やんまの目安箱

やんまの目安箱

ドラマ(特撮)、アニメ等の話を中心に色んなことをだらだらと、独り言程度の気持ちで書きます。自分のための備忘録的なものなのですが、読みたい方はどうぞ、というスタンス。執筆時に世に出ている様々な情報(つまり僕が知り得るもの)は特に断りなしに書くので、すべてのものに対してネタバレ注意。記事にある情報、主張等はすべて執筆時(投稿時とは限らない)のものであり、変わっている可能性があります。

仮面ライダーエグゼイド 第8話「男たちよ、Fly high!」 肯定的感想

 

お悩み受け流し術

・ポッピーが完全に一人で患者(じゃないけど)の悩み聞くシーンって、多分今回くらいだよね。しかも聞くだけに留まらず、アドバイスまでするのは突然すぎるし若干キャラ崩壊してるようにも見えるんだけど、このシーンは単純に人間だからこそイライラで見えなくなることも、第三者(しかもAIみたいなもん)だから分かることもあるっていうくらいの意味合いであって、別にポッピー個人の性格とはあまり関係ないのかな。
尤も、記憶を覗ける訳だから彼女の中にいる檀櫻子も誰かを心配していた……と捉えることもできる。才能に溺れていく黎斗や、息子を利用してまで会社経営に傾倒する正宗を見ていたはずだから、本編から察せる範囲で頷ける話ではある。まぁ心配すればこそ敢えて遠ざけようとしてたみたいな話は流石になかったと思うけど、会社の社長という立場にいることは正宗と今回の誉士夫に共通してるし。
……後で思いついたけど、仮にポッピー個人の言動だとしたら6話の飛彩に対する永夢の振る舞いを真似してみたっていう可能性はあるかも。よく知りもしない癖に、根拠もなく相手にとって都合の良い解釈を提示して気持ちよくすることで、悩みを解決した風の顔をするというテクニック。ゲームのキャラとしては、そうやって悩みから現実逃避させるのがある種の使命,本能なのかもしれない。

 

大我は真面目?

・大我がゲームに詳しいのは、彼の生真面目さからくるものなのかもしれない。変にプライドの高い飛彩と違って、患者を治すためならゲームだろうが株取引だろうがきちんと勉強して、目的のためなら手段を問わずなんでも利用する……そういう性格なのかも。もちろん、人質に取るのも含めて。
誰にも見られてなくてもゲーム狂っぽい性格を崩さないのも、あれが素だからじゃなくていつ誰に見られてもいいように、そして自分の中にそのキャラクターを定着させるための役作りみたいなものなのかも。
・患者を人質に取るのってかなりやばい行動だと思うんだけど、以前言った「コラボスバグスターは仮に患者を消滅させても完全体にはなれない、データ収集だけを目的とした個体なのではないか」って話と照らし合わせると、一度バグスターが完全体になるのを目の当たりにした大我だからこそ"併発"という現象のおかしさにいち早く気付き、利用したとも取れるのかもしれない。
ギリギリチャンバラのバグスターは倒されてて今はもう消滅させた患者の体を独り占めできるから、完全体になる可能性もゼロじゃなくて危険な賭けだけど、なんの理由もなく人質に取るよりはこう解釈したほうがマシ。


・灰馬の話を聞かないで立ち去る飛彩は感じ悪いなぁと思ってたけど、割と中身のない話ではあったし、要するに言いたいことは「冷静になりなさい」で完結してるので飛彩的には「聞くべきことは聞いた」つもりなのかもしれない。
元々灰馬がいつもそうやって話をダラダラ長くする性格だって分かってるからこそこういう態度を取ってるのだとすれば、むしろそれなりに分かり合っているという描写なのかもしれない。


・大我の話を信じるなら、彼が医師免許を剥奪されたのとほぼ同時期にゼロデイと呼ばれるパンデミックは鳴りを潜めたらしい。
黎斗がゼロデイなんてものを引き起こした理由がイマイチ想像できなかったけど、もしかするとグラファイトという完全体のバグスターを1体手に入れることが目的だったのかもしれない、タイミング的に。
尤も彼の元には不完全体なパラドの他に完全体のポッピーもいるはずなんだけど、その2人にできなくてグラファイトにできることは何かと考えるとやっぱり"戦闘データの収集"辺りが目的だろうか。
ゼロデイの時点でプロトスナイプが戦っていることからプロトガシャットの開発自体は終わっていたことになるけど、グラファイトの戦闘データ……シミュレーションかもしれないし、黎斗がゲンムになって実際に戦ったのかもしれないけど、ともかくそうやって調整を重ねた結果生み出されたのが正規版ガシャット……ということになるのかな?

大我が負けてグラファイトが生まれたからこそ危険性の低いガシャットが完成して、仮面ライダーの数も増えてしまったことは、大我にとって良かったのか悪かったのか……。

・仕事としてやっている以上、必要がなくなればお払い箱になってしまうのは仕方がない。人間なんか雇わなくても、AIの方が人件費かからないし労働基準法もないしいいやってなるのと同じ。


・シャカリキスポーツとギリギリチャンバラはゲーマに食べられない仲間だって話をしたが、ドレミファビートとジェットコンバットはバイザーがついてる仲間なのよね。これもテーマ的な意味を探してるんだけど、今んとこ分からん。

 

"適合手術"は改造手術ではありません

・"適合手術"という言葉尻だけを捉えて「改造人間! 原点回帰!」って持ち上げる頭の弱い輩……オジンオズボーン篠宮の特撮向上委員会(特撮向上って何なん? 何様?)みたいな人たちがいるので僕は昔から声を大にして言ってるんですけど、「ごく微量のウイルスを投与して、体内に抗体をつくる」っていうのは要するに単なる予防接種なんです。中学生でも分かるレベルの知識なはずなのに何故誰も気付かない? 予防接種ぐらいで改造人間扱いされるなら現代日本人はほとんど改造人間だよ。
…………っていうのを口酸っぱく繰り返してたんですけど、仮面ライダー図鑑においてついになのか僕の知らないとこで既にあったのか「注射器を使う」ことが明言されて、"手術"なんて言葉から連想されるような大層なものではないことが確定したんですよね。
注射するだけなのに、それとは別にメスなどを使って外科的な処置を施す必要があるともイマイチ思えないし、端的に言えば"手術"という表現を使ってるのは嘘みたいなもんです。
そんなのでいいなら肉体変化してるやつは全員もう改造人間でいいじゃん。完璧な装着系ライダーって平成でもなかなか珍しいよ。
エグゼイドは手術をしたと「嘘を付いてる」だけで、本来我々のイメージする改造手術のようなものは、永夢を除けば分かる限りでは一切受けていないと思われます。唯一永夢だけは感染したバグスターを"分離"するための手術を財前(パックマン)から施されているけど。
これは、強いて言うならエグゼイドの盲目的な信者に対する批判だけど、作品へ対する批判ではなくて公式見解に基づく単なる事実なのでこっち(肯定的感想)に書いときます。まぁ仮面ライダー図鑑の情報が信頼できるかっていったら微妙だけど。


まとめ
この7,8話は試験的になのか、2つの戦場を並行して描くことで多すぎるライダーを捌いてるのか印象的。あんまりこの後も続けてやったりはしてないよね、確か。
『鎧武』とかではよくやってた気がするけど、『エグゼイド』は基本的に一本筋にまとめていたような気が、する。

 

エグゼイド感想一覧

裏面

仮面ライダーエグゼイド 第8話「男たちよ、Fly high!」 否定的感想

 

前話

仮面ライダーエグゼイド 第7話「Some lieの極意!」 肯定的感想

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独自解釈で『復活のコアメダル』の脚本を書いてみた

この記事は『仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』について、否定意見を色々見た上で「僕だったらこうする、これなら納得できる」という構成と見せ方を考えて書いてみた、脚本のようなものです。
ざっくりとした筋は踏まえてありますが、かなり大幅なアレンジが加わっております。ところどころ本物と照らし合わせて寄せたり引用したセリフもありますが、基本的にはイチからほぼ新規で書きました。

重ね重ね注意したいのは、映画『復活のコアメダル』をそのまま書き起こしたものではありません。実際の映画の内容を知りたい方は、映画の方をご覧下さい。当記事は改変してないところの方が少ないので、全くもって代用品にはなりません。

以下ネタバレ注意

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ここからは映画をご覧になった方に向けての話です。
この二次創作は、表現の仕方こそほとんどが変更されていますが、"結局描きたいこと"自体はなるべく映画を尊重するつもりで書きました。絵作りとしても、本物の映画に出てきた舞台(ロケ地)以外は使っていませんし、そのシーンに出てくるキャラクターの数もそんなに変わってないので、基本的には一度見た方ならなんとなくの映像を脳内再生させながら読める……んじゃないかなと思います。
尊重した"描きたいこと"というのはあくまで僕の解釈に過ぎませんが、例えば以下の点
・荒廃した世界観
・ゴーダの存在
・グリードの扱い
・バースXの活躍の少なさ
・「映司の死」
などは、あまり変わっていません。映画そのものにダメージや怒りを受けて見返すことすらままならないような方は、読まないことをおすすめします。そういう方にとっては非常につらい展開だと分かっていながらも書くことにとても罪悪感があったので、僕のためにも自衛していただきたいです。正直、そこまでして読む価値はないです。
先に僕の映画に対するスタンスを知っておきたいという方はこちらをどうぞ。

器に収まらない欲望の暴走『Vシネクスト 仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』 感想(否定的)

『復活のコアメダル』のラストを受け入れるためのひとつの解釈(肯定的)


また僕が大きく付け足したオリジナル要素として
・映司が死ぬ前の話
・少女の話
・信吾の話
の3つがあります、予めご了承ください。
そして何より「クソ長い」です。素人の妄想駄文な癖に、おそらく実際の映画のセリフより分量が多くなっていて、文字数としては実に13000字……映像にするとしたら多分90分くらいの尺が必要になる気がします。
また"小説"ではありません。あくまで脚本もどき……基本的にはセリフのみで、場面の細かな描写は読者の脳内再生に委ねられており、文学的な地の文はナシでト書きも最小限にしてあります。
あくまで僕のキャラ解釈でもって書き直したセリフと、追加されたストーリーを楽しんでください。

映司が死なないルートのストーリーも考える予定……なので、協力してくださる方がいたら嬉しいです。

仮面ライダーオーズ 10th 二次創作小説『Eternity Time judged all』

 

著作権的に大丈夫か不安になったので、決定的な改変がない部分はカットし、本編のシーンをほぼそのまま想起してもらうことにしました。この状態でもでも問題がありそうだと分かった場合は即座に削除します。

……では本編です。

 

目次

 

アンク復活

・精神世界
映司「アンク……アンク……」
アンク「…………映司なのか?」
映司「アンク、こっちだ。こっちに……」
アンク「おい映司、待て!」
 映司の影を追いかけるアンク。

レジスタンスのアジト近く
 腕だけの状態で目を覚ましたアンク、爆発音の鳴る方へ行ってみると、グリードが暴れている。
後藤「予定通り、3チームに分かれて応戦する。B班は伊達さん、C班は信吾さんの指示に従ってくれ。A班は俺と一緒にカザリの相手をする。里中はみんなの避難を!」
里中「了解です!」
信吾「比奈……気を付けてな」
比奈「うん、お兄ちゃんもね」
知世子「比奈ちゃん、行くわよ」
伊達「妹のことは任せとけって。そん代わり、緑のグリードはよろしく!」
信吾「頼りにしてます。C班行くぞ!」
 それを遠巻きに見ながら。
アンク「……どうなってる? そもそも俺は――」
 回想 本編最終回
アンク「――死んだはずだ。……あいつらも」
ウヴァ「全員まとめて片付けてやる」
カザリ「人間の相手なんて、さっさと終わらせよう」
メズール「今度こそ逃さないわよ」
ガメル「どこだー、隠れてないで出てこーい」
伊達「言われなくても……!」
知世子「かかってきなさいよー!」
 2人がガメル,メズールに攻撃して注意を逸らし、比奈が瓦礫を投げつける。
ガメル「うあー」
後藤・伊達「変身!」
 両者とも仮面ライダーバースに変身、それぞれグリードに立ち向かう。
古代王「世界を、我が手に……」
 古代オーズに変身し、レジスタンスは劣勢に陥る。
アンク「オーズ……映司じゃないのか?」
信吾「みんな、退却だ! 早く!」
 C班のしんがりとして仲間の避難を優先させていた信吾は逃げ遅れ、古代王の攻撃に倒れてしまう。それを見たアンクは信吾の体に憑依し、助ける。
映司(ゴーダ)「これが今の世界だよ」
アンク「映司……?」
映司(ゴーダ)「おかえり、アンク」

タイトル『仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』

 

少女の悩み(オリジナル)

レジスタンスのアジト
アンクM(OFF)「なんだ、ここは……?」※M→モノローグ、OFF→画面に映っていないキャラが喋ること
 伊達が後藤(軽傷)の手当をしている。
伊達「大丈夫か? ……これでよしと。次は……」
 里中はPCに向かって鴻上ファウンデーションと連絡を取っている。
後藤「里中、バースドライバーの修理は終わりそうか?」
里中「明日までには調整できるそうです」
後藤「よろしく頼む。(時計を見ながら)……無理するなよ」
里中「大丈夫です、ご心配なく」
 そう言って少し笑う里中。
知世子「みんなー! ビッグニュースよ!」
 一同そちらを見ると、映司が比奈と一緒に立っている。
後藤・伊達・里中「火野(さん)!」
映司「話は鴻上さんから聞きました。グリードと800年前の王が蘇ったって……遅くなってすみません、俺も戦います」
比奈「みんな心配してたんだよ、海外じゃ連絡も取れなくて……でも、生きててよかった」
 映司の脳内にだけ、謎の声(ゴーダ)が響く。
ゴーダM(OFF)「また一人だけ、なぁ?」
映司「…………ありがとう」
 少し苦い顔の映司。
比奈「(アジトにかけられたクスクシエの看板を見ながら)こんな状況だけど……改めて。おかえりなさい、映司くん」
映司「うん、ただいま」
後藤「火野も……オーズもいるなら、心強いですね」
伊達「例のアレは、まだみたいだしな。いくら特訓を重ねても、コアメダルとセルメダルじゃ馬力が違う」
比奈「(周りを見て)お兄ちゃんは、まだ帰ってないの?」
後藤「信吾さんなら、前のアジトだ。持ち出せなかったものもあるからな」
伊達「あそこもグリード達に嗅ぎつけられちまったからな……(映司に向かって)俺たちもさっき、ここへ逃げ込んできたばっかりなんだ」
後藤「拠点はここに移した方が良さそうですね……前より広いですし」
伊達「そんな感じで、あっちこっちを行ったり来たりってワケ。俺やお前(映司)は慣れっこだが……(レジスタンスに向かって)みんな、しばらくはここで生活だ!」
 お皿が落ちて割れる。視線を上げると少女が落とした様子、駆けつける映司や伊達。
映司「大丈夫!? 怪我はない?」
少女「……帰れ、ないの?」
 伊達、意味を汲み取れずキョロキョロする。
里中「前のアジト、近くにその子の家があったんです。時々私と一緒に、様子を見に」
映司「そっか……おうちに帰りたい?」
 頷く少女。
映司「大丈夫。俺たちが悪いやつを倒して、家に帰れるようにするから。そうですよね? 伊達さん、後藤さん」
伊達「おうよ!」
 伊達、後藤の肩を叩くと後藤は苦痛に顔を歪める。
後藤「……任せろ」
少女「…………ごめんなさい! 私、やっぱりここでいい!」
 そう言って割れたお皿を拾い出す少女。
伊達「あー駄目だって! 危ないから、こういうのは大人に任せて」
少女「でも、割ったの、私……」
伊達「いいからいいから。ほら、食料はあっちだ。知世子さん!」
知世子「行きましょう?」
 納得いかない顔の少女、渋々ついていく。
ゴーダM(OFF)「映司、お前には無理だ。あの子も、誰も、救えやしない」
映司「……うるさい」
アンクM(OFF)「これは……?」

 

グリードアジトでのやりとり

・グリードのアジト

ウヴァ「あいつら、人間の癖にしぶといな……」
カザリ「うまいこと戦力を分散させられちゃったねぇ。あぁ、2人はまとめて相手されたんだっけ?」
ガメル「メズールといっしょー」
メズール「カザリ、それどういう意味かしら?」
古代王「実に素晴らしい」
 古代王の声に気付き、かしこまるグリード4人。
古代王「お前たちは私の中にある紫のメダル(内部描写)によって、コアメダルから生み出された自我のないヤミーに過ぎなかった。だがコアメダルと融合したことで、グリードとしての個性を取り戻しつつある。新たなる誕生、神による創造と言ってもいい」
ウヴァ「本当に、コアメダルを取り戻せば俺たちの記憶は戻るんだな?」
古代王「記憶? 笑わせるな。ただのメダルの塊に過ぎないお前たちに、記憶など元より存在しない。あるのは欲望だけ……そうだろう?」
メズール「メダルの、塊……」
古代王「お前たちは等しく、私が世界を手に入れるための道具……同族同士のいがみあいなど、醜いだけだ」
カザリ「……そうかな? 僕に任せてくれれば、必ず残りの人間を殲滅してみせるけど」
古代王「面白い、やってみろ」
ウヴァ「お前、どうするつもりだ……」
カザリ「まずは君の出番だ、ウヴァ」

 

レジスタンスアジトでの再会

 ・レジスタンスのアジト
 まだ戦闘服のアンク、気を失っていたのかハッと気が付く。周囲を見回しても映司はいない。見覚えがあることに気づいて、レジスタンスのアジトに入って遠巻きに比奈たちの様子を伺う。
アンクM「何がどうなってる……?」
伊達「しっかし大損害だな」
比奈「あの……お兄ちゃんが、まだ帰ってこなくて……」
後藤「クソッ!」
 後藤の頬には、傷がある。
伊達「後藤ちゃん、まだやられたって決まった訳じゃない」
 アンク、怪訝な顔をする。
比奈「映司くんに、お兄ちゃんまでいなくなっちゃったら……私……」
アンク「どういう意味だ? それは」
比奈「お兄ちゃ……アンク!? どうして……もしかして、またお兄ちゃんの体を?」
アンク「あぁ。悪いなぁ、前ほどじゃないが弱ってたんで借りることにした。……それより、映司がいないってのはどういうことだ?」
比奈「映司くん、少し前から帰ってこなくて……」
アンク「映司ならさっきここに……」
 頭痛がして、記憶が混濁するアンク。
 回想 冒頭のシーン
映司(ゴーダ)「おかえり、アンク。俺はこの先のトンネルの向こうにいるから、いつでも来てよ」
 回想終わり
アンク「いや、ここにいないなら……あそこか」
比奈「映司くんがどこにいるか知ってるの? アンクを蘇らせたのも、映司くんが?」
アンク「……俺にも分からない」
 出ていくアンク。
比奈「ちょっと待ってよ、アンク!」

 

