やんまの目安箱

やんまの目安箱

ドラマ(特撮)、アニメ等の話を中心に色んなことをだらだらと、独り言程度の気持ちで書きます。自分のための備忘録的なものなのですが、読みたい方はどうぞ、というスタンス。執筆時に世に出ている様々な情報(つまり僕が知り得るもの)は特に断りなしに書くので、すべてのものに対してネタバレ注意。記事にある情報、主張等はすべて執筆時(投稿時とは限らない)のものであり、変わっている可能性があります。

『シン・ウルトラマン』 感想メモ

本記事は2022/5/13に公開された企画・脚本 庵野秀明,監督 樋口真嗣による『シン・ウルトラマン』について、僕は大きなテーマで語れるほどウルトラマンを知らない(↓)ので、細々と思ったことを箇条書き形式でまとめたものです。長かったり一言だったりマチマチ。
一応シンウル自体は2回見て、パンフとデザインワークスは読みました。当然ネタバレを含みます。
※全話見た→G,オーブ,ジード,Z
多少知ってる→パワード,ティガ,コスモス,ネクサス,マックス,メビウス,R/B,タイガ

 

 

視聴前

ゴジラは倒されて、エヴァはさようならされて、ウルトラマンは多分帰って……となると、仮面ライダーはどうなるんだろう? 本編的にはいなくならないし、すぐ次の週からV3に出てきて改造手術したりしてたけど。
・言ったら身も蓋もないけど、ぶっちゃけシンウルトラマン仮面ライダーが世間的な評価でシンゴジを超えることはないんだろうし、自分の中でも超えてこないんだろうなというやや諦めに近いものはある。

 

観賞後の所感まとめ

・割と面白かった。
「自分がウルトラマン知らない割には」と「シンゴジのハードルがあった割には」の"割と"。
・見る前は「下手にリアル路線にしたらバカバカしさが浮くぞ……」と思ってたけど、実際はかなりそこんとこ開き直ってエンタメしてた。
「巨大人型生物 ウルトラマン(仮称)」の時点からだいぶ、パッと見でバカっぽいのを大真面目にやってるから大丈夫かなと思ってたんだけど、結構ギャグも多めだったし、ウルトラマンの挙動も面白おかしく見えたりそれがふっと不気味に見えたりっていう具合になってて、「シンゴジとは違って今回はこういう路線、現実 対 虚構じゃなくてあくまで"空想"側の話」と理解してからは普通に楽しめた。
・スタッフたちは違うと言い張ってるけど、シン・ウルトラマンは結構子供向けに見えたなぁ。子供というか、「ウルトラマンを全く知らないし興味もない一般層向け」というよりは「ウルトラマンに興味はないでもないけど子供っぽさで敬遠してる人向け」のリアリティライン。庵野さんは"緩め"って言ってた。
バクマンの「俺たち読者アンケート3位票が多いから、少し面白くするだけで4位からくり上がって票数爆伸びするのでは?」と似てて、あくまで事前からウルトラマン見てみようかなって思ってた人の背中を押すかたちで客は増えるかもしれないけど、興味なかったけどシリーズにハマった! は少なそう。

まぁだから、元々「でかい怪獣がどこからともなく何度も現れて、味方してくれる謎の巨人まで現れる」っていう大前提が突飛な時点で一般ウケは難しい上で、僕はシンゴジからゴールラインを下げたのは大正解だと思ってるし、少なくとも僕の「ウルトラマン見てみたい」って気持ちは満たされた。
『シン・仮面ライダー』のコート着ながらのアクションも、パッと見がバカっぽ過ぎて……僕はバカなので凄くかっこいいと思ったけど。ウルトラマンもそうで、僕は作品に対して「楽しもう」っていう協力的姿勢だから第一印象を超えて「いや、でもこれかっこいいぞ?」って思うけど、そうじゃない人は「なにこれ」で終わっちゃうんだろうな。

 

第1の事件(ネロンガ)

禍威獣の出現

・後から思ったことだけど、この時点から「空想特撮映画」と銘打たれてるし、一瞬だから読み切れないけど「東京氷河期!大パニック!」とか書いてあって、今回は『シン・ゴジラ』と比べたら緩めの世界観ですよ〜ってのは提示されてたのね。
マンモスフラワーとかいう怪"獣"なのかもよく分からない色んなのがバラエティ豊かにポンポン出てきては2コマで落ちる漫画みたいに解決していくところも含めて、張り詰めた雰囲気みたいなのはある程度緩和されたかも。カイゲルちょっとかわいい。

・序盤は完全に仮面ライダークウガの文脈で見ていた。超人に頼らずともなんとか人類がバケモノに抵抗できていて、それもあってウルトラマンは人類を好きになったのかなとか、単純に榎田さんみたいな人がいるとか。
仮にウルトラマンが宇宙警備隊? やマックスみたいに平和のための監視といった上位存在として諍いの仲裁を目的に来ているとした場合、自分たちにはなんの利益もないのにただ暴れている怪獣をやっつけて、その星の民に神として崇められたり、或いは更なる驚異として恐れられたりと距離を取った扱いを受けていて孤独だったところに、自分たちの力で6体もの禍威獣を倒すことのできる人間という生命体は、ウルトラマンの強さ故の孤独を分かち合えると希望を抱くには十分だったんじゃないかなぁ、と。
尤も後半でどうやら光の星の目的は若干違うっぽいと思ったのであくまで「初見時の感想」ということに留めておくけど、「物語の始まりは微かな寂しさ」とは辻褄が合うので一応この解釈も捨てがたい。

エヴァにしろシンゴジにしろ、庵野さんイズムのひとつには個人的感情の交わりを廃した"事務的なコミュニケーション"ってのがあると思うんだけど、ウルトラマンはそういう禍特隊の面々と最初に触れ合ったから人間を好きになったって側面もあるのかなとぼんやり思ってる。
学者として意見を言う滝と船縁、班長として一歩引いたところからものを言う田村というベースにはシンゴジ的な、災害への対処という大目的と法律や用語などある程度の知識を共有しているが故のスムーズで淀みのない事務的やりとりの空気がありつつも、そこばっかりに偏らないで浅見が神永を好きになりつつあるとかチーム同士の信頼とか、そういう人間的な要素はきちんと匂ってくるバランスが、元々感情少なめなウルトラマンには心地良かったんじゃないかなと思う。
巨大浅見とかウルトラマンの正体とかで盛り上がってメフィラスでさえも苦言を呈すような下世話な、でも割合で言ったらかなり大半を占めてるゴシップ的で感情的な会話ばっかりする人たちが相手だったら、また感じ方も違ったのかなと。

・神永のパーソナリティは殆ど描かれなかったので、2回目はなるべく素の彼による発言に注目してたんだけど、ネロンガが透明だけど赤外線ではモニターできるよみたいな話の流れで「もし生物兵器なら現人類より高度な文明向け」みたいなことを言ってたんだけど、どういう意味だったんだろう。ネロンガの位置を観測できないから今の技術じゃ対抗できないって意味なら分かるのに、滝なんかは「透明の意味ねーじゃん」と軽口叩いてるくらいだし。
それに対して「理に適ってるよ」と返答したのはてっきり田村かと思ってたんだけど、これも神永だったっぽい。
エネルギーが貯まって有利になると見えるようになって威嚇するのは分かるって理屈だったはず。なんだけど、生物に詳しくないからなのか僕はあんまり納得できなかったのよね。透明というアドバンテージを捨てるメリットないし、そもそも粉塵でおおよその位置が見えてるなら透明である意味も大してないじゃんってことだったんだから、まぁ生物の進化において厳密な必然性を求める方がおかしいというのは一旦置いとくとして、強いてここから神永の性格を読み取るとしたら「相手には相手の正しさがあるという前提で、多少自分の主観を投影してでも筋を通そうとする」みたいな感じになるだろうか。
最初に否定から入るのではなく、まず「こう考えれば筋が通るかも」みたいな姿勢で物事を見ることは、特に作品を楽しむ上であるに越したことはないマナー的な作法だと思う。「こことここが矛盾してる」と言って思考停止するのではなく、一見相反する二項が成立する条件を考えてみる……まぁ考えてみたところで無理あるなって思うことはままあるんだけど、そういう"歩み寄り"を試みることはコミュニケーションにおいて大切よね。

※追記 透過率ほぼ100%だから熱光学兵器には有効……つまり「ネロンガの肌はレーザー光線が効かない最強の防御なんだけど、人類はまだレーザー武器を実用化してないから生物兵器だとしたらもっと進んだ文明向け」という話の流れらしい……なるほど! でもだとしたらやっぱり透明解除する意味ねーじゃん!

・「面白いわ〜、どうやって電気の溜まり場を感知してるのかしら」
「空間中の電場範囲を量的に観測できる量子デバイスでも付いてるんじゃないですか?(笑)」
この船縁と滝の会話、生物学者と物理学者のものの見方の違いが詰まってて面白い。終盤の展開もそういうことかも。養老孟司みたいなイメージで現実的に考える船縁と、理論を先行させて考えちゃうから一度「無理だ」と思ったら諦めちゃう滝。

・そういえば、1回目は時間ギリギリになっちゃったのでいい感じの席が空いてなくて、まぁウルトラマンだし見上げるのもアリかということで前から2列目で見た。
その結果として一番印象に残ったのは宗像室長の初登場シーンで、手前に机と広い部屋が配置されて画面上のかなり上部に配置されてるせいで、さぞかしこの人はめちゃくちゃ偉いんだろうなと。正直若干見にくいだけだったのであまりおすすめはしないです。

・神永が子供を助けに行く流れ、改めて見返すとデタラメ過ぎて笑いそうになった。滝と船縁がネロンガに対して「お手上げ、どうしようもない」と言ったほぼ直後に「子供が逃げ遅れてるから」って飛び出してて、あの辺の集落(山梨県身延町?)は当然として、日本全土が危ないかもって状況にも関わらず、禍特隊専従班という5人しかいない重要な役割を放り出して助けに行くという……。
斎藤工 曰く「自分より弱い子どもを命がけで助けて死んだという、およそ生産性のない決断」
ものの捉え方がすごく外星人だよね……役作りってすごいな。ひょっとすると、自分たちにはどうしようもないという無力感から現実逃避したくて、意味がなかろうが目の前の子供を助ける、或いは巻き込まれて名誉の殉死を遂げたいという人間的な弱い心の働きがあったのかも、しれない?
……でも光の星の民に本当に「弱きを守る」って概念がないのなら、リピアは最初何をしに来たのかよく分かんないんだよな。まぁゾーフィ曰く人間を滅ぼす決断をした訳だし、単純な偵察や様子見?

 

銀色の巨人、飛来

・最初に出てきた"銀色の巨人"状態のウルトラマンの顔(いわゆるAタイプ? わかんない)のちょっと怖くて不気味な感じがすげぇかっこいいなと思った反動で、赤くなってからの顔にずっと若干の不満を覚え続けることになった。

・にわかなのも手伝ってか分からないんだけど、元々のウルトラマンのデザインが「真実と正義と美の化身」だとするなら、微妙に違うあの銀色の状態は化身を名乗るには不完全だと考えるのが自然だよね。
銀色の体色は鏡のように現実をそのまま映すだけという意味で真実だけ、或いは真実と正義だけの化身だったりするのかな。
少なくとも美に関しては赤くなってから初めて浅見に言及されてた(きれい……)のであとから追加されて初めてその真善美が揃うのかなって思ったんだけど。
ただ赤いのを完成形とするなら、逆に緑のは何が欠けてるのかよく分からなくもある。同じく美なのか、もしくはこちらにこそ美が欠けていて、銀色状態は正義がない命令の実行者……という見方もできるかも?

ネロンガの電撃を受けても、一切のリアクションを取らずにひたひたと近付いてくるウルトラマンは、手でガードして尚も劣勢に陥ってたガボラ戦と見比べてみてもすごく不気味で怖い。でもそこがいい。
最初にイラスト見たときの第一印象は素直に「かっこよくはない」だったけど、今ではかなり好き。銀色のソフビ出ないかなぁ……!
・作品における"最初の敵"って、その作品のテーマとかを暗に表してることが多いというのが定説? ……というか持論なんだけど、今回のネロンガの名前の由来はZのときにも調べたけど皇帝ネロということで「外星人にしろウルトラマンにしろ、何かしらの絶対的な上位者というものを否定し、それに阿ることなく自らの手で何かを成し遂げよう」みたいなニュアンスを読み取れる。

・明らかに仏様チックなスペシウム光線の右腕の構え方も鳥肌立ったので、劇中でもう1回くらい別アングルから見せて欲しかった。予告見ても左手のカットからしか見せてくんないんだもん、赤いし。
余談だけど、僕はバトル作品においてビームでトドメを刺すという文化はあまり認めてなくて、かめはめ波くらい気合を入れてるならまた見え方も違うとしても、ヒーローがただ突っ立ってるだけで遠距離から爆殺するんというのは絵的に面白くない。
拳なり剣なりきちんと自分の手でかっこよくズバッと倒してこそ、カタルシスってあると思うんだけどな。
……まぁ子供が真似するときに、殴る蹴るをしないで空想のビームで済むんだったら無害で安全だよねって言われたらそれはそう。

あとデザインワークスの絵コンテでウルトラマンのことUMって書かれてるのいいな。UltraManでありながらUMA的なニュアンスもあり。未確認……Animalとは確かに言い難いし。

・何回聞いても……つっても2回だけど、巨大人型生物ウルトラマン(仮称)についての報告書は浅見の仕事のはずなのに、肝心の「詳細不明」という思い切りのいい中身については神永に対する評価として語られてるのがちょっと分かりにくい。バディだから二人の名義で提出したってことなのかもしれないけど、作中に映ってる限りのあの中身のなさを考えるとわざわざ二人であれつくったというのはちょっと可笑しいものがある。
そもそも浅見が配属された直後に、浅見ではなく神永の様子を聞くという宗像の話の流れが全く読めない。
ウルトラマンと融合した神永自身がウルトラマンの正体は全くの謎だと報告したというのも、何か意味がありそうで分からない。自分たちで分からせるためなのか、明かすつもりがないから誤魔化したのか、それとも。

「"ウルトラ"とは最重要機密を指す符丁」というのが気になったので調べてみたところ、MKウルトラ計画というCIAで現実にあった事例(?)が出てきて、Wiki情報だが「ウルトラ」とは第二次世界大戦中に用いられていた符丁で「最重要機密」……というそのまんますぎる解説も載っていた。
どうやらあの有名なエニグマにも関連して、暗号解読された重要な情報のことをウルトラと呼んでいたらしい。
これを調べて初めて「あぁそういうきちんとした理屈があるのね」って一応納得できたけど、僕らにとってはもう"ウルトラマン"という文字列は子供向けヒーローの名前としてあまりにも定着しすぎてるから、先にも言った通りパッと見のバカバカしさは拭いきれない。
リアル路線にするなら政府としては別のもっと真面目な名前を用意してたんだけど、目撃者の間で俗称として広まってしまったから正式に認めざるを得なくなったみたいな描き方の方がノイズは少なかったと思う。
"ゴジラ"は漢字表記も相まって由緒正しい神っぽさみたいなものが損なわれてなかったけど、ウルトラマンって名前は流石に俗っぽすぎる。

関係ないけど、子供の頃からパワードの「いや、ウルトラマンだ」「……確かに女性には見えないわ」っていう洋画的なやり取りがすごく好き。なんかもうツッコミどころ色々違うだろって思うんだけど、気の利いたテンポのいいやりとりだからなんでその名前になったのかという理屈からうまく目を逸らす感じの。

・滝くんのオタク部屋設定ってなんの面白みもないから最初はスルーしてたんだけど、デザインワークスであの小道具選びは基本的に庵野さんの趣味をそのまま反映させているという話を読んで、終盤で無力感に苛まれるもウルトラマン/神永に希望を託されて突破口を見つけるという重要な役割を担う彼の中に庵野さんはいるのかなと思ったら、なんとなく腑に落ちた。あんまりこうやって安易に、作り手が作中キャラに自分を投影してるみたいな解釈するのはよくないけど。

 

第2の事件(ガボラ)

赤いウルトラマン

ガボラの事件において船縁が「ウルトラマンは来ないのかな」ってボヤくシーンだけど、あれをウルトラマンに解決を頼ろうとする人間の描写だとするのには賛成できなくて、僕は単純に学者としての好奇心から「もう一回現れて分析させて欲しい」っていう、ポジティブな意味合いだと思う。終盤で滝と対照的なスタンスを取っていたことも踏まえて考えると。

・多分このタイミングだったと思うんだけど、ウルトラマンがぴーんと伸びた状態でぐるぐるぐるー! って縦に回転して敵をふっとばすアレ、めっちゃ好き。「UFO飛んでます」みたいなピロピロ音も相まってめちゃくちゃ地球外生命体っぽさ、シュールさの中にある不気味さみたいなものが出ていてかなりお気に入りの演出。
空飛ぶときにずっと同じ格好なのもそうだけど、かっこいい/かっこわるいっていう基準でウルトラマンは動いてなくて、ただ単純に"そういう存在"ってだけなんだろうね。あのポーズを取れば重力を無視して自由自在に動けるけど、裏を返すとふわふわ動きたいならあのポーズのまま固定してないといけなくて、謂わばあれは「ウルトラマンUFOモード」なんだろうなと。あの瞬間だけは生き物じゃなくて空飛ぶ鉄の円盤として振る舞ってる。

・本作のウルトラマンは"背中で語る"ようなカットが多いよね。猫背でこそあんまりないけど、なで肩で強そうには見えなくて、むしろ寂しそうな感じすら受けるのに、やっぱりどこか頼もしい。そんな背中。
カラータイマーにしろ背びれにしろ、デザインとして削ぎ落とされることで全体的に"どこか寂しい"印象が強まってるのがとてもいい味出してるよね……シンウルトラマンは。
カラータイマーなんてモロだけど、胸にあったはずのものがぽっかりなくなってしまうなんてさ。あれは番組の都合でピンチに陥らせたりするための枷みたいなもので、それをなくすことでウルトラマンは本当の神になるのだ! 激アツ! って解説してる人もいたけど、どちらかと言うとこれは「やっぱり今あるウルトラマンのデザインが一番馴染みあるしいいよね、シン・ウルトラマンはなんか不気味」って思って欲しいように思える。
「不自由をやろう」。

・ノーダメージだったネロンガの電撃と違って、ウルトラマンにとってもリスクのあるガボラの激ヤバ光線をその身で受け止めたことで体色が緑に変化。
この辺の意味合いはちょっと検討も付かないので誰か詳しく解説できる人いたら求む。

 

第3の事件(ザラブ星人/にせウルトラマン)

外星人とのコンタクト

・「パソコンのデータが消える」という現象のつらさやバックアップを取らせてくれない規則への恨み言を子供が理解できるとは思えないけど、船縁さんがまたオーバーでいいリアクションするから、分かんないなりに笑いどころなんだと察して笑ってる子供がいたのが印象的。
子供って特に、言語的な意味じゃなくてテンポ感とか言い方とかのほうに敏感に反応して笑うイメージがある。あと単純にガックリしてる様子とか。

ウルトラマンは神永の体で禍特隊に入ってからも単独行動ばかりしていて、にも関わらずいつの間にか人間を信頼してることになっているという描き方が不思議でならなかったんだけど、彼はその場にいなくてもある程度は禍特隊の状況を把握できる(≒神の視点を持っている)のかもしれない。
ガボラ戦でも「私たち人間の事情をどうしてか知っていたから、光線も打たずに死体を持ち帰ったのかも」という疑問はあたかも「神永として潜入していたから」で説明が付きそうだけど、ウルトラマンの光波熱線がガボラに当たったら未知の反応が起きるのではみたいな話って順序としては神永が変身したあとに出てきた話のはずで、説明しきれるものではない。これに関してはウルトラマンが普通に自分の頭で考えて気を利かせただけとも取れるけど、メフィラスとの戦いに向けて浅見を呼び出すシーンで「合流したい。場所は君に任せる」とだけ言って電話切っちゃったのよね、神永。普通にそのあともう一回連絡取ったという可能性もあるけど、とりあえずの第一印象として僕は「合流場所聞かないでなんで分かるの?」と思ったんだけど、これも仮にウルトラマンがある程度は禍特隊の動向を離れたところから知覚できる千里眼のような能力を持っているのだと考えれば、不思議はなくなる。
あと具体的には描かれてないけど、ザラブ編でも似たようなことはあった。ザラブが禍特隊に現れて首相との密談を要求したときに神永はやはり居合わせてなくて、にも関わらず僕の記憶が確かならいきなり全てを了解した上で車内で元同僚と話すシーンに飛んで、しかもこの時点から既に自分がザラブに狙われることまで予見して浅見にベータカプセルを託している。この状況把握能力の高さは実際に見ていて少し不自然だった。
さっきも言った通り、この解釈を採用することには「言うほど禍特隊メンバーとも関わってないよね」っていう根本的な謎が氷解するので、ひとつの可能性として持っている。

