本稿は本編を見ている前提で書いているため、ネタバレが含まれます。
さて、全話見終えての感想です。具体的な話については全45話に渡ってさんざん書き連ねてきたので、クール毎のまとめよりも更に抽象化して、全体として「エグゼイドとはどういう作品だったか」を考えるような感じ。
転々々……
「どんなに悪い人でも命は命です(5話)。でも子供一人に危害を加えようとしたので殺しました。結果的に生きてたし一切気にしていません(11話)。でも気が変わったので、バイオテロを起こす危険性を孕んでいるにも関わらず生かしました(23話)。でもその後99回のコンティニューが可能な体になったらしいので、命をかけて償わせました(31話)」
これは永夢の、主に黎斗に対する態度の変遷だ。
意見が変わること自体は良い。1年も放送するのだし、何も変わらない方がおかしい。
問題は変わる過程が一切描かれないことにある。
例えば11話に於ける1度目の変化。行動を起こす前、あるいは後悔という形で「悪人の命も尊重しなければならないが、罪もない子供の命が差し迫って脅かされているのなら仕方ない」という葛藤がなければ、話として成立しないと思うのだ。だが気にする様子が一瞬たりともない。
2度目の23話では「前回自分が手にかけてしまったことを後悔していて、やはりどんな場面でも命に優先順位をつけるべきではないとの結論に至った」とか(それはそれでトリアージはどうするんだってなるけど)。
何の葛藤もなく信条に相反する行動ができてしまうのなら、それは何の意見も持っていない・何も考えていないのと同じだろう。
ダイジェスト
上述の例に表れているように、エグゼイドは「結果」しか描かれない傾向がある。"こういう行動を起こしました"という部分はあるものの、"なぜそれを選んだのか"等は一切ない。
エグゼイドファンの方と疑問点について話していると、たまに「そういうものなんだ」という殺し文句が飛んでくる。
主に設定についてだが、例えば「リセットしたのに何故ガシャットロフィが残っているのか」に対して、そう言われたことがある。これは推測でしかないが、キャラクターについてもおおよそそのような理解をしているのだろう。それを果たして理解していると言っていいのかは分からないが。
そうでもなければ、矛盾によって彼らのセリフから説得力……いやさ意味すら感じ取れなくなってしまう。そもそも矛盾なんかしてない、という方はぜひ僕の各話感想で挙げられているツッコミどころを参照し、自分なりの解釈を考えてみて欲しい。
「そういうものなんだ」で済ませられるというのは極端な話、
『「らやた」が「かんもねひ」を「えいとーる」したら「こうじゃんるのびんそん」が「せぬらー」になって「とんとん」になっちゃった。でも「もっぽぽぽー」が「げんぺ」してくれたから助かったよ!』
って話でも楽しめるのだと思う。
僕の目に映るエグゼイドは、これと大差ない。
ファンサービス
何故「そういうもの」で済ませられるのかと考えると、偏にこれだと思う。
クロノス登場! 黎斗も駒の一つに過ぎなかった!(説得力皆無だけど、こういうの好きでしょ?)