ゴーダとの出会い

・トンネルの向こうのアジト
アンク「おい、映司! いるのか!」
映司(ゴーダ)「来てくれたんだ。……比奈ちゃんも一緒だね。いいよ、入って」
比奈「映司くん! 良かった、(アジトを見回しながら)ここにいたんだ……!」
映司(ゴーダ)「前の戦いで怪我しちゃって……ここで傷を癒やしてたんだ。アンク、はいこれ。着替えなよ」
アンク「……映司、この世界はなんだ? 随分と様変わりしているようだが」
映司(ゴーダ)「アンクが死んでから、10年経ったんだよ。ある日突然800年前の王とグリードが復活して、世界中を食い尽くしたんだ。それで、比奈ちゃんたちはレジスタンスとして……だよね?」
 頷く比奈。
アンク「10年も……前に比べたらまだマシか。だが妙だな……800年前の王は、俺たちグリードのコアメダルを全て取り込もうとして封印されたはずだろ(本編の映像)。それがなんで今更?」
映司(ゴーダ)「それは分からない……鴻上さんなら、何か知ってるかもしれないけど。王は真木博士と一緒に消えたメダルまで持ってるみたいなんだ。アンク、あいつらを倒すために力が欲しい。手伝ってくれるか?」
 少し考え、目を逸らすアンク。
アンク「……手伝うと思うか? この俺が」
映司(ゴーダ)「何言ってんだよ、いつも協力してくれてたじゃんか。ねぇ、比奈ちゃん」
比奈「え……うん……」
映司(ゴーダ)「お前のコアメダルはお前にやるし……何よりアイス、欲しいだろ? なぁ、頼むよ! ほら、今日の分」
 逡巡してから、手渡されたアイスを手に取り「ハッ!」っと吐き捨てるように笑うアンク。
映司(ゴーダ)「交渉成立、だね。こんな風に一緒に戦える日が来るなんてなぁ……!」
比奈「一緒に、か……」
 回想、本編の映司,アンク,比奈が一緒にいる日常シーン
比奈「そういえば映司くん、あの女の子……知らない? あれから見かけないの。里中さんも心配してて」
映司(ゴーダ)「女の子……? あぁ……死んだよ」
比奈「死んだ……って」
 回想
 オーズと戦っていた古代王、逃げ遅れ泣いている少女を見つけ、オーズを確実に仕留めるために少女を攻撃する。
映司「やめろ!!!」
 オーズが覆い被さり、少女を守る。
映司「早く……逃げて……」
古代王「フン、これで終わりか」
 倒れる映司。
 回想終わり
映司(ゴーダ)「助けようとして手を伸ばしたけど、届かなかった。仕方ない、そういう運命だったんだ。それで俺は怪我をして、なんとか逃げてきた……比奈ちゃんだって、俺が死んだら嫌でしょ?」
 絶句する比奈、映司の中にゴーダメダルの存在を感知し目を細めるアンク。物影から後藤と伊達が見ている。
後藤「火野……?」
伊達「おい、あれ!」
 比奈、後藤と伊達に気付き、指差す方向を見るとウヴァが映司たちに襲いかかる。
ウヴァ「見つけたぞオーズ! 今度こそ俺のメダルを返してもらう!」
後藤「つけられていたのか……!」
映司(ゴーダ)「アンク、これ!」
 メダルホルダーをアンクに投げる映司。
アンク「……ハァ?」
映司(ゴーダ)「アンクが持ってて! これ使えって、メダル投げてくれよ!」
ウヴァ「何を訳の分からないことを……!」
 襲いかかるウヴァ、舌打ちして投げるアンク。
映司(ゴーダ)「これこれ、やってみたかったんだよなぁ! ……変身!」
 オーズ タトバコンボに変身して。
映司(ゴーダ)「アンク、あれ言ってよ! 歌は気にするなってやつ!」
アンク「……バカなこと言ってないで戦え!」
 タトバコンボ、ウヴァと交戦。
映司(ゴーダ)「アンク! メダルチェンジだ!」
アンク「…………」
映司(ゴーダ)「なんだよ〜! だったら……!」
 タカヘッドとトラクローの力を使ってウヴァからメダルを抜き取り、ガタキリバコンボに変身。
ウヴァ「俺のメダル……返せ!」
映司(ゴーダ)「お前のじゃない。これはもう、俺の力だ!」
 スキャニングチャージを発動してウヴァを倒す。
映司(ゴーダ)「セイヤー!」
ウヴァ「クソ……死にたくない……」
映司(ゴーダ)「おっと、逃さないよ。お前のコアメダルは壊さないとね……」
 メダル1枚になったウヴァを破壊しようとするオーズ。
アンク「おい! ……やめろ」
 変身解除するオーズ、逃げるウヴァ。
映司(ゴーダ)「なんで止めるんだよ。あいつはお前と違って悪いグリードだろ? 倒さないと」
アンク「フン、グリードに良いも悪いもあるか! それよりお前、何だ?」
比奈「確かに映司くん、なんか変わった。どうしちゃったの?」
後藤「いつもの火野じゃないとしたら……」
アンク「あぁ、映司からグリードの気配がする。どういうことか説明してもらおうか?」
 映司、ゴーダ憑依状態に変貌する。
ゴーダ(映司)「流石は元相棒って感じだなぁ? こんなに早く見破られちまうとは。俺はゴーダ、映司の体を使わせてもらっている。いや、この体はもう俺のもの……今は俺が映司だ。アンク、お前と同じだよ」
 比奈、アンクを見る。
アンク「……一緒にするな」
伊達「なんで火野の体にグリードが……」
鴻上「私が説明しよう!」
 里中が持ってきたタブレット端末に映る鴻上。里中の傍らには、彼女にウヴァとオーズの戦闘を伝えた鴻上の派遣したタカカンドロイドがある。
鴻上「我が鴻上ファウンデーションは、800年前の錬金術師によってつくられたコアメダルを現代の科学で再現するための研究を重ねてきた。しかし実験は失敗を繰り返しうまくいかなかったそこで! 私は映司君の巨大な欲望に目を付けた」
アンク「映司の欲望……それがゴーダとかいうグリードを生んだってのか」
鴻上「その通り! 彼はその実験の成果であり、君を含めたグリード復活の狼煙となってしまったのだよ……ハッピーバースディ!」
アンク「余計なことを……。おいお前、早く映司の体を返せ!」
 驚いた顔の後藤と伊達。
ゴーダ(映司)「いいのか? 言っただろうアンク、俺はお前と同じだって。俺が離れれば映司の体は……死ぬ」
比奈「そんな……!」
ゴーダ(映司)「映司は本来、既に死んでるんだ。その体をこうして維持してやってるんだから、どう使おうと俺の勝手だろ?」
アンク「映司は……戻ってこないのか?」
ゴーダ(映司)「俺は映司になりたい、俺が映司の欲望を全て叶えてやるんだ。……アンク、お前が俺と一緒に戦うというなら、映司は目を覚ますかもしれない」
アンク「映司とお前、意志の強い方が勝ち残る……ってことか」
ゴーダ(映司)「そういうことだ」
アンク「……いいだろう、乗ってやる。消えるのはお前だと思うがなぁ?」
ゴーダ(映司)「どうかな? (映司に戻る)よろしくな、アンク!」

 

大人の憂いと子供の未来(オリジナル)

 暗転
レジスタンスのアジト
アンクM(OFF)「……またか? なんなんだ、これは」
比奈「お兄ちゃん……」
伊達「ったく。こう何度も移動してたら、みんなの気は滅入る一方だ……あの女の子も」
後藤「世界を救うなんて言ってた頃が懐かしいです。子供が悲しい顔をしているのに、何もできないなんて」
伊達「子供の頃の引っ越しってのは、つらいもんだからなぁ……」
後藤「自分も経験したことがあるので分かります。できればそんな思いはさせたくなかった」
 戻ってくる知世子さん。
知世子「あの子、なんだか無理してるみたい……とにかく『一人でできます、大丈夫です』の一点張りで。もう少し頼ってくれてもいいのにね」
里中「……彼女、東京が襲われたときに母親を亡くしてしまったらしいんです。……自分を、庇って」
 後藤、無力感から壁を殴る。頬に傷はない。
里中「たまたま避難所で泣いてるところを見つけて、その時は話してくれたんですけど……それ以降は」
伊達「自分の弱さを隠すようになっちまったのか……あんなに小せぇのに」
映司「……取り戻しませんか? あの子の家」
後藤「取り戻すって……現実的には……」
伊達「何か勝算はあるのか?」
映司「ここの存在を、やつらにバラすとか」
後藤「そんなことしたら……!」
映司「やつらは必ず襲ってくる。だから……」
伊達「罠を仕掛けるってことか?」
後藤「そうか。これまでは撤退戦を強いられてきたが、堂々巡りならいっそ……!」
映司「本拠地を移すフリをして、戦えない人たちは前のアジトに戻ってもらうんです。そしてこの場所で総力戦を仕掛ける……グリード全員は無理でも、きちんと準備してかかれば一気にメダルを奪えるかもしれません」
後藤「メダルが減れば奴らは弱くなる……何より今は火野がいる。コアメダルを奪えば、こちらの戦力になる」
伊達「そうなれば逆転の可能性は高くなるな……よし、決まりだ!」
後藤「俺、信吾さんに連絡してきます!」
知世子「里中ちゃん、私たちは移動の準備をしましょう……それと、またあの子に声をかけてあげて? 一度本音を話したあなたにしか、できないことがあるはずよ」
里中「……はい」
知世子「もちろん、私たちも全力でサポートするわ。クスクシエのお店を取り戻したら、遊びに来てくれるかしら」
 フェードアウトする2人。
映司「……俺も行かなきゃ」
鴻上「待ちたまえ」
 置いてあった里中のPCに鴻上が映り、映司を呼び止める。
鴻上「火野君……いや映司君。私は君に言っていないことがある。……君は、ドクター真木を倒したことを後悔しているかね?」
ゴーダM(OFF)「映司、あいつはバケモノになったんだ。終わらせてやったのは、あいつのためだ」
映司「……してないと言えば、嘘になります。でも、あの時やれることは、やったと思ってます」
鴻上「では800年前の王はどうだね。彼もドクター真木と同じく、元は人間だ」
映司「倒しますよ。人が安心して帰れる場所を奪うなんて……俺は許せない」
鴻上「映司君……彼は、君の――」
映司「いいんです。俺はみんなの、子供たちの未来を守りたい」
鴻上「……素晴らしい! 親から生まれた子供が、大人になりまた何かを生み出す……それこそ世界を再生する欲望の力、無限に続く誕生の連鎖だ! ハッピーバースディ!」
映司「……じゃあ、これで」
 離れたところから見つめるアンク
アンクM(OFF)「映司……それに、あの子供……」

 

アンクと比奈、そして……

・川沿い
比奈「……アンク?」
アンク「……あ?」
比奈「アイス……」
アンク「あぁ……ありがとう」
比奈「えっ?」
 アンク、困惑する。
比奈「……私、アンクが戻ってきてくれて嬉しい。今も、お兄ちゃんを回復するために憑いていてくれてるんでしょ?」
 回想 信吾とアンク、比奈のシーン。
アンク「……ただメダルが足りないだけだ。セルも、コアもな」
比奈「ううん。アンクはそう思わないかもしれないけど、私はそう思う。そう信じてる」
アンク「信じる、か……人間の考えることは分からん」
比奈「……映司くん、戻ってくるかな」
アンク「それこそ信じなくてどうする? あいつは強い……ゴーダなんて奴より遥かにな。それに、こんなところで満足する器でもないだろ」
比奈「……信じててもいいのかな。また昔みたいに、3人で手を繋げるときが来るって」
 そっとアンクの手を取る比奈。
 回想 最終回のシーンと被る……が。
アンク「痛って! お前のバカ力は相変わらずだなぁ!?」
 だが手を離さないアンク。
アンク「……あのバカも、一緒だ。目が覚めてからずっと、あいつを感じる……あいつは死んじゃいない」
比奈「うん……!」

レジスタンスのアジト
 比奈より少し遅れてアジトに戻ったアンクに、作業をしていた伊達と後藤が話しかける。
伊達「アンコ。お前……少し変わったよな」
アンク「そうか? グリードは変わらない、人間と違って成長することもない」
後藤「いや、変わったよ」
アンク「……フン、だといいがな」
 影で聞いているゴーダ。
ゴーダ(映司)「アンクは、俺のものだ。昔のまま……」

 

グリード吸収

・グリードのアジト
ウヴァ「くそ……カザリ! どういう作戦なんだ、この後はどうすれば……」
カザリ「なーんだ。弱ったところでコアメダルを貰うつもりだったのに、1枚しか残ってないんだ。ま、セルもあるしいいか」
メズール「カザリ、なんのつもり?」
ガメル「ケンカ、よくない……」
カザリ「このまま王に好き勝手させていい訳? 僕は嫌だね。メダルを集めて、アイツを倒すんだよ」
古代王「誰を倒すと?」
ウヴァ「おぉ……頼む、俺のメダルを返してくれ。俺の……!」
古代王「もういい、貴様らは私の一部となれ」
 グリード4人を吸収して姿が変わる古代オーズ。
古代王「よき終わりを……いや、真のオーズの誕生……世界の全てを私のものに……?」

 

古代オーズ戦

レジスタンスのアジト
アンク「……! なんだこの妙な気配は」
伊達「800年前の王様か?」
アンク「さては、グリードを取り込んだか……チッ、おいゴーダ!」
映司(ゴーダ)「映司って呼んでくれよ〜。でもまた一緒に戦えるんだな、アンク?」
 黙って出ていくアンク。
映司(ゴーダ)「待ってくれよ〜!」
伊達「後藤ちゃん、アレ持ってこう! 例のアレ!」
後藤「でもあれはまだ調整が……」
伊達「今出さなくていつ出すの! もし暴走したら俺が止めてやる! それに、奴がオーズの力持ったまま裏切ったら、セルメダルのバースじゃ抑えられねぇ」
後藤「どちらにせよ、使えなければ終わりか……分かりました、なるべく早く用意します!」
伊達「そんじゃ、先行ってる!」


・アジト付近
古代王「久しいな、アンク」
アンク「ハッ、お前と再会を喜ぶ仲になった覚えはないなぁ?」
古代王「……そしてオーズ」
映司(ゴーダ)「あれ、会ったことありましたっけ」
アンク「どうでもいい。さっさと変身しろ」
映司(ゴーダ)「はいはい……タジャドルじゃないのかぁ! まぁいいや、変身!」
 オーズ ラトラーターコンボに変身。
古代王「虫ケラが、蹴散らしてやる」
伊達「変身! アンコ、援護は任せて下がってな! 体、大事にしろよ」
 アンクだ! とツッコもうとしてやめる。
アンク「……分かってる!」
伊達「ゴーダとか言ったか、手ぇ貸してやる!」
映司(ゴーダ)「……ありがとうございます! "伊達サン"」
伊達「っかぁ……調子狂うなぁ!」
 オーズ、スキャニングチャージを発動させるも、古代オーズに止められる。飲み込んだ人格が混ざり合って支離滅裂になっている。
古代王「僕のメダルを使っておきながら……この程度か? オーズの坊や。私には勝てん!」
アンク「クソ……このままじゃ!」
古代王「私の一部になりたまえ」
伊達「やめろ!」
 変身解除した映司(ゴーダ)が古代オーズに飲み込まれそうになる。が、その手を信吾が掴む。
ゴーダ(映司)「何!?」
アンク(腕)「お前に死なれちゃ、困るんだよ……!」
 古代オーズに特攻するアンク。
ゴーダ(映司)「アンク!!! クソ、離せ! アンクが!」
信吾「駄目だ! 彼に……頼まれたんだ!」
伊達「馬鹿野郎……! 体ってのはアンコ、お前自身のもだ!」
 バースバスターで威嚇するも、吸い込まれないようにするのが精一杯なバース。アンク、取り込まれる。
ゴーダ(映司)「な……」
古代王「次はお前……何だ!?」
アンク(腕)「飲み込まれるのはもうウンザリなんだよ! ゴーダ、これ使え!」
 古代オーズの体内にあった恐竜メダルを掴み、投げるアンク。
ゴーダ(映司)「……これなら!」
 オーズ プトティラコンボに変身し、メダガブリューを出現させる。
古代王「所詮、たった3枚のメダルだ……!」
ゴーダ(映司)「どうかな? お前のメダル、貰った!」
 古代王の体を構成するセルメダルがメダガブリューに吸い込まれていき、グランド・オブ・レイジを発動。
古代王「おのれ……! 私は……何を利用しても理想を実現するのだ! 私は……お前(映司)も!」
ゴーダ(映司)「あばよ」
 爆発する古代オーズ。グリード体で出てくるアンク。

 

ゴーダの裏切り、バースX誕生

ゴーダ(映司)「なぁ、アンク……」
アンク「なんだ? これでお前と戦う必要もなくなったなぁ。……まさか、映司から離れるつもりじゃないだろうな?」
ゴーダ(映司)「いや、あのメダル……俺が使ったらどうなると思う?」
アンク「何を言ってる?」
ゴーダ(映司)「俺は力が欲しい……飲み込めるさ、俺の器なら……!」
伊達「火野、やめろ!」
 伊達は映司に手を伸ばすが届かず、ゴーダはコアメダルを取り込み仮面ライダーゴーダに変身。
ゴーダ(映司)「最高だ……これが俺の求めていた力……!」
信吾「映司くん……!」
伊達「クソッ、また厄介なのが生まれちまった! 病み上がりに丸腰じゃ危ない、逃げろ!」
信吾「……すまない」
ゴーダ(映司)「アンク……お前も俺とひとつになれ」
 バースがアンクを守ろうとするが、劣勢。ダメージを負い変身解除する。
アンクM「ここまでか……? いや、何かあるはずだ、まだ手は……」
ゴーダ(映司)「終わりだ!」
アンク「この……いつまで寝てんだ、映司!」
 ゴーダの動きが止まる。
ゴーダ(映司)「なんだと……映司、俺の邪魔をするな。この体は……俺のものだ!」
アンク「ゴーダ……その体は、お前のものじゃない!」
 映司の手を掴むアンクのイメージ映像。ゴーダから分離され、倒れる映司の体。
ゴーダ「大人しく俺とひとつになっていれば、死なずに済んだものを……」
アンク「映司、しっかりしろ! 映司!」
 揺さぶっても反応がなく、映司の体に取り憑くアンク。
後藤「伊達さん! 遅くなりました!」
伊達「後藤ちゃん! ……ったく、本当だよ! ちゃんとアレ、持ってきた?」
後藤「はい、まだいけますか?」
伊達「当たり前!」
後藤「行きましょう、一緒に!」
後藤・伊達「変身!」
 伊達はバース、後藤はバースXに変身し、古代オーズに立ち向かう。映司に取り憑いたアンクは目を見開く。
アンクM「映司を感じる……そうか、俺は……!」

 

信吾と映司(オリジナル)

 暗転
レジスタンスのアジト
信吾「久しぶり、映司くん」
映司「信吾さん! お久しぶりです」
信吾「……勝手に君の留守を任されたつもりでいたんだが、こんなことになってしまって……情けないよ」
映司「そんな、俺の方こそなかなか帰国できなくて……すみません」
信吾「君も、アンクくんも、俺の命の恩人だ。君が心置きなく旅を続けられるよう、自分なりに頑張っていたつもりなんだけど……それで、アンクくん復活の手がかりは掴めたのかい?」
映司「……俺の欲望から、ゴーダっていうグリードが生まれたんです。でもこいつは、脳内でたまに語りかけてくるだけで、実体を持っていない……多分、まだまだ欲が足りなかったのかなって。だから、今アンクを復活させても、あいつに不自由な思いをさせるだけかもしれなくて……」
信吾「そうか……俺にできることがあったら、何でも言ってくれ。また体を貸すくらいなら、できるからさ」
映司「そんな! 信吾さんがいなくなったら、比奈ちゃんはどうなるんですか。あいつには……俺の体をあげようと思ってるんです。ゴーダには悪いけど……」
信吾「それは……映司くんは、またグリードになるつもりなのかい?」
映司「そんなつもりじゃ! ただ、無理かもしれないけど、あいつを蘇らせるならグリードとしてじゃなくて、人間として世界を味わって欲しいなって。もし俺の体ひとつで叶うなら、それで……」
信吾「それじゃあまるで…………死ぬみたいな言い方じゃないか。君がいなくなったら、比奈は……いや俺も! 残された人の気持ちはどうなるんだ?」
映司「…………俺は世界中を旅して、色々なものを見ました。もちろんいいことばかりじゃなくて、つらいことだってたくさん。……復活したグリードにみんながやられていくのを、俺は止められなかった。どれだけみんなと時間を積み重ねても、壊されるのはあっという間で」
信吾「映司くん……」
映司「でもだからこそみんな、今日を必死に生きていくんですよね。いつか訪れるその時に後悔しないようにって、明日へ向かって必死に手を伸ばす。……俺にとってその明日っていうのは、あいつなんです」
信吾「その明日には、映司くんも……?」
映司「アンクがいなくなったとき、俺はみんなに手を差し伸べてもらえて、今もこうして生きてる……この命を無駄にする気は、ないです。俺はこれからも、俺の手が届く範囲の人を助けたい……それだけです」
信吾「そっか……それならいいんだ。こんな状況だからこそ、みんなで支え合っていかないといけない……これからも、よろしく頼むよ」
映司「こちらこそ……よろしくお願いします」

 

映司の記憶

 アンクの中にフラッシュバックする記憶
レジスタンスのアジト付近
 オーズとバース2人がグリードと戦っている。
後藤「クソッ、王に気付かれた!」
映司「俺、行きます! みんなをお願いします!」
伊達「すぐ合流する!」
・旧アジト付近
映司「皆さん逃げてください! もうすぐここに敵が……!」
20歳ほどの青年「女の子がいないんだ……!」
映司「まさか……! 俺に任せて、君たちは先に逃げて!」
 ゆっくりと歩いてくる古代王を見つけ、阻止しようと戦いを挑む映司だが、劣勢。変身解除させられてしまう。
古代王「む?」
 逃げ遅れて泣いている少女を見つけ、攻撃する。
映司「やめろ!!!」
 少女を庇い、傷を負って倒れる映司。
少女「お兄ちゃん……!」
映司「早く……逃げて……」
古代王「フン、これで終わりか」
 立ち去る古代王、それを見て助けを呼びに行く少女。映司は意識を失いかけている。
映司M「アンク……アンク……!」
アンクM「……俺が今まで見てきたのは、あいつの記憶だったんだ」

 

2人の約束

・精神世界
映司「アンク、久しぶり」
アンク「映司……!」
映司「ごめんな、ゴーダが迷惑かけて」
アンク「そんなことよりお前は……!」
映司「アンクが生き返ってくれて、良かったよ」
アンク「お前が死んでどうする!」
映司「……アンク。俺は、いつでもお前と一緒だよ。俺の伸ばした手がお前に届いて、今度はお前がその手を伸ばす……そこに俺はいるんだ」
アンク「そんなもの知るか! それはお前ら人間の理屈だ……いないものはいない」
映司「アンク……お前は変わったよ。俺たちと過ごす中で、お前は人間になったんだ。本当は、分かってるんだろ?」
アンク「だから……受け入れろってのか……」
映司「大丈夫、俺だけじゃない。お前の周りには、比奈ちゃんも知世子さんも……みんながいる。俺と一緒に、みんなと手を繋いで欲しい。……それが、俺の願いだ」
 アンクは黙っている。
映司「最後に……俺と一緒に戦ってくれるか?」
 泣きながら目を逸らすアンク。
映司「頼むよ」
アンク「…………今日の分のアイス、貰ったからな」
 映司、笑ってアンクとひとつになる。

 

タジャドルコンボ エタニティ

・アジト付近
 映司に取り憑いたアンクが目を覚ますと、メダルがエタニティコアに変化。
ゴーダ「フンッ!」
 紫のメダルの力で本領発揮できないバースXは、やられてしまう。
ゴーダ「アンク……いや映司。次はお前だ……」
アンク(映司)「映司……それが、お前の願いなら……。お前のやりたいこと……俺が叶えてやる。変身!」
 オーズ タジャドルコンボエタニティに変身。
ゴーダ「なんだその姿は……!」
鴻上「ハッピーバースディ、オーズ! そして、新たなるアンク君……」
 アンクの放った攻撃に重ねて映司の幻影が映り、アンクは自分の戦い方の中に映司がいることを再確認する。
ゴーダ「お前たちの欲望は力だったはずだ! 何故俺を受け入れない、何故俺を否定する!」
アンク・映司「あいつの欲望は……そんなもんじゃ満たされない!」
ゴーダ「バカな、そんなことが……!」
アンク(映司)「……行くぞ!」
 スキャニングチャージを発動し、ゴーダを倒す。
ゴーダ「俺の……いや、映司の欲望を……俺は……!」