・ザラブも結構好きなのよねー、淡々とした喋り方がミギーみたいでめっちゃカワイイ。データ復元したりしてくれて、マッチポンプかもしれないけど律儀だし。
見た目はキモいけど。"裏がない"はずなのにそのせいで逆に怪しくなってるのが面白い。

・"スペシウム133"という単語、スペシウムというウルトラマン用語を知らない人にとっても、-ウムという語感に加えて、ヘリウム3とか炭素14みたいな同位体の場合は後ろに数字をくっつけるって表現方法があるのも手伝って「そういう元素なんです」ってことが伝わりやすくなってるのが手際よくて好き。本当に原子番号133の同位体として表現するんだったらスペシウム266?とかになると思うけど、あくまで"語感のイメージ"としてね。
エヴァについても一号機じゃなくて初号機って、同じことだけど言い方を少し工夫することで独自性を出しててすごいって話をしたけど、そんな感じ。
例え、-ウムといえば元素だなとかその辺すら理解できない知識レベルの人でも、単語が長くなればそれだけ「なんかそういう専門用語なんだろうな」感も増す気がする。

不平等条約の容認っていう要素もまた、自力でなんとかするのではなく他人の力にあやかろうとする姿勢に対するアンチテーゼのひとつとして機能しているのかな。歴史は詳しくないので分からん。

・「両方だ。敢えて狭間にいるからこそ、見えることもある」
こうは言うけども、基本的には神永はずっと"ウルトラマン"として振る舞ってるよね。従来的な二項対立としてのウルトラマンと人間の狭間じゃなくて、リピアと神永の狭間にいるのがウルトラマン……という意味なら、分かる。
さっきの千里眼だけど、本来なら神のごとく地球上すべて……或いは宇宙全域から異常を検知して駆けつけることができるための能力なんだけど、人間と融合したことで制限がかかって禍特隊を含む知り合い数10〜100人程度にしか効力がなくなってるとかだとより面白い。どこかに"注目"したり偏って見ることというのは、人間らしさを構成するひとつの重要な要素なので。

・これは半分受け売りだけど、シンウルトラマンの世界に神がいるとしたらそれは神永のことだよね。自分を犠牲をしてでも子供を助けた神永の方こそ、リピアにとってのヒーロー性の原点な訳だから。
演出的にも変身時にウルトラマンが神永をその手で掴むと指の隙間から光が漏れ出すってコンテに書いてあって、あぁやっぱウルトラマンにとっての力の源、"光"って神永なんだって思った。アルカイックスマイルを浮かべる仏様だって、基本は解脱を果たした元人間な訳だし。
もうちょっと飛躍させるなら神永に限らず、浅見含めて禍特隊メンバーのキャラ的な掘り下げがあんまり十分じゃないのも、人間の複雑な精神が持つよく分からなさ,神秘性をこそ賛美したいから、敢えて深くは描かないことでウルトラマンの「何も分からないのが人間だ。だからこそ、私は彼らを知りたい願う(企画メモ)」って言葉に説得力を持たせるという意図があったのかな……なんてことも思った。
少なくとも本作の中では「実は人類こそが一番素晴らしい存在」なんだろうなと。ウルトラマンシリーズはなんで変身アイテムが懐中電灯? ライト? なのか疑問だったんだけど、ウルトラマンは道を照らすだけで、あくまで進むのは人間ってことなのね。

 

第4の事件(メフィラス)

私の好きな言葉です。

・すげー雑に話すけど、人類は元々光の星が地球に撒いた生命の種であって、リピアたち光の巨人と根っこは同族だから同化できて……という裏設定なのかボツ案なのか分からない話がデザインワークスの企画書にあって、何となく僕の頭の中では生命の実を得たら光の巨人、知恵の実を得たら人類にみたいな分岐進化があって、エヴァと同じようなもんでその両方を手に入れてしまったらどうなるかっていうのの答えが今の神永と一体化した"ウルトラマン"なんだろうなというざっくりとした構図に整理されている。使徒と違ってウルトラマンにも知恵あんじゃんって思うけどそれはだってカヲルくんも喋ってたし……。

・目的はだいぶ違うけど、ベータボックスという超文明的な代物を人類に与えてくれる上位存在ってことで『正解するカド』を思い出した。似てるかは分からないけどあれはあれで面白いので(最後のほう覚えてないけど)おすすめしたい。

・メフィラスは本当に最高でしたね。決してそれだけじゃないけど僕は『仮面ライダー 令和 ザ・ファースト・ジェネレーション』における山本耕史演じる飛電其雄が結構好きで、その相乗効果もあってとても楽しませてもらった。いや眼福眼福。
無闇やたらに「私の好きな言葉です」って連呼する胡散くさい存在として、そうだとは一言も言わないけど言動とゾーフィという他人から指摘される形で"好き"を表現するウルトラマンとの対比も分かりやすくていいし、本当の意味で地球を好きになれるほどの人間らしさは元々持ち合わせてなくて、ただ表面的になぞっているだけに過ぎないのが面白い。
ブランコのシーンとか、普通大の大人同士が話すときに漕いだりはしないと思うんだけど、でも彼は知識が先行して「ブランコとは漕いで楽しむ地球の文化」としか認識してないから額面通りに漕ぐし、本人はそれで"分かった気になってる"から臆面もなく「好き」と公言できる。その不気味さと滑稽さと、途中で飽きて立ち漕ぎに変えてみたりするのも含めて、全部おもろい。
「割り勘でいいか? ウルトラマン」に関しても、コスト節約のために禍威獣やザラブは現地調達したって話と絡めて"本当に金がなかった"って解釈もマジ笑えるんだけど、まぁ普通に「言ってみたかった」とか「そういうもんだと思ってた」んだろうなと。一旦財布を覗いて見るとこまで含めて、ね。かわいい。
「地球好き。」という端的な表現があまりにもそのまんますぎて笑える。

・僕が初見で"いわゆるセクハラ"かもって思ったシーンはむしろ女性の浅見が男性の神永の尻を叩くとこだった。それ以外だと長澤まさみさんのお尻がアップになったりとかスカートを覗き込むカットとか作中というよりは撮影のレベルの話なので、する人,される人という構図が見えないから、「セクハラされてる」という第一印象は抱かなかった。スカートのシーンも何も見えないことが大前提にあるからこういう映像撮ってるんだろうなと思ったんだけど、まぁでも考えてみたらそうだと分かっててもあんな風に撮影されるのは快くはないわな。
神永が浅見をくんくん嗅ぐとこは、どちらかというと浅見の方が神永を好きだから変に意識してドキドキするってシーンだったのであんまり"そう"なのかなって納得いかない。
でもこれも、浅見は神永を好きかもしれないけど長澤まさみさんが斎藤工さんを好きかどうかとは関係ないからそんな展開を書くこと自体がセクハラなのかもしれん。
においだけはデータに変換されない(?)って理屈もよく分かんなかったしな。

あとメフィラスの「ウルトラマンという紳士がそのような変態行為も厭わないとは……」を以てセクハラじゃないと言い張るのは流石に無理があると思ふ。あくまであれは敵役の発したトンチキなギャグ発言であって、真面目にうんうんと頷くもんじゃない。
「人間ならきっとこのシチュエーションでセクハラを指摘するだろうから俺もしたろ」ってだけ。いや、多分人間なら流石にあのシリアスな状況では言わないと思うよって言いたくなるんだけど。
そういうキャラの発言なので、残念ながら作品全体のレベルで見たらあの発言は「いるよね、こういう空気読めないでセクハラとか言って騒ぐやつ(笑)」みたいな意味合いだと僕は思う……。

・VSメフィラス戦のBGMバリかっこよかったよなぁ。エンドロールに出典たくさん書かれてたしなんならかっこよすぎて浮いてたからあれも元ネタがあるのかと思って帰ってウキウキで調べても出てこなかったのが悲しい。また聞きたい。

 

第5の事件(ゼットン)

ウルトラマンの選択

・元ネタのゾフィーさんを知らないから分からないけど、シンウルのゾーフィって最後のシーンで帰った場合のリピア的な立ち位置の人なのかね。緑か青か分かんなかったけど色ついてたし。僕は勝手に最初のリピアを見て、光の星の人たちってのは元々みんな銀一色の鏡みたいな存在で、交わった相手によって色んな姿に変わるまね妖怪ボガートみたいな奴らなんだろうなと思ったので、どっかの星の生命体と融合した結果あんな黄ばんだ色になっちゃったんだろう。

自分も掟を破った経験があるからこそその償いとして人一倍に光の星からの命令を遵守してゼットンなんてものを送り込まなくてはならないし、ラストで「そんなに人間が好きになったのか」とウルトラマンの気持ちを理解することもできたのかなって。

・ゾーフィがゼットンを差し向けてきたのは確かにウルトラマンよく知らないなりにぞっとしたけど、あれは多分シンゴジでも描かれてたように人間にとって核が根絶やしにはなかなかできないから共存していかざるを得ないのと同じで、多分あれもゼットン星人?か誰かが破壊兵器としてつくったのを押収したものの、光の星にとっても本当はなくしたいけど装甲が硬すぎて歯が立たないのかなんなのか、ともかく根絶するのが難しくて持て余してたからいっそのことひとつの手段として正義のために転用しようってかたちに落ち着いた結果として、ゾーフィが怪獣をよこしてくるっていう不気味な絵面になったんじゃないかなぁ……。
ウルトラマンは万能の神ではない」からこそゼットンにも対処しかねるし、人類を他マルチバースから守り切るというのも難しいから処分するしかないなんて判断が下されるっていう描写に見えた。
でも勝手に生み出しておいて勝手に滅ぼすっていうのはなかなか神様っぽいムーブだよね。ウルトラマンはもう神ではないけど、仮に光の星のやつらは神だとするなら。
……ところで絵面が面白すぎて笑いそうになったんだけど、ゼットンて原作でも乳首からビーム出すの?

・「我々に従わなければ禍特隊は殺す」と脅されて神永が「なら自分はゼットンより早く人類を滅ぼしてやる」と宣言した(しかも脅しじゃないよと変な言い訳までして)のが理解できてなかったんだけど、あれは「せっかく人間を好きになったのに失望させるな」みたいな意味だったのかね。
他者のためなら自分を犠牲にできるはずの人間が、同じ人間を殺そうとするのが許せなかったと。本当にそこまで愚かな生き物なら、滅ぼされてしまってもいい……むしろ自分の手できちんと責任を持って処分しようという気持ちがあったのかもしれない。

・さっきはセクハラだって言ったけど、浅見が神永のケツ叩くシーンは僕は結構好き。仮にも1回巨大化して、人類の中では多少でも神永の気持ちが分かるようになった浅見が対等な同僚として気合を入れてやるというのはなかなか熱い展開。
神永は神永で、人間には何もできっこないと言い張る滝を目の前にして、彼にしっかりしろと言うのであれば自分がまず絶望的な状況に対して立ち向かう姿勢を見せなければいけないっていう筋の通し方もかっこいいし。

・あー! あのVR会議についての「本当にすごいものとは滑稽なものなのかもしれない」って話、結局どういう意味なのか計りかねてたけどようやく分かった。予算の都合で描けなかったのを正当化したって話も見たけど多分そうじゃなくて、ぐるぐる回ったりしてこれまで散々シュールに描かれてきたウルトラマンの戦闘は「我々には理解できないすごさ」の裏付けなんだよっていう解説として機能してるのか。僕の見方はあながち間違いじゃなかった訳だ。


ゼットン戦の絶望感、やばかったなぁ……。ブラックホールみたいなのが発生して、光ですら逃れられないっていう大前提が我々の中にはあって、BGMも思わず泣きそうになるくらい悲壮的で劇的なものが流れて、でも奇跡が起こって脱出できるんだよね? とどこかで希望を抱いてたら為す術なく吸い込まれてしまって……あの一連の流れは本当にちびりそうになった。
間髪入れずにふわふわ浮いててゾーフィとの対話シーンに入るから頭バグったけど。あれもあれでシュールすぎる。ほぼ同じ映像が初代ウルトラマンにあるって知ったときはようやく納得できたけど、いきなりあの謎空間を見せられたらびっくりする。

・僕はウルトラマンが最後のシーンで死んだとはあまり思ってない。神永の意識はない(?)ままウルトラマンが人間との中間的存在としてあったように、ウルトラマンの意識は消えたけど神永の中には間違いなくいる。イメージとして割と近いのは寄生獣ラストのミギーかも。
『M八七』はウルトラマンから神永へ向けた歌だと思ってるので、もしかすると今後は神永自身の意志で「君が望むならそれは応えてくれる」のかもしれない。続編が作られるとしたら、今度は神永人格のウルトラマンが人類の進歩を見守るかたちになるのかなと。
「痛みを知るただ一人であれ」ってのも、これから"ウルトラマンだった人間"として生きていかなきゃいけない神永に対する応援な気がする。普通に考えたらかなりヘビーだよね、また各国から狙われるかもしれないし、仮に変身できないとしたら尚更、抵抗できないまま体中を弄くり回される羽目になる。
マルチバースからの侵略者だっているかもしれないんだから、リピアとしては死ぬけど、さっきの話の比喩で言うなら生命の実……S2機関だけは神永に託すような感じだとは思う。

・僕も一応、一般論として「人類はウルトラマンに頼らず自立しなければいけない」みたいなをテーマを物語を知らないままにそこだけ知ってたから、仮にもひとつきちんとした例を知れて良かったなとは思ったけど、原作ちゃんと見ようとはあまり。
シンでなぞられた話の元ネタくらいはいつかチェックしたいけど、全話は他の要因で見たいと思わない限り見ないと思う。デッカーを見るモチベは少し高まった。

 

M八七

・『M八七』ってかなりウルトラマン色が強いネーミングだから一般ウケしなかったら悲しいなと思ってたけど、一般層はそもそもM78がウルトラマンの用語ってことすら知らないからなのか知っててなのか、ちゃんと急上昇1位になっててよかった。めっちゃいい曲なので。

・ヒロアカOPの米津玄師『ピースサイン』、今聞くとよりヒーローソングとしての良さが滲み出てくる。特に2番の以下にあげた部分なんてまんまシンウルトラマン
「僕らの上をすれすれに通り過ぎていったあの飛行機」って明らかにウルトラマンだし、2番の
「守りたいだなんて言えるほど
君が弱くはないの分かってた
それ以上に僕は弱くてさ
君が大事だったんだ
一人で生きていくんだなんてさ
口をついて叫んだあの日から
変わっていく僕を笑えばいい
一人が怖い僕を」
マジでリピアじゃん。物語の始まりはかすかな寂しさ。

・なるほど、万有引力を寂しさの象徴として捉えるなら、種族としてのウルトラマンが重力を無視して飛べるのは個として完結していて引き合う必要が無いからなのかもしれない。それは確かに、寂しいわ。
米津玄師という人選も、元は一介のボカロPだったのが今では日本を代表するトップアーティストとして神格化されてしまっているあたりにウルトラマンへシンパシーを感じたところもあるのかな。持ち上げ過ぎ、よくない。
『M八七』は米津玄師がウルトラマンというコンテンツに対して理解度が高かったというよりは単純に知らなかったとしてもウルトラマンっぽい曲を書ける彼を選んだスタッフがすごい説を推している。

 

終わり。また何かあれば追記するかも。

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仮面ライダーオーズ 10th 二次創作小説『Eternity Time judged all』

この記事は前回の脚本を書いてみる企画に続いて、『仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』について映司が死なずに生存するルートを書くとしたら自分はどんな話にするか……という妄想IF小説です。
映司が生きる代償としてアンクが死んだり、そもそも復活できなかったりということもありません。きちんと2人ともが生きた状態でラストを迎えることだけは約束します。

章ごとに書き上がり次第追記していく予定です、未完になったら申し訳ない。著作権的に問題があると判断された場合は削除します。

 

 

"遠い岐路"

・数年前 夜の川沿い
 ある日、私のもとに一本の電話が届いた。彼とは年に数回くらいクスクシエのみんなとお互いに近況報告をしていたけれど、こんな風に個人的に連絡を取るのは後にも先にもそれきりで、驚きと嬉しさと、少しの不安がごちゃまぜになりながら口を開いた。
比奈「もしもし、比奈です。久しぶりだね、映司くん」
映司「久しぶり、元気そうで良かった。いきなりかけてごめんね、びっくりしたでしょ」
比奈「ちょっとね。今は、砂漠の町にいるんだっけ」
映司「しばらくいたけど、そろそろここを発とうと思ってるんだ。次に行く場所は、まだ」
比奈「そっか……やっぱりまだ、アンクのメダルを治す方法は見つからない?」
映司「うん……でも、いつかは必ず」
 そうやって当たり障りのない会話をしながら、今思えば少しずつ前置きを挟んだ後に、彼は本題を切り出した。
映司「…………比奈ちゃんは、誰かを本当に許せないと思ったことって、ある?」
比奈「えっ? それは……」
 アンクのことが頭をよぎって口ごもった。私の気持ちを察したのか、答えを待たずに話は続いた。
映司「……グリードでもヤミーでもない、人間が起こした戦争のせいで、たくさんの命が奪われたんだ。そしてその分だけ、人の命を奪った人もいる……自分の手は汚さずに、利益を得た人も。俺は、平気でそんなことをする人たちが許せない」
比奈「それって……」
映司「比奈ちゃんだったら、どう思う?」
比奈「私は……」
 慎重に、言葉を選ぶ。それが、今の私が映司くんにできる、唯一のことだと思った。

・許せない

・分からない

・許したい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

許せない
比奈「私は……どうしても許せないってことは、あると思う。映司くんの気持ちは、よく分かる」
「翌朝、私はとある紛争地帯に異形の戦士が現れ、一国の戦いをひとりで止めたことを知った」
→本家『復活のコアメダル』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分からない

比奈「私には……分からない、何が正しいのか。でも、映司くんがした選択は、きっと間違ってないと思う。私はそう信じてる」
比奈M「翌朝、私はとある紛争地帯に異形の戦士が現れ、一国の戦いをひとりで止めたことを知った」
『復活のコアメダル(二次創作ver)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

許したい

比奈「私は……無責任かもしれないけど、どんな相手だって、いつかは分かりあえる日がくると思う。綺麗事だって、自分でも思うけど……そう信じたい」
 翌朝、私はとある紛争地帯に異形の戦士が現れ、一国の戦いをひとりで止めたことを知った。
→『Eternity Time judged all(本記事↓)』

 

 

 

 

 

仮面ライダーオーズ ET

 目次

 

 

 

プロローグ Age of Goda

 海の中に、俺はいた。右も左も、上も下もない。ただひたすらに昏く、不思議と安心できる暖かさだけがあった。音もなくただうねり続ける潮の流れに身を任せ、目的もなく漂うだけの日々。
 だが気が付くと足が地に付き、自分がずっとゆるやかに落ちていたのだと気付く。微かにだが目が見えるようになり、海底を歩いて回ると周囲では様々な生物が捕食し捕食される生存競争を繰り返していたが、俺には触れることができず、ただ見つめるだけでその環の中へ入ることは叶わなかった。

 やがて海から暖かさが失われ始め、俺が陽の光を求めて陸へ上がったころ、世界は完全に凍りついた。その後も地上を歩き続けたが、"それ"が起こったのは突然だった。
 あらゆる生き物が、次々に目の前で死んでいく……その光景はとても受け入れられるものではなかった。
 それからのことはよく覚えていない。生き残ったものたちは様々な発展を遂げたようだが、視界はザラつき全てのことが現実でない気がした。それでもただ歩き続けることだけが自分の存在を確かめる唯一の方法であり、宛てもなく前進し続けることしかできなかった。

 いつからかだろうか。自分が砂漠から抜け出せなくなっていることを悟り、自分以外の存在が視界の中に入ることはなくなった。四方には無限とも思える地平線が広がり、ギラギラと輝く太陽だけが俺を照らしていた。
「身体が、欲しいか?」
 太陽は言った。
 これまで、俺の存在を認知できるものはいなかった。俺は世界を一方的に見るだけで、世界から見られることはなかったはずだ。だが身体があれば、俺は世界と関わることができる。消えゆく命を、この手で助けることだって……俺は頷いた。
「いいだろう。その代わり……」
 太陽はそう言って、自らを象った3つのリングを落とした。
 その瞬間世界は息を吹き返し、リングと一体化した俺はこれまで見てきたあらゆる動物の姿形を模倣できるようになった。あるときは鳥として大空を羽ばたき、あるときは四足となって大地を駆け回り、あるときは虫となり跳躍しながら、俺は目の前にいる命を助けるために力を使った。それが大きな食物連鎖の流れの中ではどれだけ無意味なことかは分かっていたが、目の前で命が消えることが耐えられなかった。

 

 いくつもの身体を使い分ける中で自分自身を見失いかけていた俺は、いつしかもうひとりの自分をつくりだしていた。もはやどちらが本来の俺だったのかも分からない。俺はこの世のあらゆる生物種の力を手に入れ、望みを全て叶えられるだけの能力を欲し旅を続け、もうひとりの俺はその道中で短絡的に目の前の命を救うことを望んだ。俺たちはひとつしかない身体を共有し、互いを利用してうまくやっていた。しかし、そんな日々も長くは続かなかった。

 太陽を殺して世界を終わらせようと画策した月と戦うために、それまでにないより強い力が必要だった俺たちは、これまで獲得した様々な生物の長所を組み合わせたキメラとなって戦い、やがて覆い尽くされたかに見えた太陽からの黄金のリングによって授けられた、この世に存在するはずのない火の鳥の力を使ってこれを阻止した。
 それからというもの、世界は再び乾ききった砂漠に包まれた。空はどす黒い雲で覆われ、太陽はその姿を見せない。そしてもう一人の俺は、もう必要はなくなったとでも言うかのように、俺を置いてどこかへ旅立ってしまった。気が付くと俺は、醜い毒蟲と成り果てていた。
 いつまでも潤うことのない砂漠に、降り続ける雨。その中を俺は、やはり彷徨うことしかできない……そう悟るのに時間は要らなかった。
 俺は歩き続ける、失われた海を求めて。

 

1.檸檬 - Still in the nest.

