やんまの目安箱

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ドラマ(特撮)、アニメ等の話を中心に色んなことをだらだらと、独り言程度の気持ちで書きます。自分のための備忘録的なものなのですが、読みたい方はどうぞ、というスタンス。執筆時に世に出ている様々な情報(つまり僕が知り得るもの)は特に断りなしに書くので、すべてのものに対してネタバレ注意。記事にある情報、主張等はすべて執筆時(投稿時とは限らない)のものであり、変わっている可能性があります。

仮面ライダーエグゼイド 第7話「Some lieの極意!」 肯定的感想

 

・貴利矢と誉士夫が同じ病室にいるっていう絡め方は『エグゼイド』らしからぬというか、かなり珍しい日常描写って意味でもそうだけど、平成シリーズの中でもあんまりないタイプの描き方な気がした。……井上敏樹がすれ違い劇の手法としてたまにやるくらいで。
特に2期以降、基本的にはゲストって主人公と絡むことが多くて、何故かって言ったら探偵の依頼人だったり主人公が自分から首突っ込んでいくタイプだったりするからなんだけど、逆に2号以降は自分たちの縦筋と他ライダーとの接点こそ描けど、1話限りのゲストと関わるイメージってほとんどない。50話あっても、そんなことしてる余裕がないんだろうね。
『W』のデカイエローなんかはそうだけど、あれはたまたま彼女の方から警察側に入ってきた特例であって、照井のスタンスとしてはあくまで「警察として一歩引いたところからドーパント事件を追う/もしくは自分の復讐を果たす」であまりブレない気がする。
今回の貴利矢も、別にこれをきっかけに誉士夫の問題を一緒に解決しようと動く訳ではないんだけど、一応永夢に事情を説明することで一役買っている。


・CRの病室に入れる人と入れない人というのは、基準はハッキリとは示されないものの何か線引きがあるらしい。貴利矢にせよ灰馬にせよ大我にせよ。
免疫機能みたいね。

・勝手な行動をした罰として、バグヴァイザーを没収されるグラファイト
これまでは単に武器をひとつ奪われたのだと理解していたが、完全体バグスターはこのツールを使って"変身"するんだから、あれを奪われたら怪人体になれないのか? 不思議な話だけど。
バグスターが人間を乗っ取って完全体になると、ゲームキャラとは別の人間の姿(明日那,町井さん,天ヶ崎,ジョニー?)を獲得するらしいことは仮面ライダー図鑑で説明されていて、その上で更に怪人体になるためにはバグヴァイザーが必要となると、あの人間体というのは"化けてる"のではなくて、本当に極めて人間に近い状態なのかもしれない。
5話にゲームスコープで診断した際もそうだったように、普段は「ゲーム病に感染した人間」とほぼ同じで、必要な時だけウイルスを注入して怪人になるという仕組みなのかな。あんまり怪人体にばかりなってると取り込んだ人間の体が保たないから……みたいなことなのかな?
ただし、パラドは人間の姿だけど永夢が消滅しておらず不完全体のはずなのでこの限りではなくて、おそらくポッピーや新檀黎斗,新貴利矢のようにモチーフとなったキャラクター(マイティアクションCのキャラにしろ永夢のイマジナリーフレンドにしろ)が人間に近い姿をしているから、バグスターとしてのそもそもの姿が人間の見た目なんだろう。

 

成長リセットとアイロニー的自由

・前回飛彩に対して恋人の件で助言をして少しは関係が深まったのかと思いきや、まったくそんなことはなく「あなたには任せられません」と対立的な永夢。
これもまた高橋悠也の作風というか、彼なりの手法かつ思想みたいなものなのかもしれない。
俗な言い方をすれば"成長リセット"なんだけど、そもそも「人は一度学べば同じ轍は二度と踏まない」という前提がおかしいっちゃおかしいのよね。そりゃあ所詮はフィクションなので、理屈っぽくそういう"経験値"を積み重ねていって、主人公がこれまで獲得してきた考え方や技術などを総動員するというパズル的な話の組み立て方もあるんだろうけど、少なくとも『エグゼイド』や『ゼロワン』においては恐らく敢えてそれをしない道を選んでいる。
そういうデジタルな存在との対比として「間違うこともあれば忘れることもある人間」を描きたいからこそ「こういう経験をしたからこのキャラがこういう行動を"取るはずがない"」というデジタルな認識は本作には相応しくなくて、寝て起きたり、或いは別の話題に気を取られたり、そういうタイミングで都度都度何かがふんわりとリセットされて、もちろんふんわりとしているので継続する文脈もある。