・精神世界
 向き合っていた映司とアンクだが、振り返って歩き出そうとするアンクの背中を押す映司。

 

残されたもの

・アジト付近
 倒れる映司に寄り添うアンク。
映司「アンク……お前の手を掴めて……良かった」
アンク「……お前を選んだのは、俺にとっても得だった。間違いなくな」
 駆け寄り手を取る比奈。
映司「比奈ちゃん……ありがとう」
 笑顔を浮かべる映司。
比奈「いやだよ、映司くん……!」
 映司と繋がれた比奈の手に、自分の手を重ねるアンク。
比奈「アンク……」
 そこへ里中と青年が少女を連れてくる。少女は固まったまま、動かない。
里中「……つらいときは、泣いていいんです。みんなに頼って、いいんです」
 少女、映司に駆け寄って泣き始める。
少女「お兄ちゃん……!」
映司「俺、君を守ったこと……後悔してない。多分、君のお母さんだって。君が生きてて、本当によかった……。みんなが、君の帰る場所になってくれるから」
 泣いている少女の手を取るアンクと比奈、4人の間に輪ができる。里中は後藤と伊達、知世子さんは青年と信吾の手を握る。
映司「……見て、綺麗な空だ」
 空を見上げる少女と比奈。アンクは泣きながら、映司の目蓋を閉じた後、見上げる。
アンク「あぁ……綺麗だ……」

 

 エンドロール『Anything goes!』
 墓標のように立てられたパンツ、最後に赤い羽根が落ちてきて、寄り添う。

 

END

 

オーズ感想一覧

仮面ライダーエグゼイド 第7話「Some lieの極意!」 肯定的感想

 

・貴利矢と誉士夫が同じ病室にいるっていう絡め方は『エグゼイド』らしからぬというか、かなり珍しい日常描写って意味でもそうだけど、平成シリーズの中でもあんまりないタイプの描き方な気がした。……井上敏樹がすれ違い劇の手法としてたまにやるくらいで。
特に2期以降、基本的にはゲストって主人公と絡むことが多くて、何故かって言ったら探偵の依頼人だったり主人公が自分から首突っ込んでいくタイプだったりするからなんだけど、逆に2号以降は自分たちの縦筋と他ライダーとの接点こそ描けど、1話限りのゲストと関わるイメージってほとんどない。50話あっても、そんなことしてる余裕がないんだろうね。
『W』のデカイエローなんかはそうだけど、あれはたまたま彼女の方から警察側に入ってきた特例であって、照井のスタンスとしてはあくまで「警察として一歩引いたところからドーパント事件を追う/もしくは自分の復讐を果たす」であまりブレない気がする。
今回の貴利矢も、別にこれをきっかけに誉士夫の問題を一緒に解決しようと動く訳ではないんだけど、一応永夢に事情を説明することで一役買っている。


・CRの病室に入れる人と入れない人というのは、基準はハッキリとは示されないものの何か線引きがあるらしい。貴利矢にせよ灰馬にせよ大我にせよ。
免疫機能みたいね。

・勝手な行動をした罰として、バグヴァイザーを没収されるグラファイト
これまでは単に武器をひとつ奪われたのだと理解していたが、完全体バグスターはこのツールを使って"変身"するんだから、あれを奪われたら怪人体になれないのか? 不思議な話だけど。
バグスターが人間を乗っ取って完全体になると、ゲームキャラとは別の人間の姿(明日那,町井さん,天ヶ崎,ジョニー?)を獲得するらしいことは仮面ライダー図鑑で説明されていて、その上で更に怪人体になるためにはバグヴァイザーが必要となると、あの人間体というのは"化けてる"のではなくて、本当に極めて人間に近い状態なのかもしれない。
5話にゲームスコープで診断した際もそうだったように、普段は「ゲーム病に感染した人間」とほぼ同じで、必要な時だけウイルスを注入して怪人になるという仕組みなのかな。あんまり怪人体にばかりなってると取り込んだ人間の体が保たないから……みたいなことなのかな?
ただし、パラドは人間の姿だけど永夢が消滅しておらず不完全体のはずなのでこの限りではなくて、おそらくポッピーや新檀黎斗,新貴利矢のようにモチーフとなったキャラクター(マイティアクションCのキャラにしろ永夢のイマジナリーフレンドにしろ)が人間に近い姿をしているから、バグスターとしてのそもそもの姿が人間の見た目なんだろう。

 

成長リセットとアイロニー的自由

・前回飛彩に対して恋人の件で助言をして少しは関係が深まったのかと思いきや、まったくそんなことはなく「あなたには任せられません」と対立的な永夢。
これもまた高橋悠也の作風というか、彼なりの手法かつ思想みたいなものなのかもしれない。
俗な言い方をすれば"成長リセット"なんだけど、そもそも「人は一度学べば同じ轍は二度と踏まない」という前提がおかしいっちゃおかしいのよね。そりゃあ所詮はフィクションなので、理屈っぽくそういう"経験値"を積み重ねていって、主人公がこれまで獲得してきた考え方や技術などを総動員するというパズル的な話の組み立て方もあるんだろうけど、少なくとも『エグゼイド』や『ゼロワン』においては恐らく敢えてそれをしない道を選んでいる。
そういうデジタルな存在との対比として「間違うこともあれば忘れることもある人間」を描きたいからこそ「こういう経験をしたからこのキャラがこういう行動を"取るはずがない"」というデジタルな認識は本作には相応しくなくて、寝て起きたり、或いは別の話題に気を取られたり、そういうタイミングで都度都度何かがふんわりとリセットされて、もちろんふんわりとしているので継続する文脈もある。

多分この方法論というのは"子供向け"として理に適っていて、おそらく子供自身がそんなに記憶力も明瞭でなくリセットされる存在だからだと思うんだけど、『ドラえもん』にしろ『サザエさん』にしろ『クレヨンしんちゃん』にしろ、1エピソード(30分……ではなく10分前後)毎に話が途切れて継続することはほぼなく、のび太は毎回ひみつ道具で失敗するししんちゃんも片付けしなかったりして怒られるというのがお決まりの展開。それでいて「のび太くんに貸すといつもろくなことにならない」みたいなこれまでの文脈をふんわり踏まえたセリフを言うときもあれば、そんなことお構いなしに躊躇なく貸してくれる回もある。
「失敗から学んで教訓を得る」形式のキャラクター造形だと、同じミスはできないし一度できちゃったことは次回以降でもできなきゃいけないし、回を追うごとに少しずつ完璧超人に近付いていって物語上の"枷"があまりにも多くなる。例えば『ビルド』に対して僕は「6話で万丈がスタークに毒を注入されたときにクローズドラゴンがちゅうちゅう吸って解決してたんだから、34話で戦兎が同じくエボルトの毒に侵されてようがクローズドラゴンで吸えば解決するじゃん」みたいなことを言ったんだけど、そういうイメージ。この展開をやるためだけにクローズドラゴンを破壊するなりなんなりしないといけなかったり、或いはそもそも毒を注入するというネタ自体がもう二度とできなくなってしまう。

でもってこの「経験値引き継ぎ型キャラクター」って、むしろ悪役の方が当てはまりがちなのよね。バグスターもエボルトもヒューマギアも、「その攻撃は一度見たので二度と効きませーん」みたいなことを言い出しがち。
このことからもやはり"デジタルな経験値"概念はテーマ的な意味で肯定されてなくて、不完全ながらに頑張るというのがコンセプトだということが読み取れる。
それはもちろん「話をつくる上でラク、都合がいい」っていうのも兼ねてるんだろうし、実際このロジック,言い訳を活用すれば「仮に脚本家がただ忘れてただけだったとしても、作中キャラクターだって同じように忘れることもある」という無敵の理論武装が完成してしまう。
確かに基本的には復讐に燃えるキャラかもしれないけど、人間って四六時中同じことを考えてる訳じゃないんだから、なんとなく機嫌がよかったら復讐を忘れて協力してくれる時があってもいいよね、とか。
確かに基本的には正義のために動くキャラだけど、機嫌が悪かったらちょっと悪いことするときもあるよね、とか。

『反哲学史』という本で少し読んだだけなんだけれど、ソクラテスアイロニーについての解説の中で一瞬だけ"ロマン主義アイロニー"というものについての話があって、それがかなり興味深かったのよね。
作者が作品の中で描いたものに対して、それに反する思想を持ったりそういう別の作品を表現すること、またそれによって過去の自分からの"自由"を感じることを、そう呼ぶらしい。
読んだ瞬間「めちゃくちゃ高橋悠也作品じゃん!」って思った。というか、過去の自分に逆張りを重ねることで自由を感じるという精神現象はむしろ僕自身の中でこそよく起こっている。
最初は『エグゼイド』のこと好きで、でも段々良く分からなくなって大嫌いになって、大森・高橋コンビの次回作『ゼロワン』はそれへの逆張りで絶賛して、じゃあ『エグゼイド』も同じスタンスで見たら楽しめるんちゃうかと思ってこうして肯定的感想を書いている現在。
特に『ゼロワン』においては仮面ライダーが人間の自由のために戦うということを一旦差し置いても、明確に"自由"がテーマだと最初から掲げていて、だからこそこの「過去の自分自身からの自由≒矛盾」というのは避けて通れない事柄であって、決して"出来が悪いからそうなってる"訳ではないことが伺える。


・前回今回のように2種類のウイルスに同時に感染している場合、消滅したらどうなるの? 半分こなら完全体にはなれなそうだし、かといってどちらかを優先させるような理由も見当たらない……。
子供も標的にしていたことから細胞の量自体はそれほど関係ないとも考えられるが、それならばわざわざ乗っ取らずとも良いのでは……? 或いは、誰か一人の完全体が体に仲間を感染させればそれで済むのではないか。
仲間を増やすことではなくデータ収集が目的だという話なので、コラボスバグスターが完全体になるという"もしも"は有り得ないというか、想定されてないのかな。


・5,6話の患者である曜子さんの場合は一度ゲンムによってゲキトツロボッツが分離され、その後ブレイブにより再度分離されたことでドレミファビートのバグスターが現れていたが、今回は何故か一度の分離で同時に2体のコラボスバグスターが出現。
『セイバー』でも似たようなこと……双子のマミレミを飛羽真とユーリが協力して分離したことがあったけど、それと同じで今回はエグゼイドとブレイブの2人で同時に分離したからこうなったと見るのが妥当かな。なんだかんだで永夢と飛彩は息がピッタリ合っているという描写でもあるのかも?
・ところでコラボスバグスターはレベル3のガシャットが刺さった状態で出てくるけど、つまり患者の中に2本も入ってたことになるのか?
仮面ライダークロニクルの場合は起動スイッチを押すだけでゲーム病に感染して、最終回では正宗が直挿ししたからなのか消滅していた。他に直挿しをやってたのは記憶にある限りだとダークグラファイトと、あとはパックマンの手下のバグスター達くらいで、どちらもバグスターに変化してるのでかなり危険な行為だと思われるんだけど、それが2本も体内に入ってるのに即時消滅ってことにはならないのが不思議。
……まぁ、一応ガシャットは人間が使うことを想定されて調整されたものな訳なので、例えばバグヴァイザーから直接ウイルスを注入されるのと比べたら、ガシャット内のものはある程度ウイルスが弱らせてあったりとかするのかもしれない。


・1クール目は貴利矢をいかにおいしく退場させるかというのが主題だったらしく、小野塚隼人さんの力量もあって僕も(元)アンチながら彼のことはそれなりに好き。
でもって今回の演技が一番好きかもしれない。
「真実が人の人生を狂わせることもある」という過去のトラウマで熱くなってしまうんだけど、自分でもそれに気付いて、掴んで乱れた永夢の胸ぐら,襟の部分を黙って直すところ。
この細かい動作が台本で指定されていたとはとても思えないので、おそらく「悪い、熱くなった」って一言謝るか、高橋脚本のことだから何事もなかったかのように次の話に入るかのどちらかだったんじゃないかなと思うんだけど、そのどちらよりも貴利矢らしくて、かつ悪いと思ってることもきちんと伝わるこの描写は非常にスマートというか、映像作品ならではの表現で好き。役者さんのアドリブなのか撮影スタッフからの指示なのかは分からないけど。

 

嘘つきのパラドックス

・貴利矢の嘘つきっていうキャラ造形は、おそらくクレタ人のパラドックスに着想を得ているのかなと思う。コンピュータの分野でも詳しくは知らないけどそれなりに重要な概念のはずで、真/偽のゼロイチ的な理解の仕方では結論を出せないこともあるのが嘘つき……もう少し正確には自己矛盾する文章の特徴として知られている。
でも人間の頭は矛盾する話を2つ聞いても、動作を停止したりすることはない。それって多分、コンピュータと違って人間の脳はどっちの話も100%は信用していない、100%受け入れるということはできないからで、ある種独断的に「多分こっちが正しい」とか「どっちも眉唾だけど、決めないといけないからこっちを信じてみる」とか、自分の意志で選択することができる。
本人は「今日の自分に嘘はない」だのなんだのと言っているが、その発言自体が嘘である可能性も十分にあるのだから、彼を"信用"するかどうかは結局受け手側の気分とか人柄みたいなものに大きく左右される。
誤解のないよう言っておくと、これは別に自己言及のパラドックスとは関係ないけどね。単に連想ゲームとして、そこから「嘘つきのキャラを出したら面白いんじゃないか」ってなったんだろうなってだけ。

もうちょっと穿って見ると、キャラクター的に言うと貴利矢ってのは「喋るバイク(無機物)」という要素も併せ持ってて、これって要するに人間に従い奉仕するべき機械が、嘘をつくなどの勝手な行動をしたら人間は許せるのかどうかみたいな話とも繋がる気はする。
「あなたのためだから」とか言って、本当は30%残ってるのに本来より早めに「バッテリー残量が15%です」って言ってみたり、アラームを少し早い時間に鳴らしてみたり、逆に眠そうだったので送らせてみましたとか言ったりしたときに「いやお前の意見は聞いてないんだよ、勝手なことすんな」って思うのか、それとも一応善意から動いてくれた訳だから「ありがとう、でも次からはやめて欲しい」などと大人な対応をできるのか……。

食えないゲンムとレーザー

・意志のないチャリンコを思うがままに操るゲンムとはやはり対比になってて、お喋りなバイクに都合の悪いことを知られたら"処分"してしまった展開とも符合する。
この2人のカップリングって殺し殺される因縁の関係になる前から、一応「ゲーマに食われない同士」という玩具ギミック的な繋がりはあったりする。
他の3人はパックンと食べられるのに、この2人は食われない。そこに何かしらのテーマを見いだせやしないかと考えてる途中なんだけど、今んとこあんまり。
「ゲームキャラに食われる」ということから素直に連想するなら「ゲームに夢中になる、心を奪われる」みたいなイメージなんだけど、これはまぁこじつけようと思えば無理ではないが……ってところ。永夢は元からゲーム狂だし、大我も表面的にはゲームに取り憑かれた哀れな男、飛彩もレベル3になってからは意地でも使わなかったゲームアイテムを使うようになったのに対して、黎斗と貴利矢はあくまでライダーの力は手段だと割り切ってゲームを楽しんでいる様子はない……ない……本当にそうか? って感じ。


・5話の貴利矢がどうやら、ゲンムの正体を偽ることでバグスター陣営の作戦を邪魔したっぽい(?)ことに対して、同じ手段で貴利矢の信用を失墜させるのはとても綺麗な意趣返しになっていて、パラドの発案か黎斗の発案かは分からないがちょっと感動した。

・「ノせられちゃった? 少しは人のことを疑え。じゃなきゃ、意外なところで足元掬われるかもよ?」
このダブルミーニングもいい。露悪的に「騙されてやんの」って振る舞うことで永夢に人を疑うよう忠告してると取ってもいいし、まだ少しでも自分を信用してくれるなら「お前はゲンムにノせられてる、本当の正体はパラドじゃないから幻夢の社長を疑え」って意味で受け取って欲しいなっていう貴利矢の隠れた本音もチラ見えするのが素晴らしい。
こういったところは素直に脱帽する。


まとめ

貴利矢とレーザーはどっちの顔もかっこいいので、彼が中心に来るとそれだけで満足度50くらいは担保されてしまう。
色の中だと黄色が一番好きだってのは何回か言ってるけど、中でも2色組み合わせるならやっぱ黒が似合うよね。金色の使い方も安売りし過ぎてなくて品があるし。
ストーリー的にはやはり「貴利矢の過去にあった事実を確認するだけ」なので特に言うことなし。

 

エグゼイド感想一覧

裏面

仮面ライダーエグゼイド 7話「Some lieの極意!」 否定的感想

 

前話

仮面ライダーエグゼイド 第6話「鼓動を刻め in the heart!」 肯定的感想

次話

仮面ライダーエグゼイド 第8話「男たちよ、Fly high!」 肯定的感想

仮面ライダーエグゼイド 第6話「鼓動を刻め in the heart!」 肯定的感想

 

・永夢がガシャットを返そうとするくだり、『エグゼイド』にしては珍しいというか妙に律儀な描写。省ける説明は徹底的に省いてその代わりに面白げな展開をもう何個か盛り込むっていうのが、少なくともライダーにおける高橋悠也脚本の特徴ってイメージ。
特に"キャラへのフォロー"は、当時の僕含めアンチが多いことからも分かるように少なくて、それ故に「お前本当に正しいことしてるんか?」って思わせるのが彼の作風なんだと割り切ってるんだけど。パラドをボコるとことか或人の闇落ちみたいに目に見えるかたちで悪性を描くことも少なくないけど、今回のような「永夢が敵を倒してガシャットを勝ち取った」という一見誰も何も文句言わなそうな隠れ蓑があったら、黎斗からの押収要請なんてなかったかのようにしれっと自分のものにしててもおかしくない。前作の『ゴースト』ですら、盗品だったロビンフッドの弓矢が変化した眼魂をしれっとタケル殿が自分のものにしてた……なんてことがあったのに。
『ゼロワン』でも「(あの時はしなかったのに)そこは説明するんだ?」みたいなのが気まぐれにあったけど、たまにこういう描写をいれることで「何も考えてない訳じゃないんですよ」って視聴者に信頼させるみたいな意図があるんだろうか。言ってみたけど、だとしたらあんまりうまく言ってるとは思えないので違うか。
内容的には否定的感想の方に書けよって感じだけど、言いたいこととしては「意外とちゃんとしてて見直した」ってことです。
"術後経過"ってのもそれなりに理に適ってるしね。

 

バグスターユニオンの立ち位置

・「ゲンムが分離した仲間が倒された」とのこと。前回ユニオン(肉団子)なしでいきなり出てきたのは黎斗の仕業ってことらしいけど、グラファイトの口調から読み取るにバグスター陣営としてもユニオン状態より分離後の方が都合がいい……っぽい? "分離した"とこまでは文句ない……むしろ仲間を増やせて嬉しいけど、エグゼイドに倒されちゃって怒ってるって話だから。
でも少し不思議な話よね。だってバグスターの目的は「人間の体を乗っ取り完全な存在となること」のはずで、だとするなら患者の体を取り込んでるユニオン状態の方が都合が良くて、レベル1に分離させられるのは不本意なことのはずなのに。
単に言葉の綾としてスルーしてもいいけど一旦そういう仮定の元で考えてみると、まず思い当たるのは後々「バグスターは倒されるたびに強くなる」という設定が出てくるのと同じように、仮面ライダーに倒されることで学習してより戦闘能力が高くて自我(キャラクター性)のはっきりした個体に進化できるから、一旦分離されることを差し引いてもメリットがあるという可能性。
実際というか、現在のグラファイトは状態としては人間を取り込んだ"完全体"のはずなんだけど、強化されたダークグラファイトがレベル5×4人に負けていることから、その強さはおそらくレベル5〜10相当だと推測されるので、こんなに幹部ヅラして強者っぽい雰囲気出してるのに後に出てくる不完全体(レベル20や60など様々)よりも弱いことになっている。つまりバグスターの目的としては「人間を取り込み完全な存在になること」がまず自分の存在を確立するための第一ステップとしてあって、その上で更に仮面ライダーと戦うことで「自分のレベルを上げて強くなる(自我を持つ)こと」も、本編ではあまり言及されないが必要なことなんだろう。
ユニオンが知能もなくてほぼ暴走してるようなもんなのは、バグスターが人間を完全に支配下におけるほど強い自我を確立できていないままに乗っ取ろうとするから、反発されて暴れまわることしかできないのかもしれない。
そう考えると確かに、「仲間はいつでも増やせる。いま必要なのはデータだ」というパラドの言い分には頷ける。現状のままいくらバグスターを生み出しても所詮はグラファイトのようなザコにしか育たないから、まずはデータを集めて強いバグスターを生み出す土台をつくろうと。

 

把握してる飛彩

・患者には関わらないのがモットーなんだからゲーム病が治ったならそれでいいはずの飛彩が、どうして音大にいるんだろう。ひょっとすると小姫もこの音大に通ってたのかなとか思ったりもしたけど、仮面ライダー図鑑によると彼女も聖都大学の医学生だったらしい、初知り……。
グラファイトについて独りごちているので、仇についての手がかりを得るためにってのが妥当なところなんだけど、既に治ったゲーム病患者が居場所を知ってるはずもないしグラファイトが守りに来る理由ももうないしで、通るような通らんような。
それはそれとして、意図的に関わらないというスタンスを取ってるだけで、音大生を襲っていたという事自体はきちんと見抜いてるのは感心した。永夢みたいにカウンセリングまがいの出過ぎた真似こそしないけど、きちんと観察して把握はしてるのね。

・せっかく小姫は「世界で一番のドクターになって」と遺言を残したのに、ドクターとしての本分を忘れて仇討ちに身をやつす飛彩は、まぁフィクションでありがちなすれ違いといえばそれまでだけど気付かないもんかね。
……通るようできちんとは通らないけど、飛彩目線では「医学の勉強にばかり没頭していた結果小姫を死なせてしまった」という状況だから、本人の中に医療行為に対する無意識的な罪悪感みたいなものでもあるのかもしれない。だからいつも患者のことは放置して、小姫のことばかり考えてるのかも?