 川の横を付かず離れず、うねりながら伸びる道。沿道の桜もそろそろ青い葉の間からその顔をのぞかせ、今日みたいな休日はスポーツウェアでランニングやサイクリングを楽しむ人、子供やペットと一緒に散歩をする人などで溢れている。
 私もその中の一人だった。時々こうしてぼんやりと歩くのが、最近の暇つぶしになっている。その先の公園にある自動販売機で、飲み物を買って一休みするまでが1セット。

 この10年で鴻上さんのグループはビジネスの裾野を広げたみたいで、ほとんどのライドベンダーはセルメダルがなくても、お金を入れればカンドロイドを模した飲み物が出てくる新型と入れ替えられていた。タカはコーラ、タコはスポーツドリンク、バッタは緑茶……なんて風に。私はいつも、トラのレモンティーを買う。このお金が、アンクを復活させるための研究に少しでも貢献していたら、なんてことを思いながら。なかなか売り上げはいいみたいで、年々見かける数は増えている。バイクモードにすれば簡単に移動ができるからなのか、特にお祭りなどの場に一時的に設置されていることが多い。昔は私たち一般人にとっては謎のオブジェだったけど、今となってはすっかり日常の一部だ。

 ショルダーバッグから財布を出して、硬貨を入れる。ボタンを押したところふとゴリラ缶が目に入って、伊達さんはいつもこれを携帯していたけど、ブラックコーヒーは意外と飲まなそうな気がした。そのギャップがなんだかおかしくて、自然と口元が緩んだ。出てきたレモンティーを手に取り、ベンチに腰掛ける。

 

 聞いた話によると、伊達さんが日本に帰ってくるらしい。戦いが終わったあとはそれまで通り医師として、立場にとらわれず色んな人を救っているんだとか。
 お兄ちゃんと同じく警察官に戻った後藤さんは、今では結婚している。お相手は茉里奈さんと言って、里中さんも入れて3人で仲良くさせてもらっている。伊達さん帰国のニュースも、他ならぬ彼女から仕入れたものだった。現在は妊娠中で、そろそろ臨月が近いらしく出産に向け張り切っている。

 結婚かぁ……。お兄ちゃんがまだだから考えたこともなかったけど、私もそろそろ選択肢として考え始める年なのかな。レモンの苦みを口の中で感じながら、やっぱり自分にはまだ早いなと思い直した。
 忙しいお兄ちゃんと違って、私はこうして休日をのんびりと過ごす余裕がある。今の仕事に不満がある訳じゃない。でもファッションデザイナーになるという夢を叶えてしまった今、その先の目標を見つけられないまま、なんとなく満たされない毎日を送っている。

 私は、どこへ行くんだろう。
 流れる川の音を聞いていると、あの頃を思い出す。アンクがお兄ちゃんの体に取り憑いて、毎日のようにグリードやヤミーが事件を起こして……良くも悪くも、人生の中で最も刺激的な1年間だった。お兄ちゃんも、私だって、ひとつでも噛み合う歯車が変わっていたら死んじゃってたかもしれない。あの頃に比べたら、今の私の悩みなんてちっぽけなものだ。
 映司くんは、今ごろ何をしてるんだろう。
 あの頃は一緒にいるのが当たり前だったのに、映司くんも、アンクも、今ではそばにいないのが当り前になってる。積み重なってしまった時間の大きさを、改めて感じた。
 そろそろ帰ろう、そう思い顔を上げたそのとき。視線の先に、彼がいた。
「映司くん……?」

 

 以前と変わらない、涼やかで掴みどころのないエスニックファッションに身を包み、佇む姿には確かに見覚えがある……ただ、こちら向けられたその目はきゅっと瞳孔が絞られ、私を鋭く捉えて離さない。
 比奈ちゃん――と懐かしい声が響く。たったそれだけのことで、私の心は10年前に引き戻される。アンクは、ここにいないにも関わらず。
「……見つけたんだ。アンクを蘇らせる方法」
 思わず息を飲んだ。映司くんはあれから、そのために旅を続けていたと言っても過言ではない。
「命だった」
「それって……」
「コアメダルは元々、生物の持つ命を欲望に変えた"血の結晶"……それが、遺跡を研究して分かった成果だよ」
「そんな……それじゃアンクは?」
 彼はどこか遠くを見つめて、冷たく言い放った。
「アンクを復活させるには、生贄が必要だ」
 そう言った映司くんの目は、昔の彼とはまるで別人のように見えた。生贄って……まさか人間の? それとも、アンクの属性と同じ鳥の命だろうか? どちらにしてもあの映司くんが、他の何かの命を奪ってまでアンクを復活させようなんて、言うはずがない。長年求め続けた答えがそんなおぞましいものだったと知った彼の心中は分からないけど、それだけは間違いない。
「あなた……誰?」
 再びこちらをキッと見つめたが、やがて顔を綻ばせ、口を開く。
「大丈夫だよ、比奈ちゃん。俺がなんとかするから」
「待って!」
 気づいたときにはもう彼の姿はなく、そのかわり、視線の先のはるか向こうには、巨大な氷の城がそびえ立っていた。
 風が、私の髪をめちゃくちゃにしていく。

 

2.グリード復活(仮)

 爆発音が聞こえたのは、市街地の方からだった。少し迷った末に家ではなくクスクシエに向かった私は、逃げ惑う人々の先にいる彼らに気付いて目を疑った。
「相変わらずうじゃうじゃいるな。汚い、欲望のにおいだ」
「なぁんだ、今度は変わり映えしないね」
「せいぜい10数年ってとこかしら?」
「俺、まだ眠い……」
 ウヴァ、カザリ、メズール、ガメル……10年前、欲望のままに世界を脅かしたグリードたちだ。
「どうして……コアメダルは映司くんたちが壊したはず……」
 グリードは意識の宿った1枚のコアを砕かれると、セルメダルを集めてもそれまでのようには復活できない。これは他の4人と違い、ひび割れた2片のカケラが残っているアンクでさえも変わらない事実だった。
「メダルが足りない……オーズはどこだ!」

続く

真木とヒカミとゴーダ(未)

プロジェクト・エタニティ(未)

古代オーズ戦(未)

ゴーダ戦(未)

旅立ち(未)

倍速視聴の否定派は感情論でしかない

僕は実際に倍速視聴をするタイプの肯定派だけど、単に自分がそうしたいからというのを超えた意味で「倍速視聴は悪くない」という明確な倫理観を持っている。
しかし、正直未だにまともな否定派の方を見たことがなく、誰も彼も「なんかイヤだから駄目」の域を出ていない。今回は何故そう思うのかを説明していこうと思う。

否定派の方は、大して長くもない記事なのでぜひ筆者の意図を尊重して飛ばさずにじっくり、最後まで読んでくださいね!

 


"10秒スキップ"との区別

ことの発端は以下の記事だが、10秒スキップと倍速視聴を並べて、特に大した峻別もしないまま「よくないよねー」なんて風に否定しているこの記事には聞く耳を持つ必要がないと感じる。

「倍速視聴」は進化か退化か。「プリキュア」「銭天堂」脚本家が抱く危機感(稲田 豊史) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)

小林さんはこの問題について「金を払ったんだから、食べ残そうが、早食いしようが、どう食べようが自由」「お腹に入れば一緒」という比喩を否定的な意味で展開しているが、そもそも早食いってそんなに悪いイメージがあるか……? 少なくとも僕はないですね。
高級料理店≒映画館でならば確かにそのようなことはご法度、というかできないが、お茶の間で普通に食べる食事≒テレビ放送されたものや円盤,配信等について早食いをとやかく言う人など見たことがない。
第一、テレビ番組なんてかじりついて見るのが当たり前としてつくられてはないでしょ最初から。見てる途中にご飯食べたり携帯いじるのはスキップしてるのとほぼ同じだよ。そんなつまらないことで人に怒ってもいいのは一緒に暮らしている家族くらいのものだろう。

食べ残しの方がよっぽど広くマナー違反であって"いけないこと"のはずなのに、この記事は最初からここを敢えて一緒くたにすることで「倍速視聴も悪いこと」というイメージを刷り込んでいる。
タイトルに"倍速視聴"と掲げながら、否定する根拠に乏しいからより悪いと思われる10秒スキップと抱き合せにして批判してやろう、というのは呆れたレトリックだと言うほかない。

僕は早食いはしてもスキップ……つまり食べ残しはしない。少し目を逸らすとか、集中力が切れるとか、理解力が足りないとか、そういう事情で結果的に頭に入ってこないことはあっても、意図的に残すつもりはあまりないので、この批判には当てはまらない。

 

あと否定派の常套句として「"間"が味わえなくなる」というのがあるけど、そんなことは本当に全くもってありません。
それはふだん等速でしかものを見ない人間から見て間が詰まる(そしてその結果チャカチャカ動いてなんか変だと感じたりする)ということに過ぎなくて、倍速で見ることに慣れてる人がきちんと意味を受け取れないことにはならない。
前提として、等速でも作品によってテンポは違う。間を切り詰めてトントン話が進むものもあれば、じっくり無言の時間をつくるものもある。
だから"間を取る"というのは倍速云々を抜きにしても相対的なものであって、具体的にある秒数以上だなければ人間は間だと認識できないなんてことはなく、あくまで「それまでの描写と比べたら長い=間を取っている」ということに過ぎない。
だから「倍速にしたことが理由で"間"が分からなくなる」ということは有り得ないと思う。見逃したんだとしたら単にその人が集中して見てないだけで、それは等速だろうが同じこと。
1回や2回、しかもおそらく数秒や数分試してみたくらいで倍速視聴のなんたるかを判断するのは極めてナンセンスです。向き不向きはもちろんあるだろうけど、他のあらゆることと同じで慣れるまでやれば慣れるし、慣れる前にやめれば慣れません。当たり前のことです。

 

倍速視聴と理解度の深さ

そもそも作品を100%を理解できる,しようと思っている、また理解させることができると思っているのが傲慢ではないのか。

等速だろうが倍速だろうが理解力の低い人間はいるし、それはまた別の問題。作品に対して的外れな批判をしているならそれに対して直接反論すればいいだけであって「倍速してるから語る権利がない」というのは飛躍している。「倍速にしなければ理解できたはずだ」という根拠を示さなければこの話は成立しないし、少なくとも僕は等速で見てようが「よく分からん」と感じることは多々あるのでそこまで決定的な差はないように思う。
当然だけど、倍速にできるってことは10秒戻しとかも機能としてできる環境な訳で、今のどういうこと? って思ったら戻して何度か見たり等速にしてみたりもする。もちろん何度見たって分からないものもあれば、スローにしてみて初めて分かるときもある。
好きなドラマの小道具なんかで細々とした書類が出てくると一時停止して読みたくなるタチなんだけど、これらの情報は本来作者の意図としては「読めなくて当たり前」なものであって、本気で作者を尊重するなら「読んではいけない」ことになる。
当然素早いアクションシーンなんかも、スローにして「こうやって動いてたのか」と観察してはいけない……そんなバカな話があるか? ねぇよ。

逆に、倍速だからこそ分かることというのもおそらくある。僕は特に忘れっぽいので、シーンとシーンとの繋がりを把握するにあたって、等倍ではなく倍速にして詰めて見ているからこそ理解できていることもなくはないと思う。これは比較のしようがないが。


記事の話に戻るけど、"時間の芸術"があるなら空間の芸術の方がもっと顕著にあるはずだろう。テレビのサイズは家庭によってバラバラだし、映画館のスクリーンなんかとはハナから比べ物にならない。況してスマホタブレット,PCの画面なんかで好き勝手に拡大縮小して見られるのは黙認してる癖に、時間だけ圧縮されるのは嫌というのは理解に苦しむ。音質だって見るものによってバラバラで、本当にあなたが今見ている環境は作品の全てをありのままで受け取れる状態にあるんですか、と。
またテレビ番組については放送時間というのも重要なファクターのひとつだったりする。例えば僕の好きな仮面ライダーなどは、制作陣のインタビューから「"日曜日の朝に見たい内容"とは何かを考えてつくっている」という話が散見される。つまり、ゆっくり過ごしたい休日、或いは子供にとってはどこかへ遊びに行くワクワクした1日の始まりなどと言った精神状態で見ることを想定されていて、だからこそあまりにもヘビーな内容は取り扱わないと判断されることもある。

これは逆も然りで、大人しか見ない深夜帯だからこそエログロのようなキツい作風が成立するとか、冬に公開だから少し寂しげな雰囲気にしようとか、中高生に向けて恋愛ものにしようとか、この「本来想定されている視聴者の精神状態」と合致しない状態で見ることは、すなわち作品への無理解へと通じてしまう。

女の子向けのプリキュアを男の僕が見ても、お化粧の楽しさなどが理解できなくて面白くないと感じるのと同じように、例え等速だろうが映画館で見ようが、「つまらない」と感じたのならそれは等しく「制作陣の想定した客層ではなかった」というだけの話。
倍速視聴というのもそういう数多ある変数のひとつに過ぎなくて、本当の意味で制作陣の想定する客層にガッチリ100%一致する状態でなければ「つまらない」と言う資格はないことになってしまうのは、おかしい。
……裏を返すと倍速視聴以外の変数だけは「つまらない」と言ってもいいというのは、不合理極まりない。


「自分が倍速じゃ理解できないから全員そうに決まってる」とか「なんかイヤ」というだけのことを正当化するために"作者の意図"なんていう一見綺麗そうなおためごかしを利用しているのでないのなら、そういった他のズレもまた同様に批判するべき、少なくともこれはどうかと問われたら認めるべきでない。にも関わらずそうしないのは、自分のことを棚に上げた感情論でしかないからではないか。

まぁ"倍速"って表現があんまよくないのかもな、僕も流石に2倍速じゃよく理解できなくて基本は1.5倍なので試すならそれで試して欲しい。YouTuberの動画くらいなら2倍で何も問題ない。

 

作者の意図と敬意

以上にも見てきた通り「作者の意図した間やテンポとズレてしまい本来の意味を受け取れなくなる」というのが否定派の大まかな主張だけれど、僕としてはこれそのものにはある程度の正当性は感じつつも、自分としては「そんなこと言い始めたらキリがない」という立場を取っている。
先の記事でも言われている通り書籍なんかは特にそういうことの多い媒体だし、そもそも人が全て同じ時間の流れで生きている、そして自分がそれを操作できると思うこと自体が作り手の傲慢だと思う。

普段から早口に慣れている人もいれば、のんびりした会話をしている人もいる訳で、その2者間では明らかに「きちんと情報を受け取れる速度」や「心地よいと感じる速度」が違う。
例えば英語のリスニング問題について「もう少しゆっくり喋って欲しいのに」と思ったことがあるなら、それがこの実例となる。僕はリスニングを兼ねて洋画を見たいときは0.9倍速にして見る、という使い方もする。
また倍速にすることであまり興味がなかった作品でも見るのにあたって"気が抜けなくなる"から、結果的に等速でダラダラ見るより集中して作品と向き合っている気もする。少なくとも倍速で映画見ながら飯食おうとは思わない。
"作者の意図とズレる"という点から言えば高倍速も低倍速も等しく批判するべきだが、「より理解するためにいじる」というケースに関しては議論の余地がある。


……なんていうのは多少頭の回る人ならとっくに分かっていることだろうけど、それら全てを踏まえた上で、それでも"作者のペース"を尊重すべきだという意見は、まぁ分からんでもない。
要するに制作者サイドの言い分は「なんだか自分の作品を蔑ろにされている気がする」というものであって、この人たちは「相手を楽しませたい」のではなくてあくまで「自分たちの作品を見てもらいたい」のだろうと思う。
相手を笑わせるために話をするなら、相手が退屈そうにしていたら早めにオチを切り出すとかすると思うけれども、不快感を示す人たちはあくまで「ただ自分の話を聞いて欲しくて悩みや愚痴を喋っている人」に近いのかもしれない。
遮らず、結論を急がず、きちんと話を聞いて欲しい。
会話の目的が「聞き手が楽しむこと」ではなく「話し手が気持ちよく喋ること」にあるのなら、確かに倍速で話せと言う……況して「オチは?」と聞くのはナンセンスな話だろう。
倍速視聴をする人とそれに嫌悪感を抱く人、双方ともに「相手のペースを無視して自分のペースで進めようとしたがる」からこそ起きているのがこれらの齟齬なのだろう。

相手への"敬意"の表し方として「話の内容をきちんと理解すること」がポイントなときもあれば「ゆっくり相手の語りに耳を傾けること」が重要なときもある。
前者ならばその手段として早送りや10秒戻し,スキップ、要約して論点整理などをしてもよいが、後者なら例えよく分からないところがあったとしても相手の話を遮らずとにかく聞き役に徹するべきかもしれない。
作品鑑賞を作り手と受け手のコミュニケーションだと捉えた場合に、単に受け手の娯楽として自分の都合で消費するのか、音楽を聞くように"他人のペース"に身を委ねる体験こそが映像作品の醍醐味だとするのか、それはあくまで受け手の自由である。
「人の話をちゃんと聞いてくれない人」「愚痴聞いて欲しいのに勝手に要約してアドバイスしたがる人」みたいな風に周りから嫌われてもいいのなら、スピードにしろ画面の大きさにしろ時間帯にしろ、自分の好きなようにアレンジして楽しめばよいのだと思う。

僕が抱く倍速視聴に対する罪悪感っていうのは、例えば個人経営の八百屋さんとかでお店の人が奥に引っ込んでて、すみませーんって呼んでも出てこなくて、でも店は空いてるから中に入って商品を見ながら待つか……ってときに感じるようなもの。罪悪感こそあっても"本当に悪いこと"ではないと思っているので、やる。

 

86ma.hatenablog.com

仮面ライダーエグゼイド 第10話「ふぞろいのDoctors!」 肯定的感想

 