多分この方法論というのは"子供向け"として理に適っていて、おそらく子供自身がそんなに記憶力も明瞭でなくリセットされる存在だからだと思うんだけど、『ドラえもん』にしろ『サザエさん』にしろ『クレヨンしんちゃん』にしろ、1エピソード(30分……ではなく10分前後)毎に話が途切れて継続することはほぼなく、のび太は毎回ひみつ道具で失敗するししんちゃんも片付けしなかったりして怒られるというのがお決まりの展開。それでいて「のび太くんに貸すといつもろくなことにならない」みたいなこれまでの文脈をふんわり踏まえたセリフを言うときもあれば、そんなことお構いなしに躊躇なく貸してくれる回もある。
「失敗から学んで教訓を得る」形式のキャラクター造形だと、同じミスはできないし一度できちゃったことは次回以降でもできなきゃいけないし、回を追うごとに少しずつ完璧超人に近付いていって物語上の"枷"があまりにも多くなる。例えば『ビルド』に対して僕は「6話で万丈がスタークに毒を注入されたときにクローズドラゴンがちゅうちゅう吸って解決してたんだから、34話で戦兎が同じくエボルトの毒に侵されてようがクローズドラゴンで吸えば解決するじゃん」みたいなことを言ったんだけど、そういうイメージ。この展開をやるためだけにクローズドラゴンを破壊するなりなんなりしないといけなかったり、或いはそもそも毒を注入するというネタ自体がもう二度とできなくなってしまう。

でもってこの「経験値引き継ぎ型キャラクター」って、むしろ悪役の方が当てはまりがちなのよね。バグスターもエボルトもヒューマギアも、「その攻撃は一度見たので二度と効きませーん」みたいなことを言い出しがち。
このことからもやはり"デジタルな経験値"概念はテーマ的な意味で肯定されてなくて、不完全ながらに頑張るというのがコンセプトだということが読み取れる。
それはもちろん「話をつくる上でラク、都合がいい」っていうのも兼ねてるんだろうし、実際このロジック,言い訳を活用すれば「仮に脚本家がただ忘れてただけだったとしても、作中キャラクターだって同じように忘れることもある」という無敵の理論武装が完成してしまう。
確かに基本的には復讐に燃えるキャラかもしれないけど、人間って四六時中同じことを考えてる訳じゃないんだから、なんとなく機嫌がよかったら復讐を忘れて協力してくれる時があってもいいよね、とか。
確かに基本的には正義のために動くキャラだけど、機嫌が悪かったらちょっと悪いことするときもあるよね、とか。

『反哲学史』という本で少し読んだだけなんだけれど、ソクラテスアイロニーについての解説の中で一瞬だけ"ロマン主義アイロニー"というものについての話があって、それがかなり興味深かったのよね。
作者が作品の中で描いたものに対して、それに反する思想を持ったりそういう別の作品を表現すること、またそれによって過去の自分からの"自由"を感じることを、そう呼ぶらしい。
読んだ瞬間「めちゃくちゃ高橋悠也作品じゃん!」って思った。というか、過去の自分に逆張りを重ねることで自由を感じるという精神現象はむしろ僕自身の中でこそよく起こっている。
最初は『エグゼイド』のこと好きで、でも段々良く分からなくなって大嫌いになって、大森・高橋コンビの次回作『ゼロワン』はそれへの逆張りで絶賛して、じゃあ『エグゼイド』も同じスタンスで見たら楽しめるんちゃうかと思ってこうして肯定的感想を書いている現在。
特に『ゼロワン』においては仮面ライダーが人間の自由のために戦うということを一旦差し置いても、明確に"自由"がテーマだと最初から掲げていて、だからこそこの「過去の自分自身からの自由≒矛盾」というのは避けて通れない事柄であって、決して"出来が悪いからそうなってる"訳ではないことが伺える。