 

キャラ同士の真似合い?

・永夢が、患者でもなければ個人的にもむしろ嫌い寄りなはずの飛彩の悩みに対して解決策を提示するって展開にずっと違和感というか唐突感を覚えていたんだけど、レベル5のときと同じで「方便でその気にさせて自分の目的(患者を治す)のために他人を利用する」という、永夢なりの攻略法なのかもしれないな。それはもしかすると、貴利矢の言動から学び取ったものでもあるのかもしれないし。

・前回と今回は「急がば回れ」がテーマらしい。
ゲンムやグラファイトという大目標をクリアするために、まずはコラボスバグスターを倒してレベル3ガシャットを手に入れる、そしてそのために無駄だと切り捨てずにゲーム的なこと(アイテム獲得,音ゲー)をする。
飛彩の心情的には多分"永夢の真似をした"んだろうね。目を覚ましてくれたのもあって、一目置いたと。ビートクエストゲーマーのバイザーがピンク色なのも意識してるのかな?
マリオの地下や上空にある寄り道コイン空間を始めとしてゲーム的にも割とよくあるギミックだし、医療的にも治療より先にトリアージとか、身近なとこだと歯医者さんで虫歯を治す前にまず歯の掃除をするとか、割と何にでも通ずるというか色んなところで顔を出すテーマではあると思う。


音ゲーのバグスターが斬撃で倒されてるのは、言い始めたら何でもアリだけどそういうゲームだからなのかな。
実際、エグゼイドがフルコンしたときにバグスター側にダメージはどうやら入っていなかったので、ドレミファビートは敵の出してくる妨害譜面を乗り越えて、その後に物理で殴り倒すゲームなのかもしれない(?)……ポッピーも仮面ライダーに変身して割と強めに立ち回ってたしな。・レベル2vs3でこれまであれだけ一方的にやられていたのに、グラファイトとレベル3のエグゼイドやブレイブがほぼ互角に戦っている不思議。
限界効用逓減じゃないけども、レベルが上がるにつれて能力値の上がり幅が下がっていくのはよくあること……で片付けてもいい気はするが、レベル1と2の戦闘力にはほとんど差が見られないのに2と3の間にだけ深い溝があるというのはイマイチ納得し難いものがある。いや、でもガシャットの本数が単純に倍になってる訳だから違って当たり前なのか?


・今回、話に関係のない貴利矢が入院中ということで出てこなかった。全45話の中で、退場してないレギュラーキャラが一言も喋らないのは僕の知る限りこの6話の貴利矢だけで、「少しでもいいから必ず全員を出す」というのは意識的に徹底されていたことなのだと思われる。
それ自体はいいことだと思うんだけど、こうやって割り切って何人かのキャラにだけフォーカスした方が、おそらく話も作りやすいし見る側としても分かりやすくていいので、ここは一長一短なところ。

 

まとめ
"急がば回れ"に気付いたときはなるほどって思ったけど、あんまりその話も広がらなかったし全体的に薄味だった。ただこれは僕が再視聴組ゆえに飛彩の過去はもう分かってるから、ほぼそれを明かすだけの今回は面白味を感じないってだけの話かも。

 

エグゼイド感想一覧

裏面

仮面ライダーエグゼイド 6話「鼓動を刻め in the heart!」 否定的感想

 

前話

仮面ライダーエグゼイド 第5話「全員集結、激突Crash!」 肯定的感想

仮面ライダーエグゼイド 第5話「全員集結、激突Crash!」 肯定的感想

第5話「全員集結、激突Crash!」


・「仮面ライダーを消し全人類を乗っ取れば、バグスターが世界の支配者となる!」
これに対しパラドは「力技じゃパズルは解けない」と否定しているんだけど、どういうニュアンスなんだろうね。ただの感染症……ウイルスとして人間を脅かすのではなく、あくまで「バグスターというゲームキャラが人間を攻略するゲーム」という仮面ライダークロニクルのコンセプトを全うしたいということだろうか。
ワンサイドゲームじゃつまらないって話も後々していたし、人間側が何も知らないまま流行病として一方的に滅ぼすのではなく、自分たちの明確な"叛意"を示した上で、抗ったり悔いたりする様を楽しみつつ仮面ライダーとの拮抗した戦いを楽しみたいということなんだろう、多分。
・序盤はグラファイトが力担当でパラドは頭脳担当みたいな振り分けがされてるけど、後のパラドクスは一人で両面を担うキャラなのよね。単純に分業ってことでグラファイトにはできない頭脳労働を担当してるだけなのか、それとも元は頭脳派だったけどグラファイトと一緒にいるうちに好戦的な性格をラーニングしたのかはちょっと気になるな。

 

遅刻と働き方改革

・『令ジェネ』の或人もそうだったけど、主役……それも社長とか医者みたいな結構重要な仕事のキャラが遅刻するシーンなんて、ない方がいいのはもう誰が考えても、どんなバカにとっても明らかなのよ。
他の細かい設定とかについてはまだ「さくしゃのひとなにもかんがえてないとおもうよ」みたいな予測も成立するけど、このシーンについては遅刻することが今回の話を展開するために必要不可欠な要素では全くない以上、"敢えて"入れているという以外の選択肢は有り得ない訳で。
分かってて敢えてやってる人に対して「医者が遅刻なんて!」ってツッコむのは次元が低いというか、何の反論にもなってないので僕はする気にならない。エグゼイドやゼロワンに対する批判は、昔の僕も含めてほとんどこのレベルに留まっていることが多いのでつまらない。
人の体を刃物で刺すのが近視眼的に悪いことなのは分かりきってるけど、それでも敢えて患者を傷つけることで腫瘍を切除したりして、結果的に患者を健康にしたいという目的意識があるから"敢えて"やるのよ。だからもしそれを批判したいなら、まず本人が見据えている目的,意図をきちんと認識して、その上で論を組み立てないといけない。「人を刃物で刺すなんて良くない、何故ならもっといい治療方法があるから」とかね。

或人に対して使ったロジックだと「たまに遅刻してもお釣りがくるくらいには残業などハードな仕事をこなしているのかもしれない」なんかは医者にも当てはまると思われる。研修医がどうかは分からないけど、特に夜勤の人なんかは素人目にも大変そうだなぁと思うし、他の職業なら例えば学校の先生なんかは休憩時間も取れないし勤務時間も長いしでかなり大変な環境だとよく聞く。
そういう現状を受け入れて我慢してしまっては、労働環境は変わらないまま、心身を病んでしまった人は仕事をやめて、また新たな人を雇って使い捨てにするという負の連鎖は終わらない。だからこそ「あんなに遅くまで残業したらそりゃ朝起きれませんよ」ってな風に"無理なもんは無理"だと示して、改善を求めるべき……なのかもしれない。
もちろん永夢がそんなことを考えた上で遅刻してるってことじゃなくて、そういう風刺として敢えて医者が遅刻してしまう様を描いてるんじゃないかって話ね。

他の人はどうか知らないけど、少なくとも僕は大森Pの作品からはこれまでの固定観念とは違う"働き方"を提案する意志を感じるので、全然ありうると思う。例えば、仕事をつらく苦しいものじゃなくてもっと楽しいものにしたい、なったらいいなみたいな理想。『ドライブ』の特状課は私服のオタクがいたりケータイの占いばかり見てる課長がいたり、進ノ介も職場に趣味のミニカーを持ち込んでるやつとして周りからは認識かつ許容されているし、『エグゼイド』は言わずもがな全員が仕事としてゲームをプレイしてて、『ゼロワン』もゆる〜い感じの素人である或人が色んなお仕事の現場を見て「すげー!」って言ってくみたいなのがざっくりした構成だし。アプローチは微妙に違えど、仕事をポジティブなものとして描こうとしてるのは共通してる。キャラが私情を挟みがちなのも従来の仕事観から考えると良くないことなんだけど、仕事と個人の幸せが食い違うときに一方的に前者を優先させていたのがこれまでの社会だとしたら、そこへのアンチテーゼなんだろうなと僕は思っている。
塚田Pの『デカレンジャー』なんかも、仕事だからって完璧にやらなくていい、ミスしてもいいしヘコまず取り返そうみたいな作風だったけど、あっちはそのミスでドラマ自体を回そうとするけど、大森作品はあんまりそういうことを表立ってはやらないイメージ。イズが「滅が死にました」って煽ったせいで迅に殺されそうになるとか、あぁいうのが悪目立ちするくらいには「そんなくだらないミスをドラマの起点にするなよ」みたいなことは多くないような気がする。

 

分離手術と髪の毛デザイン

グラファイトの体をゲームスコープで診察しても、ゲーム病患者と同じ扱いになるらしい。まぁ当然といえば当然なのかもしれないが、宿主の体は完全に消滅したのではなく、バグスターの中に取り込まれてウイルスを増やすための細胞として利用されているのだろう。

基本設定として「レベル1でならバグスターユニオンから患者を分離できる」ということになっているが、そろそろこの辺を作中で明言されてないところまで整理しておく必要がある。
バグスター切除手術というのは、バグスターウイルスに感染した細胞ごと切り取った上で殺してしまおうというキラーT細胞的な発想のものなのか、それとも言葉通りに人体とウイルスを分離するものなのか……その答えはおそらく前者だと思われる。
分離後の患者は半実体とでも言うべき状態となり、バグスターの侵食が進むと触ろうとしてもすり抜けてしまうことが描写から明らかなので、物理的な人間の体……つまり細胞のある程度はバグスター側にも残っていることになる。その細胞を使って自らを増殖させることができるのが"完全体"であって、逆に仮面ライダーが分離した患者の方はおそらく実体のない精神体に近づいていく。
分離手術の肝は本来「バグスターを人間から切り離す」ではなくて、謂わば「バグスターに乗っ取られた体から人間の精神(ゴースト)をサルベージする」ことにあるのだと思われる。分離直後は触れる程度の実体があることからも、なるだけ多くの細胞を患者側に残すのは当然のこととしてあるんだけど、少なくとも精神を構成する最低限の要素を分離するのがレベル1の役割なんだろう。

ここまでの話を踏まえるとようやく"電脳救命センター"という名前の意味がなんとなく見えてくる気がする。
CRはCyberbrain Roomの略らしく、おそらく電脳救命センターとやらを訳して略せばそうなるんだろうなとか適当に思ってたけど、よくよく考えたら電脳救命とは何だ、という話。壊れたコンピュータ(電脳)を治す組織? そんな修理屋さんじゃないんだから。「電脳(による)救命」だったとしても、コンピュータを利用してるイメージはそんなにない。一応ライダーシステムはゲームの力を使ってる以上コンピュータ(電子頭脳)を利用してるんだろうけども、直感的に納得し難いしそんな回りくどい名前付けるか? という疑問がある。

そう考えると『エグゼイド』におけるライダーシステムは、根本的に「最悪の場合は患者の精神をデータ化(電脳化)して、肉体がなくなっても保存できる状態にする」という黎斗の思想に沿った仕様になっていて、肉体を助けることは優先度としてその次になっているんだろう。そう解釈でもしなければ、電脳救命という言葉の意味が分からない。
『エグゼイド』は命の話というよりは自我同一性、精神のデータ化に関する話を取り扱ってるらしいので、そのことを思えば精神が宿っている"脳味噌"を守るための器官だからこそ、ライダーのデザインにことごとく髪の毛があしらわれているのだと考えれば納得がいく。仮面ライダーの仮面……バイクに乗るときのヘルメットとも通ずるし、なるほどなぁ。


・人間態グラファイトに対して治して欲しければガシャットを寄越せと迫る飛彩。まぁ、元々医者もボランティアでやってる訳じゃないのでお金は要求してくるし、タダで治療してやるからその代わりにガシャットを貰うっていう交換条件のつもりならそれほど無茶苦茶って訳でもないかもしれない。泥棒なんかするやつがきちんと働いてて支払い能力が十分にある保証はないし。
「救急搬送されて手術されたけど身寄りもなくてお金を払うアテがない……」って場合どうするんだろうなって昔から疑問なんだけど、それと比べたら先にきちんと取り引き内容を説明してるだけマシかもしれない。まぁ本当にお金がなくて生活保護を受給してるって人は基本的に医療費の自己負担が0円になるはずなので、本当にどうしようもなくなったらその辺の制度使ってなんとかなるのかもしれないけど。
歯医者さん行くとき、毎回いくら払わされるのか分からないからドキドキするんだよね。次回はこういうことをやるのでこれくらいかかりますって教えて欲しい。


・今回からしばらく出てくるこのコラボスバグスターってやつが一体何なのか、本編では説明されてないから当然だけど何周見ても理解できなかった。仮面ライダークロニクルにも全く出てこないしこの序盤にだけ出てくる謎の存在で、本当に最近『ゼロワン』とのコラボ企画である『仮面ライダーゲンムズ ―ザ・プレジデンツ―」を見て初めて「"複数のゲーム病を併発"した場合に出てくるから"コラボ"スバグスターなのか」ってことに気が付いたのよね。今回ならゲキトツロボッツとドレミファビート、次の個体はギリギリチャンバラとジェットコンバットという2種類のウイルスが一人の人間に感染したことによって生まれている。尤も、その『ゲンムズ』においてはコラボスバグスターなんて生まれないんだけど。
頭に挿さったガシャットから力を引き出している以上はレベル3かそれに近い能力を持っていてもおかしくないと思うんだけど、実際はレベル2に割とあっさりやられがちなので微妙なところ……まぁたった1のレベル差なんて後半に行くにつれて有耶無耶になっていくので、単純に生まれたてのレベル3よりは戦闘を経験してるレベル2の方が強いってことなのかもしれん。
ちなみにコラボス素体は通常のバグスターウイルスの3倍強いらしい。

 

シャカリキスポーツ

・前回から登場しているシャカリキスポーツは、先行発売していることからもエグゼイドのテーマ的に重要な位置を占めていると思われる。
根本的にエグゼイドのデザインがスポーティなことは当然のこととして、シャカリキの方は漢字にすると"釈迦力"……つまり仏教に由来する言葉だったりする。
ゲーム要素とも繋がる"遊戯(ゆげ)"という言葉については『ゴースト』のゲンム先行登場回でもう詳しめにした(仮面ライダーゴースト 第4クール 感想)のでここではとりあえず置いとくけど、ともかく『エグゼイド』には仏教を意識してると思われる部分もあるのよ。ゲームはある意味で煩悩から解放されるためのツールだと言えるし、バグスターとして永遠の命を手に入れることは生老病死を克服した解脱の境地だと解釈することもできないことはない、かもしれない。
自分的に一番印象的なのは、VシネでゴッドマキシマムマイティXに変身するときの黎斗が仏みたいな清らかな顔をして合掌するとこ。ネタの権化である黎斗なんてずっと好きじゃないどころか嫌いだったんだけど、顔はいいから黙ってれば綺麗だし清らかだなとか思っちゃうことにイラッとしたのを覚えてる。シャカリキと合掌が仏教繋がりってのは、多分役者の岩永さん的には狙ってやったことなのかな。


・ゲンムの正体はグラファイト人間体だと嘘をついた貴利矢。貸しをつくってまた強請るつもりなのかなとも思ったが、別にわざわざ嘘をつく必要はやっぱりないんだよなぁ。
というか、変身したところを見たってことはその後に黎斗が本当の患者である音大生からバグスターを分離するところも見ていたはずで(だってその後だけ目を離す理由がない)、ガシャット泥棒(グラファイト)=ゲーム病患者ではないということも全部知った上で「ゲンムの正体はガシャット泥棒のゲーム病患者」という嘘をついたことになる。尤も、貴利矢が知ってるのはコラボスバクスター(ゲキトツロボッツ)の宿主がグラファイトではなく音大生の女性だってところまでなので、グラファイトグラファイトでまた別のゲーム病にかかってる可能性は否めない(実際ゲームスコープではそう診断されるし)ことを考えると必ずしも嘘ということではないんだけど。

貴利矢という個人の意図がどうだったかは一旦さておき、作者のレベルで見たときにこの嘘がどういう意味を持つかと考えると、本当にゲンムの正体を知らないまま見ている視聴者視点で現時点での情報を整理すると「ゲーム病患者がゲンムになって自分を蝕むバグスターを守った」ということになる。
通常病気は治って欲しいものだからそれを治す医者は正義足り得るんだけども、人間にも色んな人がいるので、中には自ら病気になりたがったり治るのを嫌がったりする人も存在して、そういう人にとって見ると医者は悪になりうる。単純に、病気の怖さよりも医者の怖さの方が勝つから嫌だっていう子供もいれば、体に悪いから痩せろと言われてるけど食べるのが好きだからやめたくない人とか、病気だと診断してもらうことで色んな人から優しくされたり構ってもらったりするのが嬉しいので治るのは嫌だみたいなミュンヒハウゼン症候群の人もいたりして理由は様々だけど、ともかくそういう"愚行権の行使"っていうのは、割と大森P作品に共通するテーマだったりするのよね。嘘とか勘違いに見せかけて実は大事なテーマを匂わせるって手法は割と他の作品でも見られる。
実際ゲンムの目的はわざと人類をバグスターウイルスに感染させる(敢えて病気になる)ことで、命をデータ化して死なない体を与えようとしてる訳で、無理やりやってしまうのが悪いものの、不老不死という目的自体には賛同する人もいなくはないはず。
医者から見れば愚行でも、本人にとっては何らかの利益があるのであれば、必ずしもその自由を奪うことはできない。

無理やりくっつけるなら、貴利矢が自分の信念に基づいてつかなくていい嘘をついた結果どんどん信用が落ちて孤独になっていくのも、愚行権ってテーマに沿った描写なのかな。


・永夢が「どんなに悪い人でも、命は命です」と言い張るのは、自分も善人であると言い切れないからだったりするのかな。そんなことはないと思うけど、でも"水晶のよう"と言われているからには悪い人を前にしてるときは自分の中に悪い部分が映し出されてることになる訳で。
言わんとしてることは要するに「ヒューマギアみたい」なのかなって思うんだけど。善意をかけられれば善意を返し、悪意を向けられれば悪意で返すって意味で"純粋"なんだろう。

 

人間と機械,データ生命が力を合わせる

・エグゼイド ロボットアクションゲーマー レベル3
ロボット同士が殴り合うSFアクションゲーム……の力を使ってレベルアップするのは、あんまり真面目に考えたことなかったけど『ドライブ』における機械生命体(ベルトさん)とか『ゼロワン』におけるヒューマギアと同じで、人間とロボットが力を合わせることで大きな力を生む……っていう価値観の表れなのかも。時間が前後するけど『人機一体ブットバスター』ってゲキトツロボッツのパッケージ絵と似てる気がする。
またロボットではないものの『デジモンクロスウォーズ』のシャウトモンX3もどことなく似てるのよね。データの生命体って意味で『エグゼイド』は意識しててもおかしくないし、3期に出てくる"デジクォーツ"っていう現実と重なり合う異世界とか、こないだ配信されてすごくハマった『テイマーズ』では「地球を覆うある帯域の電磁波がワイルドワン(デジモン)の情報に従って空気中の元素を急速に凝縮し、量子変換させた疑似タンパク質」がデジモンを現実世界にリアライズさせるって話があって、厳密に理解した訳ではないが何か説得力を感じたんだけど、これはエグゼイドの設定にも応用できるのかもしれない。
デジモンはまぁアニメだし、本当にめちゃくちゃでかいデジモンとかも平気でリアライズするんだけども、バグスターだったら本当に最低ウイルス一粒に必要なタンパク質さえリアライズできれば、後は人間の細胞に感染させて培養,増殖できる訳なので、実現可能性は高く思える。


・「恐ろしいのは、私自身の才能さ」
このセリフ、まぁ正体バレだから印象的ってのもあるんだろうけど、やけに有名な理由のひとつは「何言ってんのか分からない」ことだと思うのよね。
「水晶が砕け散るかもしれない」と忠告しておきながら、ゲンムとして煽りまくって永夢をマジギレさせて……結局彼は何をしたくて、そのために何をしたのがうまくいって喜んでるのか本当に分からない。
「綺麗事ばかり言ってる永夢の本性を暴いてやった!」みたいな気持ちなんだろうか。


まとめ

設定やモチーフ面からテーマを読み解くのは楽しいけど、まだドラマを楽しむってレベルには達してないので、そろそろ本題が始まってくれると嬉しいな。

 

エグゼイド感想一覧

裏面

仮面ライダーエグゼイド 5話「全員集結、激突Crash!」 否定的感想

 

前話

仮面ライダーエグゼイド 第4話「オペレーションの名はDash!」 肯定的感想

次話

仮面ライダーエグゼイド 第6話「鼓動を刻め in the heart!」 肯定的感想

『復活のコアメダル』のラストを受け入れるためのひとつの解釈

大筋は前回の記事(仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル 具体的感想)にある内容なんですけど、思ったことは全部漏らさず書きたい性分なせいでまとまりがなくなってしまったので、ここでは"ラストシーンの解釈"に話を絞って、必要な話題のみを簡潔にまとめたいと思います。
結論から言いますと、自分は色々考えた結果「映司は死んでいない」「アンクも満足している」という解釈に落ち着きました。映司の死を受け入れられない多くのファンのために、そこに至るまでの思考過程として欠かせない論点を3つ、まずは紹介します。

