息子を庇って命を落とすなんて、無駄死にもいいところだ!」
「この国はエボルトのものだ、それを倒そうとするお前たちは反逆者でしかない。国を敵に回してでも戦う意義なんてどこにある? 仮面ライダーは必要ないんだよ!」
→「仮面ライダーは不滅だ!」

※3

信じてる
5話
「この男ならボトルの力を正しいことに使ってファウストを倒してくれる」
14話
「全部が全部嘘って訳じゃない。たまに感動してウルッとしたし、騙して悪いなとも思ったよ」
25話
「大事な娘にそんなことするかよ」
34話
エボルトを倒そうとした葛城巧を殺すのではなく、記憶喪失にして助ける
Vシネ
「人間だから勝てたんだよ」
Evolution
「Show me now! Baby! Show me now!
 Let me know! Baby! Let me know!
 Oh! Change my heart!」