やんまの目安箱

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ドラマ(特撮)、アニメ等の話を中心に色んなことをだらだらと、独り言程度の気持ちで書きます。自分のための備忘録的なものなのですが、読みたい方はどうぞ、というスタンス。執筆時に世に出ている様々な情報(つまり僕が知り得るもの)は特に断りなしに書くので、すべてのものに対してネタバレ注意。記事にある情報、主張等はすべて執筆時(投稿時とは限らない)のものであり、変わっている可能性があります。

仮面ライダーBLACK SUN 第二話「アネモネ怪人」 感想

第二話「アネモネ怪人」※エピソードタイトルは僕が勝手に付けたものです。

・過去編の舞台は1972年。ざっくり『仮面ライダー』がやってたくらいの50年前。
本作の怪人は普通の拳銃で死ぬほど弱い、というイメージが一話の木下裕二事件でついているけど、怪人側は一応寄ってたかってはいるもののたった一人の爪攻撃で人間を殺せるくらいの力を持っていて、一方人間はサイ怪人ひとりを殺すのにあれだけの大人数で縛り付けた上で油をかけて火をつけるくらいしないと倒せないという構図になっているらしい。これはサイ怪人がハエよりも強そうだから、というのもあるかもしれないが。

・この頃の怪人は明確に「反人間战線(戦線)」を謳っていて、やはり過激寄りらしい。
僕は未だにイマイチ理解できてないんだけど、堂波道之助政権はなぜ怪人の人権を認めないんだろう? 少なくとも彼個人の意向としては怪人を無敵の日本国民として兵士に徴用したい訳だから、支持率を下げないよう急進的な改革はできないにせよ、でも怪人に利害関係のない人間の政治家が大多数な政界の中では「どちらかといえば怪人の権利擁護にやや好意的」くらいのスタンスを取ってたりして、怪人たちからは有り難がられても良さそうなもんに思えるんだけど、どうやら明確に今の政権に対しては敵対的らしい。反対の根っこになってるのは怪人を強制隔離する政策とのことで、まぁ堂波の行動としては分かるような分からないような微妙なライン。
あるいは、いざ戦争になれば国民は「徴兵されるのは怪人だけです、人間の皆さんの安全は保証するので便宜上怪人を国民として認めてください」みたいなロジックで世論をひっくり返せる自信があるから、今は対外的には怪人の権利は認めない方針なんだろうか。それなら理解できる。

受け継がれた平和思想?

・光太郎と信彦は反暴力主義っていう描写、初見時はあまり好きじゃなかったのよね。それこそ牙を抜かれた仮面ライダーシリーズじゃないけども、最低限は視聴者に感情移入してもらうためにノイズになるような刺激は削り取って、人畜無害なお利口ちゃんにしてしまうっていうよくある薄っぺらいやつだなーと思ったから。
でもこれがもし"村"にいたころ秋月博士からそういう思想教育を受けてきたことの表れなんだとしたら、色々と筋が通る。「争わない2人だから選んだ」というのも劇中を見てる限りではあまり説得力を感じてなかったんだけど、そういう風に育ててきたからこそ信じて託したって話ならかなり話は変わってくるし、根幹のテーマである「受け継ぎ」とも関連してくる。秋月博士は自分の平和的思想をまだ幼かった光太郎と信彦に押し付けたが、それは果たして正しかったのか。彼らから正当なはずの"怒る権利"を奪うことになってしまっていたのではないかという話にもなってくるから、特に葵のオチともバランスが取れてとてもいい感じになる。
進撃の巨人』で言うなら初代フリッツ王の"不戦の契り"にあたるかな。"破滅的な平和思想"なんて風に言われてたけど、理不尽に対して対抗せずただ黙って耐えるのが正しいのか、それともやはり立ち向かうべきなのか。