 

 

アンク復活の是非

そもそもの話として、僕は最終回における「いつか、もう一度……」や『MEGA MAX』において明確に提示された"いつかの明日"という概念についてやや懐疑的でした。何故か。
まず言えるのは「死ぬことによってようやく満足することができたアンクを眠りから起こすのはどうなのか」という点。
アンクに対して再びただのメダルの塊・グリードとして、アイスの味も感じられず巨大な欲望だけを抱えたまま不死身の怪物として生きるという十字架を背負わせることを、無邪気に肯定することはできません。
映司や比奈、知世子さんを始めとした「自分をひとつの命として認めてくれる存在」がいるうちはいいかもしれませんが、人間である彼らが死んでしまった後はアンクの居場所はどうなってしまうのかと考えると、なかなか難しいものがあります。もちろん、怪物だからといった偏見や差別に晒されずにアンクが安心して暮らせる人間社会をつくることまで含めて"いつかの明日"であると考えるならば問題は半減しますが、やはり「世界を感じられない」というグリードが抱える悲しみは無視できません。


もうひとつの論点として、アンクに限らずグリードという化け物を復活させようとするのは人間社会にとってどうなのか、ということもあります。
メダルの研究を進めていけば、その過程で再びグリードが生まれ、また本編や『MEGA MAX』のような戦いが始まってしまうという危険性は十分にあり、『ゼロワン』においてヒューマギアは根絶するべきだという声があるのとと同様に再び世界を脅かすことになりかねないというのは、まず考慮するべき事柄でしょう。
そして他ならぬアンク自身に関しても、本編終盤まで一貫して「完全復活した上でメダルの器になり、完全な命を手に入れる」という目的のためなら手段を問わないところがあります。1年を通して利用するという名目で映司と力を合わせていた一方で、真木率いるグリード側に寝返ったり、人質である信吾の肉体にもコアメダルを入れる(映司と同じようにグリード化してしまうリスクがあるにも関わらず)という蛮行をした前科があります。
アンクというのはアイスさえあげておけば大人しくしててくれるだけのキャラでは決してなく、映司との関係も8割が「メダルを集める」ための利害関係によってギリギリのバランスで成立しているものなのであって、仮にメダルを集めきってしまったとしたらこの利害関係は瓦解してしまうでしょう。
あの2人が仲良く共存できるのは、あくまで"メダル争奪戦"によって世界が混沌としているわずかな間……「メダル集めと、アイス1年分」の契約が切れるまでの話なんです、本来は。尤もその1年の中でも利用価値なしと見れば裏切るし、「あいつとは最初からそういうことになって」いる。
既にある程度は信頼関係が構築できている映司や比奈にとってはまだしも、あの世界の一般人からすれば十分以上に危険な存在であることは疑いようがない。そんなアンクを野放しにしてしまうのは、いかがなものか。
これがひとつ目の前提です。


映司の背負った業

次は映司という人間について考えていきます。
序盤でこそ「明日のパンツと少しのお金」さえあればいいという無欲なキャラだったけれど、その本質は「俺の欲望は、これぐらい(全員家族として助かる)でなきゃ満たされない!」「どんな場所にも、どんな人にも絶対に届く俺の手、力……俺はそれが欲しい」と言い切るほど強大で底のない欲望を持っていたことが明らかになります。
脚本家・毛利亘宏氏の言っていた「火野映司という人間が背負った深過ぎる業」というのはこれのことだと僕は思っていて、本当に本気で「どんな場所にいるどんな人でも助けたい」と思っているのなら、裏を返すと世界中のどこかにたった一人でも不幸せな人がいれば、映司は本当の意味で"満足"できないことになってしまいます。
彼は決して「アンクひとりが蘇ればそれでいい」なんて矮小な願いで満足する器ではないということです。
そんな満たしきれるはずのない欲望を持ってしまった火野映司にとって、真の意味での"満足する終わり"……すなわちハッピーエンドは「原理的に有り得ない」ということになります。世界の全てを平和にしたいのであれば、それこそ真のオーズとして覚醒し"都合のいい神"にでもなるしかありません。


話を進めるにあたって、映司の欲望から生み出されたというグリード・ゴーダについても読み解く必要があります。
違和感はありつつも10年後の映司としてギリギリ振る舞っていたゴーダが出した決定的なボロと言えば「(少女は)死んだよ。そういう運命だったんだ」という驚愕のセリフでしょう。
映司だったら絶対に言わないであろうことは言わずもがなですが、実際に少女が生きている以上、映司にとってもゴーダにとっても「(その後どうなったかは知る由もないが)少なくともあの場はなんとか逃げられた」という認識はあるはずです。
ゴーダは"表面的な映司らしさ"を犠牲にして正体がバレるリスクも厭わず、助けられたはずの少女を死んだことにしてまでも、このセリフを言い放ったということになり、仮にそうだとするならばそれ相応の"信念"や"本心"が込められていると見るのが妥当でしょう。
ゴーダという存在は、原理的に満たされるはずのない映司が無意識で抱いていた「死を受け入れて満足したい」という欲望の表れだと自分は解釈しています。アンクにしろ少女にしろ、世界中のどことも知らぬ誰かにしろ、「助けたい」と思うから「助けられなかった」と苦しいのであって、始めからその死を受け入れ「運命だった」と諦めてしまえば、映司という個人は楽になれる。
映司はそんなこと思わない! と感じた方もいるかもしれませんが、実際に本編の映司は内戦で少女を助けられなかった苦しみに耐えられず、基本的には平和で人が死ぬことなどない日本に帰国しています。
「休憩中」「しばらくは日本にいる」というセリフからも分かる通り、少なくとも少女を救えなかったトラウマが回復するまでの間は、世界中で今も苦しんでいる人々からは目を背け、比較的平和な日本で手の届く範囲の人を助けるだけで満足しようという非常に大きな"絶望"が見て取れます。
「映司くんは神様じゃない」ので、彼にもまたそういう人間らしい矮小な部分があることは間違いなく、それを凝縮して「人助けなんかやめて、アンクと楽しく戦いたい(前半)。或いは本当に世界の全てを救ってしまえるだけの力を手に入れたい(後半)」という欲望の塊として生まれたのがゴーダなのだと思われます。
以上が2つ目の前提です。


オーズは欲望を全肯定したか?

最後に確認するのは、オーズは何も犠牲にしない、映司もアンクも死なない都合のいい欲望を肯定したか? についてです。
確かに、セリフの上では肯定されています。「映司くんとアンクちゃんどっちかは戻ってくるなんて、そんなの認めちゃ駄目よ。(中略)映司くんもアンクちゃんもお兄さんもって、ちゃんと欲張れるのは比奈ちゃんだけよ」と知世子さんが比奈に対して諭すシーンは、とても印象的でした。
……ですが、実際の展開としてそうはなりませんでした。比奈はその後、アンクのメダルが壊れつつあることを知っていたにも関わらず、アンクから口止めされた通り映司に伝えることもできず、最終的には助けられずにアンクは死んでしまいます。
彼女は自分には何もできないことを噛み締めて、ただ2人と手を繋ぐこと"しか"できなかった。繋いだからアンクが助かる訳でもなく、なんの意味もないかもしれないけど、それでも繋ぐ。
アンクが死を覚悟していること、映司もまた死を覚悟していること。胸のうちに秘めたお互いの思いを察した比奈が仲介して手を繋ぐことで、言葉にはできずともなんとか2人にお互いの現状を伝えたい……そういう切ない思いを経て、それでも与えられた結果が「アンクの死」でした。


最終決戦においても「世界を救うためには怪人になることを厭わず戦うしかない」「そうならないためにはアンクを犠牲にするしかない」というギリギリの駆け引きが展開され、アンク復活に関してもあくまで"いつか"であって、今すぐ欲しいとまでは欲張らない。そのビターさこそが最終回の評価を高めている大きな一因のはずです。
これは余談ですが、映司は世界を救うためにウヴァを始めとするグリードや、人間であった真木博士のことも犠牲にせざるを得ませんでした。彼らの持つ「完全体になって世界を食らいたい」「世界を終わらせたい」という欲望は作中できっぱりと、明確に否定されています。また本当に全てを欲張るのであれば、内戦で救えなかった少女もアンクと同じように生き返らせようとしてもいいはずですが、そんなことは倫理的に許されるのか。許されないとしたら、アンクだけを蘇らせることは彼の尊厳を踏みにじることになるのではないか……。
そういった危険や問題点を孕むものまで含めた"欲望"そのものを肯定し賛美していたのは、作中でも唯一鴻上だけであって、その鴻上はグリードやガラの復活、ポセイドンを生み出したメダルの研究など、欲望のままに動くことで直接的ではないにしろ様々な災禍の元凶となった結構アブない人です。映司を「神にも等しい真のオーズとしての器」にしようとしたりね。

その彼が何の贖罪をするでもなくのうのうと暮らしていることは「欲望を肯定している」と言えるのかもしれませんし、当時はそううまくはいかなかったかもしれないけど映司や我々ファンは10年も待ったのだから、代償なく報われてもいいじゃないかという声があるのも分かりますが、少なくとも最終回や『MEGA MAX』においては「全てが都合のいいハッピーエンド」は肯定されていなかったというのが事実でしょう。


映司は死んでいない

・アンクをグリードとして復活させていいはずがない
・映司はアンク復活だけじゃ満足できない
・最終回では結局代償を支払う必要があった
以上3つの前提を踏まえた上で、僕から導き出された結論が「映司とアンクはひとつになり、完全な命を手に入れた」という解釈です。
今回復活したアンクは正確にはグリードでも人間でもなく、人間のように五感や感情を持った上で、グリードのように永遠に生きられる……いわゆる人間が欲するところの"完全な命"、錬金術が追い求める最高到達点になったのだと思います。
せっかく命を手に入れられて、満足して安らかに眠ったアンクを墓から掘り起こすのだから、映司は復活させるにあたり"それ以上の満足"を与えられなければアンクに対しても筋が通らないですし、先述の通り人間である映司が死んだあとのフォローもきちんとしなくては無責任です。
だとするなら、そんなことが果たして可能なのかという問題は一旦さておき、理屈としては「映司もまたアンクと一緒にお目付け役として永遠に生きる」以外の選択肢は有り得ないと思います。
ちょうど『仮面ライダー剣』における「永遠の切り札」と似たような構図ですが、今回の結末は一心同体のまま永遠に生き続けるので、かなりのハッピーエンドなのかなと。


正直「明確にそうだという描写」はあまりないので妄想だと言われればそれまでなんですけど、そう解釈すると腑に落ちることがいくつもあるんですよね。
一番大きいのは"エタニティ"なのにどうして死んでしまうのかという疑問が解消されること。
加えて、変身音を映司がコールしたこと。最終回のタジャドルはまぁ、アンクの意志が宿ったメダルの力を開放した訳だからアンクの声がするのはまだ理解できるとして、映司の声が鳴るのはおかしい……仮におかしくない(演出の都合でない)とすれば、エタニティメダルには映司の意志が宿っていると考えるのが自然です。
更にはエンドロールで映された"明日のパンツ"。「今日をちゃんと生きて、明日へ行くための覚悟」の象徴がこれみよがしに映されている以上、映司がただ死んで終わりだと解釈することは非常に強いノイズを生みます。バラードの後から流れ出した、いつも通りのアップテンポな『Anything Goes!』も映司が死んでいないのであれば不似合いでもなくなります。


今作のテーマ的な辻褄から考えても、映司の中にあった「大きすぎる欲望を諦めて、満足する終わりを迎えたい(≒真木の思想)」という欲望を担うゴーダを否定するということは、映司のした選択は「全ての欲望を諦めることなく、アンクの体を通して永遠に満足できる明日を求めてもがき続ける」という、文字通り修羅の道だったのでしょう。
みんなと手を繋いでいけば、その手はどこまでも届く……この結論は美しいですが、現実的に考えたとき、比奈がそうであったように手を繋いだだけで助かるとは限らないし、仮に助かるとしても全世界の人と手を繋ぐためにはとても人の一生は短すぎるでしょう。小説版においても、映司は安易にオーズの力に頼って自分ひとりの力で解決するのではなく、なるべく人と人との関わりによって内戦を終結させようとしているのですが、なかなかうまくはいかず、結局最後は一度だけオーズに変身して手助けをするが、後は関わらずにその国の人たち自身に任せるという、まるでウルトラマンのような距離感で描かれていました。
そういった理想と現実のギャップに10年間揉まれた末に出した結論が「オーズの力で何でも解決するのではなく、永遠に手を繋ぎ続けることでいつか訪れるかもしれない真に満足できる"明日"をつくる」なのでしょう。


アンクはどう思ったか

翻って、これはアンクにとってもメリットのある"契約"だったはずです。アンクは最初から、不死身の体を持ちながら世界を確かに味わえる「命」を欲しがっており、そのために信吾の体を利用して、完全復活するだけでなく器として他のグリードのメダルまで欲していました。
最終回における彼はその本来の欲望を"妥協"することで逆説的に"満足"できた訳ですが、これはまさにゴーダが背負っているテーマと同一であり、今回の映画はそういう意味で本編のビターなラストを否定し、真に"欲張る"ことを肯定する道を示したと言えるでしょう。

自分の命を譲渡した映司に対して「なんでそんなことした!」と、アンクが怒りを顕わにするシーンがあります。
最初は「最終回での自分の思いを無駄にしやがって!」という意味だと思ったのですが、冷静になってよくよく思い返してみると、あのときアンクが"したかったこと"というのは、映司がまたプトティラの力を使ってグリードになってしまうことを防ぐためにタジャドルに変身させたかったということのはずで、映司が本当にその思いを"裏切った"のだとしたら、それは「人間として死期を迎える」ことではなくて「不死身の怪物になる」ことの方なのではないかと考えたとき、あのときアンクがキレていたのは映司が自分と一体化して"不死身の怪物"になってしまったからだと解釈した方が、筋は通るなと思いました。
もちろん、人間としての映司が肉体的な意味で死んでしまうことは悲しいんだろうし、「なんで死んでしまったんだ」というニュアンスとは感情として共存が可能です。

今回のアンクには僕はセリフ回しから根本的にずっと違和感を感じていて、変に"人間らしい"なと思っていたのですが、復活した時点から映司とほぼ一体化していて人間のような感性を手に入れていたのだと考えれば、なんとか納得ができます。
映司がアンクを突き放したのは、あのままアンクが憑依することで映司の肉体が蘇ってしまったら、先述の通りアンクはただのグリードに逆戻りして、アイスの味も感じないまま、いつか映司とも死別してしまう未来が待っているからこそ、"一緒にいるために敢えて突き放した"のだと思われます。
余談ですが『MEGA MAX』における未来から来たアンクは映司の姿にも変身していました。僕の解釈ではあのシーンは意味深だなと思う反面、今回映司が死んでしまったからこそアンクは未来からやってきて「最後にしたくなかったらきっちり生き残れ」と伝えた結果、映司とアンクが共存できるまた別の未来に分岐する……という他の方の解釈も割と好きです。


この解釈で唯一不思議なのは、仮にそうだとしたら何故制作陣はそれをハッキリと描かずにぼかしたまま、映司の死というシーンで幕を引いたのかという点。
「明言するのではなく、明日のパンツを映すことで暗示するのが物語として美しい。成長したファンなら汲み取ってくれるはず」と思ったのか、それとも本編で「アンクは死んだまま希望は匂わすだけ」だったのを尊重してのことなのか……ここはまだ自分の中でも整理できていないところです。

また、同じ毛利脚本,田崎監督かつ本作の執筆の合間に入ったというSH戦記で「こんな舞台設定にしなければみんなハッピーなのに、登場人物を苦しめてるのは作者である俺自身だ」って話をやってたけど、あれは毛利さんの復コアに対する葛藤でもあったのかもしれないと考えるとまた面白い。
「俺には物語の世界のほうが辛い。でも物語の登場人物が、物語から逃げちゃ駄目なんだ!」……。

夏にはTTFCで『バースX誕生秘話』が配信されますし、各種インタビューなどで意図が説明される可能性もあるので、気長に待とうと思います。

 

二次創作

独自解釈で『復活のコアメダル』の脚本を書いてみた

86ma.hatenablog.com

仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル 具体的感想

ひとつひとつの描写や展開について具体的な感想を綴ったものです。当然ですけどネタバレを含みます。

前編(否定的)

器に収まらない欲望の暴走『Vシネクスト 仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』 感想

ラストについてのみまとめたもの

『復活のコアメダル』のラストを受け入れるためのひとつの解釈

二次創作

独自解釈で『復活のコアメダル』の脚本を書いてみた

 

 

レジスタンス

・僕がミリタリー描写嫌いってのもあるだろうけど、あの"レジスタンス"っていう描き方がどうにも好きになれない。そもそも800年前の王に蹂躙された人たちの生き残りが抵抗するために集まってるんだと思うけど、なんでその一般人たちが私服じゃなくて迷彩柄の服とか着て戦ってるのか全然分かんなかった。そういうもんなの? オーマジオウに対抗するレジスタンスはまぁ、多分何年も苦しめられてる訳だからそういう組織化みたいなのがじっくり準備できるのは分かるんだけど、800年前の王が復活したのってどうやらそんなに前の話ではないっぽいからさ。ネット版でレジスタンス結成は映画が始まる直前の出来事だって言われてるし。 
武器とか支給してるのは財団としての鴻上ファウンデーションなんだろうから一緒に服も与えたんですよって言われたらそりゃそうなのかなとは思うんだけど。それとも別に一般人ではなくて、元ライドベンダー隊の人を集めたとかそれだけの話なのかね。


空気役:泉信吾

・完全にその設定忘れてたけど、警察だった頃の正義感や技術を活かしてレジスタンスの一員として活動しているらしい信吾さん……僕はぶっちゃけ本編における彼の扱いもまだイマイチ納得いってないので今作だけを責めることはできないんだけど、この人はなんでこんなに存在感が薄いの?
本編においても「親代わりとして育ててくれた優しいお姉ちゃんが(真木の才能を使えば稼げると分かったことで?)醜く変わってしまったので、そうなる前に終わらせるべきだと思った」って設定のドクター真木と、「親代わりとして育ててくれた優しいお兄ちゃんが突然グレてガラの悪い金髪男になってしまったけど、一緒に過ごすうちにこの性格の兄(アンク)も悪くないと受け入れられるようになった」っていう比奈との一致は偶然じゃないというか結構対比になってて、だからアンクって物語上は信吾とは全く別個のキャラだけど実は信吾の隠された一面を反映してる存在でもあるって意味でモモタロス的な存在なんだろうなと勝手に思ってて。
そうだとするならアンクのオチは伊達さんの「自分が死んでも残る何かがあればいい、後藤ちゃんが意志を継いでくれるなら」って話と絡めて、長い間アンクと一心同体で過ごしてきた信吾が、まぁアンクっぽい性格や見た目に寄ったりはしなくていいけど「アンクのためにも、助けてもらったこの命を精一杯生きる」みたいなニュアンスで"信吾の中に生きてますよ"っていうとこになるのが自然だなとなんとなく思ってたのよね。
でも実際は「アンクが利用する半死体(比奈が話に絡む動機付き)」っていう舞台装置以上の扱われ方は全然してなくて、これじゃエボルト(石動惣一)と大して変わらんじゃんって、今回見返して思った。キャラとして全く生きてない。

信吾本人の性格も描写が少ないとはいえ、というかむしろ少ないからこそなかなか面白いことになってて、1話では警察として化け物(カマキリヤミー)と応戦した結果殉職しかけ、41〜43話ではようやくアンクから解放されたのに散々体を人質として利用されていたことを悪く思ってないどころかずっと元気そうにヘラヘラ笑ってて、再び乗っ取られるときにも比奈に「大丈夫だから心配するな」と言い残し、今回も冒頭から仲間を庇って死にかけている。
……この人、映司よりよっぽど無欲で命知らずじゃないですか!?