医者を救う患者

・患者……恭太郎を救うためなら危険も厭わずなんでもやると言う永夢を一喝。これまでイマイチこの説教の意味を汲み取り切れなかったのは、文脈が隠れていて見えづらいからだったのかも。
見え方が全然違うので一緒にするなと言う人もいるかもしれないものの、ここでやりたいのは多分オーズ最終回に近い話なのかな。
誰かを救うために自分を勘定に入れずに突っ走るんじゃなくて、ドクターならまず自分が生き残ることを考え、その上で周りの人間と協力し合うべき……という。
自分を過信して独善的に暴走する永夢を叱る……というニュアンスではなくて、前回言っていた「1人で無理をするなよ。ゲーム医療はドクター自身の命に関わる危険な行為だ」という"心配"という意味合いで捉えた方がスッキリと理解できるかも。

もうひとつ、この話は多分「医者と患者の主客逆転」も重要な要素で、昔は患者だった永夢が今度は日向を助けるというのもそうだし、今は助けられる側な日向が永夢に対して重要な助言をするのもそう。
……だからなんだって? 俺も分かんない。

・前回フルドラゴンが暴走したのは、Mのゲーマーとしての腕が足りなかったからとかそういうことじゃなくて、"他人の力"を借りる心づもりがなかったから……という側面もあるのかもしれない。
尤も、永夢がなるフルドラゴンはしばらく暴走しがちではある。


・「ごめんなさい」って、大事よね。自分の間違いを認めてきちんと謝れるのは、とてもいいことだと思う。作劇的には、どうせそれで和解する訳じゃないから前座として謝らせただけって感じだけど、それでも。

・「大丈夫、永夢ならきっとできる」
ポッピーはやっぱり、今のところ「根拠もなく都合のいいことを言って励ましてくれるキャラ」という立ち位置らしい。人間が想像する、人間に都合のいいサポートAI……イズほど顕著じゃないにせよ、そういう側面がここ数話と映画(平ジェネ Dr.パックマン)では特に強い気がする。

・みずきとさつきに対して怒鳴り散らす飛彩。
彼女らって多分2話以降は出てきてなくて(少なくともセリフはない)、エグゼイドファンの中でも何人が名前を知ってるのか怪しいモブキャラなんだからそのまま出さなくても何も問題ないはずなのに、わざわざこのチーム医療の回で出すからには、それなりの意味があるのだと思う。
その前提に立って見ると、普段は気にも止めてない飛彩だけど、小姫の仇討ちを焦ってイライラしてたことで怒鳴ってしまったのをきっかけに、永夢と違って他人に諭されることなく「オペは一人でするものじゃない、自分は間違っていたのかもしれない」と気付いた……の、かも……?
直後の永夢とのシーンでは煽られてるのもあってとてもそんな素振りはないんだけど、これはクライマックスの話に繋がります。

 

永夢とMの関係――理想像を演じる

・今回の永夢の作戦について、何回見直してもよく分からない。一番分からないのはポッピーの「まだゲームをやってないのに、永夢の性格が変わった?」というセリフの解釈。
まず思ったのは、単純に永夢が作戦のためにMを演じているだけという可能性。でもその場合目を赤く光らせるなんてことが自分の意志でできるとは思えないし、テーマ的にも面白味を見いだせない。

次に思ったのは、さっきの屋上のシーンでは「僕には(できない)……」と落ち込んでいたけど、永夢の中にいる"M"のこともある意味では"他者"だと解釈して、恭太郎の言う通り信頼して身を任せたという可能性。こっちの場合「自信をなくしているときでも、自分の中に二面性があればもう片方を他者として信頼し頼れる」というのはすごく面白い発想だと思う。思うんだけど、設定的には永夢とMってそこまで決定的に分離・乖離した二重人格ではないはずで、後夜祭の高橋悠也曰く「たまに関西弁が出ちゃうようなもの」らしい……又聞きだが。
これまでこっちの表面では「Mは記憶や意識がなくなる二重人格とは別種のものなので、永夢はMという別人にオペを任せているのではなく、あくまでちょっと口の悪い永夢本人がオペをしている」という前提で話を進めてきたのでノイズが発生し得るんだけと、レベル5で暴走したことで体内のバグスターウイルスが活性化してM人格が存在として強く濃くなって、段々永夢とは乖離しつつある……その上で、今回は体を預けたと解釈することもできなくはないが、それにしては永夢の内的描写がなさすぎるのでなかなか飛躍したものと言わざるを得ない。
今言った2つを折衷する案として「永夢はMを他者として心理的に頼り、その上で自分の意志でMを演じている」というのが、現状僕の中での一番いい落としどころかな。

以下、説明のためにしばらく電王の設定についての話をします。良太郎曰く"桃太郎"をイメージしているはずなのに、肝心のモモタロスは桃太郎じゃなくて鬼、ウラタロスは浦島太郎じゃなくて亀、キンタロスは金太郎じゃなくて熊、リュウタロスも龍の子太郎じゃなくて龍そのものがモチーフ……ということで、みんな基本的には"太郎ロス=タロス"になっているのだと思われる。
で、じゃあそれはなんでかと考えると良太郎の中にある「(悪はいても)ヒーローは実在しない、どんなに不幸でも自分を助けてくれない」というある種の絶望が反映されてるのかなと。桃太郎についても、あくまで「子供の頃ヒーローだと思ってた」という過去形だったし。
ただここで面白いのは、桃太郎は実在しないかもしれないけど、その物語(イマジン)の力を借りて自分がヒーローになることはできる、という描き方なこと。物語を見て自分の行いを正せば、ヒーローは現実に受肉できる……。

永夢にとっての"天才ゲーマーM"という概念は、この文脈における"物語の主人公"……或いは"理想の自分像"なのだと考えたとき、それは確かに本人にとって他者的な存在でありながら、自分に内在させる(演じる)こともできる存在なんだと解釈することができる。
その"理想像"を少し修正して自分なりに噛み砕いた結果得られたのが、自分を信じることをやめて権利(ドラゴナイトハンターZ)を明け渡すこともしないまま、仲間の力も信頼し協力(利用)する今回の作戦……なのかな? 自分も、他人も、どっちも曲げない道を選んだからこそ、友情とかでなぁなぁにするのではなく極めて打算的に利用し合うような関係になったのかも。


ドラゴナイトハンターZ 4人プレイ

・今回だけ仲間割れをしないのは都合がいいようにも思えるが、ライダー同士で積極的に争う動機があるのは、基本的には仇として大我をやっつけたい飛彩とガシャットを回収したい大我の2人だけ。そして2人にとってグラファイトは因縁の相手なので、まずはそっちを我先に倒そうとするのはまぁ分からんでもない。
加えてさっきの解釈を取るなら、飛彩はみずきとさつきの2人とのひと悶着があったので、多少は空気を読んで協力してくれてる……のかもしれない。

・パッケージの黒いドラゴンが敵だってのは前回言った通りで、おそらくモンハンのように敵の毛皮などを剥いで装備として身にまとうゲームなんだろう。上半身に偏重しがちな中で足にも強化アーマーが付くのは割と珍しいよね、仮面ライダーなのに。
単に有名なゲームだからってだけじゃなくて、ちゃんと敵の力を使う仮面ライダー的な要素をピックアップしてるのがいいと思う。
ドラゴナイトをハンターする……訳だから、もしかするとプレイヤーキルを推奨してるゲームなのかもしれないと思ったりもした。だからこそ今回、永夢は「自分を攻略させる」という発想に至ったのかな? とも。

分解したアーマーがそれぞれレベル5の力を秘めているなら、フルドラゴンはレベル15くらいあってもおかしくないのではというのは素朴な感覚だけど、行動経済学の概念に限界効用逓減の法則というものがあって、それを適用すればそんなに違和感はない。
モノの価値というのは単純な足し算には置き換えられなくて、例えば車を1台持っているのと2台持っているのを比べた場合、単純に得られる利益が2倍になるかというとそんなことはなくて、一人で2台持ってたって同時に乗れる訳じゃあるまいし、0から1に変わったときほどの明確に生活が便利になるかといえばそうでもない。リンゴが2つある場合もそうで、丸々2個も食べたら飽きて要らなくなる。
これらと同じで、ファング,ブレード,ガン,クローという武器をたった一人に持たせても、それらを全て100%使いこなせるかというとなかなか難しい。それよりは、一人にひとつずつ分担して個々のパフォーマンスを最大化した方が、結果的に得られる効果は倍増するよね、という理屈。


・仇討ちに意味はあったのかと自問する飛彩は、ゼロワンで鉄クズとなった滅を見つめる不破と全く同じシチュエーションで笑った。
セリフを聞く感じ、ほんの少しだけグラファイトを倒せば小姫が戻ってくるんじゃないかと期待していた気持ちもどうやらあるっぽい。


・日向から分離したはずのハンターゲーマを倒したにも関わらず日向のゲーム病が治ってなかったのは、グラファイトがプロトガシャットを取り込んだせいなのか、そうする前からプロトと正規版はリンクしてるからなのか、本体であるグラファイトを倒さないと駄目らしい。隊長のリボルと周りにいた兵隊みたいな関係なのかな?


まとめ
飛彩が仇討ちを終えたけど、エグゼイドのキャラクターって作中で何か劇的な変化とか成長みたいなものをあまりしないよね。次回以降も「嫌味だけど腕だけはある医者」として、大きく変わることなく動き続ける。
これは悪い意味じゃなくて、キャラクターの特徴が"復讐"みたいないち要素に頼り切ってない証拠というか、割と面白い描き方な気がする。割と2号ライダーって明確な動機があって、それが解消されれば態度が軟化したりギャグ落ちしたり空気になったりしがちなのに、エグゼイドの場合は元々持ってる動機の占める割合がそこまで大きくないのか振れ幅がやけに小さい。

 

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・今回だけバグスターユニオンにはならずにハンターゲーマとして分離。これは、グラファイトが持ち出すことを見越していた黎斗が細工したと考えてもいいし、ドラゴナイトハンターはグラファイトという完全体バグスターが既に生まれて学習されたデータもそれなりに積み重なっているので、後々のバグスターと同様にいきなり分離された……と解釈してもいいのかな?
七面鳥もといオレンジ顔の雑魚バグスターウイルスもいきなり人型で現れるし、主人格となるバグスターが生まれたあとはそうやって軍団を増やしていくかたちになるのかね。

 

グラファイトって何モチーフ?

・前にも少し言及したけど、バグヴァイザーを没収されて変身できないから、仕方なくプロトガシャットを直挿しすることで自ら感染して怪人体を構成するのに必要なウイルスを調達した、みたいなふわっとした理屈なのかな?
テーマ的にはプロトガシャットという過去のもの、つまり蓄積されたデータを吸収してバグスターは進化するみたいなイメージの描写なんだと思われる。

それはそれでいいとして、グラファイトってあいつ何者なんだ? ネットの出処不明な情報には「龍戦士グラファイト」というキャラクターがモチーフになってると書かれてるんだけど、仮面ライダー図鑑や当時のサイト、公式読本にもそれらしい記述は見つからず。
基本的にバグスターは該当ゲームの敵キャラを模してることが多くて、永夢の話を聞く限りでは"ドラゴンを討伐する狩猟ゲーム"とのことなので、パッケージに描かれてるような黒いドラゴンモチーフなら分かりやすいんだけど、見る限りドラゴナイトハンターZに緑の要素はない。まぁそれ言ったらマイティアクションXにもソルティの青要素はないんだけど、DKHZのパッケージに描かれているのが敵キャラなら話はまた別。メタな話をするなら彼が緑なのは血の色の補色だからっていう選定なのかなとは思う。

そもそもゲームタイトル自体が少し不思議で、直訳しようと思ったら「龍騎士(ドラゴナイト)を狩る者(ハンター)」……な訳だから、むしろドラゴンより"ナイト"をハンティングするゲームなんじゃないの? っていう。永夢の解説を一旦無視するなら、グラファイトはその意味で確かにDKHZの敵キャラ、龍の力を持ったナイト(? 少なくとも人型のキャラ)なのかもしれない。


・ダークグラファイトにしろ(プロト?)ハンターゲーマのユニオンにしろおそらく結構強いはずなのに2人ともレベル1で応戦してるのがずっと謎なんだけど、やっぱりレベル1は分離機能を抜いても防御力に優れてるからゲームオーバーのリスクを減らしつつ様子見するのに適してる……みたいな設定でもあるんだろうか。
それにしては、5話でレベル3のゲンム(プロトガシャットなので他のよりは強めかも)にレベル1のレーザーがゲームオーバー寸前まで追い込まれてたけど。


・なんでハンターだけ未完成で、ゲーマのデータが必要なんだろう?
辻褄を合わせるなら、レベル3ガシャットにとってはコラボスバグスターがそれにあたるものだったのかもそれない。ゲーマの形こそしていなかったけど、上半身だけの着せ替えアーマー……として見るならあれは確かにゲーマだと捉えることはできる。今回のドラゴンはプロトガシャットから生まれてることだけが違うけど、一応それで納得できなくはない。

 

溶け合う自他と暴走

仮面ライダーエグゼイド ハンターアクションゲーマー レベル5(フルドラゴン)……長いんだよ! ちなみに4人プレイ時のエグゼイド(ドラゴンファング)が40文字で恐らく仮面ライダー史上最長の名前。
長らく、なんでこのフォームが暴走するのかよく分からなかったのよね。だって一気にレベルが高くなりゃ問答無用で暴走するって訳ではないのは後の展開(ゾンビ,XX,マシキマム,レガシー……)見てても明らかだし、それはレベル3になったときも同じこと。
ファンタジーのときはバグスターに乗っ取られるシーンが一瞬だけあったけど本当にそれだけで、フルドラゴンに関しても慣れがあるとはいえスナイプ,ブレイブが使った際には、負担こそあるのかもしれないが暴走する素振りは微塵もなかった。

仮に暴走の原因がレベルの高さとは関係ないとした場合に、自分の中ではドライブ タイプデッドヒートと同じ「他のライダーの力を借りるフォームだから、息が合わないと暴走してしまう」というロジックを適用することにした。
前提として、デッドヒートが暴走するのはあれが「ドライブとマッハ、2ライダー分の力を使う」故のものだと思ってて、ひとつの体に複数のライダーが共存しようとすれば、当然思い通りには動けない。クライマックスフォームがモモタロスの意思に反してぴょんぴょこ跳ね回るのも言ってみれば暴走みたいなもので、あれの延長線上にあるものだと思ってもらうと分かりやすいだろうか。
「自分の体が自分の思い通りに動かない、自分の中に他の何かがいるような感覚」こそがこの暴走の核となる部分で、フルドラゴンの場合はドラゴナイトブレードがブレイブ、ドラゴナイトガンがスナイプ、ドラゴナイトクローがレーザー、この3ライダーの力をエグゼイド一人に集中しているので、自らの意に反して暴れまわってしまう。
おそらくドラゴナイトハンターZには、これまでゲンムやグラファイト,その他のバグスターがライダーたちと戦ったときのデータを集めてつくられた集大成のようなガシャットだから、他のライダーの力も宿っているのだと思われる。
スナイプ,ブレイブは次回4人協力プレイという安全な形で「自分の中に他人が入ってくる感覚」を既に経験していたからこそ、フルドラゴンをうまく扱えたのかもしれない。

一応「他ライダーの力を使う」っていう事象自体はこれ以前にも、エグゼイドとレーザーが人馬一体となって共闘すること、レベル3のゲーマくんと合体して戦うことも挙げられるかもしれなくて、だとすると二面性がテーマな『エグゼイド』的には、ひとつの器に2つの力までなら入るけど、それ以上は難しい……というスタンスなのかもしれない。
レーザー レベル5の見た目がどう見てもブレイブとスナイプの武器を使ってるようにしか見えないのも、あれはドラゴナイトクローという似てるけど別のものなんですと解釈しなくとも、レーザー自体が元々バイクで「他人とひとつになることが前提のキャラクター」だからこそ、他のライダーよりも許容範囲が広くて合計3つの力(レーザー,ブレイブ,スナイプ)を同時に使っても暴走しない、のかもしれない?

 

まとめ
書くことがなさすぎて、次回に取っておくはずだったネタまで使ってしまった。エグゼイドって話の進みが早いように見えて、実際のところ1話で起きてる情報量ってあんまり多くないのよね。
フルドラゴンの見た目は以降のパワーアップへの布石として、変わり種具合がちょうどいい感じでとてもいいと思う。あそこまで猫背のライダーってなかなかいないでしょ、かわいい。

 

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お悩み受け流し術

・ポッピーが完全に一人で患者(じゃないけど)の悩み聞くシーンって、多分今回くらいだよね。しかも聞くだけに留まらず、アドバイスまでするのは突然すぎるし若干キャラ崩壊してるようにも見えるんだけど、このシーンは単純に人間だからこそイライラで見えなくなることも、第三者(しかもAIみたいなもん)だから分かることもあるっていうくらいの意味合いであって、別にポッピー個人の性格とはあまり関係ないのかな。
尤も、記憶を覗ける訳だから彼女の中にいる檀櫻子も誰かを心配していた……と捉えることもできる。才能に溺れていく黎斗や、息子を利用してまで会社経営に傾倒する正宗を見ていたはずだから、本編から察せる範囲で頷ける話ではある。まぁ心配すればこそ敢えて遠ざけようとしてたみたいな話は流石になかったと思うけど、会社の社長という立場にいることは正宗と今回の誉士夫に共通してるし。
……後で思いついたけど、仮にポッピー個人の言動だとしたら6話の飛彩に対する永夢の振る舞いを真似してみたっていう可能性はあるかも。よく知りもしない癖に、根拠もなく相手にとって都合の良い解釈を提示して気持ちよくすることで、悩みを解決した風の顔をするというテクニック。ゲームのキャラとしては、そうやって悩みから現実逃避させるのがある種の使命,本能なのかもしれない。

 

大我は真面目?

・大我がゲームに詳しいのは、彼の生真面目さからくるものなのかもしれない。変にプライドの高い飛彩と違って、患者を治すためならゲームだろうが株取引だろうがきちんと勉強して、目的のためなら手段を問わずなんでも利用する……そういう性格なのかも。もちろん、人質に取るのも含めて。
誰にも見られてなくてもゲーム狂っぽい性格を崩さないのも、あれが素だからじゃなくていつ誰に見られてもいいように、そして自分の中にそのキャラクターを定着させるための役作りみたいなものなのかも。
・患者を人質に取るのってかなりやばい行動だと思うんだけど、以前言った「コラボスバグスターは仮に患者を消滅させても完全体にはなれない、データ収集だけを目的とした個体なのではないか」って話と照らし合わせると、一度バグスターが完全体になるのを目の当たりにした大我だからこそ"併発"という現象のおかしさにいち早く気付き、利用したとも取れるのかもしれない。
ギリギリチャンバラのバグスターは倒されてて今はもう消滅させた患者の体を独り占めできるから、完全体になる可能性もゼロじゃなくて危険な賭けだけど、なんの理由もなく人質に取るよりはこう解釈したほうがマシ。


・灰馬の話を聞かないで立ち去る飛彩は感じ悪いなぁと思ってたけど、割と中身のない話ではあったし、要するに言いたいことは「冷静になりなさい」で完結してるので飛彩的には「聞くべきことは聞いた」つもりなのかもしれない。
元々灰馬がいつもそうやって話をダラダラ長くする性格だって分かってるからこそこういう態度を取ってるのだとすれば、むしろそれなりに分かり合っているという描写なのかもしれない。


・大我の話を信じるなら、彼が医師免許を剥奪されたのとほぼ同時期にゼロデイと呼ばれるパンデミックは鳴りを潜めたらしい。
黎斗がゼロデイなんてものを引き起こした理由がイマイチ想像できなかったけど、もしかするとグラファイトという完全体のバグスターを1体手に入れることが目的だったのかもしれない、タイミング的に。
尤も彼の元には不完全体なパラドの他に完全体のポッピーもいるはずなんだけど、その2人にできなくてグラファイトにできることは何かと考えるとやっぱり"戦闘データの収集"辺りが目的だろうか。
ゼロデイの時点でプロトスナイプが戦っていることからプロトガシャットの開発自体は終わっていたことになるけど、グラファイトの戦闘データ……シミュレーションかもしれないし、黎斗がゲンムになって実際に戦ったのかもしれないけど、ともかくそうやって調整を重ねた結果生み出されたのが正規版ガシャット……ということになるのかな?

