やんまの目安箱

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ドラマ(特撮)、アニメ等の話を中心に色んなことをだらだらと、独り言程度の気持ちで書きます。自分のための備忘録的なものなのですが、読みたい方はどうぞ、というスタンス。執筆時に世に出ている様々な情報(つまり僕が知り得るもの)は特に断りなしに書くので、すべてのものに対してネタバレ注意。記事にある情報、主張等はすべて執筆時(投稿時とは限らない)のものであり、変わっている可能性があります。

仮面ライダーディケイド 8,9話「ブレイド食堂いらっしゃいませ/ブレイドブレード」 感想

キャラクター

 門矢士
・シャッター
これまでの世界ではただ変な写真になるだけだったのに、今回はそもそもシャッターが壊れて写真を撮れないということになっており、かなり一線を画している。
中でも目を引くのは、やはり「士に明確な居場所がある」ということだろうか。
例えばクウガの世界では巡査の格好こそしていたが、当の警察関係者からは見知らぬ人間として扱われていた。それに比べてこのブレイドの世界では、最初からアイ,マイ,ミーの三人に「チーフ」と慕われ、仕事場へと連れて行かれる。士が世界に首を突っ込む以前から、士のことを知っている人がいるのだ。これはえらい違いである。
これらの要素を合わせて考えると、ここは本来「士の世界」だったのではないかという仮説を立てることができる。ディケイドの能力がジョーカーのそれと瓜二つであることは、このことの傍証となる。
彼は「自分の世界じゃなく、世界が俺に撮られたがってないから」うまく写真を撮れないのだった(1話 07:58)。つまり、この世界が彼のいるべき世界だとすると、実は写真がきちんと撮れてしまうことになる。そのことをカモフラージュするための理屈が「そもそもシャッターが切れない」だったのではないか。
これだけでは説明としてまだ足りない。
何故、シャッターが切れないのか……それは「士が撮りたくないから」ではなかろうか。彼のカメラblackbird,flyと彼自身は、比喩的に一心同体だ。構造から考えると、シャッターが切れないという現象は「カメラがレンズに蓋をしたまま、光を取り入れていない」ことを意味する。これを人間に翻訳すると「目を瞑っている」となるだろうか。
即ち、士は本来いるべきこの世界に何か不満があり、それを直視したくない。そう見ると「最低の会社」と文句を垂れるなど、なんとなくこの世界に対してかなり辛口に思える。
だから「自分の本当の世界」を探す旅に出たのかもしれない。
その上で、じゃあ何故ダメ写真を撮れるようになったのかというところに話を進めると、カズマやブレイドという存在と出会い、士が「ここはカズマ(ブレイド)の世界だ」と認識したことによって、ここは彼の世界ではなくなった(≒本当の意味でディケイドの世界の住人になった)のだと思われる。
・vsカリス
ハートフルというのは"有害な"という意味である。一見世直し旅をしているように見えるが本質は世界の破壊者だというディケイドを表す言葉として、かなり的を射ている。
カードを使って該当アンデッドに"カイジンライド"できるカリス(ひいてはジョーカー)は、ディケイドの写し鏡と言って良い。ワイルドカリスになるためのカテゴリーK、鎌田との戦いも含めて、今回は如実に「自分自身との戦い」的な側面が強く見える。
ちなみにパラドキサアンデッドがカプリコーンアンデッドを盾にするシーン(8話 21:38)があるが、ヤギであることを踏まえると"スケープゴート"を意識した遊び心が垣間見える。そして当然、始の代わりに孤独になった剣崎のこともまた意識しているのだろう。こういうちょっとした演出って、なくてもいいけどあると楽しいよね。
この世界でのカリスは、当初はジョーカーとは全く無関係の単なるライダーシステムとして存在していた。これは士が"キャラ被り"を気にして、リマジ世界を作る際にその因果関係を切り離したのだろう。ジョーカーの力とカリスの力というのは同一のもの(ジョーカーの変身能力の一部としてカリスがある)なのだから、そこを切り離すことなんてできない、と普通の人は思うことだろう。だがこれは"パラレル"とは少し違った視点で説明することができる。
科学の世界には"オッカムの剃刀"という考え方がある。これは「ある物事に対する説明は少ない方が良い」というものなのだが、これの"逆"を行うことで、因果関係の切り離しというものは行える。
例えば、物が下に落ちることに対する説明として通常は「重力」という概念が使われてるが、ここに「神様」の存在を仮定すると、「重力があるから即ち物は下に落ちる」という直接的だった接続が、「重力というものを神様がつくったから、物は下に落ちる」という要領で、ワンクッション挟まることになる。更にその神(デーミウルゴス)を作ったより高次の存在・アイオーンというものを考え出すと、今度は「重力を作り出すデーミウルゴスをアイオーンが生み出したので、物は下に落ちる」となり、距離は伸びる。このように、物事の因果関係というものはその気になれば無限に中間的な概念を作り出せるのだ。それはまるで、数直線における1から2までの間の距離が、形而上学的には無限に分割可能なことのように。
ちなみにこの解説、なんとWikipediaのそれとそっくりなのだが(そちらは等速直線運動)、あとから調べてみて気付いたことなので、パクリと責めるよりむしろここでは僕の記憶力と理解力を褒めて欲しい。
ジョーカーとカリスに話を戻すと、なるべく敷衍して言うならば、赤いカリスラウザーと緑のジョーカーラウザーは全くの別物だと捉えるようなものだ。ジョーカーとカリスを同一視する立場からは「色が変わっただけ」だろうが、区別するならば例えば「カリスラウザーはジョーカーラウザーを参考に、BOARDがイチから作ったライダーシステムなのだ」となる。今挙げた理屈をそのまま本編に適用しようとすれば矛盾点が生まれるのも仕方ないが、とにかく、何かしらの(屁)理屈をこねて別物だと見做すことというのは、不可能ではない。
そういうような訳で、当初の『ディケイド』はジョーカーの存在をなかったことにし、カリスはそれとは無縁のライダーシステムとして扱っていたのだが、話の中で「競い合うライバルもいていい」という流れになったことで、キャラ被りを気にせずジョーカーが生まれることとなったのだ。
・統一
階級分けランチを廃止して全員同じにするというのは、ディケイドのやっている"並列化"をうまく表現している。売れた作品もあればそうでない作品もあるし、出来も良かったり悪かったり様々だ。そこをディケイドの名の元で十把一絡げにまとめ、ライダーカードという統一されたフォーマットに落とし込む。それが図鑑の編纂というものだ。
ドラマ的には、これを"感情移入"というファクターによって成立させている。士が各ライダー達と共感し、その中に自分を見出すことによって「みんな同じ人間であり、同じ仮面ライダー(そして士)」なのだと。