永夢とパラドの共闘!(他の4人はちょっと邪魔だから事実上絶版にしとくね)
レーザーVSゲンム! 因縁の対決!(これも好きでしょ? ポッピーの方が適任だけど知らないふり)
逆にリプログラミングは使えるけど、すぐ倒しちゃったらつまらないから使わない……。
登場人物全員が視聴者のために、視聴者目線で、視聴者が喜ぶように戦ってるんだよね。思想がころころ変わってキャラ崩壊するのも、これの影響が大きいだろう。
つまりはエグゼイドって、登場人物たちが、信念や意思なんてなく、ただ視聴者に媚を売るだけの話なんだよなぁ。
孫引きになってしまうのであまり触れないが、脚本家の高橋悠也さん曰く「プロレス」の方法論なのだそう。
視聴者が望む"良い画"を提供し、好きになってさえ貰えば、理屈など気にならなくなる。
ついでに言えば、トゥルー・エンディングと銘打った映画を公開しておきながら更にその後日談(アナザー・エンディング)をやるのは詐欺だろ問題も、ファンが続きを望んでるから文句は出ないんだよね。僕は「なんだかんだで1年間付き合ってきたんだし、真の最終回とまで言われたら気になるよなぁ」って見に行ったクチなので、正直少し腹は立った。VSクロノス編なんて毎週が引き伸ばしみたいな内容だったから余計に。
お祭り騒ぎ
仮面ライダーシリーズというと「ディケイドに物語はありません」なんて言い切ったこともあったが、エグゼイドはそれをゆうに超えたと思う。
物語は当然として、キャラクターもその時々によって都合よく変化するし、世界観すら危ういし、積み重ねがないのでテーマやメッセージ等も伝わってこない(一般論に近いような薄っぺらいものなら所々にあるが)。
あるのはただただ"いい感じの構図"のみ。
二次創作の文化に近いような気がする。「こういうのが見たかった」「こうなったら面白そう」という願いを、原作の設定から多少逸脱しても作ることができるのが二次創作の良いところだろう。世界観を差し置いてキャラクターを重視したものだったり、キャラを一新し世界観だけ引き継いで物語を紡いだり、クロスオーバーだったり……そういう、ある種都合の良い取捨選択を公式にやった、という印象。別にそれ自体が悪いとは思わないけど、限度ってものがある。
同年のニチアサに放送されたヘボット!というアニメがある(ネタバレ注意)。この作品は、基本的には何でもアリの不条理ギャグアニメを描く裏でSFチックで鬱々とした世界観をちらつかせながらも、詳しい説明はほぼしないままにシリアスパートを解決させ、「ヘボット達の日常は二次創作へ続く」という着地を見せた。
当初はきちんとした説明がされないことに不満を抱いたのだが、二次創作の肯定という視点に立てば公式から入り組んだ設定を提示するのは余計な枷にしかならない。そういった"作品の根幹"の部分に直結する割り切りだったので、自分は納得できた。ギャグパートが面白かったというのももちろんあるが。
やっていること自体はそう変わらないはずなのに、エグゼイドと違いヘボット!は好きなのである。自分でも不思議なのだが、この辺りはきっと良し悪しではなく好き嫌いの問題なのだろう。
ミスディレクション
エグゼイドは"説明台詞"自体は割と多いのだが、説明になってないことが殆どである。顕著なのは29話。『パラドが永夢に感染するバグスターなのだとしたら、これまで"それ"だと思われていたM人格は一体何なのか?』という新たな疑問には誰一人触れない。ついでに言えばこの謎は結局"疑問視すらされない"まま終わる。
これは邪推でしかないのだが「あからさまに"説明してるんだなー"と言う雰囲気が伝わるセリフがあれば、例え理解できなくても『こんなに自信満々に説明しているのだからきっと筋が通っているのだろう』と信じる」と思って書いてるように感じた。
"疑問視すらされない"というのは、「後から触れれば伏線回収/何もなければどうせ忘れる」という考えが根底にあるような気がしてならないのだ。
それは、例えば自分たちが提供する「熱い展開」に対する自負からくるものかもしれないし、あるいは継続視聴が少ないと言われるこの時代に合わせたものかもしれない。
だが自分は認められなかった。数回ならばともかく全部が全部そんなノリで進むので、不愉快だった。
手品
「熱い展開」で客の注意を逸らし、その間にやっつけで組み立てたハリボテの舞台の上でまた更なる「熱い展開」が繰り広げられる。
だが物語とはそういうものだろうか? 少なくとも自分は、土台を組み上げる"溜め"があってこそ成立するものだろうと思う。エグゼイドは終始茶番にしか見えなかった。
オムニバスならば受け入れられたかもしれない。ライドプレイヤーたちの織りなす無数のストーリー、それならばこんなことにはならなかった気がする。