大我が負けてグラファイトが生まれたからこそ危険性の低いガシャットが完成して、仮面ライダーの数も増えてしまったことは、大我にとって良かったのか悪かったのか……。

・仕事としてやっている以上、必要がなくなればお払い箱になってしまうのは仕方がない。人間なんか雇わなくても、AIの方が人件費かからないし労働基準法もないしいいやってなるのと同じ。


・シャカリキスポーツとギリギリチャンバラはゲーマに食べられない仲間だって話をしたが、ドレミファビートとジェットコンバットはバイザーがついてる仲間なのよね。これもテーマ的な意味を探してるんだけど、今んとこ分からん。

 

"適合手術"は改造手術ではありません

・"適合手術"という言葉尻だけを捉えて「改造人間! 原点回帰!」って持ち上げる頭の弱い輩……オジンオズボーン篠宮の特撮向上委員会(特撮向上って何なん? 何様?)みたいな人たちがいるので僕は昔から声を大にして言ってるんですけど、「ごく微量のウイルスを投与して、体内に抗体をつくる」っていうのは要するに単なる予防接種なんです。中学生でも分かるレベルの知識なはずなのに何故誰も気付かない? 予防接種ぐらいで改造人間扱いされるなら現代日本人はほとんど改造人間だよ。
…………っていうのを口酸っぱく繰り返してたんですけど、仮面ライダー図鑑においてついになのか僕の知らないとこで既にあったのか「注射器を使う」ことが明言されて、"手術"なんて言葉から連想されるような大層なものではないことが確定したんですよね。
注射するだけなのに、それとは別にメスなどを使って外科的な処置を施す必要があるともイマイチ思えないし、端的に言えば"手術"という表現を使ってるのは嘘みたいなもんです。
そんなのでいいなら肉体変化してるやつは全員もう改造人間でいいじゃん。完璧な装着系ライダーって平成でもなかなか珍しいよ。
エグゼイドは手術をしたと「嘘を付いてる」だけで、本来我々のイメージする改造手術のようなものは、永夢を除けば分かる限りでは一切受けていないと思われます。唯一永夢だけは感染したバグスターを"分離"するための手術を財前(パックマン)から施されているけど。
これは、強いて言うならエグゼイドの盲目的な信者に対する批判だけど、作品へ対する批判ではなくて公式見解に基づく単なる事実なのでこっち(肯定的感想)に書いときます。まぁ仮面ライダー図鑑の情報が信頼できるかっていったら微妙だけど。


まとめ
この7,8話は試験的になのか、2つの戦場を並行して描くことで多すぎるライダーを捌いてるのか印象的。あんまりこの後も続けてやったりはしてないよね、確か。
『鎧武』とかではよくやってた気がするけど、『エグゼイド』は基本的に一本筋にまとめていたような気が、する。

 

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仮面ライダーエグゼイド 第8話「男たちよ、Fly high!」 否定的感想

 

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独自解釈で『復活のコアメダル』の脚本を書いてみた

この記事は『仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』について、否定意見を色々見た上で「僕だったらこうする、これなら納得できる」という構成と見せ方を考えて書いてみた、脚本のようなものです。
ざっくりとした筋は踏まえてありますが、かなり大幅なアレンジが加わっております。ところどころ本物と照らし合わせて寄せたり引用したセリフもありますが、基本的にはイチからほぼ新規で書きました。

重ね重ね注意したいのは、映画『復活のコアメダル』をそのまま書き起こしたものではありません。実際の映画の内容を知りたい方は、映画の方をご覧下さい。当記事は改変してないところの方が少ないので、全くもって代用品にはなりません。

以下ネタバレ注意

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ここからは映画をご覧になった方に向けての話です。
この二次創作は、表現の仕方こそほとんどが変更されていますが、"結局描きたいこと"自体はなるべく映画を尊重するつもりで書きました。絵作りとしても、本物の映画に出てきた舞台(ロケ地)以外は使っていませんし、そのシーンに出てくるキャラクターの数もそんなに変わってないので、基本的には一度見た方ならなんとなくの映像を脳内再生させながら読める……んじゃないかなと思います。
尊重した"描きたいこと"というのはあくまで僕の解釈に過ぎませんが、例えば以下の点
・荒廃した世界観
・ゴーダの存在
・グリードの扱い
・バースXの活躍の少なさ
・「映司の死」
などは、あまり変わっていません。映画そのものにダメージや怒りを受けて見返すことすらままならないような方は、読まないことをおすすめします。そういう方にとっては非常につらい展開だと分かっていながらも書くことにとても罪悪感があったので、僕のためにも自衛していただきたいです。正直、そこまでして読む価値はないです。
先に僕の映画に対するスタンスを知っておきたいという方はこちらをどうぞ。

器に収まらない欲望の暴走『Vシネクスト 仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』 感想(否定的)

『復活のコアメダル』のラストを受け入れるためのひとつの解釈(肯定的)


また僕が大きく付け足したオリジナル要素として
・映司が死ぬ前の話
・少女の話
・信吾の話
の3つがあります、予めご了承ください。
そして何より「クソ長い」です。素人の妄想駄文な癖に、おそらく実際の映画のセリフより分量が多くなっていて、文字数としては実に13000字……映像にするとしたら多分90分くらいの尺が必要になる気がします。
また"小説"ではありません。あくまで脚本もどき……基本的にはセリフのみで、場面の細かな描写は読者の脳内再生に委ねられており、文学的な地の文はナシでト書きも最小限にしてあります。
あくまで僕のキャラ解釈でもって書き直したセリフと、追加されたストーリーを楽しんでください。

映司が死なないルートのストーリーも考える予定……なので、協力してくださる方がいたら嬉しいです。

仮面ライダーオーズ 10th 二次創作小説『Eternity Time judged all』

 

著作権的に大丈夫か不安になったので、決定的な改変がない部分はカットし、本編のシーンをほぼそのまま想起してもらうことにしました。この状態でもでも問題がありそうだと分かった場合は即座に削除します。

……では本編です。

 

目次

 

アンク復活

・精神世界
映司「アンク……アンク……」
アンク「…………映司なのか?」
映司「アンク、こっちだ。こっちに……」
アンク「おい映司、待て!」
 映司の影を追いかけるアンク。

レジスタンスのアジト近く
 腕だけの状態で目を覚ましたアンク、爆発音の鳴る方へ行ってみると、グリードが暴れている。
後藤「予定通り、3チームに分かれて応戦する。B班は伊達さん、C班は信吾さんの指示に従ってくれ。A班は俺と一緒にカザリの相手をする。里中はみんなの避難を!」
里中「了解です!」
信吾「比奈……気を付けてな」
比奈「うん、お兄ちゃんもね」
知世子「比奈ちゃん、行くわよ」
伊達「妹のことは任せとけって。そん代わり、緑のグリードはよろしく!」
信吾「頼りにしてます。C班行くぞ!」
 それを遠巻きに見ながら。
アンク「……どうなってる? そもそも俺は――」
 回想 本編最終回
アンク「――死んだはずだ。……あいつらも」
ウヴァ「全員まとめて片付けてやる」
カザリ「人間の相手なんて、さっさと終わらせよう」
メズール「今度こそ逃さないわよ」
ガメル「どこだー、隠れてないで出てこーい」
伊達「言われなくても……!」
知世子「かかってきなさいよー!」
 2人がガメル,メズールに攻撃して注意を逸らし、比奈が瓦礫を投げつける。
ガメル「うあー」
後藤・伊達「変身!」
 両者とも仮面ライダーバースに変身、それぞれグリードに立ち向かう。
古代王「世界を、我が手に……」
 古代オーズに変身し、レジスタンスは劣勢に陥る。
アンク「オーズ……映司じゃないのか?」
信吾「みんな、退却だ! 早く!」
 C班のしんがりとして仲間の避難を優先させていた信吾は逃げ遅れ、古代王の攻撃に倒れてしまう。それを見たアンクは信吾の体に憑依し、助ける。
映司(ゴーダ)「これが今の世界だよ」
アンク「映司……?」
映司(ゴーダ)「おかえり、アンク」

タイトル『仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』

 

少女の悩み(オリジナル)

レジスタンスのアジト
アンクM(OFF)「なんだ、ここは……?」※M→モノローグ、OFF→画面に映っていないキャラが喋ること
 伊達が後藤(軽傷)の手当をしている。
伊達「大丈夫か? ……これでよしと。次は……」
 里中はPCに向かって鴻上ファウンデーションと連絡を取っている。
後藤「里中、バースドライバーの修理は終わりそうか?」
里中「明日までには調整できるそうです」
後藤「よろしく頼む。(時計を見ながら)……無理するなよ」
里中「大丈夫です、ご心配なく」
 そう言って少し笑う里中。
知世子「みんなー! ビッグニュースよ!」
 一同そちらを見ると、映司が比奈と一緒に立っている。
後藤・伊達・里中「火野(さん)!」
映司「話は鴻上さんから聞きました。グリードと800年前の王が蘇ったって……遅くなってすみません、俺も戦います」
比奈「みんな心配してたんだよ、海外じゃ連絡も取れなくて……でも、生きててよかった」
 映司の脳内にだけ、謎の声(ゴーダ)が響く。
ゴーダM(OFF)「また一人だけ、なぁ?」
映司「…………ありがとう」
 少し苦い顔の映司。
比奈「(アジトにかけられたクスクシエの看板を見ながら)こんな状況だけど……改めて。おかえりなさい、映司くん」
映司「うん、ただいま」
後藤「火野も……オーズもいるなら、心強いですね」
伊達「例のアレは、まだみたいだしな。いくら特訓を重ねても、コアメダルとセルメダルじゃ馬力が違う」
比奈「(周りを見て)お兄ちゃんは、まだ帰ってないの?」
後藤「信吾さんなら、前のアジトだ。持ち出せなかったものもあるからな」
伊達「あそこもグリード達に嗅ぎつけられちまったからな……(映司に向かって)俺たちもさっき、ここへ逃げ込んできたばっかりなんだ」
後藤「拠点はここに移した方が良さそうですね……前より広いですし」
伊達「そんな感じで、あっちこっちを行ったり来たりってワケ。俺やお前(映司)は慣れっこだが……(レジスタンスに向かって)みんな、しばらくはここで生活だ!」
 お皿が落ちて割れる。視線を上げると少女が落とした様子、駆けつける映司や伊達。
映司「大丈夫!? 怪我はない?」
少女「……帰れ、ないの?」
 伊達、意味を汲み取れずキョロキョロする。
里中「前のアジト、近くにその子の家があったんです。時々私と一緒に、様子を見に」
映司「そっか……おうちに帰りたい?」
 頷く少女。
映司「大丈夫。俺たちが悪いやつを倒して、家に帰れるようにするから。そうですよね? 伊達さん、後藤さん」
伊達「おうよ!」
 伊達、後藤の肩を叩くと後藤は苦痛に顔を歪める。
後藤「……任せろ」
少女「…………ごめんなさい! 私、やっぱりここでいい!」
 そう言って割れたお皿を拾い出す少女。
伊達「あー駄目だって! 危ないから、こういうのは大人に任せて」
少女「でも、割ったの、私……」
伊達「いいからいいから。ほら、食料はあっちだ。知世子さん!」
知世子「行きましょう?」
 納得いかない顔の少女、渋々ついていく。
ゴーダM(OFF)「映司、お前には無理だ。あの子も、誰も、救えやしない」
映司「……うるさい」
アンクM(OFF)「これは……?」

 

グリードアジトでのやりとり

・グリードのアジト

ウヴァ「あいつら、人間の癖にしぶといな……」
カザリ「うまいこと戦力を分散させられちゃったねぇ。あぁ、2人はまとめて相手されたんだっけ?」
ガメル「メズールといっしょー」
メズール「カザリ、それどういう意味かしら?」
古代王「実に素晴らしい」
 古代王の声に気付き、かしこまるグリード4人。
古代王「お前たちは私の中にある紫のメダル(内部描写)によって、コアメダルから生み出された自我のないヤミーに過ぎなかった。だがコアメダルと融合したことで、グリードとしての個性を取り戻しつつある。新たなる誕生、神による創造と言ってもいい」
ウヴァ「本当に、コアメダルを取り戻せば俺たちの記憶は戻るんだな?」
古代王「記憶? 笑わせるな。ただのメダルの塊に過ぎないお前たちに、記憶など元より存在しない。あるのは欲望だけ……そうだろう?」
メズール「メダルの、塊……」
古代王「お前たちは等しく、私が世界を手に入れるための道具……同族同士のいがみあいなど、醜いだけだ」
カザリ「……そうかな? 僕に任せてくれれば、必ず残りの人間を殲滅してみせるけど」
古代王「面白い、やってみろ」
ウヴァ「お前、どうするつもりだ……」
カザリ「まずは君の出番だ、ウヴァ」

 

レジスタンスアジトでの再会

 ・レジスタンスのアジト
 まだ戦闘服のアンク、気を失っていたのかハッと気が付く。周囲を見回しても映司はいない。見覚えがあることに気づいて、レジスタンスのアジトに入って遠巻きに比奈たちの様子を伺う。
アンクM「何がどうなってる……?」
伊達「しっかし大損害だな」
比奈「あの……お兄ちゃんが、まだ帰ってこなくて……」
後藤「クソッ!」
 後藤の頬には、傷がある。
伊達「後藤ちゃん、まだやられたって決まった訳じゃない」
 アンク、怪訝な顔をする。
比奈「映司くんに、お兄ちゃんまでいなくなっちゃったら……私……」
アンク「どういう意味だ? それは」
比奈「お兄ちゃ……アンク!? どうして……もしかして、またお兄ちゃんの体を?」
アンク「あぁ。悪いなぁ、前ほどじゃないが弱ってたんで借りることにした。……それより、映司がいないってのはどういうことだ?」
比奈「映司くん、少し前から帰ってこなくて……」
アンク「映司ならさっきここに……」
 頭痛がして、記憶が混濁するアンク。
 回想 冒頭のシーン
映司(ゴーダ)「おかえり、アンク。俺はこの先のトンネルの向こうにいるから、いつでも来てよ」
 回想終わり
アンク「いや、ここにいないなら……あそこか」
比奈「映司くんがどこにいるか知ってるの? アンクを蘇らせたのも、映司くんが?」
アンク「……俺にも分からない」
 出ていくアンク。
比奈「ちょっと待ってよ、アンク!」

 

ゴーダとの出会い

・トンネルの向こうのアジト
アンク「おい、映司! いるのか!」
映司(ゴーダ)「来てくれたんだ。……比奈ちゃんも一緒だね。いいよ、入って」
比奈「映司くん! 良かった、(アジトを見回しながら)ここにいたんだ……!」
映司(ゴーダ)「前の戦いで怪我しちゃって……ここで傷を癒やしてたんだ。アンク、はいこれ。着替えなよ」
アンク「……映司、この世界はなんだ? 随分と様変わりしているようだが」
映司(ゴーダ)「アンクが死んでから、10年経ったんだよ。ある日突然800年前の王とグリードが復活して、世界中を食い尽くしたんだ。それで、比奈ちゃんたちはレジスタンスとして……だよね?」
 頷く比奈。
アンク「10年も……前に比べたらまだマシか。だが妙だな……800年前の王は、俺たちグリードのコアメダルを全て取り込もうとして封印されたはずだろ(本編の映像)。それがなんで今更?」
映司(ゴーダ)「それは分からない……鴻上さんなら、何か知ってるかもしれないけど。王は真木博士と一緒に消えたメダルまで持ってるみたいなんだ。アンク、あいつらを倒すために力が欲しい。手伝ってくれるか?」
 少し考え、目を逸らすアンク。
アンク「……手伝うと思うか? この俺が」
映司(ゴーダ)「何言ってんだよ、いつも協力してくれてたじゃんか。ねぇ、比奈ちゃん」
比奈「え……うん……」
映司(ゴーダ)「お前のコアメダルはお前にやるし……何よりアイス、欲しいだろ? なぁ、頼むよ! ほら、今日の分」
 逡巡してから、手渡されたアイスを手に取り「ハッ!」っと吐き捨てるように笑うアンク。
映司(ゴーダ)「交渉成立、だね。こんな風に一緒に戦える日が来るなんてなぁ……!」
比奈「一緒に、か……」
 回想、本編の映司,アンク,比奈が一緒にいる日常シーン
比奈「そういえば映司くん、あの女の子……知らない? あれから見かけないの。里中さんも心配してて」
映司(ゴーダ)「女の子……? あぁ……死んだよ」
比奈「死んだ……って」
 回想
 オーズと戦っていた古代王、逃げ遅れ泣いている少女を見つけ、オーズを確実に仕留めるために少女を攻撃する。
映司「やめろ!!!」
 オーズが覆い被さり、少女を守る。
映司「早く……逃げて……」
古代王「フン、これで終わりか」
 倒れる映司。
 回想終わり
映司(ゴーダ)「助けようとして手を伸ばしたけど、届かなかった。仕方ない、そういう運命だったんだ。それで俺は怪我をして、なんとか逃げてきた……比奈ちゃんだって、俺が死んだら嫌でしょ?」
 絶句する比奈、映司の中にゴーダメダルの存在を感知し目を細めるアンク。物影から後藤と伊達が見ている。
後藤「火野……?」
伊達「おい、あれ!」
 比奈、後藤と伊達に気付き、指差す方向を見るとウヴァが映司たちに襲いかかる。
ウヴァ「見つけたぞオーズ! 今度こそ俺のメダルを返してもらう!」
後藤「つけられていたのか……!」
映司(ゴーダ)「アンク、これ!」
 メダルホルダーをアンクに投げる映司。
アンク「……ハァ?」
映司(ゴーダ)「アンクが持ってて! これ使えって、メダル投げてくれよ!」
ウヴァ「何を訳の分からないことを……!」
 襲いかかるウヴァ、舌打ちして投げるアンク。
映司(ゴーダ)「これこれ、やってみたかったんだよなぁ! ……変身!」
 オーズ タトバコンボに変身して。
映司(ゴーダ)「アンク、あれ言ってよ! 歌は気にするなってやつ!」
アンク「……バカなこと言ってないで戦え!」
 タトバコンボ、ウヴァと交戦。
映司(ゴーダ)「アンク! メダルチェンジだ!」
アンク「…………」
映司(ゴーダ)「なんだよ〜! だったら……!」
 タカヘッドとトラクローの力を使ってウヴァからメダルを抜き取り、ガタキリバコンボに変身。
ウヴァ「俺のメダル……返せ!」
映司(ゴーダ)「お前のじゃない。これはもう、俺の力だ!」
 スキャニングチャージを発動してウヴァを倒す。
映司(ゴーダ)「セイヤー!」
ウヴァ「クソ……死にたくない……」
映司(ゴーダ)「おっと、逃さないよ。お前のコアメダルは壊さないとね……」
 メダル1枚になったウヴァを破壊しようとするオーズ。
アンク「おい! ……やめろ」
 変身解除するオーズ、逃げるウヴァ。
映司(ゴーダ)「なんで止めるんだよ。あいつはお前と違って悪いグリードだろ? 倒さないと」
アンク「フン、グリードに良いも悪いもあるか! それよりお前、何だ?」
比奈「確かに映司くん、なんか変わった。どうしちゃったの?」
後藤「いつもの火野じゃないとしたら……」
アンク「あぁ、映司からグリードの気配がする。どういうことか説明してもらおうか?」
 映司、ゴーダ憑依状態に変貌する。
ゴーダ(映司)「流石は元相棒って感じだなぁ? こんなに早く見破られちまうとは。俺はゴーダ、映司の体を使わせてもらっている。いや、この体はもう俺のもの……今は俺が映司だ。アンク、お前と同じだよ」
 比奈、アンクを見る。
アンク「……一緒にするな」
伊達「なんで火野の体にグリードが……」
鴻上「私が説明しよう!」
 里中が持ってきたタブレット端末に映る鴻上。里中の傍らには、彼女にウヴァとオーズの戦闘を伝えた鴻上の派遣したタカカンドロイドがある。
鴻上「我が鴻上ファウンデーションは、800年前の錬金術師によってつくられたコアメダルを現代の科学で再現するための研究を重ねてきた。しかし実験は失敗を繰り返しうまくいかなかったそこで! 私は映司君の巨大な欲望に目を付けた」
アンク「映司の欲望……それがゴーダとかいうグリードを生んだってのか」
鴻上「その通り! 彼はその実験の成果であり、君を含めたグリード復活の狼煙となってしまったのだよ……ハッピーバースディ!」
アンク「余計なことを……。おいお前、早く映司の体を返せ!」
 驚いた顔の後藤と伊達。
ゴーダ(映司)「いいのか? 言っただろうアンク、俺はお前と同じだって。俺が離れれば映司の体は……死ぬ」
比奈「そんな……!」
ゴーダ(映司)「映司は本来、既に死んでるんだ。その体をこうして維持してやってるんだから、どう使おうと俺の勝手だろ?」
アンク「映司は……戻ってこないのか?」
ゴーダ(映司)「俺は映司になりたい、俺が映司の欲望を全て叶えてやるんだ。……アンク、お前が俺と一緒に戦うというなら、映司は目を覚ますかもしれない」
アンク「映司とお前、意志の強い方が勝ち残る……ってことか」
ゴーダ(映司)「そういうことだ」
アンク「……いいだろう、乗ってやる。消えるのはお前だと思うがなぁ?」
ゴーダ(映司)「どうかな? (映司に戻る)よろしくな、アンク!」