 海東大樹
・知り合い
アイ,マイ,ミーと同様に、とは言っても違う次元でだが、彼もまた「士のことを知る人物」として登場した。
ナマコが苦手云々というのは、後のチノマナコとも絡めて眼(まなこ)……つまり人の目が苦手という意味なのだと思われる。それが士のことなのか海東のことなのか、はたまた両方なのかはご想像におまかせするが。
それと、今回の士がチーフ(Chief)と呼ばれていたことが、彼の職業である泥棒(Thief)と似ていることも、何か意味がありそうだけど分からないので、指摘だけしておく。


 鳴滝
・おのれディケイド
入った鏡からしか出られないというミラーワールドの設定や、クロックアップは単なる高速移動とは違うというカブトの設定など、実は本編の時点で矛盾があるのだが(正確には矛盾ではないが)、ディケイドやジオウは"部外者"であるが故にそのことが目立ち、矢面に立たされがちになってしまう。
人の心というのは難しい。


 アイ
千と千尋の神隠し
クレジットでの名前に見覚えがあったので検索してみたらビンゴ。千尋の声優さんだった。
特徴的な「あ゙っ゙」を披露してたり(9話 08:35)、コック帽が下がってきちゃって前が見えない(8話 15:40)などと、原作同様ドジな姿がちらちらと描かれていた。
あの映画も、仕事や自分とは何かみたいなことについてのストーリーなので、合わせて見るとまた色んな発見があって面白いと思われる。

 

演出

・会社ライダー
まぁ、職業って要素を活かそうとするとこういうしがらみ的な描写(8話 01:44)になるよな、自然と。メテオもゼロワンも、認証ライダーとは言いつつも基本的には毎回すんなり変身できちゃうので、あんまり実感って湧かないよね。逆に認証が下りないことをイベントとして描くこともあるけど、あの「あれ? 変身できない!」ってシークエンスの間抜けさったらないので、言っちゃうとあんまり好きじゃない。
それに比べてこのブレイド編はかなり分かりやすいし、見ていて気持ちも良い。
生身のままでなんとか時間を稼いで持ちこたえて、ようやっと変身にこぎつけるという流れが、非常にカタルティック。まさに『シン・ゴジラ』を彷彿とさせるような「制限とそこからの解放」劇として、短いながら的確に表現されていてうまい。

(参考:仮面ライダーゼロワン 第30話「やっぱりオレが社長で仮面ライダー」 感想)

 

 


僕にとっての会社や職業って、いまのところ響鬼やドライブ、エグゼイド等のどの作品よりも、このディケイド剣編が近いんだけど、それが最低の会社とか言われててちょっとフキゲン。
人がつくったルールという秩序世界は確かにただの幻想に過ぎないが、それを重んじるのが会社ではないのか。

 

前話

仮面ライダーディケイド 4,5話「第二楽章・キバの王子/かみつき王の資格」 感想

 

過去作感想

運命のマッチポンプ『仮面ライダー剣(ブレイド)』 本編感想