・前回今回のように2種類のウイルスに同時に感染している場合、消滅したらどうなるの? 半分こなら完全体にはなれなそうだし、かといってどちらかを優先させるような理由も見当たらない……。
子供も標的にしていたことから細胞の量自体はそれほど関係ないとも考えられるが、それならばわざわざ乗っ取らずとも良いのでは……? 或いは、誰か一人の完全体が体に仲間を感染させればそれで済むのではないか。
仲間を増やすことではなくデータ収集が目的だという話なので、コラボスバグスターが完全体になるという"もしも"は有り得ないというか、想定されてないのかな。


・5,6話の患者である曜子さんの場合は一度ゲンムによってゲキトツロボッツが分離され、その後ブレイブにより再度分離されたことでドレミファビートのバグスターが現れていたが、今回は何故か一度の分離で同時に2体のコラボスバグスターが出現。
『セイバー』でも似たようなこと……双子のマミレミを飛羽真とユーリが協力して分離したことがあったけど、それと同じで今回はエグゼイドとブレイブの2人で同時に分離したからこうなったと見るのが妥当かな。なんだかんだで永夢と飛彩は息がピッタリ合っているという描写でもあるのかも?
・ところでコラボスバグスターはレベル3のガシャットが刺さった状態で出てくるけど、つまり患者の中に2本も入ってたことになるのか?
仮面ライダークロニクルの場合は起動スイッチを押すだけでゲーム病に感染して、最終回では正宗が直挿ししたからなのか消滅していた。他に直挿しをやってたのは記憶にある限りだとダークグラファイトと、あとはパックマンの手下のバグスター達くらいで、どちらもバグスターに変化してるのでかなり危険な行為だと思われるんだけど、それが2本も体内に入ってるのに即時消滅ってことにはならないのが不思議。
……まぁ、一応ガシャットは人間が使うことを想定されて調整されたものな訳なので、例えばバグヴァイザーから直接ウイルスを注入されるのと比べたら、ガシャット内のものはある程度ウイルスが弱らせてあったりとかするのかもしれない。


・1クール目は貴利矢をいかにおいしく退場させるかというのが主題だったらしく、小野塚隼人さんの力量もあって僕も(元)アンチながら彼のことはそれなりに好き。
でもって今回の演技が一番好きかもしれない。
「真実が人の人生を狂わせることもある」という過去のトラウマで熱くなってしまうんだけど、自分でもそれに気付いて、掴んで乱れた永夢の胸ぐら,襟の部分を黙って直すところ。
この細かい動作が台本で指定されていたとはとても思えないので、おそらく「悪い、熱くなった」って一言謝るか、高橋脚本のことだから何事もなかったかのように次の話に入るかのどちらかだったんじゃないかなと思うんだけど、そのどちらよりも貴利矢らしくて、かつ悪いと思ってることもきちんと伝わるこの描写は非常にスマートというか、映像作品ならではの表現で好き。役者さんのアドリブなのか撮影スタッフからの指示なのかは分からないけど。

 

嘘つきのパラドックス

・貴利矢の嘘つきっていうキャラ造形は、おそらくクレタ人のパラドックスに着想を得ているのかなと思う。コンピュータの分野でも詳しくは知らないけどそれなりに重要な概念のはずで、真/偽のゼロイチ的な理解の仕方では結論を出せないこともあるのが嘘つき……もう少し正確には自己矛盾する文章の特徴として知られている。
でも人間の頭は矛盾する話を2つ聞いても、動作を停止したりすることはない。それって多分、コンピュータと違って人間の脳はどっちの話も100%は信用していない、100%受け入れるということはできないからで、ある種独断的に「多分こっちが正しい」とか「どっちも眉唾だけど、決めないといけないからこっちを信じてみる」とか、自分の意志で選択することができる。
本人は「今日の自分に嘘はない」だのなんだのと言っているが、その発言自体が嘘である可能性も十分にあるのだから、彼を"信用"するかどうかは結局受け手側の気分とか人柄みたいなものに大きく左右される。
誤解のないよう言っておくと、これは別に自己言及のパラドックスとは関係ないけどね。単に連想ゲームとして、そこから「嘘つきのキャラを出したら面白いんじゃないか」ってなったんだろうなってだけ。