 

大人の憂いと子供の未来(オリジナル)

 暗転
レジスタンスのアジト
アンクM(OFF)「……またか? なんなんだ、これは」
比奈「お兄ちゃん……」
伊達「ったく。こう何度も移動してたら、みんなの気は滅入る一方だ……あの女の子も」
後藤「世界を救うなんて言ってた頃が懐かしいです。子供が悲しい顔をしているのに、何もできないなんて」
伊達「子供の頃の引っ越しってのは、つらいもんだからなぁ……」
後藤「自分も経験したことがあるので分かります。できればそんな思いはさせたくなかった」
 戻ってくる知世子さん。
知世子「あの子、なんだか無理してるみたい……とにかく『一人でできます、大丈夫です』の一点張りで。もう少し頼ってくれてもいいのにね」
里中「……彼女、東京が襲われたときに母親を亡くしてしまったらしいんです。……自分を、庇って」
 後藤、無力感から壁を殴る。頬に傷はない。
里中「たまたま避難所で泣いてるところを見つけて、その時は話してくれたんですけど……それ以降は」
伊達「自分の弱さを隠すようになっちまったのか……あんなに小せぇのに」
映司「……取り戻しませんか? あの子の家」
後藤「取り戻すって……現実的には……」
伊達「何か勝算はあるのか?」
映司「ここの存在を、やつらにバラすとか」
後藤「そんなことしたら……!」
映司「やつらは必ず襲ってくる。だから……」
伊達「罠を仕掛けるってことか?」
後藤「そうか。これまでは撤退戦を強いられてきたが、堂々巡りならいっそ……!」
映司「本拠地を移すフリをして、戦えない人たちは前のアジトに戻ってもらうんです。そしてこの場所で総力戦を仕掛ける……グリード全員は無理でも、きちんと準備してかかれば一気にメダルを奪えるかもしれません」
後藤「メダルが減れば奴らは弱くなる……何より今は火野がいる。コアメダルを奪えば、こちらの戦力になる」
伊達「そうなれば逆転の可能性は高くなるな……よし、決まりだ!」
後藤「俺、信吾さんに連絡してきます!」
知世子「里中ちゃん、私たちは移動の準備をしましょう……それと、またあの子に声をかけてあげて? 一度本音を話したあなたにしか、できないことがあるはずよ」
里中「……はい」
知世子「もちろん、私たちも全力でサポートするわ。クスクシエのお店を取り戻したら、遊びに来てくれるかしら」
 フェードアウトする2人。
映司「……俺も行かなきゃ」
鴻上「待ちたまえ」
 置いてあった里中のPCに鴻上が映り、映司を呼び止める。
鴻上「火野君……いや映司君。私は君に言っていないことがある。……君は、ドクター真木を倒したことを後悔しているかね?」
ゴーダM(OFF)「映司、あいつはバケモノになったんだ。終わらせてやったのは、あいつのためだ」
映司「……してないと言えば、嘘になります。でも、あの時やれることは、やったと思ってます」
鴻上「では800年前の王はどうだね。彼もドクター真木と同じく、元は人間だ」
映司「倒しますよ。人が安心して帰れる場所を奪うなんて……俺は許せない」
鴻上「映司君……彼は、君の――」
映司「いいんです。俺はみんなの、子供たちの未来を守りたい」
鴻上「……素晴らしい! 親から生まれた子供が、大人になりまた何かを生み出す……それこそ世界を再生する欲望の力、無限に続く誕生の連鎖だ! ハッピーバースディ!」
映司「……じゃあ、これで」
 離れたところから見つめるアンク
アンクM(OFF)「映司……それに、あの子供……」

 

アンクと比奈、そして……

・川沿い
比奈「……アンク?」
アンク「……あ?」
比奈「アイス……」
アンク「あぁ……ありがとう」
比奈「えっ?」
 アンク、困惑する。
比奈「……私、アンクが戻ってきてくれて嬉しい。今も、お兄ちゃんを回復するために憑いていてくれてるんでしょ?」
 回想 信吾とアンク、比奈のシーン。
アンク「……ただメダルが足りないだけだ。セルも、コアもな」
比奈「ううん。アンクはそう思わないかもしれないけど、私はそう思う。そう信じてる」
アンク「信じる、か……人間の考えることは分からん」
比奈「……映司くん、戻ってくるかな」
アンク「それこそ信じなくてどうする? あいつは強い……ゴーダなんて奴より遥かにな。それに、こんなところで満足する器でもないだろ」
比奈「……信じててもいいのかな。また昔みたいに、3人で手を繋げるときが来るって」
 そっとアンクの手を取る比奈。
 回想 最終回のシーンと被る……が。
アンク「痛って! お前のバカ力は相変わらずだなぁ!?」
 だが手を離さないアンク。
アンク「……あのバカも、一緒だ。目が覚めてからずっと、あいつを感じる……あいつは死んじゃいない」
比奈「うん……!」

レジスタンスのアジト
 比奈より少し遅れてアジトに戻ったアンクに、作業をしていた伊達と後藤が話しかける。
伊達「アンコ。お前……少し変わったよな」
アンク「そうか? グリードは変わらない、人間と違って成長することもない」
後藤「いや、変わったよ」
アンク「……フン、だといいがな」
 影で聞いているゴーダ。
ゴーダ(映司)「アンクは、俺のものだ。昔のまま……」

 

グリード吸収

・グリードのアジト
ウヴァ「くそ……カザリ! どういう作戦なんだ、この後はどうすれば……」
カザリ「なーんだ。弱ったところでコアメダルを貰うつもりだったのに、1枚しか残ってないんだ。ま、セルもあるしいいか」
メズール「カザリ、なんのつもり?」
ガメル「ケンカ、よくない……」
カザリ「このまま王に好き勝手させていい訳? 僕は嫌だね。メダルを集めて、アイツを倒すんだよ」
古代王「誰を倒すと?」
ウヴァ「おぉ……頼む、俺のメダルを返してくれ。俺の……!」
古代王「もういい、貴様らは私の一部となれ」
 グリード4人を吸収して姿が変わる古代オーズ。
古代王「よき終わりを……いや、真のオーズの誕生……世界の全てを私のものに……?」

 

古代オーズ戦

レジスタンスのアジト
アンク「……! なんだこの妙な気配は」
伊達「800年前の王様か?」
アンク「さては、グリードを取り込んだか……チッ、おいゴーダ!」
映司(ゴーダ)「映司って呼んでくれよ〜。でもまた一緒に戦えるんだな、アンク?」
 黙って出ていくアンク。
映司(ゴーダ)「待ってくれよ〜!」
伊達「後藤ちゃん、アレ持ってこう! 例のアレ!」
後藤「でもあれはまだ調整が……」
伊達「今出さなくていつ出すの! もし暴走したら俺が止めてやる! それに、奴がオーズの力持ったまま裏切ったら、セルメダルのバースじゃ抑えられねぇ」
後藤「どちらにせよ、使えなければ終わりか……分かりました、なるべく早く用意します!」
伊達「そんじゃ、先行ってる!」


・アジト付近
古代王「久しいな、アンク」
アンク「ハッ、お前と再会を喜ぶ仲になった覚えはないなぁ?」
古代王「……そしてオーズ」
映司(ゴーダ)「あれ、会ったことありましたっけ」
アンク「どうでもいい。さっさと変身しろ」
映司(ゴーダ)「はいはい……タジャドルじゃないのかぁ! まぁいいや、変身!」
 オーズ ラトラーターコンボに変身。
古代王「虫ケラが、蹴散らしてやる」
伊達「変身! アンコ、援護は任せて下がってな! 体、大事にしろよ」
 アンクだ! とツッコもうとしてやめる。
アンク「……分かってる!」
伊達「ゴーダとか言ったか、手ぇ貸してやる!」
映司(ゴーダ)「……ありがとうございます! "伊達サン"」
伊達「っかぁ……調子狂うなぁ!」
 オーズ、スキャニングチャージを発動させるも、古代オーズに止められる。飲み込んだ人格が混ざり合って支離滅裂になっている。
古代王「僕のメダルを使っておきながら……この程度か? オーズの坊や。私には勝てん!」
アンク「クソ……このままじゃ!」
古代王「私の一部になりたまえ」
伊達「やめろ!」
 変身解除した映司(ゴーダ)が古代オーズに飲み込まれそうになる。が、その手を信吾が掴む。
ゴーダ(映司)「何!?」
アンク(腕)「お前に死なれちゃ、困るんだよ……!」
 古代オーズに特攻するアンク。
ゴーダ(映司)「アンク!!! クソ、離せ! アンクが!」
信吾「駄目だ! 彼に……頼まれたんだ!」
伊達「馬鹿野郎……! 体ってのはアンコ、お前自身のもだ!」
 バースバスターで威嚇するも、吸い込まれないようにするのが精一杯なバース。アンク、取り込まれる。
ゴーダ(映司)「な……」
古代王「次はお前……何だ!?」
アンク(腕)「飲み込まれるのはもうウンザリなんだよ! ゴーダ、これ使え!」
 古代オーズの体内にあった恐竜メダルを掴み、投げるアンク。
ゴーダ(映司)「……これなら!」
 オーズ プトティラコンボに変身し、メダガブリューを出現させる。
古代王「所詮、たった3枚のメダルだ……!」
ゴーダ(映司)「どうかな? お前のメダル、貰った!」
 古代王の体を構成するセルメダルがメダガブリューに吸い込まれていき、グランド・オブ・レイジを発動。
古代王「おのれ……! 私は……何を利用しても理想を実現するのだ! 私は……お前(映司)も!」
ゴーダ(映司)「あばよ」
 爆発する古代オーズ。グリード体で出てくるアンク。

 

ゴーダの裏切り、バースX誕生

ゴーダ(映司)「なぁ、アンク……」
アンク「なんだ? これでお前と戦う必要もなくなったなぁ。……まさか、映司から離れるつもりじゃないだろうな?」
ゴーダ(映司)「いや、あのメダル……俺が使ったらどうなると思う?」
アンク「何を言ってる?」
ゴーダ(映司)「俺は力が欲しい……飲み込めるさ、俺の器なら……!」
伊達「火野、やめろ!」
 伊達は映司に手を伸ばすが届かず、ゴーダはコアメダルを取り込み仮面ライダーゴーダに変身。
ゴーダ(映司)「最高だ……これが俺の求めていた力……!」
信吾「映司くん……!」
伊達「クソッ、また厄介なのが生まれちまった! 病み上がりに丸腰じゃ危ない、逃げろ!」
信吾「……すまない」
ゴーダ(映司)「アンク……お前も俺とひとつになれ」
 バースがアンクを守ろうとするが、劣勢。ダメージを負い変身解除する。
アンクM「ここまでか……? いや、何かあるはずだ、まだ手は……」
ゴーダ(映司)「終わりだ!」
アンク「この……いつまで寝てんだ、映司!」
 ゴーダの動きが止まる。
ゴーダ(映司)「なんだと……映司、俺の邪魔をするな。この体は……俺のものだ!」
アンク「ゴーダ……その体は、お前のものじゃない!」
 映司の手を掴むアンクのイメージ映像。ゴーダから分離され、倒れる映司の体。
ゴーダ「大人しく俺とひとつになっていれば、死なずに済んだものを……」
アンク「映司、しっかりしろ! 映司!」
 揺さぶっても反応がなく、映司の体に取り憑くアンク。
後藤「伊達さん! 遅くなりました!」
伊達「後藤ちゃん! ……ったく、本当だよ! ちゃんとアレ、持ってきた?」
後藤「はい、まだいけますか?」
伊達「当たり前!」
後藤「行きましょう、一緒に!」
後藤・伊達「変身!」
 伊達はバース、後藤はバースXに変身し、古代オーズに立ち向かう。映司に取り憑いたアンクは目を見開く。
アンクM「映司を感じる……そうか、俺は……!」

 

信吾と映司(オリジナル)

 暗転
レジスタンスのアジト
信吾「久しぶり、映司くん」
映司「信吾さん! お久しぶりです」
信吾「……勝手に君の留守を任されたつもりでいたんだが、こんなことになってしまって……情けないよ」
映司「そんな、俺の方こそなかなか帰国できなくて……すみません」
信吾「君も、アンクくんも、俺の命の恩人だ。君が心置きなく旅を続けられるよう、自分なりに頑張っていたつもりなんだけど……それで、アンクくん復活の手がかりは掴めたのかい?」
映司「……俺の欲望から、ゴーダっていうグリードが生まれたんです。でもこいつは、脳内でたまに語りかけてくるだけで、実体を持っていない……多分、まだまだ欲が足りなかったのかなって。だから、今アンクを復活させても、あいつに不自由な思いをさせるだけかもしれなくて……」
信吾「そうか……俺にできることがあったら、何でも言ってくれ。また体を貸すくらいなら、できるからさ」
映司「そんな! 信吾さんがいなくなったら、比奈ちゃんはどうなるんですか。あいつには……俺の体をあげようと思ってるんです。ゴーダには悪いけど……」
信吾「それは……映司くんは、またグリードになるつもりなのかい?」
映司「そんなつもりじゃ! ただ、無理かもしれないけど、あいつを蘇らせるならグリードとしてじゃなくて、人間として世界を味わって欲しいなって。もし俺の体ひとつで叶うなら、それで……」
信吾「それじゃあまるで…………死ぬみたいな言い方じゃないか。君がいなくなったら、比奈は……いや俺も! 残された人の気持ちはどうなるんだ?」
映司「…………俺は世界中を旅して、色々なものを見ました。もちろんいいことばかりじゃなくて、つらいことだってたくさん。……復活したグリードにみんながやられていくのを、俺は止められなかった。どれだけみんなと時間を積み重ねても、壊されるのはあっという間で」
信吾「映司くん……」
映司「でもだからこそみんな、今日を必死に生きていくんですよね。いつか訪れるその時に後悔しないようにって、明日へ向かって必死に手を伸ばす。……俺にとってその明日っていうのは、あいつなんです」
信吾「その明日には、映司くんも……?」
映司「アンクがいなくなったとき、俺はみんなに手を差し伸べてもらえて、今もこうして生きてる……この命を無駄にする気は、ないです。俺はこれからも、俺の手が届く範囲の人を助けたい……それだけです」
信吾「そっか……それならいいんだ。こんな状況だからこそ、みんなで支え合っていかないといけない……これからも、よろしく頼むよ」
映司「こちらこそ……よろしくお願いします」

 

映司の記憶

 アンクの中にフラッシュバックする記憶
レジスタンスのアジト付近
 オーズとバース2人がグリードと戦っている。
後藤「クソッ、王に気付かれた!」
映司「俺、行きます! みんなをお願いします!」
伊達「すぐ合流する!」
・旧アジト付近
映司「皆さん逃げてください! もうすぐここに敵が……!」
20歳ほどの青年「女の子がいないんだ……!」
映司「まさか……! 俺に任せて、君たちは先に逃げて!」
 ゆっくりと歩いてくる古代王を見つけ、阻止しようと戦いを挑む映司だが、劣勢。変身解除させられてしまう。
古代王「む?」
 逃げ遅れて泣いている少女を見つけ、攻撃する。
映司「やめろ!!!」
 少女を庇い、傷を負って倒れる映司。
少女「お兄ちゃん……!」
映司「早く……逃げて……」
古代王「フン、これで終わりか」
 立ち去る古代王、それを見て助けを呼びに行く少女。映司は意識を失いかけている。
映司M「アンク……アンク……!」
アンクM「……俺が今まで見てきたのは、あいつの記憶だったんだ」

 

2人の約束

・精神世界
映司「アンク、久しぶり」
アンク「映司……!」
映司「ごめんな、ゴーダが迷惑かけて」
アンク「そんなことよりお前は……!」
映司「アンクが生き返ってくれて、良かったよ」
アンク「お前が死んでどうする!」
映司「……アンク。俺は、いつでもお前と一緒だよ。俺の伸ばした手がお前に届いて、今度はお前がその手を伸ばす……そこに俺はいるんだ」
アンク「そんなもの知るか! それはお前ら人間の理屈だ……いないものはいない」
映司「アンク……お前は変わったよ。俺たちと過ごす中で、お前は人間になったんだ。本当は、分かってるんだろ?」
アンク「だから……受け入れろってのか……」
映司「大丈夫、俺だけじゃない。お前の周りには、比奈ちゃんも知世子さんも……みんながいる。俺と一緒に、みんなと手を繋いで欲しい。……それが、俺の願いだ」
 アンクは黙っている。
映司「最後に……俺と一緒に戦ってくれるか?」
 泣きながら目を逸らすアンク。
映司「頼むよ」
アンク「…………今日の分のアイス、貰ったからな」
 映司、笑ってアンクとひとつになる。

 

タジャドルコンボ エタニティ

・アジト付近
 映司に取り憑いたアンクが目を覚ますと、メダルがエタニティコアに変化。
ゴーダ「フンッ!」
 紫のメダルの力で本領発揮できないバースXは、やられてしまう。
ゴーダ「アンク……いや映司。次はお前だ……」
アンク(映司)「映司……それが、お前の願いなら……。お前のやりたいこと……俺が叶えてやる。変身!」
 オーズ タジャドルコンボエタニティに変身。
ゴーダ「なんだその姿は……!」
鴻上「ハッピーバースディ、オーズ! そして、新たなるアンク君……」
 アンクの放った攻撃に重ねて映司の幻影が映り、アンクは自分の戦い方の中に映司がいることを再確認する。
ゴーダ「お前たちの欲望は力だったはずだ! 何故俺を受け入れない、何故俺を否定する!」
アンク・映司「あいつの欲望は……そんなもんじゃ満たされない!」
ゴーダ「バカな、そんなことが……!」
アンク(映司)「……行くぞ!」
 スキャニングチャージを発動し、ゴーダを倒す。
ゴーダ「俺の……いや、映司の欲望を……俺は……!」

・精神世界
 向き合っていた映司とアンクだが、振り返って歩き出そうとするアンクの背中を押す映司。

 

残されたもの

・アジト付近
 倒れる映司に寄り添うアンク。
映司「アンク……お前の手を掴めて……良かった」
アンク「……お前を選んだのは、俺にとっても得だった。間違いなくな」
 駆け寄り手を取る比奈。
映司「比奈ちゃん……ありがとう」
 笑顔を浮かべる映司。
比奈「いやだよ、映司くん……!」
 映司と繋がれた比奈の手に、自分の手を重ねるアンク。
比奈「アンク……」
 そこへ里中と青年が少女を連れてくる。少女は固まったまま、動かない。
里中「……つらいときは、泣いていいんです。みんなに頼って、いいんです」
 少女、映司に駆け寄って泣き始める。
少女「お兄ちゃん……!」
映司「俺、君を守ったこと……後悔してない。多分、君のお母さんだって。君が生きてて、本当によかった……。みんなが、君の帰る場所になってくれるから」
 泣いている少女の手を取るアンクと比奈、4人の間に輪ができる。里中は後藤と伊達、知世子さんは青年と信吾の手を握る。
映司「……見て、綺麗な空だ」
 空を見上げる少女と比奈。アンクは泣きながら、映司の目蓋を閉じた後、見上げる。
アンク「あぁ……綺麗だ……」

 

 エンドロール『Anything goes!』
 墓標のように立てられたパンツ、最後に赤い羽根が落ちてきて、寄り添う。

 

END

 

オーズ感想一覧

仮面ライダーエグゼイド 第7話「Some lieの極意!」 肯定的感想

 