・「我々は混乱を好まない。そこで発生する混乱の原因は総て日帝にあることは明白である」
前者は壁に書かれてる文字の一部だけど、あるよねこういう論調……危なっかしい。
・「お前たちは怒ってるか?」「いや、特に」
このシーンでは、ビルゲニアは2人のこと認識できてないんじゃないかな。たぶん子供時代以来しばらく会ってなくて、もしかすると光太郎と信彦は、ビルゲニアの兄ちゃんが主軸になって活動してるらしいって聞いて見当はついてるかもしれないけど、ビルゲニアの方は後から知り合いだったと知ってちょっと気まずいなとか思ってそう。
・「この力を解放するべきではないのか? 俺たちの力は、そのためにある!」
さっきの話でいくと、同じ村に住んでたはずのビルゲニアは平和思想を強くは植え付けられなかったのか、それともだからこそ反発して今こうなってるのか、どっちなんだろうね。どこで間違えたんだろうって言い方からすると後者っぽい気もするけど。
・新城ゆかり……というかかわいい女の子に積極的に誘われて悪い気はしないぐらいの気持ちで参加しちゃうのはなんかまぁありがちよね。特にスポーツ漫画とかでかわいいマネージャーが……みたいなのはよくあるけど、本作の場合役者の内心デレデレしてるけど男としてかっこ悪いとこは見せられないから抑えてるみたいな演技がかなり生々しくて見ててこっちまで恥ずかしくなるのがとても良い。かわいい。
・ダロム,ビシュム,バラオム,ビルゲニア……の名前がへんてこりんなことよりも、一般怪人がクジラとかノミとかモチーフでしか呼ばれないことの方がよっぽど変だよね。まぁ50年も怪人社会があって個人名がないなんてことはないだろうから、ゴルゴム内では本名を隠すしきたりでもあるんだろうか。まぁ光太郎と信彦は名前でも呼ばれがちだけど、一応ブラック・サンとシャドームーンってコードネームはある訳だし。
ゆかりとオリバー、つまり人間組だけか? ゴルゴム内部にいて本名晒しっぱなしなの。
清水富美加さんが千眼美子さんになったこともあったけど、怪人コミュニティ内で何かしらの儀式みたいなものをクリアした個体には特別に名前が与えられるのかな。
少なくとも三神官は政治の世界にも顔出しで入り込んでるので、人間っぽい表向きの名前が偽名としても存在しないなんてことはないと思うんだけど。

 

光太郎の動機

・葵にとってのキングストーンは両親から受け継いだ大切な石(意志)……というダジャレはまぁすごくよくあるパターンだよね。
光太郎的にも、ゆかりに託したものが巡り巡って今は葵の手にあるというのが、経緯は分からないまでも何か不思議な縁を感じさせるということで、クモ怪人から助けた前回も含めて当面の行動原理になってくる。
もうひとつ、光太郎は一話で確か注射打ちながらニュースを見ていて、まだ理想を捨てずに世界と戦ってる葵と全てを諦めて自堕落に生きている光太郎とを対比させていたので、活動家としての葵に過去の自分を重ねてるという面もある。

・『BLACK SUN』の現実社会への皮肉が表現の自由として認められるべきなのはそれはそうかもしれないけど、こうして劇中で「表現の自由だ! これはアートだ!」って話題をわざわざ取り上げるのはなんか予防線張ってるみたいでダッセぇなとは思う。
・「もっと怒りなよ、君たちにはその権利があるんだよ」
光太郎も信彦も、父親は博士として出てきてるけど母親の存在は全く示唆されていない。この辺のゆかりの言動を見ても、彼らは根本的には母性愛を求めてるっていう風に描写されてると見て良さそう。
葵も、おそらく親との繋がりを感じていたいがためにあぁいう反差別運動にいそしんでいる側面が大きいんだろうし、「親が子供に自分の思想を押し付けることの是非」よりもまず先に、「大概の子供は親が自分に何かを働きかけてくれることを期待している」という前提の方を強く意識した方がいいのかもしれない。その上で、度が過ぎるとまずいよねっていう論点は当然生まれてくるんだけど。