真木姉や映司とのこうした"おいしい"共通点があるにも関わらず、結局それらが話として生かされることはついぞなく、本編と同様に今回の『復活のコアメダル』でも本当に空気だった。
比奈も比奈で「お兄ちゃんが帰ってきてないんです……」って話をしてたところにアンクが(信吾に憑いた状態で)やってきたって流れだったはずなのに、アンクが復活してることにだけ喜んで信吾についての言及は結局1回もしなった気がする。
「またお兄ちゃんの体を使ってるの?」とかなんか一言ないのかよって思ったけど、まぁ本編36話でも「アンクは信吾の体を危険に晒すと分かってるけど、それでもまだしばらくは憑いてていい」って、信吾よりアンクを優先してた(というのは正確にはちょっと違うが)しなぁとか思って。だからこの辺の話も「アンク≒信吾の一面」だと解釈するなら、割と納得できるんだけどね。


古代王の復活

・800年前の王……以下"古代王"がグリードと共に復活して世界はめちゃくちゃになったとのこと。ここはみんな説明がない説明がないって言ってるのを見るけど、正直これに関しては「また鴻上がやらかしました」以外の可能性が考えられないからわざわざ描く必要もないと思うわ。
1話の鴻上美術館でグリードが復活したのもライドベンダー隊の対応やケーキつくるのが早すぎることから十中八九は彼が意図的に(未必の故意的に)そうなるよう仕向けてたんだろうし、映画でもホムンクルスのノブナガをつくったり錬金術師のガラを復活させたり、未来でも懲りずにサメ,クジラ,オオカミウオなどのメダルをつくった結果、失われたメダルの力を借りてとはいえポセイドンに自我が芽生えてしまった訳だし。メダル絡みで何か起こったらほぼあいつのせいでしょ。
本編中では結局彼の目的ってはっきりとは明かされてなくて、ただ「映司/オーズを器として(紫以外の)コアメダルと大量のセルメダルを集中させることで、人間から進化した"神に等しい存在"を誕生させようとしている……らしい」ということが読み取れるぐらい。いや、それだけ読み取れたらとにかくヤバい奴だってのだけは間違いないんだけど。
その目的自体は最終回を経ても何も変わってる様子はなくて、映司は「どこまでも届く腕なんてなくても、仲間と手を繋げばいい」という思想に落ち着いてしまった以上は巨大な力を求めるメダルの器としてはもう使えない訳だから、その代わりとして一度は暴走したものの巨大な欲望を持ってることは間違いない古代王を復活させてどうにかこうにかメダルの器にできないものかとか考えたんだろう。そしたら案の定制御できなくて、仕方ないのでレジスタンス結成して倒しますと、そういう流れが僕には見えます。

 

動機は分かったけど、じゃあ具体的にどうやって復活させたの? という疑問が湧いてくる訳だけど、まず映像(30話)を見る感じ古代王の体は文字通りメダルの器……つまりグリード達が封印されてた箱というか棺みたいな"アレ"になったと見るのが自然だと思われる。
ぶっちゃけこの「暴走した結果古代王は石になって封印されました」って流れは「不思議パワーでアンク復活しました」「タジャドルのメダルはエタニティになりました」ってのと同じくらい意味分かんないんだけど、ともかくそういうことがあったらしいんだから仕方ない。まぁこうなることが予測できてた錬金術師たちが、オーズドライバーに元々そういう機能を付けてたのかなって思えばギリ納得できるくらい。
でもってその箱は、1話でグリードが復活する際にセルメダルとなって消えている。
大前提として、建物などの無機物だけでなく人間の体もセルメダルに変換することができるというのは本編において描かれていて、真木がグリードになってるのはもちろんとして、46話において完全復活したガメルが抱きついた人間をセルメダルに変えることでメズールを復活させようとしている。
以上の事実を踏まえて、質量保存の法則というものがこの世界にも存在するのなら、古代王の体は"封印の箱"になったあと"セルメダル"に変化して、グリードの体の一部になっていたことになる。そしてそのグリードたちの体を構成するメダルはドクター真木と共にブラックホールに消え去った後、40年後の未来に飛ばされてポセイドンと共に現代へ戻ってきた。ポセイドンを倒した後のメダルがどうなったかはディレクターズカット版を見ても描写はされてなくて、小説版や本作の映画では映司がコアメダルを使って変身していることから、元々そこにあったものとして現代に残されたのだと思われる。
……つまりあのときタジャドルとアクアの周りに散らばっていたセルメダルこそ古代王の体だったものであり、おそらく鴻上はさっき言ったメダル化された犠牲者たちを元に戻す方法を探すみたいな名目で10年間研究した結果、何らかの方法で彼の意識をサルベージしたのだと思われる。映司たちとしても、アンクのいる"いつかの明日"へ行くためには鴻上にメダルの研究をしてもらわなくちゃいけない訳なので、スーパータトバやサラミウオ以外のメダルまで未来へ返してしまう理由は特にないし。
"虚無の中"みたいな表現はセルメダルの中に溶けていたことの暗喩というか、その辺の設定をいちいち説明するとこんなに長くなっちゃうからふわっと説明するためのレトリックなんだろう。サルベージって表現をしたのはイメージ的に『エヴァ』のL.C.L化現象と重なる部分があったからなんだけれど、あれもデストルドー(死への欲求,無への回帰)の比喩だった訳なので虚無(虚無感)ってワードともそんなに相性悪くない。
メダルを使って世界をつくりかえる(ガラ)とか終わらせる(真木)とか神になる(古代王,鴻上)とか、根本的に『エヴァ』っぽい……というかいわゆるセカイ系的な設定なんだなとは本編見返してる時点で思ってたのでうまいこと脳内で合致した。

古代王の持っていたオーズドライバーやメダジャリバーに関しては、鴻上が新たに開発したものだと解釈してもいいし、ただ古代王があぁいうオーズみたいなデザインをしたグリードのような存在として復活したと考えても別にいい気がする。毛利さんの書いた小説でも仮面ライダーにそっくりなヤミー、仮面ライダーデスなんてのが出てきたし(※)。
プトティラメダルについては、どうやら『MEGA MAX』ではメダルが壊れてるから変身しなかったみたいな話がインタビューでされてるらしいんだけれども、劇中を見る限りでは明確に壊れたことが確認できるのは映司がギガスキャンに使った七枚だけであって、真木の中にあったメダルだと取るか、これまた鴻上の研究成果として新たにつくられたコアメダルだと取るかは自由だと思う。
まぁ映司を器にしようとしてたときにプトティラメダルが邪魔なんだよ……と嘆いていた訳なので果たして新たに開発する動機があるかと考えると微妙なとこだけど、実際映司はプトティラを宿しながらも暴走しなかった訳だし、何より"何かを誕生させる"ことにかけて鴻上が躊躇する理由があるとも思えない。万が一グリードが生まれて暴走した場合は抑止力にもなる訳だし、実際ビカソやゴーダメダルは開発に成功してる訳だから、技術的にはつくれてもおかしくはない。
ただ個人的には古代王の口調が明らかに小説版(鴻上とそっくり)と異なっているのが気になるので、真木と一体化していたプトティラメダルを吸収したことで人格が半分真木と同化した結果、あの上から目線なのに若干丁寧な言葉遣いの標準語になったのかなと思ったり。
※バースの章は伊達さんの書いた小説ってテイだけど、あくまで事実を元に脚色してるだけで全てが嘘ではない……ことになっている。本当に全部嘘だったら「オーズの過去,現在,未来を描く」っていう小説版のコンセプトが瓦解するしね。


オマケで復活したグリード

・グリードたちに関しては、本編や小説版では「不完全体だから相性のいいコンボを使ったオーズには勝てない」という描き方だったのに、見た目は完全復活してるにも関わらずプトティラを使う訳でもない古代オーズに頭が上がらないばかりか、映司が変身してた頃のオーズにすら勝てず映画開始時点でメダルを何枚か奪われているという話で根本的にパワーバランスがおかしいし扱いも雑なので、最初に見たときはグリードにそっくりだけど実は古代王が紫のメダルの力でコアメダル(無機物)にセルメダルを入れて生み出した"グリードという幻獣がモチーフのヤミー"的な存在なのかなとかなんとなく思っていたのよね。ヤミーだったなら、生みの親であるグリードに集めたセルメダルを自らの糧として吸収されてしまう末路は当然の帰結だし。
ただ鴻上がコアメダルの開発に成功していたのなら、割れたいくつかのメダルを補って10枚にし、再び1枚抜き取るというある意味正規の手順でまたつくられた可能性もゼロではないのかもしれない。
一番狡猾なアンクだけ……もとい恐竜グリードも含めて復活させなかったのは、単純に古代王が自分では御しきれないかもと思ったからなのかな? ……全てを手中に収めたい人間にしては器の小さな発想だけど。

なんか本編disばっかで申し訳ないけど、ぶっちゃけ本編でもアンク以外のグリード、或いは更に下のヤミーって割と散々な扱いだったよね。映司はアンクのことは復活させたいって思うくらい大事に思ってるのに、他のグリードのことは16話で「ちょっと……なんだか……(可哀想)」と言っていたにも関わらず、散々悪いことしてるから仕方ないとはいえ欠片ほどの容赦もなく淡々とメダル破壊するし。アンク以外のやつらは、どれだけ心を持っているかのように振る舞っていても所詮はただのモノ、メダルの塊に過ぎないっていうドライさが感じられる。
"いつかの明日"っていうのは、ヒューマギアにも権利が認められるようなイメージでモノに宿る八百万の神……まぁ要するにグリードたちのことだけど、彼らの存在が受け入れられる世界をつくるってことじゃなくて、単に一緒にいる時間が積み重なって仲良くなったやつ(いいやつって訳では決してない)だけは生きてていいけど、他のよく知らんやつはぶっ壊すっていう未来のことだったのね。ふーん、まぁ『オーズ』ってそういう作品だよな……って感じ。
グリードが欲望のままに生きれば、その代償として人間社会はめちゃくちゃになる。だから映司は人間社会の平和を勝ち取る代償として、グリードたちや真木を犠牲にするしかなかった。あのグリード4人の欲望まで含めて無責任に「素晴らしい!」と肯定してしまえるような器を持った奇人は、実際一緒の世界で暮らす訳じゃないから好き勝手言える我々視聴者を除けば一人くらいしかいないだろう。


アンクは復活させるべきだったのか

・人間が古代王に虐殺されようが知ったこっちゃないと言い切り、映司からの協力要請をバッサリ断るアンク……ゴーダ映司は「アンクらしいなぁ」って言ってたけど、この描写どう思いました?
僕はまず「それ見たことか」って思いました。そもそもアンクだって自分のことしか考えてないグリードという化け物な訳で、しかもそのグリードの中でも一番疑り深くて同族同士ですらなかなかつるむことができない生粋の自己中ときてる。本編の最後の最後までその目的は「自分のコアを取り戻して完全復活するだけでなく、他のグリードのメダルすらも取り込んで完璧な命を手に入れる」のまま揺らぐことはなく、気まぐれに比奈を助けるのだって流石に見殺しにしたら映司が面倒くさいって分かってるからってのが少なからずあったんだろうし。
本当に終盤になってからようやく少し変わってきた(映司を殺せない)ぐらいで、それまで芯の部分では決して人間に迎合することなく自らの欲望に従って生きているだけの"悪いやつ"なのに、映司と比奈は"一緒にいた時間"によって理屈じゃなく好きになってしまうというのが『オーズ』の肝、面白い部分だと思ってて、映司は利用してるってテイでずっとアンクという怪人の共犯者として完全復活の手助けをしてる構図なのよね。

アンクを利用して世界をグリードから守るってのがいいことか悪いことかっていうのはまだ議論の余地があるけれども、果たして無事平和になった世界でアンクを蘇らせようとするというのは許されることなのか? というのはしばらく思ってて……ファンの皆さん的にはどういう認識なんですかね。最終回でもう満足できたんだから復活したあとのアンクは人間に都合よく、完全復活して世界を飲み込みたいとかそれ以上の力を手に入れたいとか思わないで大人しくしててくれるだろうって解釈なのか、それともそういう欲望自体は持ってるけどアイスが欲しいとか映司と比奈くらいは流石に大切だって気持ちもあるから本編中のように損得勘定の結果としてなんだかんだ理由を付けて大人しくしててくれるってイメージなのか。
そもそも論として、アンクは死ぬことができたからこそ満足できたのに、メダルの塊として再び永遠の埋まらない欲望を持ちながら復活させられて嬉しいのか、それどころか「せっかく眠れたと思ったのに」と怒りはしないのかっていう論点もある。
MEGA MAX』におけるアンクは信吾の体を使ってないからなのか、アイスを食べてもおそらく味を感じなくて、何とも言えない顔をしていた。しかも40年後の未来から来たらしいのに一切老けていない。
それって本当に、アンクにとって幸せなことなのか? という。
理屈としては分かる。人間だって"確かな存在"では別になくて、ただ尊厳ある命かどうかっていうのは周囲からそう認められるかどうかって問題に過ぎないので、その意味で自分を命だと認めてくれる映司たちと一緒に過ごせてるうちはいいけど、彼らが死んだらアンクはどうなっちゃうの。
もし仮に"人間として復活"なんてことができるのであれば、人間社会からもアンクからも文句は出ないのかなって思うけど。……まぁ人工生命、況して人間を生み出すなんて倫理的にどうなのかって議論はそこでも有り得るし、だから根本的に"いつかの明日"って概念はどこかおかしいと思っていたのよね。
『エグゼイド』のように、人間社会そのものに改革が起きて「人間だって蘇ってもいいのかもしれない、新たな生命を生み出してもいいのかもしれない」っていう倫理観に辿り着く未来まで含めて言っているならともかくね。

そういう諸々の懸念を抱いていたら案の定「人間なんて知ったことか」「メダルを取り戻して完全復活するためなら協力してやる」って話だったから、最初に言った「それ見たことか」という感想になった。
ただまぁここにも解釈の余地は結構あると思ってて、別に本気の本気で人間なんてどうでもいいと思ってる訳ではもうないんだけど、だからって無条件にはい協力しますってのは勿体ないから、形だけ反対してアイスなりメダルなり交換条件として貰えるものは貰ってやろうという程度の打算なら、まぁかなり丸くなってて全然問題ないというか可愛いもんだとは思う。鴻上が本気でメダルの70%を欲していた訳ではないように、あくまで最初は"絶対譲らん"姿勢を見せるという交渉術としての演技なら。
……この話は終盤の方に続きます。


ゴーダという存在と映司の業

・映司の中にムカデ,ハチ,アリのメダルを入れた結果(?)生まれたのが、ゴーダらしい。元から"ゴーダメダル"というメダルとして鴻上がつくったものを映司に入れた結果グリードが生まれたからそいつにゴーダって名前を付けただけなのか、それともCSMで最初に商品化されたようなノーマルなムカチリメダルがタカコアやエタニティのように映司の欲望によって変化してゴーダメダルになったのかは分からない(覚えてない)んだけども、他の人のあらすじ解説を漁ってる感じ元は普通のメダルだったけど……みたいなことに言及してる人がいないので、作中で明確に変化するような描写はなかったんだと思う、多分。

仮に前者だとした場合まず鴻上が何故ゴーダメダルなんてものをつくったのかを読み解く必要があって、じゃあゴーダって何よと考えるとまず思い付くのはゴーダチーズで有名な土地の名前よね。僕はあんまり世界史には詳しくないので、小説における古代王の「元は小国だったが大陸のほとんどを支配した」という話を読んで、錬金術がどうのってのも西洋のイメージがあるしヨーロッパ旅行が云々って言ってたのもあって「あぁきっとイギリスのことなのかな」となんとな〜く思ってて、でもってこのゴーダがあるオランダも割と近くにあるヨーロッパの国だから「お、なんか関係あんじゃね?」と思ったんだけど、調べていってもこれと言ったヒントは見つからず……。
というところで僕、やっと気付きました。かなりの広範囲を支配した国ってもうひとつありましたよね、モンゴルが。大英帝国は世界大戦の頃にも出てくるからそれほど昔ではないのに対してモンゴル帝国……それもいわゆるチンギス・ハンがいたのは本当にドンピシャの800年前、西暦1200年辺りのことらしい。よくよく考えたらその古代王の子孫が鴻上なんだから、古代王がモンゴル人(というかチンギス・ハンその人?)だったなら日本人的な顔なのは納得がいく。日本人もルーツを辿ればモンゴロイドなので。砂漠を旅する映司も、遊牧民をイメージしたものなんだろう多分。
でもモンゴルに錬金術ってイメージないけどあったのかな……ってとこが不安だったけど、それこそまさに『鋼の錬金術師』に出てくる"グリード"はモンゴルっていうか中国から来たアジア人のリン・ヤオ(ちなみに王様候補)に憑依していたし、たまたま同じ名前なんじゃなくてどう考えてもアンクの元ネタこれじゃん。なんてことだ、あらゆる要素が綺麗に繋がっていく……き、気持ちえぇー! でもなんで今まで気付かなかったんだろう……。
ハガレン曰く中国のは錬金術ではなく錬丹術と言って似て非なるものらしいけど、まぁぶっちゃけ同じようなもんでしょ。要するに「昔の科学」だよね。モンゴル帝国がヨーロッパを侵攻していく過程で両者は多少混じり合う部分もあったのかもしれない。
ちょっと流石に脱線しすぎなのでゴーダに話を戻そう。地名のゴーダに関係があるかどうかってところで、800年前の王国がヨーロッパなら関係あるかもって思ったけど、ここまで辻褄が合う以上モンゴルでほぼ確定だと思うのでこの線は一旦ナシとする。唯一ガラが眠っていたドイツはどうやらモンゴルの支配下にはなっていないっぽいんだけど、ガラはどうも古代王と仲が良かったとは思えないのでモンゴルの外に逃げたとかそういう歴史があれば筋は通る……かも?

※訂正 色々調べると、800年前の王はモンゴル人ではないと思われる↓

特雑自説発表会 第1回(オーズ,クウガ,アバレンジャーetc.)

 

鴻上が自らゴーダという土地にちなんで"ゴーダメダル"という特殊な代物をつくったという可能性は低そうだとするなら、もうひとつの可能性である映司の欲望に反応してメダルがゴーダメダルに変化したのだと考えてみるとどうか。
一旦視点を作中から現実に戻したとき、最初に僕がゴーダという名前から連想したのは、これも『エヴァ』っぽいけど音楽記号のコーダだった。記号の意味としても"終わり"だし、エタニティとも対になるので完結編となる本作には相応しいと思われる。毛利さんが言っていた映司の業と終わりを意味するコーダを合わせた造語が"ゴーダ"だという仮定の元に話を進めてみる。まぁその名前をゴーダ本人が名付けたのかよって言われるとそれは微妙なんだけど、その辺はウヴァ(奪う),カザリ(飾る),メズール(愛づる),ガメル(がめる)も同じことなので目を瞑る。
ゴーダのセリフの中で一番ショッキングだったのは「(少女は)死んだよ、そういう運命だったんだ」みたいなセリフだろう。何より実際には少女は生きているのだから、こんな無神経な嘘さえ言わなければゴーダは正体をバラさずに済んだかもしれない訳で、そういう打算を抜きにしてポロッと口から出たからにはゴーダにとって何らかの重要な意味が込められていると見たときに、あの発言は少女に対してではなく、本当はアンクの死に対するものだったのかなと思う。復活させようなんて風に足掻くのではなくて、潔くそうやって死を受け入れてしまった方がいいのではないか……或いは"楽になれる"んじゃないかという、映司の中の迷い。
映司という人間は、本編序盤では「明日のパンツと少しのお金があればいい」という無欲なキャラクターだったが、アンクとか変わっていく中で段々"あまりにも大きすぎる欲望"の持ち主であることを露呈していく。序盤の無欲さというのは言わずもがな内戦地域の少女を救えなかったことに由来してる訳だけど、本人も"休憩中"と言っていた通り日本に帰国したのはどう考えても現実逃避なのよね。今このときも世界では多くの人が死んでいるかもしれないけど、平和な日本にいれば手は届かない代わりに視界にも入らない。そういう悲しい事実に直面することに耐えきれないから、いっそ見ないことにしよう、救えないものは諦めてしまおうという心理が彼の中にあって、無欲であることというのは彼にとってある種の"救い"だったはず。

「手にしたいものがない者に 眠れぬ夜はないんだ
 守りたいものがない者に この怖れなどないんだ
 握りしめることもなければ奪われることもないんだ
 失くしたって気付かぬ者からは 何も奪えやしないんだ」
億万笑者/RADWIMPS

尤も、そうやって逃げてきた日本であんな戦いに身を投じることになったのは災難としか言いようがない。ともかくそうしてアンクと一緒に戦っていく中で映司は元々持っていた抱えきれないほどの欲望を取り戻してしまった訳で、もちろん「みんなと手を繋げばどこまでも届く」というのは新たに得られた知見ではあったかもしれないけど、その綺麗事で果たして本当に世界から紛争をなくすことができたのか、救いたいと思った人を全員救えたのかと考えると、必ずしもそういうことばかりではないんだと思う。
なんせ「全員家族」だなんて本気で言ってのける人な訳で、ほんの少ししか関わったことがない人でも死んでしまったら家族が死んだのと同じくらい悲しい……そんな価値観で再び世界を巡る旅に出て、普通に考えたら正気を保っていられるはずがない。実際に小説版では、紛争地帯で結構長いこと暮らしている描写がある。手を繋いでいけば"いつか"は戦争も終わらせられるかもしれないけど、そんな一朝一夕にいくはずもなくて、結局はオーズの力に頼って"自分一人で"その国にある目ぼしい兵器を破壊して回ることで、話し合いの時間を稼ぐのがやっとだった。その後の話し合いで本当に解決したのかどうかは、我々は知る由もない。
10年の間に何があったのかは想像するしかないが、少なくとも今回東京では古代王によってあれだけの破壊(と殺戮?)が行われて、映司の知っていた人も大勢死んだかもしれない。しかもその元凶が仮に鴻上だったとするなら、メダルの研究協力員として映司がしてきたことはその片棒を担いでいたも同然……と言える。鴻上は全くもって悪びれた素振りを見せないが、それは前述の通りこれまでのやらかしでも同じことなのでそれを根拠に無関係だとはとても言えない。

また、アンクも似たようなことを言っていた通り「決して満たされることがない大きな欲望」を持ったまま生き続けることがどれだけ苦しいことなのか映司は10年間その身をもって感じ続けたのだろうし、そこへ更に後ろめたさも加わることで、本人は意識していなかったかもしれないが彼も神や仏ではないのだから、やはり心のどこかでは「諦めて死(終わり)を受け入れたい欲望」が大きくなったのではなかろうか。小説に出てくるアルフリードは、一応作中では勘違いという結論になっていると思うもののまさに「青年(映司)は死にたいと思っているのではないか(227P)」と指摘している。
毛利さんの言う映司の背負った"深い業"というのは、おそらくこの「満たしきれない欲望を持ってしまったこと」なのだと思う。だからこそ、"彼が満足できるハッピーエンド"などというものは原理的に存在することができなくて、仮になんの代償もなくアンクひとりを復活できたとしても、それであたかも"満足"したかのようにハッピーエンド風に演出して締めてしまったら、当時示された「俺の欲望はこれくらいでないと満たされない!」という彼の底なしの貪欲さというキャラクター性を否定することになってしまう。
「少女やアンクの死を受け入れて楽になりたい、"満足できる終わり"を迎えたい」という欲望を体現したのがゴーダというグリードなのだと考えれば、業+コーダという名前には納得がいくので、とりあえず僕としては「鴻上がゴーダメダルを映司の中に入れた」のではなく「映司の中に入れた結果"ゴーダメダル"というものに変化した」という可能性の方を支持したい。
この話も終盤に続きます。