・貴利矢と誉士夫が同じ病室にいるっていう絡め方は『エグゼイド』らしからぬというか、かなり珍しい日常描写って意味でもそうだけど、平成シリーズの中でもあんまりないタイプの描き方な気がした。……井上敏樹がすれ違い劇の手法としてたまにやるくらいで。
特に2期以降、基本的にはゲストって主人公と絡むことが多くて、何故かって言ったら探偵の依頼人だったり主人公が自分から首突っ込んでいくタイプだったりするからなんだけど、逆に2号以降は自分たちの縦筋と他ライダーとの接点こそ描けど、1話限りのゲストと関わるイメージってほとんどない。50話あっても、そんなことしてる余裕がないんだろうね。
『W』のデカイエローなんかはそうだけど、あれはたまたま彼女の方から警察側に入ってきた特例であって、照井のスタンスとしてはあくまで「警察として一歩引いたところからドーパント事件を追う/もしくは自分の復讐を果たす」であまりブレない気がする。
今回の貴利矢も、別にこれをきっかけに誉士夫の問題を一緒に解決しようと動く訳ではないんだけど、一応永夢に事情を説明することで一役買っている。


・CRの病室に入れる人と入れない人というのは、基準はハッキリとは示されないものの何か線引きがあるらしい。貴利矢にせよ灰馬にせよ大我にせよ。
免疫機能みたいね。

・勝手な行動をした罰として、バグヴァイザーを没収されるグラファイト
これまでは単に武器をひとつ奪われたのだと理解していたが、完全体バグスターはこのツールを使って"変身"するんだから、あれを奪われたら怪人体になれないのか? 不思議な話だけど。
バグスターが人間を乗っ取って完全体になると、ゲームキャラとは別の人間の姿(明日那,町井さん,天ヶ崎,ジョニー?)を獲得するらしいことは仮面ライダー図鑑で説明されていて、その上で更に怪人体になるためにはバグヴァイザーが必要となると、あの人間体というのは"化けてる"のではなくて、本当に極めて人間に近い状態なのかもしれない。
5話にゲームスコープで診断した際もそうだったように、普段は「ゲーム病に感染した人間」とほぼ同じで、必要な時だけウイルスを注入して怪人になるという仕組みなのかな。あんまり怪人体にばかりなってると取り込んだ人間の体が保たないから……みたいなことなのかな?
ただし、パラドは人間の姿だけど永夢が消滅しておらず不完全体のはずなのでこの限りではなくて、おそらくポッピーや新檀黎斗,新貴利矢のようにモチーフとなったキャラクター(マイティアクションCのキャラにしろ永夢のイマジナリーフレンドにしろ)が人間に近い姿をしているから、バグスターとしてのそもそもの姿が人間の見た目なんだろう。

 

成長リセットとアイロニー的自由

・前回飛彩に対して恋人の件で助言をして少しは関係が深まったのかと思いきや、まったくそんなことはなく「あなたには任せられません」と対立的な永夢。
これもまた高橋悠也の作風というか、彼なりの手法かつ思想みたいなものなのかもしれない。
俗な言い方をすれば"成長リセット"なんだけど、そもそも「人は一度学べば同じ轍は二度と踏まない」という前提がおかしいっちゃおかしいのよね。そりゃあ所詮はフィクションなので、理屈っぽくそういう"経験値"を積み重ねていって、主人公がこれまで獲得してきた考え方や技術などを総動員するというパズル的な話の組み立て方もあるんだろうけど、少なくとも『エグゼイド』や『ゼロワン』においては恐らく敢えてそれをしない道を選んでいる。
そういうデジタルな存在との対比として「間違うこともあれば忘れることもある人間」を描きたいからこそ「こういう経験をしたからこのキャラがこういう行動を"取るはずがない"」というデジタルな認識は本作には相応しくなくて、寝て起きたり、或いは別の話題に気を取られたり、そういうタイミングで都度都度何かがふんわりとリセットされて、もちろんふんわりとしているので継続する文脈もある。

多分この方法論というのは"子供向け"として理に適っていて、おそらく子供自身がそんなに記憶力も明瞭でなくリセットされる存在だからだと思うんだけど、『ドラえもん』にしろ『サザエさん』にしろ『クレヨンしんちゃん』にしろ、1エピソード(30分……ではなく10分前後)毎に話が途切れて継続することはほぼなく、のび太は毎回ひみつ道具で失敗するししんちゃんも片付けしなかったりして怒られるというのがお決まりの展開。それでいて「のび太くんに貸すといつもろくなことにならない」みたいなこれまでの文脈をふんわり踏まえたセリフを言うときもあれば、そんなことお構いなしに躊躇なく貸してくれる回もある。
「失敗から学んで教訓を得る」形式のキャラクター造形だと、同じミスはできないし一度できちゃったことは次回以降でもできなきゃいけないし、回を追うごとに少しずつ完璧超人に近付いていって物語上の"枷"があまりにも多くなる。例えば『ビルド』に対して僕は「6話で万丈がスタークに毒を注入されたときにクローズドラゴンがちゅうちゅう吸って解決してたんだから、34話で戦兎が同じくエボルトの毒に侵されてようがクローズドラゴンで吸えば解決するじゃん」みたいなことを言ったんだけど、そういうイメージ。この展開をやるためだけにクローズドラゴンを破壊するなりなんなりしないといけなかったり、或いはそもそも毒を注入するというネタ自体がもう二度とできなくなってしまう。

でもってこの「経験値引き継ぎ型キャラクター」って、むしろ悪役の方が当てはまりがちなのよね。バグスターもエボルトもヒューマギアも、「その攻撃は一度見たので二度と効きませーん」みたいなことを言い出しがち。
このことからもやはり"デジタルな経験値"概念はテーマ的な意味で肯定されてなくて、不完全ながらに頑張るというのがコンセプトだということが読み取れる。
それはもちろん「話をつくる上でラク、都合がいい」っていうのも兼ねてるんだろうし、実際このロジック,言い訳を活用すれば「仮に脚本家がただ忘れてただけだったとしても、作中キャラクターだって同じように忘れることもある」という無敵の理論武装が完成してしまう。
確かに基本的には復讐に燃えるキャラかもしれないけど、人間って四六時中同じことを考えてる訳じゃないんだから、なんとなく機嫌がよかったら復讐を忘れて協力してくれる時があってもいいよね、とか。
確かに基本的には正義のために動くキャラだけど、機嫌が悪かったらちょっと悪いことするときもあるよね、とか。

『反哲学史』という本で少し読んだだけなんだけれど、ソクラテスアイロニーについての解説の中で一瞬だけ"ロマン主義アイロニー"というものについての話があって、それがかなり興味深かったのよね。
作者が作品の中で描いたものに対して、それに反する思想を持ったりそういう別の作品を表現すること、またそれによって過去の自分からの"自由"を感じることを、そう呼ぶらしい。
読んだ瞬間「めちゃくちゃ高橋悠也作品じゃん!」って思った。というか、過去の自分に逆張りを重ねることで自由を感じるという精神現象はむしろ僕自身の中でこそよく起こっている。
最初は『エグゼイド』のこと好きで、でも段々良く分からなくなって大嫌いになって、大森・高橋コンビの次回作『ゼロワン』はそれへの逆張りで絶賛して、じゃあ『エグゼイド』も同じスタンスで見たら楽しめるんちゃうかと思ってこうして肯定的感想を書いている現在。
特に『ゼロワン』においては仮面ライダーが人間の自由のために戦うということを一旦差し置いても、明確に"自由"がテーマだと最初から掲げていて、だからこそこの「過去の自分自身からの自由≒矛盾」というのは避けて通れない事柄であって、決して"出来が悪いからそうなってる"訳ではないことが伺える。


・前回今回のように2種類のウイルスに同時に感染している場合、消滅したらどうなるの? 半分こなら完全体にはなれなそうだし、かといってどちらかを優先させるような理由も見当たらない……。
子供も標的にしていたことから細胞の量自体はそれほど関係ないとも考えられるが、それならばわざわざ乗っ取らずとも良いのでは……? 或いは、誰か一人の完全体が体に仲間を感染させればそれで済むのではないか。
仲間を増やすことではなくデータ収集が目的だという話なので、コラボスバグスターが完全体になるという"もしも"は有り得ないというか、想定されてないのかな。


・5,6話の患者である曜子さんの場合は一度ゲンムによってゲキトツロボッツが分離され、その後ブレイブにより再度分離されたことでドレミファビートのバグスターが現れていたが、今回は何故か一度の分離で同時に2体のコラボスバグスターが出現。
『セイバー』でも似たようなこと……双子のマミレミを飛羽真とユーリが協力して分離したことがあったけど、それと同じで今回はエグゼイドとブレイブの2人で同時に分離したからこうなったと見るのが妥当かな。なんだかんだで永夢と飛彩は息がピッタリ合っているという描写でもあるのかも?
・ところでコラボスバグスターはレベル3のガシャットが刺さった状態で出てくるけど、つまり患者の中に2本も入ってたことになるのか?
仮面ライダークロニクルの場合は起動スイッチを押すだけでゲーム病に感染して、最終回では正宗が直挿ししたからなのか消滅していた。他に直挿しをやってたのは記憶にある限りだとダークグラファイトと、あとはパックマンの手下のバグスター達くらいで、どちらもバグスターに変化してるのでかなり危険な行為だと思われるんだけど、それが2本も体内に入ってるのに即時消滅ってことにはならないのが不思議。
……まぁ、一応ガシャットは人間が使うことを想定されて調整されたものな訳なので、例えばバグヴァイザーから直接ウイルスを注入されるのと比べたら、ガシャット内のものはある程度ウイルスが弱らせてあったりとかするのかもしれない。


・1クール目は貴利矢をいかにおいしく退場させるかというのが主題だったらしく、小野塚隼人さんの力量もあって僕も(元)アンチながら彼のことはそれなりに好き。
でもって今回の演技が一番好きかもしれない。
「真実が人の人生を狂わせることもある」という過去のトラウマで熱くなってしまうんだけど、自分でもそれに気付いて、掴んで乱れた永夢の胸ぐら,襟の部分を黙って直すところ。
この細かい動作が台本で指定されていたとはとても思えないので、おそらく「悪い、熱くなった」って一言謝るか、高橋脚本のことだから何事もなかったかのように次の話に入るかのどちらかだったんじゃないかなと思うんだけど、そのどちらよりも貴利矢らしくて、かつ悪いと思ってることもきちんと伝わるこの描写は非常にスマートというか、映像作品ならではの表現で好き。役者さんのアドリブなのか撮影スタッフからの指示なのかは分からないけど。

 

嘘つきのパラドックス

・貴利矢の嘘つきっていうキャラ造形は、おそらくクレタ人のパラドックスに着想を得ているのかなと思う。コンピュータの分野でも詳しくは知らないけどそれなりに重要な概念のはずで、真/偽のゼロイチ的な理解の仕方では結論を出せないこともあるのが嘘つき……もう少し正確には自己矛盾する文章の特徴として知られている。
でも人間の頭は矛盾する話を2つ聞いても、動作を停止したりすることはない。それって多分、コンピュータと違って人間の脳はどっちの話も100%は信用していない、100%受け入れるということはできないからで、ある種独断的に「多分こっちが正しい」とか「どっちも眉唾だけど、決めないといけないからこっちを信じてみる」とか、自分の意志で選択することができる。
本人は「今日の自分に嘘はない」だのなんだのと言っているが、その発言自体が嘘である可能性も十分にあるのだから、彼を"信用"するかどうかは結局受け手側の気分とか人柄みたいなものに大きく左右される。
誤解のないよう言っておくと、これは別に自己言及のパラドックスとは関係ないけどね。単に連想ゲームとして、そこから「嘘つきのキャラを出したら面白いんじゃないか」ってなったんだろうなってだけ。

もうちょっと穿って見ると、キャラクター的に言うと貴利矢ってのは「喋るバイク(無機物)」という要素も併せ持ってて、これって要するに人間に従い奉仕するべき機械が、嘘をつくなどの勝手な行動をしたら人間は許せるのかどうかみたいな話とも繋がる気はする。
「あなたのためだから」とか言って、本当は30%残ってるのに本来より早めに「バッテリー残量が15%です」って言ってみたり、アラームを少し早い時間に鳴らしてみたり、逆に眠そうだったので送らせてみましたとか言ったりしたときに「いやお前の意見は聞いてないんだよ、勝手なことすんな」って思うのか、それとも一応善意から動いてくれた訳だから「ありがとう、でも次からはやめて欲しい」などと大人な対応をできるのか……。

食えないゲンムとレーザー

・意志のないチャリンコを思うがままに操るゲンムとはやはり対比になってて、お喋りなバイクに都合の悪いことを知られたら"処分"してしまった展開とも符合する。
この2人のカップリングって殺し殺される因縁の関係になる前から、一応「ゲーマに食われない同士」という玩具ギミック的な繋がりはあったりする。
他の3人はパックンと食べられるのに、この2人は食われない。そこに何かしらのテーマを見いだせやしないかと考えてる途中なんだけど、今んとこあんまり。
「ゲームキャラに食われる」ということから素直に連想するなら「ゲームに夢中になる、心を奪われる」みたいなイメージなんだけど、これはまぁこじつけようと思えば無理ではないが……ってところ。永夢は元からゲーム狂だし、大我も表面的にはゲームに取り憑かれた哀れな男、飛彩もレベル3になってからは意地でも使わなかったゲームアイテムを使うようになったのに対して、黎斗と貴利矢はあくまでライダーの力は手段だと割り切ってゲームを楽しんでいる様子はない……ない……本当にそうか? って感じ。


・5話の貴利矢がどうやら、ゲンムの正体を偽ることでバグスター陣営の作戦を邪魔したっぽい(?)ことに対して、同じ手段で貴利矢の信用を失墜させるのはとても綺麗な意趣返しになっていて、パラドの発案か黎斗の発案かは分からないがちょっと感動した。

・「ノせられちゃった? 少しは人のことを疑え。じゃなきゃ、意外なところで足元掬われるかもよ?」
このダブルミーニングもいい。露悪的に「騙されてやんの」って振る舞うことで永夢に人を疑うよう忠告してると取ってもいいし、まだ少しでも自分を信用してくれるなら「お前はゲンムにノせられてる、本当の正体はパラドじゃないから幻夢の社長を疑え」って意味で受け取って欲しいなっていう貴利矢の隠れた本音もチラ見えするのが素晴らしい。
こういったところは素直に脱帽する。


まとめ

貴利矢とレーザーはどっちの顔もかっこいいので、彼が中心に来るとそれだけで満足度50くらいは担保されてしまう。
色の中だと黄色が一番好きだってのは何回か言ってるけど、中でも2色組み合わせるならやっぱ黒が似合うよね。金色の使い方も安売りし過ぎてなくて品があるし。
ストーリー的にはやはり「貴利矢の過去にあった事実を確認するだけ」なので特に言うことなし。

 

エグゼイド感想一覧

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仮面ライダーエグゼイド 7話「Some lieの極意!」 否定的感想

 

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仮面ライダーエグゼイド 第6話「鼓動を刻め in the heart!」 肯定的感想

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仮面ライダーエグゼイド 第6話「鼓動を刻め in the heart!」 肯定的感想

 

・永夢がガシャットを返そうとするくだり、『エグゼイド』にしては珍しいというか妙に律儀な描写。省ける説明は徹底的に省いてその代わりに面白げな展開をもう何個か盛り込むっていうのが、少なくともライダーにおける高橋悠也脚本の特徴ってイメージ。
特に"キャラへのフォロー"は、当時の僕含めアンチが多いことからも分かるように少なくて、それ故に「お前本当に正しいことしてるんか?」って思わせるのが彼の作風なんだと割り切ってるんだけど。パラドをボコるとことか或人の闇落ちみたいに目に見えるかたちで悪性を描くことも少なくないけど、今回のような「永夢が敵を倒してガシャットを勝ち取った」という一見誰も何も文句言わなそうな隠れ蓑があったら、黎斗からの押収要請なんてなかったかのようにしれっと自分のものにしててもおかしくない。前作の『ゴースト』ですら、盗品だったロビンフッドの弓矢が変化した眼魂をしれっとタケル殿が自分のものにしてた……なんてことがあったのに。
『ゼロワン』でも「(あの時はしなかったのに)そこは説明するんだ?」みたいなのが気まぐれにあったけど、たまにこういう描写をいれることで「何も考えてない訳じゃないんですよ」って視聴者に信頼させるみたいな意図があるんだろうか。言ってみたけど、だとしたらあんまりうまく言ってるとは思えないので違うか。
内容的には否定的感想の方に書けよって感じだけど、言いたいこととしては「意外とちゃんとしてて見直した」ってことです。
"術後経過"ってのもそれなりに理に適ってるしね。

 

バグスターユニオンの立ち位置

・「ゲンムが分離した仲間が倒された」とのこと。前回ユニオン(肉団子)なしでいきなり出てきたのは黎斗の仕業ってことらしいけど、グラファイトの口調から読み取るにバグスター陣営としてもユニオン状態より分離後の方が都合がいい……っぽい? "分離した"とこまでは文句ない……むしろ仲間を増やせて嬉しいけど、エグゼイドに倒されちゃって怒ってるって話だから。
でも少し不思議な話よね。だってバグスターの目的は「人間の体を乗っ取り完全な存在となること」のはずで、だとするなら患者の体を取り込んでるユニオン状態の方が都合が良くて、レベル1に分離させられるのは不本意なことのはずなのに。
単に言葉の綾としてスルーしてもいいけど一旦そういう仮定の元で考えてみると、まず思い当たるのは後々「バグスターは倒されるたびに強くなる」という設定が出てくるのと同じように、仮面ライダーに倒されることで学習してより戦闘能力が高くて自我(キャラクター性)のはっきりした個体に進化できるから、一旦分離されることを差し引いてもメリットがあるという可能性。
実際というか、現在のグラファイトは状態としては人間を取り込んだ"完全体"のはずなんだけど、強化されたダークグラファイトがレベル5×4人に負けていることから、その強さはおそらくレベル5〜10相当だと推測されるので、こんなに幹部ヅラして強者っぽい雰囲気出してるのに後に出てくる不完全体(レベル20や60など様々)よりも弱いことになっている。つまりバグスターの目的としては「人間を取り込み完全な存在になること」がまず自分の存在を確立するための第一ステップとしてあって、その上で更に仮面ライダーと戦うことで「自分のレベルを上げて強くなる(自我を持つ)こと」も、本編ではあまり言及されないが必要なことなんだろう。
ユニオンが知能もなくてほぼ暴走してるようなもんなのは、バグスターが人間を完全に支配下におけるほど強い自我を確立できていないままに乗っ取ろうとするから、反発されて暴れまわることしかできないのかもしれない。
そう考えると確かに、「仲間はいつでも増やせる。いま必要なのはデータだ」というパラドの言い分には頷ける。現状のままいくらバグスターを生み出しても所詮はグラファイトのようなザコにしか育たないから、まずはデータを集めて強いバグスターを生み出す土台をつくろうと。

 

把握してる飛彩

・患者には関わらないのがモットーなんだからゲーム病が治ったならそれでいいはずの飛彩が、どうして音大にいるんだろう。ひょっとすると小姫もこの音大に通ってたのかなとか思ったりもしたけど、仮面ライダー図鑑によると彼女も聖都大学の医学生だったらしい、初知り……。
グラファイトについて独りごちているので、仇についての手がかりを得るためにってのが妥当なところなんだけど、既に治ったゲーム病患者が居場所を知ってるはずもないしグラファイトが守りに来る理由ももうないしで、通るような通らんような。
それはそれとして、意図的に関わらないというスタンスを取ってるだけで、音大生を襲っていたという事自体はきちんと見抜いてるのは感心した。永夢みたいにカウンセリングまがいの出過ぎた真似こそしないけど、きちんと観察して把握はしてるのね。

・せっかく小姫は「世界で一番のドクターになって」と遺言を残したのに、ドクターとしての本分を忘れて仇討ちに身をやつす飛彩は、まぁフィクションでありがちなすれ違いといえばそれまでだけど気付かないもんかね。
……通るようできちんとは通らないけど、飛彩目線では「医学の勉強にばかり没頭していた結果小姫を死なせてしまった」という状況だから、本人の中に医療行為に対する無意識的な罪悪感みたいなものでもあるのかもしれない。だからいつも患者のことは放置して、小姫のことばかり考えてるのかも?

 

キャラ同士の真似合い?