・葵と川本夫妻との約束、葵側にはアネモネ怪人が、川本夫妻側にはコウモリ怪人が送り込まれてたのは、単なる偶然なのかね? クモ怪人の一件で葵がマークされ始めて、この電話が盗聴されてたから、これまで逃げおおせてきた川本夫妻は待ち合わせ場所へ向かう途中で捕まることになっちゃったのかなとも思ったんだけど。
・過保護な養母、美咲さん。自分が継母にいい感情を抱いてなかったのもあってかなり嫌な人に見えるけど、そこまで頓珍漢な読み取りじゃないよね? 心配してるからっていう大義名分で詰問するのも怖いけど、特に「私に気を遣わなくていいから」って一言がゾワゾワっとする。
実の親に甘えることに後ろめたさを感じるほど自分は母親としてきちんと振る舞えていて、葵からも気を遣われる程度には好かれているという前提の元で勝手に話進めてる感じが、自意識過剰というかなんというか。むしろ「気を遣わないでね」と念を押すことで、心の中に後ろめたさを芽生えさせる可能性の方があって、黙って送り出した方がよっぽど自然。
僕は幼少期に継母から虐待……に近いことを受けていたというつもりでいて、近年になってそのことについて自分の中で整理をつけたいと思って初めて連絡取ったんだけど、第一声が「どうしたの? なんか悩みごとでもあった?」だったのがすげー気持ち悪くて。この人は自分が、離婚後にわざわざ電話をかけて悩みを相談してもらえるような立派な親だと自覚してたのかと思うと、継母から受けた色んなことでぐだぐだ悩んでたのがバカみたいですげぇ腹立ったときに近い。
変に卑屈なのも良くないけど、これはちょっと……。
・ニックがなんで情報通なのか、全く説明ないのすごいよね。最後まで見れば、まぁオリバーの息子ならある程度の人脈があってもおかしくないのかなと思うが、いきなり何のフォローもないまま「とにかく情報通なんだよ」ってことで進むから。
風都イレギュラーズはその辺、ウォッチャマンはブログやっててネットに詳しいみたいなのがあったけど、外国人ということ以外にキャラ付けがない。
黒人だからきっとウェイウェイした感じのパーリーピーポーで噂話とかも入ってくんだろ〜? フゥー! ……なんて偏見に基づいた推論を差別問題を扱ってる本作でするのもどうかと思うし。
葵の英語力は多少ニックの助力もあるのかな? ぐらいのことは察したけど。
「差別するような店、二度とくるか! 死ね!」……(苦笑)

・日本語字幕はめちゃくちゃなことで有名(※)だけど、英語版は割と気の利いた翻訳もしてるんだな。
「保険かけて色んなやつにしっぽ振っとかねぇとな(I have to "bat" my eyes at everyone to keep myself covered.)」
「コウモリしっぽあったか?(You are Koumori, a bat, after all.)」
「ものの喩えでしょうよ(It was just a metaphor.)」
"bat my eyes"が日本語で言う"目配せ"が近いのかな、目をぱちくりbatして媚を売るようなニュアンスにしてるらしい。比喩を変えたことでツッコミが「コウモリだけにね」みたいな肯定系になりつつも皮肉っぽさは失われてないのもはぁーってなった。
こういう小さな発見があるから、好きな作品は外国語字幕までしっかり味わえたら楽しいだろうなって昔から思ってる。
※現在は修正されてます
(英語の歌詞)
感情と記憶のゆらぎ
特別な何かに選ばれたとして
神のみぞ知る 命のエビデンス
月明かり陰る
雑踏に響く叫び
(英語の歌詞) 振り払えない
イヤな痛み・恨み・涙
堪えたままで
終わることないディスティニー
届くことないメッセージ
もう抜け出せないの? アイドンノウ
過去に戻れはしない
この胸が生み出した空想
もう鳴り止まない雷鳴
いつまででも終わらない再生
もう抜け出せないのアイドンノウ
この闇に声はない
もがくほど落ちてく(英語の歌詞)
(英語の歌詞)

 

怪人描写のリアリティ

・自分の羽根で遊ぶ子供俊介いいよね。もし怪人が実際にこの世界にいたらっていう視点で、一番リアリティがあって自然な描写だと思う、とても好き。
なんだけど、1話といい今回といい"雑談"シーンのセリフ回しはとても自然とは言い難くて、これは役者の問題も多少はあるのかもしれないけど脚本が良くないと思う。自分で書こうと思ったらとてもじゃないけど無理って音を上げるくらい難しそうなのは理解できるんだけど、そこはプロとして自然な会話を見せて欲しかったな。
・最後に交わした会話がつまんない喧嘩だった……はベタベタだけど、友達との何気ない会話で「美咲さんとこに預けられたとき、私ほんとに嫌だった」って愚痴ってた直後に殺されちゃうっていうのは、ひと捻りあって面白いよね。まぁこれもたまに見るけど。別に大事に思ってないからそういうこと言ってたんじゃなくて、むしろ大切だからこそ安心して愚痴を言えてたというか、そんな感じの。