ちなみに、途中まで「瀕死になった映司の中にゴーダメダルを入れたことで延命させた」もんだと思い込んでたけど、だとすると鴻上はどうしてそのことを黙っていたのかよく分からないので、延命処置になったのは結果論であって、実際は少女を助ける前から入っていて、映司が『ネット版』で「アンクを復活させる方法を見つけた」と言っているのは、自分の欲望からゴーダが生まれたという前例があったから同じ方法で可能だと思った……という流れなのかもしれない。元々は映司本人の意識とゴーダが、良太郎とモモタロスのように共存していたのだとすれば、映司が表に出していない無意識の欲望(少し歪んだ欲望)だけを司っているのには納得がいくかもしれないけど、ちょっとこれは見返さないと自信ないので保留で。


プトティラコンボ

・古代王がその身に宿しながら使わなかった3枚の恐竜メダル……まぁ彼が力として使用しなかったのはせっかくすべてのメダルを集めたいのにうっかり破壊してしまったらたまらないからってのもあるのかな。
不意を付かれたんじゃなくてわざと吸収されたからなのか、アンクロストに吸収されそうになるけど抗うっていう経験を既にしたことがあったからなのか、それとも他のグリードがヤミーだっただけなのかは定かではないけども、古代王の中でも自分の形を保っていられたアンクがプトティラメダルをゴーダに渡すシーンについて「本編では強大な力ゆえに掴むことすらままならなかったはずなのに」と指摘している人がいて、理屈はよく分からないけど確かにそんなこともあったなと。
ただもしこれが真木の意志が宿ったメダルだったとしたら(本編では真木の意識がメダルそのものに宿っているという明確な描写はないんだけど、体がセルメダルの塊になってる以上はそうなんだろう)、全く知らない古代王なんかに取り込まれているよりは、まだお互いの欲望をかけて戦い合ったアンクや映司に使われた方がマシだと思って協力したのかもしれない。敵だったキャラが味方になるときにありがちなやつ。


仮面ライダーゴーダと増殖するベルト

・日野さんは努めてヒールっぽく、嫌らしく見えるように演じているけど、ゴーダは別に"悪いこと"をしたい訳じゃなかったと思うのよね。古代王のメダルを取り込むときも「映司は暴走しなかったんだから俺でも器になれるよな?」と確認していて、少なくとも真木がウヴァを使ってやろうとしたように、暴走して欲望のままに世界を飲み込むことが目的ではなかったのが分かる。
もしかすると鴻上の思想通りに、器としては不完全な古代王からメダルを取り返して、自分が完璧な器,神となって「欲望による世界の再生(仮面ライダー図鑑より)」……『エヴァ』のサードインパクトのような方法で映司が満足できるような幸せな世界に作りかえようとしていたのかもしれないし、アンクをも取り込もうとしたことは映司の意志とはもはや無関係に暴走している(≒親殺しなので"仮面ライダーゴーダ")と捉えてもいいかもしれないけど、映司の中に「他者として手を繋ぐのではなく、またアンクと"ひとつ"になりたい」という欲望もあったのかもしれない……最終回のように。
どっちにしても「映司の欲望を満たしてやる」という言葉に、嘘はなかったんじゃないかなと僕は思う。

問題は映司自身がそれに対して葛藤を持っていて、拒んだこと。瀕死だった映司がゴーダを止めようと抵抗したのでゴーダは映司の体を分離するんだけど、このときまたオーズドライバーが確かに増えていて、仮面ライダーゴーダの腰に巻かれたベルトとは別に、ラストでエタニティに変身するためのベルトが映司の体の方に残っている。
まぁこれも僕は仮面ライダーデス,古代オーズと同じで「そういう見た目のグリードとして分離しただけ」なんじゃないかなと思ってる。まぁ本当にオーズドライバーが増えてるなら増えてるで、ちょうど3本になってるからなんか理由や意図があるのかなって思うけど。例えば、これで伊達や後藤もオーズに変身して、小説のように誰か一人がオーズの力で解決するんじゃなくて、何人かのオーズ同士が助け合う≒対等に手を繋ぐことができるようになった……とか。
まぁ、似たようなことは『将軍と21のコアメダル』のラストでもやってるしね。ガタキリバの能力を応用すれば増やすことは可能……なのかもしれない。


バースXの活躍

・「ババンババンバン、バースゥ〜www」
気にするなって言われるかもしれないけど流石に初めて聞いたときはバカにされてるかと思ったね、この音声。オーズのコンボソングも、子供だったから"そういうもん"と思えたけどいい大人になってから聞かされてたらそう思ったのかもしれない。
この時点ではもうグリードも残ってないし屑ヤミーも確かいなかったと思うから、記憶違いじゃなければ確かに誰一人として撃破できてなくて扱いが悪い……とも言えるかもしれないけど、まぁ多分制作陣的には「タジャドルエタニティが生まれるまでの時間を稼いだんだから十分大事な役割でしょ?」みたいなつもりなんだと思う。僕はあんまり戦績とか気にする人じゃないので、どっちでもいいんだけど。


タジャドルコンボエタニティ

・アンクが映司の体に憑依したことで精神世界での会話が始まる……まぁ今の映司よりは回復してた信吾とはそんなことしてなかったやんとは思うけど、単純にそれをするかしないかは憑依してるアンクの匙加減なんだろう。もしかすると描かれてないだけで、精神世界で信吾からずっと説得を受けていたから少しずつアンクも人間に寄っていった……みたいな裏設定があるのかもしんないし。だとしたらそれは描けよ! って思うし、小林靖子さんの言う「本編をアンク視点で描く」物語では描かれた……のかもしれない。
「死ぬ間際に願ったら割れたタカコアが戻った」「思いを込めて握ったらメダルがエタニティ仕様になった」みたいな"ロジックのない奇跡"はご都合主義だって言う人も結構見たけど、それ言い出したらアンクの「タカ! クジャク! コンドル!」コールとか、そもそもなんでタジャドルだけオーラングサークルが特殊だったりタジャスピナーとかいう専用武器が出てきたりタカヘッドが通常のものからパワーアップしたりするのかってこととか、「属性は不揃いだけど800年前の王が初めて変身した組み合わせだからタトバはコンボなんです」とかだって理屈別にねーじゃんと思うんだけどね。なんで現代の技術で再現できないコアメダルの製造なんて異形を800年前の錬金術師が成し遂げてるんだってこともあるし。
まぁタジャドルだけが特別なフォームである理由っていうのは「他のグリードと違ってアンクだけは自分の意志でオーズにメダル貸してるから、秘められた力を最大限引き出せる」のかなって、今回見返してて思ったは思った。
一応、仮に800年前にいたグリードは本来みんな並列な存在だという前提が間違ってて、「不死の象徴である火属性のタジャドルと、既に絶滅した氷属性のプトティラ」という対極の2組だけは他の4属性と違って元々別格の存在だから専用武器があるっていう可能性もある。メダガブリューは他のコンボの力を使えるのにタジャドルのコンボソングだけ入っていない(詳しくは玩具を参照)ことと合わせて考えると、ロストブレイズによって突然できたブラックホールも、本来ならあり得ない奇跡の必殺技だったからこそ相反する力がぶつかりあって生まれたものなのかもしれない。本来なら相容れないから、アンクが恐竜メダルを掴めなかったように弾き飛ばされるはずが、そうならなかったと。
どっちにしても結局「映司とアンクが力を合わせることによる奇跡」は起きてる訳で、今回の復コアだけが特別に設定を無視している……というのは、ちょっと本編を神格化、もとい思い出補正かけて見すぎなんじゃないかなと思う。


映司の死と、アンクの復活

・一番賛否があるのはここな訳だけど、まぁ見る前にこの情報を入れたときにまず思ったのは「『ジオウ』剣編でビターエンドをハッピーエンドにしたら、台無しだという声が結構あった」ことを踏まえての、この展開なのかなということ。毛利さんは剣編こそ書いてないけど『ジオウ』のサブライターだったし。

という前置きをした上で本題に入るけど、さっきゴーダは映司の自殺願望の表れなんじゃないかという話をしたので、「もしそうなんだったらゴーダを否定して倒した後に映司が死ぬのはおかしいじゃないか」と思った人がいるかもしれない。
結論から言うと僕は映司が死んだとは思ってない。というのは、"死,終わりを受け入れる"ことがアイデンティティ(死んだよ、そういう運命だったんだ)なゴーダを倒したというテーマ的な側面からもそうだし、タジャドルコンボ"エタニティ"という名前なんだから永遠になったんだろうなという素朴な感覚としてもそう思う。それに、エンドロールでこれみよがしに映されていた"明日のパンツ"……一見よく知らない人からすれば墓標に見えるかもしれないけど、あれは「今日をちゃんと生きて、明日へ行くための覚悟」の象徴なんだから、本当に死んでる訳がなくない? 『MEGA MAX』を意識してるのは言うまでもないんだから、そのセリフだけ聞き逃してるなんて有り得ない。

映司が選んだのは「アンクの中で一緒に永遠を生きる」という道。まぁ伊達さんの言ってた「自分が死んでも意志を継いでくれる人がいればいい」ってのと似ているようで、若干違うと言えば違う気もしてる。
映司はアンクの中に宿ることで「一生満足することのできない欲望」を抱えたまま、グリードのように生き続けることを選択した。その深い業とやらを永遠に背負い続けるのは単にアンクひとりだけをそうしないという『剣』的な理由も勿論あるだろうが、そうすることによって「いつかは来るかもしれないけど、一朝一夕では実現できない大きな理想」……世界中の紛争を止めたり、最終的にはもしかすると誰も死ななくていい世界になったり、そういう"手を繋ぐ"だけでは生きてるうちに叶えられなかったはずの欲望を、アンクの体を使って永遠に手を繋ぎ続けることで、現実のものにしようとしているのだと思う。
アンクひとりだけの復活などで妥協して満足するのではなく、本当の意味で全ての欲望を叶えたかったからこその半グリード化……これはアンクにとってもメリットのある"契約"だったはずで、これは映司とアンクのどちらかが得をしたり犠牲になったりする訳でもない、正真正銘のギブアンドテイク。

アンクが本当にただのグリードとして復活したんだとしたら、さっき言ったようにアイスの味も感じられず満たされないまま永遠に生き続けるというあまりにも救いがなさ過ぎるオチなので、これは解釈として却下。だとするならもう有り得ないけどこれしかなくて、アンクは五感を感じることのできる人間とほぼ同等の存在でありながらグリードとしての不死性も持った、本当の意味で"完全な命"を手に入れたんじゃないかと思う。
それはアンクが本編の最初から欲しがっていたもので、途中映司を裏切って真木につきメダルの器になってでも叶えたかったものだったはず。
本編の最終回では本来の願いを"妥協"することで"満足"できるという、人間と同じような逆説的でアンビバレントな境地に達した訳だけど、映司は「お前が本当にしたいことなら……」と言いつつもその結果を受け入れられなかった。だからこそ、本当はそんなこと望んでいないかもしれないアンクを復活させるにあたって、映司は「死によって感じられたものを超えるほどの満足」をアンクに与えなければならなかった。


そういう意味で、人間の価値観に近付いて人間に都合よく丸くなった後だけじゃなくて欲望の化け物だった頃のアンクも含めて尊厳を認めているからこその「五感を持った上で永遠に生きられる人間とグリードのどちらでもある体」をプレゼントするという結論であって、そのために映司は自分の人間としての生命エネルギーを全てアンクに注ぐ必要があったと。
良太郎とモモタロスのように映司とアンクの意識がひとつの体に共存してると言うのともまた違って、ほぼ完全に融合してしまって互いが互いを認識できない状態なんだと僕は思う。まぁ本当にこの辺はね、これから先もう新作がつくられない以上はどうとでも好きに妄想できるところなのでいつも通り好き勝手に解釈させてもらうけど、根本的に今回のアンクには冒頭からずっと違和感があって、前回の記事でも言ったけど「やたらよく喋る」し、それ故に状況を把握できなくて困惑したりと「変に人間っぽい」のよ。「信吾の記憶を見ないのは脚本の都合で設定を無視して動かされてる」と言ってる人もいたけど、人間的な感性を持っていたからこそ記憶を覗いた上でも「とても信じられない、受け入れられない」と思って不安だったから、或いはそもそも動転していて記憶を覗けばいいということに思い至れなかったから、ひたすら周りに説明を求めていたのかもしれない。
この違和感を単に"出来の悪さ"として切り捨てることもできるけど、「兄を人質に取るようなどんなに憎らしいやつでも、一緒にいる時間が積み重なれば受け入れられて大切な存在になる」というのが『オーズ』のテーマだった以上、今回発表された新作に対しても「たくさん見て違和感があるところにも慣れて、受け入れる」という態度を取るのが理想的な姿なのかもしれない。
そういう意味で、アンクが全然アンクらしくないという欠点は「人間である映司と一体化したことによる副作用」だと解釈することにしました。だって素のアンクが正直に「再会を喜ぶ」なんて表現するはずがないし。

アンクが映司に「なんでそんなことした!」って怒るシーンも、最初は「最終回での自分の思いを無駄にしやがって!」っていう本気の思いを感じて、今回の映画のアンクの中だと唯一くらいに感情移入できたシーンなんだけど、冷静になってよくよく思い返してみると、あのときアンクが"したかったこと"って、映司がまたプトティラを使ってグリードになってしまうことを防ぐためにタジャドルに変身させたかったってことのはずで、映司が本当にその思いを"裏切った"んだとしたら、それは「人間として死期を迎える」ことじゃなくて「不死身の怪物になる」ことの方なんじゃないかと思って、だとしたらあのときアンクがキレてたのは映司が自分と一体化して不死身の怪物になってしまったからだと考えた方が筋は通るかなと思った。もちろん人間としての映司が死んでしまうことは悲しいんだろうし、そこは感情として共存できる、人間なので。まぁ勿論「なんで復活させやがったんだこの野郎」っていう可能性もなくはないんだけど、本当にそのつもりで言わせてるんだったらこんな作品つくる訳はないし。


前提として、特に『平ジェネFINAL』の客演におけるアンクは終始"映司の欲望の対象物"でしかなくて、アイスが食べたい以上の自分の欲望を発露することもなく、そもそもセリフ自体が少なく、ただ彼を気持ちよくするための"お人形さん"だったような印象を受けていたのよね、僕は。
だからこそ、本当の意味で復活させることが命題だった今回の映画では「よく喋る、きちんと自我を持ったアンク」を描く必要があったのかもしれないなと。
逆に『MEGA MAX』のアンクは、特に水が苦手だというミハルを馬鹿にしてケタケタと笑うシーン……馬鹿にするのはアンクらしいけどそこまで感情を露わにするか?っていう意味で今作と同じような違和感があったのよね。あれも今回と同じで人間としての感性があったからあんな表現になった、という再解釈もできるのかもしれない。
前述した「アイスを食べてなんとも言えない顔をしていた」シーンも、味を感じなかったんじゃなくて味を感じたからこそ「本当に映司はいなくなって、自分と一体化してしまったんだな……」という意味で感傷に浸ってたのかもしれない。
まぁ『MEGA MAX』ではエタニティじゃなくて普通のタジャドルだったんだから今回の映画とはパラレルですって言うこともできると思うけど、エタニティになってないコアもあるんだとしたら別に矛盾はしないし。最後のギガスキャンのシーンで3枚以上出てきたときにエタニティだったかそうじゃなかったかまでは一瞬すぎて見えなかった。バースXのビカソメダルみたいに、意思は生まれてないメダルとして新しくつくることも不可能ではないしね。

比奈が「欲張らない」のは、この辺の映司がどういう思い出その決断を下したのかって話をきちんと説明しようと思うとめちゃくちゃ難しい話になってしまって絡め辛いから「どうせ結論としては納得してくれるのでいっそ描かない」ということにしたのかなと思えば、まぁ。

 

 

…………以上が、落ち着いた状態で中立的かつドライに「こういう解釈の仕方もあるかも」と考えてみるといういつものスタイルでじっくり考えたときの、僕の『復活のコアメダル』に対する感想です。「くそつまんねぇ」という観たときの感想が消える訳じゃないけど、それを自分なりに消化して納得することはできたかな。まぁまた見直したら「相変わらず安っぽい作品だなぁ!?」って思う可能性は否めないが。

 

記事を書くにあたって、あらすじを振り返るのに↓の記事、

仮面ライダーオーズ(映画2022)ネタバレあらすじ感想と結末解説。10th復活のコアメダルでのファンが待ち望んだヒーロー復活とは⁈|邦画特撮大全107

そして他の人の感想として↓の記事を参考にさせてもらいました。

【ネタバレ感想】オーズ本編を全否定する映画「復活のコアメダル」|fujika_san|note

86ma.hatenablog.com

器に収まらない欲望の暴走『Vシネクスト 仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』 感想

見てきました。本当は見る予定がなかったのでネタバレとかも普通に知ってたんだけど、周りの反応を聞いてくうちに気になって、本編,映画,客演,小説と全部見返してから行った。
公開から1ヶ月近く経つけど、もしまだ見ようか迷ってるけど見ていないという人がいたら、個人的には"映画館で見る"ことをおすすめしたいです。エイプリルフールの時期だし、騙されたと思って騙されてください。

以下ネタバレあり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全体的に安っぽい

なんで見た方がいいかっていうのは後述するけど、第一印象はとにかく「くそつまんない」だった。
映司が死ぬっていう大まかな展開は既に知っていたので、それをどのように自分の中で理解,解釈,納得するかって視点で散々復習した上で、実際の描かれ方からその展開がどういう意味を持つのかを確認しに行ったんだけど、そういう理屈はもう二の次,三の次だった。内容の吟味は落ち着いてやろうと思えば後からいくらでもできるので、ともかく前半は「なんだこれ」って思った熱をそのまま書くこととする。
事前に想像してた通り、絶対元々TTFCで展開する予定の作品だったんだろうなというのが予算的な意味でもひしひし伝わってきて、とにかく安っぽい作品だった。賛否がどうこうアンク復活と映司の死が云々より、一番最初にまずそれを言わなきゃ話にならない。逆になんでみんなが冷静にストーリーについての話をできてるのか理解できない。やっぱ初見だとそっちのインパクトで誤魔化されるのかな、だとしたらネタバレ見てから見に行ったのは間違いだったかもな、ちゃんと驚いてあげればよかった。
本当はね、感想も書きたくなかったんですよ。この作品は、真面目に話をする価値がないと思ったから。TTFC限定スピンオフも『RTシノビ』『ブレン』『グリドンvsブラーボ』『スペクター×ブレイズ』と色々増えてきたけど、あの辺の作品について通常の映画並みに熱く語ってる人いないでしょ。
大して描く話もないから、とりあえず新ライダーや新フォーム出すだけ出して「とにかく見てください!」って言う感じの空気感……伝わるかなぁ。普通の劇場版でこんなに新フォーム大盤振る舞いすることってなくない? 流用してるとはいえ古代オーズ,ゴーダ,バースXにタジャドルエタニティで4つってかなり多い。
例年の劇場版やVシネなら敵ライダー1体と劇場版限定フォームがひとつあるくらいで、『100の眼魂』とか『Over Quartzer』みたいな例外もあるものの割とひとつひとつが凝ってるし見せ場もきちんと用意してくれるんだけど、今回はあまりにも量を出し過ぎで下品だなとすら思ったのよね。その予告の時点から安っぽい印象は抱いてたので、単なる先入観でものを見てる可能性は否めないが。

映像面でも正直僕は満足のいくシーンがほぼなくて、どう見ても3人しかいないガタキリバなんかもう言うまでもないけど、どこがって訳じゃなくもう全体的にこれまでの映画やVシネと比べて見劣りする印象だった。荒廃した世界っていう設定だから仕方ないのかもしれないけど、ロケーションの見え方がどこも似たような感じで代わり映えがしなかったってのもあるのかなぁ……? むしろそういうとこでしか撮れないから逆算してあぁいう設定になったのかもしれない。
何より、あの一番大事なエタニティ活躍シーンですら正直金はかかってるように見えなかった不思議。他のシーンと比べたらよっぽど迫力あって良かったけど、ワンパンマンとかもっと酷く言うとうごメモみたいだったというか。
素早く、ある意味で雑に描くことで勢いや迫力を出すタイプの工夫が施されてるように見えて、あれも結局安っぽいなって僕は思っちゃったんだけど、見る目がないだけで実はめっちゃ手が込んでたりするんだろうか。

作品としての規模というか"器"みたいなものが、あれらTTFCのスピンオフとほぼ同レベルか毛が生えたくらいであって、これまで展開されてきた劇場版はおろかVシネマ作品たちと同じ温度感で見ようとするとどうしてもバカバカしくなってくるので、感想記事を書くのが「れっきとしたひとつの作品」として認めるみたいでイヤだった。大真面目に批判する価値も感じないというか、見なかったことにして黙殺するのが一番いいタイプなんだけど、後述する理由で無視するのもよくないと思うジレンマ。
本作を見るうえで予習しておくべきは、オーズ本編じゃなくて過去のそういうスピンオフです。本編や本物の映画と比べたらどう頑張っても見劣りするけど、『仮面ライダーブレン』とかの系譜だと思ってみたらマシに見えると思う。まぁ僕は『ブレン』結構好きなんだけど。不必要に風呂敷広げるでもなく、分相応な範囲で割といいテーマ扱ってるので。

 