・永夢が、患者でもなければ個人的にもむしろ嫌い寄りなはずの飛彩の悩みに対して解決策を提示するって展開にずっと違和感というか唐突感を覚えていたんだけど、レベル5のときと同じで「方便でその気にさせて自分の目的(患者を治す)のために他人を利用する」という、永夢なりの攻略法なのかもしれないな。それはもしかすると、貴利矢の言動から学び取ったものでもあるのかもしれないし。

・前回と今回は「急がば回れ」がテーマらしい。
ゲンムやグラファイトという大目標をクリアするために、まずはコラボスバグスターを倒してレベル3ガシャットを手に入れる、そしてそのために無駄だと切り捨てずにゲーム的なこと(アイテム獲得,音ゲー)をする。
飛彩の心情的には多分"永夢の真似をした"んだろうね。目を覚ましてくれたのもあって、一目置いたと。ビートクエストゲーマーのバイザーがピンク色なのも意識してるのかな?
マリオの地下や上空にある寄り道コイン空間を始めとしてゲーム的にも割とよくあるギミックだし、医療的にも治療より先にトリアージとか、身近なとこだと歯医者さんで虫歯を治す前にまず歯の掃除をするとか、割と何にでも通ずるというか色んなところで顔を出すテーマではあると思う。


音ゲーのバグスターが斬撃で倒されてるのは、言い始めたら何でもアリだけどそういうゲームだからなのかな。
実際、エグゼイドがフルコンしたときにバグスター側にダメージはどうやら入っていなかったので、ドレミファビートは敵の出してくる妨害譜面を乗り越えて、その後に物理で殴り倒すゲームなのかもしれない(?)……ポッピーも仮面ライダーに変身して割と強めに立ち回ってたしな。・レベル2vs3でこれまであれだけ一方的にやられていたのに、グラファイトとレベル3のエグゼイドやブレイブがほぼ互角に戦っている不思議。
限界効用逓減じゃないけども、レベルが上がるにつれて能力値の上がり幅が下がっていくのはよくあること……で片付けてもいい気はするが、レベル1と2の戦闘力にはほとんど差が見られないのに2と3の間にだけ深い溝があるというのはイマイチ納得し難いものがある。いや、でもガシャットの本数が単純に倍になってる訳だから違って当たり前なのか?


・今回、話に関係のない貴利矢が入院中ということで出てこなかった。全45話の中で、退場してないレギュラーキャラが一言も喋らないのは僕の知る限りこの6話の貴利矢だけで、「少しでもいいから必ず全員を出す」というのは意識的に徹底されていたことなのだと思われる。
それ自体はいいことだと思うんだけど、こうやって割り切って何人かのキャラにだけフォーカスした方が、おそらく話も作りやすいし見る側としても分かりやすくていいので、ここは一長一短なところ。

 

まとめ
"急がば回れ"に気付いたときはなるほどって思ったけど、あんまりその話も広がらなかったし全体的に薄味だった。ただこれは僕が再視聴組ゆえに飛彩の過去はもう分かってるから、ほぼそれを明かすだけの今回は面白味を感じないってだけの話かも。

 

エグゼイド感想一覧

裏面

仮面ライダーエグゼイド 6話「鼓動を刻め in the heart!」 否定的感想

 

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仮面ライダーエグゼイド 第5話「全員集結、激突Crash!」 肯定的感想

仮面ライダーエグゼイド 第5話「全員集結、激突Crash!」 肯定的感想

第5話「全員集結、激突Crash!」


・「仮面ライダーを消し全人類を乗っ取れば、バグスターが世界の支配者となる!」
これに対しパラドは「力技じゃパズルは解けない」と否定しているんだけど、どういうニュアンスなんだろうね。ただの感染症……ウイルスとして人間を脅かすのではなく、あくまで「バグスターというゲームキャラが人間を攻略するゲーム」という仮面ライダークロニクルのコンセプトを全うしたいということだろうか。
ワンサイドゲームじゃつまらないって話も後々していたし、人間側が何も知らないまま流行病として一方的に滅ぼすのではなく、自分たちの明確な"叛意"を示した上で、抗ったり悔いたりする様を楽しみつつ仮面ライダーとの拮抗した戦いを楽しみたいということなんだろう、多分。
・序盤はグラファイトが力担当でパラドは頭脳担当みたいな振り分けがされてるけど、後のパラドクスは一人で両面を担うキャラなのよね。単純に分業ってことでグラファイトにはできない頭脳労働を担当してるだけなのか、それとも元は頭脳派だったけどグラファイトと一緒にいるうちに好戦的な性格をラーニングしたのかはちょっと気になるな。

 

遅刻と働き方改革

・『令ジェネ』の或人もそうだったけど、主役……それも社長とか医者みたいな結構重要な仕事のキャラが遅刻するシーンなんて、ない方がいいのはもう誰が考えても、どんなバカにとっても明らかなのよ。
他の細かい設定とかについてはまだ「さくしゃのひとなにもかんがえてないとおもうよ」みたいな予測も成立するけど、このシーンについては遅刻することが今回の話を展開するために必要不可欠な要素では全くない以上、"敢えて"入れているという以外の選択肢は有り得ない訳で。
分かってて敢えてやってる人に対して「医者が遅刻なんて!」ってツッコむのは次元が低いというか、何の反論にもなってないので僕はする気にならない。エグゼイドやゼロワンに対する批判は、昔の僕も含めてほとんどこのレベルに留まっていることが多いのでつまらない。
人の体を刃物で刺すのが近視眼的に悪いことなのは分かりきってるけど、それでも敢えて患者を傷つけることで腫瘍を切除したりして、結果的に患者を健康にしたいという目的意識があるから"敢えて"やるのよ。だからもしそれを批判したいなら、まず本人が見据えている目的,意図をきちんと認識して、その上で論を組み立てないといけない。「人を刃物で刺すなんて良くない、何故ならもっといい治療方法があるから」とかね。

或人に対して使ったロジックだと「たまに遅刻してもお釣りがくるくらいには残業などハードな仕事をこなしているのかもしれない」なんかは医者にも当てはまると思われる。研修医がどうかは分からないけど、特に夜勤の人なんかは素人目にも大変そうだなぁと思うし、他の職業なら例えば学校の先生なんかは休憩時間も取れないし勤務時間も長いしでかなり大変な環境だとよく聞く。
そういう現状を受け入れて我慢してしまっては、労働環境は変わらないまま、心身を病んでしまった人は仕事をやめて、また新たな人を雇って使い捨てにするという負の連鎖は終わらない。だからこそ「あんなに遅くまで残業したらそりゃ朝起きれませんよ」ってな風に"無理なもんは無理"だと示して、改善を求めるべき……なのかもしれない。
もちろん永夢がそんなことを考えた上で遅刻してるってことじゃなくて、そういう風刺として敢えて医者が遅刻してしまう様を描いてるんじゃないかって話ね。

他の人はどうか知らないけど、少なくとも僕は大森Pの作品からはこれまでの固定観念とは違う"働き方"を提案する意志を感じるので、全然ありうると思う。例えば、仕事をつらく苦しいものじゃなくてもっと楽しいものにしたい、なったらいいなみたいな理想。『ドライブ』の特状課は私服のオタクがいたりケータイの占いばかり見てる課長がいたり、進ノ介も職場に趣味のミニカーを持ち込んでるやつとして周りからは認識かつ許容されているし、『エグゼイド』は言わずもがな全員が仕事としてゲームをプレイしてて、『ゼロワン』もゆる〜い感じの素人である或人が色んなお仕事の現場を見て「すげー!」って言ってくみたいなのがざっくりした構成だし。アプローチは微妙に違えど、仕事をポジティブなものとして描こうとしてるのは共通してる。キャラが私情を挟みがちなのも従来の仕事観から考えると良くないことなんだけど、仕事と個人の幸せが食い違うときに一方的に前者を優先させていたのがこれまでの社会だとしたら、そこへのアンチテーゼなんだろうなと僕は思っている。
塚田Pの『デカレンジャー』なんかも、仕事だからって完璧にやらなくていい、ミスしてもいいしヘコまず取り返そうみたいな作風だったけど、あっちはそのミスでドラマ自体を回そうとするけど、大森作品はあんまりそういうことを表立ってはやらないイメージ。イズが「滅が死にました」って煽ったせいで迅に殺されそうになるとか、あぁいうのが悪目立ちするくらいには「そんなくだらないミスをドラマの起点にするなよ」みたいなことは多くないような気がする。

 

分離手術と髪の毛デザイン

グラファイトの体をゲームスコープで診察しても、ゲーム病患者と同じ扱いになるらしい。まぁ当然といえば当然なのかもしれないが、宿主の体は完全に消滅したのではなく、バグスターの中に取り込まれてウイルスを増やすための細胞として利用されているのだろう。

基本設定として「レベル1でならバグスターユニオンから患者を分離できる」ということになっているが、そろそろこの辺を作中で明言されてないところまで整理しておく必要がある。
バグスター切除手術というのは、バグスターウイルスに感染した細胞ごと切り取った上で殺してしまおうというキラーT細胞的な発想のものなのか、それとも言葉通りに人体とウイルスを分離するものなのか……その答えはおそらく前者だと思われる。
分離後の患者は半実体とでも言うべき状態となり、バグスターの侵食が進むと触ろうとしてもすり抜けてしまうことが描写から明らかなので、物理的な人間の体……つまり細胞のある程度はバグスター側にも残っていることになる。その細胞を使って自らを増殖させることができるのが"完全体"であって、逆に仮面ライダーが分離した患者の方はおそらく実体のない精神体に近づいていく。
分離手術の肝は本来「バグスターを人間から切り離す」ではなくて、謂わば「バグスターに乗っ取られた体から人間の精神(ゴースト)をサルベージする」ことにあるのだと思われる。分離直後は触れる程度の実体があることからも、なるだけ多くの細胞を患者側に残すのは当然のこととしてあるんだけど、少なくとも精神を構成する最低限の要素を分離するのがレベル1の役割なんだろう。

ここまでの話を踏まえるとようやく"電脳救命センター"という名前の意味がなんとなく見えてくる気がする。
CRはCyberbrain Roomの略らしく、おそらく電脳救命センターとやらを訳して略せばそうなるんだろうなとか適当に思ってたけど、よくよく考えたら電脳救命とは何だ、という話。壊れたコンピュータ(電脳)を治す組織? そんな修理屋さんじゃないんだから。「電脳(による)救命」だったとしても、コンピュータを利用してるイメージはそんなにない。一応ライダーシステムはゲームの力を使ってる以上コンピュータ(電子頭脳)を利用してるんだろうけども、直感的に納得し難いしそんな回りくどい名前付けるか? という疑問がある。

そう考えると『エグゼイド』におけるライダーシステムは、根本的に「最悪の場合は患者の精神をデータ化(電脳化)して、肉体がなくなっても保存できる状態にする」という黎斗の思想に沿った仕様になっていて、肉体を助けることは優先度としてその次になっているんだろう。そう解釈でもしなければ、電脳救命という言葉の意味が分からない。
『エグゼイド』は命の話というよりは自我同一性、精神のデータ化に関する話を取り扱ってるらしいので、そのことを思えば精神が宿っている"脳味噌"を守るための器官だからこそ、ライダーのデザインにことごとく髪の毛があしらわれているのだと考えれば納得がいく。仮面ライダーの仮面……バイクに乗るときのヘルメットとも通ずるし、なるほどなぁ。


・人間態グラファイトに対して治して欲しければガシャットを寄越せと迫る飛彩。まぁ、元々医者もボランティアでやってる訳じゃないのでお金は要求してくるし、タダで治療してやるからその代わりにガシャットを貰うっていう交換条件のつもりならそれほど無茶苦茶って訳でもないかもしれない。泥棒なんかするやつがきちんと働いてて支払い能力が十分にある保証はないし。
「救急搬送されて手術されたけど身寄りもなくてお金を払うアテがない……」って場合どうするんだろうなって昔から疑問なんだけど、それと比べたら先にきちんと取り引き内容を説明してるだけマシかもしれない。まぁ本当にお金がなくて生活保護を受給してるって人は基本的に医療費の自己負担が0円になるはずなので、本当にどうしようもなくなったらその辺の制度使ってなんとかなるのかもしれないけど。
歯医者さん行くとき、毎回いくら払わされるのか分からないからドキドキするんだよね。次回はこういうことをやるのでこれくらいかかりますって教えて欲しい。


・今回からしばらく出てくるこのコラボスバグスターってやつが一体何なのか、本編では説明されてないから当然だけど何周見ても理解できなかった。仮面ライダークロニクルにも全く出てこないしこの序盤にだけ出てくる謎の存在で、本当に最近『ゼロワン』とのコラボ企画である『仮面ライダーゲンムズ ―ザ・プレジデンツ―」を見て初めて「"複数のゲーム病を併発"した場合に出てくるから"コラボ"スバグスターなのか」ってことに気が付いたのよね。今回ならゲキトツロボッツとドレミファビート、次の個体はギリギリチャンバラとジェットコンバットという2種類のウイルスが一人の人間に感染したことによって生まれている。尤も、その『ゲンムズ』においてはコラボスバグスターなんて生まれないんだけど。
頭に挿さったガシャットから力を引き出している以上はレベル3かそれに近い能力を持っていてもおかしくないと思うんだけど、実際はレベル2に割とあっさりやられがちなので微妙なところ……まぁたった1のレベル差なんて後半に行くにつれて有耶無耶になっていくので、単純に生まれたてのレベル3よりは戦闘を経験してるレベル2の方が強いってことなのかもしれん。
ちなみにコラボス素体は通常のバグスターウイルスの3倍強いらしい。

 

シャカリキスポーツ

・前回から登場しているシャカリキスポーツは、先行発売していることからもエグゼイドのテーマ的に重要な位置を占めていると思われる。
根本的にエグゼイドのデザインがスポーティなことは当然のこととして、シャカリキの方は漢字にすると"釈迦力"……つまり仏教に由来する言葉だったりする。
ゲーム要素とも繋がる"遊戯(ゆげ)"という言葉については『ゴースト』のゲンム先行登場回でもう詳しめにした(仮面ライダーゴースト 第4クール 感想)のでここではとりあえず置いとくけど、ともかく『エグゼイド』には仏教を意識してると思われる部分もあるのよ。ゲームはある意味で煩悩から解放されるためのツールだと言えるし、バグスターとして永遠の命を手に入れることは生老病死を克服した解脱の境地だと解釈することもできないことはない、かもしれない。
自分的に一番印象的なのは、VシネでゴッドマキシマムマイティXに変身するときの黎斗が仏みたいな清らかな顔をして合掌するとこ。ネタの権化である黎斗なんてずっと好きじゃないどころか嫌いだったんだけど、顔はいいから黙ってれば綺麗だし清らかだなとか思っちゃうことにイラッとしたのを覚えてる。シャカリキと合掌が仏教繋がりってのは、多分役者の岩永さん的には狙ってやったことなのかな。


・ゲンムの正体はグラファイト人間体だと嘘をついた貴利矢。貸しをつくってまた強請るつもりなのかなとも思ったが、別にわざわざ嘘をつく必要はやっぱりないんだよなぁ。
というか、変身したところを見たってことはその後に黎斗が本当の患者である音大生からバグスターを分離するところも見ていたはずで(だってその後だけ目を離す理由がない)、ガシャット泥棒(グラファイト)=ゲーム病患者ではないということも全部知った上で「ゲンムの正体はガシャット泥棒のゲーム病患者」という嘘をついたことになる。尤も、貴利矢が知ってるのはコラボスバクスター(ゲキトツロボッツ)の宿主がグラファイトではなく音大生の女性だってところまでなので、グラファイトグラファイトでまた別のゲーム病にかかってる可能性は否めない(実際ゲームスコープではそう診断されるし)ことを考えると必ずしも嘘ということではないんだけど。

貴利矢という個人の意図がどうだったかは一旦さておき、作者のレベルで見たときにこの嘘がどういう意味を持つかと考えると、本当にゲンムの正体を知らないまま見ている視聴者視点で現時点での情報を整理すると「ゲーム病患者がゲンムになって自分を蝕むバグスターを守った」ということになる。
通常病気は治って欲しいものだからそれを治す医者は正義足り得るんだけども、人間にも色んな人がいるので、中には自ら病気になりたがったり治るのを嫌がったりする人も存在して、そういう人にとって見ると医者は悪になりうる。単純に、病気の怖さよりも医者の怖さの方が勝つから嫌だっていう子供もいれば、体に悪いから痩せろと言われてるけど食べるのが好きだからやめたくない人とか、病気だと診断してもらうことで色んな人から優しくされたり構ってもらったりするのが嬉しいので治るのは嫌だみたいなミュンヒハウゼン症候群の人もいたりして理由は様々だけど、ともかくそういう"愚行権の行使"っていうのは、割と大森P作品に共通するテーマだったりするのよね。嘘とか勘違いに見せかけて実は大事なテーマを匂わせるって手法は割と他の作品でも見られる。
実際ゲンムの目的はわざと人類をバグスターウイルスに感染させる(敢えて病気になる)ことで、命をデータ化して死なない体を与えようとしてる訳で、無理やりやってしまうのが悪いものの、不老不死という目的自体には賛同する人もいなくはないはず。
医者から見れば愚行でも、本人にとっては何らかの利益があるのであれば、必ずしもその自由を奪うことはできない。

無理やりくっつけるなら、貴利矢が自分の信念に基づいてつかなくていい嘘をついた結果どんどん信用が落ちて孤独になっていくのも、愚行権ってテーマに沿った描写なのかな。


・永夢が「どんなに悪い人でも、命は命です」と言い張るのは、自分も善人であると言い切れないからだったりするのかな。そんなことはないと思うけど、でも"水晶のよう"と言われているからには悪い人を前にしてるときは自分の中に悪い部分が映し出されてることになる訳で。
言わんとしてることは要するに「ヒューマギアみたい」なのかなって思うんだけど。善意をかけられれば善意を返し、悪意を向けられれば悪意で返すって意味で"純粋"なんだろう。

 

人間と機械,データ生命が力を合わせる

・エグゼイド ロボットアクションゲーマー レベル3
ロボット同士が殴り合うSFアクションゲーム……の力を使ってレベルアップするのは、あんまり真面目に考えたことなかったけど『ドライブ』における機械生命体(ベルトさん)とか『ゼロワン』におけるヒューマギアと同じで、人間とロボットが力を合わせることで大きな力を生む……っていう価値観の表れなのかも。時間が前後するけど『人機一体ブットバスター』ってゲキトツロボッツのパッケージ絵と似てる気がする。
またロボットではないものの『デジモンクロスウォーズ』のシャウトモンX3もどことなく似てるのよね。データの生命体って意味で『エグゼイド』は意識しててもおかしくないし、3期に出てくる"デジクォーツ"っていう現実と重なり合う異世界とか、こないだ配信されてすごくハマった『テイマーズ』では「地球を覆うある帯域の電磁波がワイルドワン(デジモン)の情報に従って空気中の元素を急速に凝縮し、量子変換させた疑似タンパク質」がデジモンを現実世界にリアライズさせるって話があって、厳密に理解した訳ではないが何か説得力を感じたんだけど、これはエグゼイドの設定にも応用できるのかもしれない。
デジモンはまぁアニメだし、本当にめちゃくちゃでかいデジモンとかも平気でリアライズするんだけども、バグスターだったら本当に最低ウイルス一粒に必要なタンパク質さえリアライズできれば、後は人間の細胞に感染させて培養,増殖できる訳なので、実現可能性は高く思える。


・「恐ろしいのは、私自身の才能さ」
このセリフ、まぁ正体バレだから印象的ってのもあるんだろうけど、やけに有名な理由のひとつは「何言ってんのか分からない」ことだと思うのよね。
「水晶が砕け散るかもしれない」と忠告しておきながら、ゲンムとして煽りまくって永夢をマジギレさせて……結局彼は何をしたくて、そのために何をしたのがうまくいって喜んでるのか本当に分からない。
「綺麗事ばかり言ってる永夢の本性を暴いてやった!」みたいな気持ちなんだろうか。


まとめ

設定やモチーフ面からテーマを読み解くのは楽しいけど、まだドラマを楽しむってレベルには達してないので、そろそろ本題が始まってくれると嬉しいな。

 

エグゼイド感想一覧

裏面

仮面ライダーエグゼイド 5話「全員集結、激突Crash!」 否定的感想

 

前話

仮面ライダーエグゼイド 第4話「オペレーションの名はDash!」 肯定的感想

次話

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