・僕は『BLACK SUN』を一周見てから『BLACK』を初めて全話見たんだけど、このアネモネ怪人に関しては元ネタの方がよっぽど理屈として説得力があったからびっくりした。
空気中に蔓延した花粉が変身時にベルトから発するエネルギー(光)で引火して爆発するから変身するなよっていう、まぁ理屈としてもありそうだしハッタリだったとしても光太郎はむやみに変身できないしっていうことでかなりきちんとしてるんだけど、こっちは「花の結界(?)によって何故かベルトがそもそも出てこない」だもんなぁ……。
一応、変身するには力む必要があるから花粉には筋肉弛緩作用があって……みたいなことを考えてもみたけど、俊介は余裕で変身できてるので、あの世紀王サンドライバーという一点に対するメタ能力だと解釈するより他ない。
それはそれで、あのベルトも不思議パワーが100じゃなくて何かしらのテクノロジーなんですよっていう描写のためにわざわざこんなややこしい表現をした可能性もなくはないけど、分かりづらすぎる。

 

・「行くとこなくなっちゃった」は少なくとも養母を殺された件について言ってるもんだとばかり思ってて、あのシーンが「養母を殺されて、肉親もずっと待ってたのに来なくて……」という二重の意味を持ってたんだと理解したのは、四話になってからだった。
道中で「来るかなぁ」みたいなセリフ入れるとか、たまにキョロキョロしながらずっと待ってるタイムラプスが入るとか、そういうフォローがあればあそこが親との待ち合わせ場所だったんだって分かったかもしれないけど……分かんなかったなぁ。
そもそも直前に捕まった男女が葵の親なのかどうかも、手配写真と見比べたら分かったかもしれないけどしばらく確信が持てなかったので。いや、彼らは親の代理人で、来れなくなったことを伝えに来た……もしくはこれまでの話とはなんの関係もなくてこれから絡んでくる新キャラって可能性もあるなと思ってたのよ、あまりにあっさり捕まるから。

・「生活保護者、独居老人、子供を作れないLGBTQ……怪人やヒートヘブンの材料になる人間は腐るほどいる」
怪人の元になる人間をそもそも社会的弱者にしてしまったのは思い切りがいいよね。初代なんかはナチス・ドイツの優生思想を受け継いでて、頭脳明晰,スポーツ万能な選ばれた人間しか改造手術を受けられず、その他は奴隷労働をさせられるってことになってたけど、確かに怪人をマイノリティの比喩として描くならそっちの方が都合がいい。

 

・当事者である怪人たちを差し置いて、人間なはずのオリバーとゆかりがゴルゴムの旗に∞のマークをスプレーしたのはなんでなんだろうね? 怪人たちよりもずっと前から差別と戦ってきた先輩として、みたいな風に一目置かれてたりするんだろうか。オリバーが黒人差別されてそうなのはともかくゆかりは女性ってだけのようにも思えるけど……なんかどこかの血が入ってるんですって言われたらそう見えないこともない。
「永遠に差別と戦い続ける」っていうことに作中ではなってるけど、メタ的な意味合いとしては2つのキングストーンをくっつけることで新たな創世王が降臨し、永遠に怪人が生まれ続ける……みたいなニュアンスも含めてるんだろうし、ゆかりの目的を考えるとちょっと意味深な気もする。
本当にゆかりがキングストーンを集めるための堂波道之助のスパイでしかなかったとするとちょっと不思議な描写っていうのがいくつかあって、ひとつめはここで孫である堂波真一をさらう提案をする必要があるのかっていう点。
まぁ道之助が普通の人間らしく素直に孫の心配をしてるとも思えないので敢えてそう指示してる可能性はあるけど。この時点ではまだ光太郎たちがキングストーンを持ってることまでは分かってなくて、さぐりさぐりなのかな?

・光太郎バス(仮)の食事シーンで目玉焼きが出てくるの2回目だけど、なんか意味あるのかな。日の丸っぽい、太陽っぽいといえばそうかもしれないし、それを食うわけだから日食だろみたいな遊び心?
・『BLACK SUN』本当に白倉さんの言う通り一本の長い映画みたいというか、一挙配信ならではのやり方で、1話の終わりに555みたいな取ってつけたようなヒキを用意するでもなく、めちゃくちゃぬるっとしれっと終わるので、すげー気になるとかじゃないんだけどごく自然にそのままの流れで次も見始めちゃうのが面白い。

 

前話

仮面ライダーBLACK SUN 第一話 感想

総括

受け継ぐものと終わらせるもの『仮面ライダーBLACK SUN』 初見感想