もうちょっと穿って見ると、キャラクター的に言うと貴利矢ってのは「喋るバイク(無機物)」という要素も併せ持ってて、これって要するに人間に従い奉仕するべき機械が、嘘をつくなどの勝手な行動をしたら人間は許せるのかどうかみたいな話とも繋がる気はする。
「あなたのためだから」とか言って、本当は30%残ってるのに本来より早めに「バッテリー残量が15%です」って言ってみたり、アラームを少し早い時間に鳴らしてみたり、逆に眠そうだったので送らせてみましたとか言ったりしたときに「いやお前の意見は聞いてないんだよ、勝手なことすんな」って思うのか、それとも一応善意から動いてくれた訳だから「ありがとう、でも次からはやめて欲しい」などと大人な対応をできるのか……。

食えないゲンムとレーザー

・意志のないチャリンコを思うがままに操るゲンムとはやはり対比になってて、お喋りなバイクに都合の悪いことを知られたら"処分"してしまった展開とも符合する。
この2人のカップリングって殺し殺される因縁の関係になる前から、一応「ゲーマに食われない同士」という玩具ギミック的な繋がりはあったりする。
他の3人はパックンと食べられるのに、この2人は食われない。そこに何かしらのテーマを見いだせやしないかと考えてる途中なんだけど、今んとこあんまり。
「ゲームキャラに食われる」ということから素直に連想するなら「ゲームに夢中になる、心を奪われる」みたいなイメージなんだけど、これはまぁこじつけようと思えば無理ではないが……ってところ。永夢は元からゲーム狂だし、大我も表面的にはゲームに取り憑かれた哀れな男、飛彩もレベル3になってからは意地でも使わなかったゲームアイテムを使うようになったのに対して、黎斗と貴利矢はあくまでライダーの力は手段だと割り切ってゲームを楽しんでいる様子はない……ない……本当にそうか? って感じ。


・5話の貴利矢がどうやら、ゲンムの正体を偽ることでバグスター陣営の作戦を邪魔したっぽい(?)ことに対して、同じ手段で貴利矢の信用を失墜させるのはとても綺麗な意趣返しになっていて、パラドの発案か黎斗の発案かは分からないがちょっと感動した。

・「ノせられちゃった? 少しは人のことを疑え。じゃなきゃ、意外なところで足元掬われるかもよ?」
このダブルミーニングもいい。露悪的に「騙されてやんの」って振る舞うことで永夢に人を疑うよう忠告してると取ってもいいし、まだ少しでも自分を信用してくれるなら「お前はゲンムにノせられてる、本当の正体はパラドじゃないから幻夢の社長を疑え」って意味で受け取って欲しいなっていう貴利矢の隠れた本音もチラ見えするのが素晴らしい。
こういったところは素直に脱帽する。


まとめ

貴利矢とレーザーはどっちの顔もかっこいいので、彼が中心に来るとそれだけで満足度50くらいは担保されてしまう。
色の中だと黄色が一番好きだってのは何回か言ってるけど、中でも2色組み合わせるならやっぱ黒が似合うよね。金色の使い方も安売りし過ぎてなくて品があるし。
ストーリー的にはやはり「貴利矢の過去にあった事実を確認するだけ」なので特に言うことなし。

 

エグゼイド感想一覧

裏面

仮面ライダーエグゼイド 7話「Some lieの極意!」 否定的感想

 

前話

仮面ライダーエグゼイド 第6話「鼓動を刻め in the heart!」 肯定的感想

次話

仮面ライダーエグゼイド 第8話「男たちよ、Fly high!」 肯定的感想