1つ分かりやすい"手品"の例を挙げると、「適合手術」というワード。
オジンオズボーンの篠宮さんが特撮向上委員会で、適合手術というものを使って「しっかり昭和ライダーの哀愁や孤独を持ってる」なんて言っていたが、全然違う。これの実態は微量のウイルスを投与し、抗体をつくること。僕の知識が正しければ、それって要は"予防接種"なんだよね。予防接種受けただけの人に、別に哀愁も孤独も生まれないと思うよ。日本人の多くも改造人間ってことになっちゃう。
まぁ、予防接種を改造手術に"見立てる"こと自体はいい案だと思うので、はっきり明言して子供たちが予防接種を嫌がらない理由のひとつにできればスマートだったかなと思う。変に手術なんて言葉で誤魔化さずにさ。
『仮面ライダーエグゼイド』を振り返る! 視聴者を惹きつけた4つのポイントとは? | シネマズ PLUS
手品のタネをひとつひとつ解き明かしていくのは、フーディーニじゃあるまいし、"野暮"だろう。
本当は魔法でもなんでもないと分かっていても、そういうものとして楽しむ。それは分かる。
だがそれを1年間放送するドラマでやったことが腹立たしい。
真面目に見た人がバカを見る作品だった。謎解きで引っ張っていくスタイルと言っても過言ではないのだから、考察等をしながら真面目に見るのは作品の楽しみ方として間違っていないはずなのに、何故かそうすると「エグゼイドを楽しめる層」から振り落とされてしまう。
そういう意味で、誠実ではないと思う。姑息なのだ。
and you
前述の通り結果に至る原因や過程はほとんど描かれないので、想像するしかない。
普通明言せず脳内補完させるというと、結果の部分が多いように思う。なぜならそこは"人間ドラマ"とは直接関係ないからである。それまで積み上げてきた過程があれば、自ずと結果は見える。ドラマとは得てして、変化の過程にある葛藤ではないのか? 少なくとも自分はそう感じている。
記憶が曖昧で申し訳ないのだが、以前大森敬仁Pが何かのインタビュー(エグゼイドについてだったとは限らない)で「謎で引っ張るスタイルだと、今時は解き明かしちゃう人が出てくるから恥ずかしい」みたいなことを言っていた。
逆に言えば、好かれさえすれば都合の悪いところをいくらでも想像で補ってもらえるとも言える(勿論そういう意図での発言ではないだろうが)。
本当の意味での"and you"だ。たまにスタッフロールで出るアレ。視聴者がいて初めて完成するドラマ。確かにそう考えると、なかなか先鋭的で面白い作り方ではある。
作品は面白くなかったけれど。
以上が、僕のエグゼイドに対する(多分)最終的な評価である。これほど嫌いになった物語というのは初めてで、色々と考えるきっかけにもなった。楽しくなかったという一点に目を瞑れば、いい経験だったとは思う。満足度は3点。
映画やVシネについては、お金に余裕ができたら見て感想も書くかもしれない。
これとは反対に、良いところだけをまとめた記事↓。
小説版
各話感想
仮面ライダーエグゼイド 1話「I'm a 仮面ライダー!」 感想 - やんまの目安箱
各クールまとめ
仮面ライダーエグゼイド 10のゲーム編(1話〜12話)まとめ感想
仮面ライダーエグゼイド 永夢の秘密編(13話〜23話)まとめ感想
仮面ライダーエグゼイド 仮面ライダークロニクル編(24話〜32話)まとめ感想
仮面ライダーエグゼイド VSクロノス編(33話〜45話)まとめ感想
次作
どこまで本気か分からないギャグ作品『仮面ライダービルド』 本編感想 - やんまの目安箱
最後に
本稿に限らず僕のエグゼイドに関する記事は、過去に色々な方の意見を見聞きした上で成り立っている。一応自分の言葉で書いているつもりであるため、これまでそれらを"引用"と言うかたちで取りあげたことはなかったが、決して小さくない影響を受けている。
と言う訳で、いくつかのブログやコンテンツを参考にしたものとして紹介させてもらう。
賛否どちらもあるので、もし未見であればこれらも見て欲しい。
8:38〜
あと公式サイトも
おまけ
どうせ見返すのなら徹底的にと、自分がすぐ確認できるように全話全セリフを書き出してきたのだが、せっかくなのでネタとして消化しないともったいない気がして。
画像は各話のセリフの文字数表と、それを適当にグラフ化したもの。赤線は平均。あくまでも自分のためのメモを元にしているので、多少の前後はあると思う。
本編45話の中で最もセリフが多いのは僕の記録によると17話、バガモン回らしい。なんだかちょっと意外。記憶違いかもしれないけど、どっかで本当はギャグももっとやりたかったって言ってた気がする。そういうこともあって筆が乗ってたのかね。
うん、それだけ。