セリフが説明的すぎ、アンク喋りすぎ

描いてる内容を理解する前に、描き方に違和感があるのでそこまで頭が追いつかないのよね。よくある感覚として一番近いのは「演技が下手くそで内容が入ってこない」かな。
別に本作の役者さんたちが直接下手だって訳ではなくて、演技にブランクのある方々も立ち居振る舞いはそれほど当時のイメージを崩さずにやってらっしゃったと思うんだけど、唯一アンクだけは乖離が激しくてちょっと見ていられなかった。初っ端の蘇るモノローグからして「なんだァ……どういうことなんだァ……」みたいな無理に低くした声がやけにジメジメしてて(当時のアンクはもっとカラッとしてるというか、ドライだった)、その発声自体は割とずっと続くから本当に違和感が強くて、そりゃあ10年も経ってる訳だから声や顔が変わるのも仕方ないってのは当たり前だし、そこんとこにとやかく言わないのはみんな大人だからなんだろうけど、僕が一番良くないと思ったのはやっぱり細かな"セリフ回し"……だから要するに、脚本の仕事だよね。

根本的な話、インタビューでも言われている通り概ねアンクの視点で話が進むんだけど、これがもう全ての元凶かもしれない。
アンク役の三浦さんの声が思ってたより変わってたのは誤算だったのかもしれないが、そもそもアンクってそんなにべらべらよく喋るキャラではないじゃん。毛利さんの『小説 仮面ライダーオーズ』も読んだけど、あれの悪いところがそのまま映像化されてた感じだったね。いちいちセリフが多いんだよ。
おぼろげなまま話すけど、冒頭で決定的に変だなと思ったのは「世界はどうなってる? ……おい! 説明しろ!」みたいなセリフ。1回訊いてるんだから、2回目は「おい!」だけで伝わるじゃん。なんなら「世界は」って部分もなくていい。訳も分からず復活して、更に世界が荒廃してて……って状況なんだから「……どうなってる?」だけで言いたいことは分かる。「気安くアンクって呼ぶな」ってのも聞いててタルかったなぁ……「気安く呼ぶな」でいいだろ。
あとあれね、鴻上がアンクに「使いたまえ」ってメダルを渡した直後に「使ってやる」って言うとこも「はぁー?」ってなった。「あぁ」とか「フン」とか、或いは何も言わずに軽く睨みつけてから受け取るとか、そんなもんだろアンクは。

確かに小説だったらまだ話も別で、映像で伝えられないぶんすべて地の文やセリフで、つまり言葉で説明しなきゃいけないことがたくさんあって、うまい小説家とかなら言いたいことを伝えつつぼかすテクニックとか持ってるのかもしれないけど、そうじゃない人がいきなりそれを目指して何も伝わりませんでしたってなるのは一番危ないので、説明し過ぎて無粋な感じになるのは一種仕方ないことではある。
だから小説は我慢して読んだけど、なんで映像でも同じことやってんのよ。何でもかんでもセリフにして、表情とか演技で見せるってことがほぼない。
とにかく表現が安直でかったるい説明ゼリフが多過ぎて、これで「子供も見る映画なので分かりやすくしました」って言うんならそれも仕方ないなって思うのに、監督は「(当時の子供も大人になってるから)映司とアンクに起こったことを理解し、受け入れてくれるんじゃないかと思いました」と言っていることからも明確にメインとして想定してるのはある程度以上の大人だよね、だったら言い訳にはならない。マジでずっとバカにされてる気分だったね。

この"アンク視点"と"説明ゼリフ"と、最初に言った"声変わり"の3つが相互作用をして、全編ずっと違和感だらけで全くストーリーに没入できなかった。
だから三浦さん個人が悪いという訳では決してないし、翻して脚本だけが悪いと言うつもりもない。監督にしろ役者にしろ、アンクはこういう言い方しないだろうなって思ったら現場で変えればいいんだから。
ちなみにアンク視点で話をつくるというのは小林靖子さんのアイディアの一部を参考に抜き出したものらしいけど、僕にとってはあまり関係なくて誰のアイディアだろうが変なものは変だった。この違和感については後日出すかもしれない後編(そっちではいつも通り落ち着いて解釈とかする予定)でも少し触れます。

 

結局表面をなぞっただけでは

作品自体が薄っぺらいので、薄っぺらい話ばかりになってしまうのは勘弁して欲しいんだけど、とはいえ一応ストーリーの方にも触れておくかぁ。
以上に挙げたような表面的なモヤモヤが積もり積もっていたので、肝心のストーリーに対しても、事前準備の段階では色んな擁護の仕方を考えてて否定する根拠の方はあまり考えずにいたのに、もう完全に冷めちゃってて「アホらし」と思いながら見ていた。
『オーズ』と真摯に向き合った結果として導き出されたこれしかない結論ですみたいな雰囲気を醸してるけど、単に小林靖子のモノマネしただけなんじゃないの? っていう……。

まぁまずゴーダ周りは『電王』っぽいよねというのは言うまでもないとして、残酷な展開(笑)は『アマゾンズ』意識なのかね、知らないけど。ゴーダが変身したオーズがプトティラになるとこと、あと確かウヴァをいじめるとこで流れてた戦闘BGMもどことなくゾンズの劇伴っぽかった。
映司が死んでアンクが看取るシーンとかどう見ても『龍騎』49話のパクリだった。まぁ僕はあの展開あんまり好きじゃないので特に神格化もしてないんですけど、要約すると「俺は女の子を助けて死ぬけどお前はせめて生きろ」と願いを告げるって、もうまんまじゃん。元々映司の設定はそこを意識してつくられたんだとしたら、当然っちゃ当然なのかもしれないけど。
確かに小林さんのライダーって真司と鷹山と千翼は死んだし、良太郎も死んでこそないけど子供になったかと思えば存在すら出てこなくないのが通例化してる(良太郎が出ないというよりイマジンが出過ぎなだけだが)から、小林靖子のライダー主人公ならいなくなるのは当然の帰結だろうとでも思ったのかね。

ともかくこの記事で書きたいのは「ちゃんと復習して色々考えて準備したのに、それが全部バカらしくなるような作品でした」ってことで、実際スタッフがどんなに深いことを考えてこの作品がつくられたのかは知る由もないけど、少なくとも色んなノイズのせいで伝わってこなかった、そもそも考える気が失せたのでただ浅はかだなとしか思えなかったというのが結論。

 

尺がないのではなく意図的に切ってる

事前の感想で「尺が足りない」っていうのをよく見たんだけど、1時間ってVシネとしてはごく普通だし、実際いくらでも補完しようと思えばできるTTFCの『ネット版』にしても、4,5分ってのは1本の長さとしては従来通りだけどそれがたった2本ってさ。
そもそも本当に尺が足りないなら回想シーン削れよって僕は思った。ファンじゃない人が見に来る前提でつくんなくていい企画じゃん、仮にも"完結編"でしょ? その辺はみんな分かってる上で、本作は何を提示するのかが本題のはずなのに。
これは完全に僕の妄想ですけど、「元々TTFCで配信する予定だったけど映画に繰り上げになったので予算と尺を少し増やします、TTFCでは代わりにこれでも配信しといて」みたいなやっつけ仕事に感じた。
っていうかやっぱ、撮影する予算もなければそうまでして描きたいこともあれ以上はなかったんじゃないかなぁ? 散々「セリフがタルい」って話をしたけど、あれがもし尺稼ぎをしてるんだとしたら色々納得行くもん。ダラダラ引き伸ばして、回想でお茶を濁して、ドラマにしたって比奈をちゃんと絡めようと思ったら47話の「映司くんとアンクちゃんどっちかは戻ってくるなんて、そんなの認めちゃ駄目よ。(中略)映司くんもアンクちゃんもお兄さんもって、ちゃんと欲張れるのは比奈ちゃんだけよ」辺りの扱いが難しくなるからもう脇役でいいや! 今回は映司とアンク、"2人"の物語です! って割り切ってるし。「○○と××と△△」っていう、3つのファクターが重要な作品であるにも関わらず、だよ。「映司くんは女の子を助けてから行方不明なんです……」じゃないよ、それが見える場所にいたのにあんたら手を繋がないで何してたのよって。まぁ今回はゴーダが3人目なんですって言われたらそうなのかもしれないけど、その癖エンドロールではちゃっかり、映司とアンクと比奈の3人がキーマンになってる本編のオープニング映像そのまま流用してるし。

 

せめて明日への踏み台になってくれ

ただのスピンオフとしてやるはずが役者やスタッフのやる気だけが異常に暴走して、予算的にできる訳がない分不相応な企画(スピンオフに留まらない完結編)に手を出した結果があの出来って感じに見えた。何も知らんけどそうでもないと納得がいかない。
やりたいことを成せるだけの"器"がなかっただけでやる気があったのは本当らしいので、まずは「映画館で金を払って見る」、その上で「こんなもの見れたもんじゃねぇ」とぶっ叩く……そうすることで「こういう企画を映画でやろうとすれば客は集まるので、もしやるならきちんと予算出してガッツリつくるべき」と思って貰って、これから他の作品で面白い映画がつくられることに期待しないと報われない。
多分だけど、東京国際映画祭だかなんだかっていう大層な場で大々的に発表しといてこれかよって部分もあるにせよ、ある程度は誇大広告してでも客集めて稼がないと次に繋がらないから、その辺は向こうも分かってて敢えて必要以上に期待させる意図というか、そういう必要性に駆られてたんじゃないかなとは思うんだけど。完結編のはずなのに初見でもなんとなく分かりやすいように説明ゼリフや回想多めで組み立てるのも、そういう新しい試みの第一弾として課せられた命題だったのかもしれない。

当たり障りないスピンオフではない作品を割と時間経ってから映画でやるっていう今回のチャレンジは、せめて後年へのいい踏み台になって欲しい。
仮面ライダー40周年記念の『レッツゴー仮面ライダー』で先輩たちからバトンを受け取ったライダーとして未来への礎を築いてくれるのであれば、僕はこの作品の誕生を祝えると思う。

 

後編(肯定的)

『復活のコアメダル』のラストを受け入れるためのひとつの解釈

二次創作

独自解釈で『復活のコアメダル』の脚本を書いてみた

86ma.hatenablog.com

暴太郎戦隊ドンブラザーズ ドン3話「あかりどろぼう」 感想

・介人が読んでる本、これまでは初恋ヒーロー以外は謎の本ばかりだったけど、今回は「全開〜」というタイトルが見切れている。前回はるかとの会話で「全力全開……なんだそれ?」って言ってたので、真に受けるならそれがきっかけで調べ始めたとか……いやでも、普通に変身するときゼンカイって単語聞くはずだから、知らないことはないよな。保留。

 

『恋せぬふたり』でも使われていた? お屋敷で空想の酒を飲むサルさん。いわゆるプラシーボ効果というものがあるけど、アルコールだって一種の薬品なんだから思い込みによって酔うことは有り得る……というかノンアルコール(少し含む)で普通のお酒と同じくらい酔うとか、本当にアルコール入ってないのに酔うとか、そういう現象も実際あるらしいので、きちんとした知識に裏付けられた趣味なんだろう。
とは思うけど、サルさんが酔っ払いたくて酒を飲んでるともあまり思えないので、どちらかというとお酒の味を嗜むことに主軸をおいてるような気がする。その場合プラシーボみたいなそれっぽい理屈はなくて、ただ本当に「その気になってる」だけってことになるけど……。
「思い込めば現実になる」というのがおそらくドンブラ世界の基本原理であるという仮定に経てば、何もおかしなことはないんだけどね。だからほとんどのキャラクターはドンブラザーズになるまでは割と順風満帆な生活を送っていて、はるかは漫画家として大成、キジさんは職こそ平凡だけど幸せな家庭があり、サルさんは働かなくても周りの人から恵んでもらえるヒモ生活。分相応というか、"自分はここまで幸せになれる"という自信に見合うだけの幸せが割り当てられるのがこの世界のシステムなんだろう、多分。

愛されニートとフードロス

・貰いもので暮らす無職のヒモっていうのは、現実ではともすればクズだとか言われかねないけども、僕は時代に合っててすごく好き。詳しく知りたい人は岡田斗司夫の愛されニートって概念についてYouTubeで調べれば出てくると思うけど。
サルさんはあんまりプライド高そうではないよね。英語ではどうか知らないけど、少なくともカタカナでプライドと書いた場合は「自分で自分の自由を制限する信条」みたいなニュアンスが強く出るんだけど、その意味で自由人であるサルさんはプライド高くない。ニートではなくきちんと人並みに働かなければならない、貰いものではなく自立した生活をしなければいけない、こんな安っぽいおでんが食えるか……みたいな観念は持ち合わせていなくて、でもその一方で気位というか、自分に対する自信はかなり高い方だと思われるのが面白いところ。
知識や俳句などの自分の価値に揺るぎない自信を持ちながら、だから自分は偉いんだとか、その偉い身分に見合う振る舞いをしなければいけないとかそういうことは思わず、ただ流れるように"ありのまま"生きる。貰いものはありがたく食べるし、多分服とかも買ってもらったらそれを着るし、ともかく今あるものに自分を合わせるタイプな気がする。仮に貰ったものが気に入らなかったとしても、なんだかんだうまいこと言いくるめて相手を不快にさせずにことを収めそうだし。

っていうか、悩み相談する方も結構いい感じに教授を利用してるのかもしれない。うちはご近所さんとか親族との関わりがほとんどないので無縁だけど、知り合いは割と実家から何か送られてきたりとか近所の人からお裾分けされたりとかで、食べきれずに困ってるみたいな話をよく聞くし、実際僕もそれで色々貰ったりしてる。
たけのこにしろみかんにしろ劇中のじゃがいもにしろ、たくさんありすぎて処理に困ってるものをニートにあげて、そのついでに悩みも解決してもらえるってなったら、そりゃ地域で噂になって人気者にもなるかもしれない。
ベーシックインカムより先に、フードロスの削減ついでに全国のニートに食べものを配った方がいいんじゃないか? 世界中の恵まれない子供には届けられなくても、日本国内の近場ならやろうとすればなんとかなるでしょ。

 

暴力を振るうだけがヒーローじゃない

・1話の中で2回戦闘シーンを入れようっていうなんとなくのノルマがあることは知られているけど、それを拡大解釈して戦闘はしないけど変身だけしておけばいいって描き方はなかなか面白い。特に本作は「敵を殺さない」ことを意識して描いてることもあるし、何も暴力を振るうだけがヒーローの役割じゃなくて、あぁいう日常的な人助けに使ったっていいじゃないというのはテーマとしての一貫性もあるしとても好き。
分かりやすい分類なのでよく引用するけど「ドライブは人を助けるライダー、マッハは敵をぶっ潰すライダー」っていう目的の違いね。

 

細かい描写から読み取るキャラクター

・叔母さんの「また盗作?」って、まぁ本人が言われてどう思うかはさておき、本当に盗作してると思ってたら絶対に出てこないセリフだから信頼してるんだろうなってのが見える。こういう細かい台詞回しでそのキャラクターの背景を予感させる手際こそ、脚本家の腕の見せどころなんだろうなきっと。
逆にほぼ見ず知らずの人間に、冗談でも「洗い物でもする?」と言い出すはるか先生の気持ちが分からなかったんだけど、タロウの方がちょっとぶつかっただけで「縁ができたな」つってにこやかに話しかけてくるから、言われた方もついつい距離感が狂ってしまうというか、あたかも本当に親縁な仲であったかのように錯覚してしまうのかもしれない。さっきの思い込みの話じゃないけど、人との縁こそ思い込みひとつでどうにでもなるというか、お互いに仲がいいと思ったらそれはもう本当に仲良しってことになるんだから。
実際このあとも、喫茶どんぶらで一緒にお茶しちゃう訳だし。

それはそうとコメンタリーの方で、洗い物するときに水を流しっぱなしにする人とそうでない人がいるけど、タロウはきっと流しっぱなしで洗う人だよねって話が出ていて、何が違うんだろうなぁと考えていたんだけれど、まぁそもそもどんぶらこと流れ流されてきた人なので水の流れと相性が良さそうっていうのはあるだろうってのに加えて、4話で描かれた完璧主義なことも合わせて考えると、食器の汚れを落とすという皿洗いの命題を完膚なきまでにこなすためには、水道代なんか惜しまないというようなニュアンスなのかもしれない。

叔母さんが誤認逮捕するシーンも、確かに怪しいとは言え悪いことしてる訳じゃないどころかむしろ皿洗いやってくれてるのになんで犯罪者だと思ったんだと不思議だったんだけど、そうやって親切そうに上がり込んで証明を盗む手口だと思ったんだろうか。普通はそもそも宅配業者を家には上げないもんな。
自分が犯人ですなんて正直に言うはずがないのに「俺はシロクマだが」の一言で誤解が解けるのも謎だったけど、セリフがどうこうというよりはタロウの人柄の良さというか、素直なところを見て誤認逮捕だと認めたという流れなのかな。普通なら「泥棒なんてしないですよ!」とか釈明しそうなところで「いや、クマはクマでも黒じゃなくて白ですけど」って、ツッコむとこ微妙にそこじゃないだろ! っていう。

・新聞によると、ドンブラの舞台は王苦市と言うらしい。他に思い付かないし、絶対オーグ……鬼が名前の由来だよね。漢字的には王が苦しむのか、それとも王が民を苦しめるのか……前者ならヒトツ鬼騒動でこの世界の管理者(王)たるソノイたちが苦しめられてることに、後者ならソノイたちが秘密裏にこの社会を管理して、ドンブラザーズのような都合が悪い存在には局所的な地震なんていうやべー手口で意地悪してくることを指してるのかなって思うけど、どっちなんだろう。
桃太郎は別に王って感じはしないしな。まぁ電王は桃太郎かつ王様か。

 

・あかりどろぼうこと快盗鬼。もはや井上敏樹の十八番と言ってもいい失明……目が見えなくなる怖さを描いた怪人と見ればいいのかな。
サルさんは復讐だって言ってたけど、ほとんど無差別だしだとしたら社会に対する復讐ってやつだよね、いわゆる。何か直接的に照明が恨みの内容に絡んでるとは思えないけど、井上さんは割とトラウマを描くときに「何かひとつの印象的なものに固執する」という形式を取ることが多くて、一番顕著なのは名護さんのボタンかな。草加のウェットティッシュもそうだし、あと睦月はコインロッカーベイビーだから暗いとこが怖いみたいな話もあった。
借金の取り立てか何かで照明まで差し押さえられちゃったとか、そういうエピソードがあるのかも? あんまピンとこないけど。
闇が怖いから自分の元に照明を集めるようになったのか、それとも闇が好きなだけなのか。山の上から見下ろす静かな景色が好きだったんだけど、久しぶりに帰ってみたら都市化が進んでて夜でも明かりがチカチカとうるさくて目障りだから、幼い頃の思い出を取り戻すために明かりを消して回る……みたいな動機があるのかな。トラウマパターンだとかなり個人的動機になるから、社会への復讐って線は薄れるかもしれない。まぁこの辺は別に分かんなくても本筋に関係ないけど。


・不気味に笑うソノニさん。快盗鬼はソノニの手下だからアノーニも出てきたのか?
「もうちょっと頑張れば、あなたは自由になれる」って言ってたけど、自由ってのが消去することだとしたら、脳人側にも人間でいるうちは襲わないというルールがあるのかも……まぁソノイさんは自分の手で怪人化してたけど。


・サングラスだしアバターだしやっぱ『ゴーバスターズ』を意識してるとこはあるっぽくて、それを踏まえたらまぁどう考えても黄色はウサギだよね。青はほぼゴリラだし。
キジブラザーはアバターチェンジすると胸も膨らむから、変身後のパッと見は女子が2人いる戦隊にも見えるのがミソかもしれない。
ブラックの戦士ってそんなに多くはなくて、特に『ゴーカイ』以降だとキョウリュウブラック,ジュウオウザワールド,オウシブラック,リュウソウブラックと半数もいない。次回おにぎり鬼……もとい超力鬼が出てくるので、玩具的にオリジナルの変身音が鳴るのは『ゴーカイ』以降のみだけど、本編では普通にオーレンジャーなどにもアバターチェンジできるのかもね。それならイヌブラザーはキングレンジャーになれるし。

・なんでも「いいよ」と肯定してくれてた介人が「よくないな……」と呟くことで変身してた人間が消えちゃうことを印象づけるのはお見事。


・人は殴らないって言ってたけど怪物は殴るから暴力振るわないって訳じゃないんだよなぁと思ってたら、暴走して味方にも攻撃し始めたドンモモタロウ。
これはもう単純に、嘘をつく機能が欠如しているのと同じように「人間に危害を加えてはならない、ただし人外ならいい」という(番組のお約束を皮肉った)プログラムがされていて、その基準に従うと超人になっているオトモたちには暴力振るっていいので普段の鬱憤を晴らしているだけなのかもしれない。そんなロボット三原則みたいな……。

 

前話

暴太郎戦隊ドンブラザーズ ドン2話「おおもも、こもも」 感想

仮面ライダーエグゼイド 第4話「オペレーションの名はDash!」 肯定的感想

貴利矢、空白の3年間

・貴利矢は3年前からドライバーを持っていたのに、どうして今になってようやく"乗り頃"だと思ったのかについては作中では一切触れられていない。
ひょっとすると大我が免許剥奪された経緯についてもきちんと調べ済みで、ライダーシステムには副作用があることも分かってたから、何人か戦ってるのを観察してから参戦しようと思ったのだろうか。
3年の間にCRのドクターとして活動していたような素振りも全くないし、本当にただ持っていただけということになっていて、まぁキャラ設定から考えて元々は自分で使うために貰ったというよりはバグスターウイルスを研究するための資料として使ってた感じなのかな? で、色々調べた結果副作用もそれほど酷くないことが予想されて、実際3人も仮面ライダーが出てきたから自分の仮説は正しいようだと踏んで、いよいよ変身してみることにしたと。
バイクのままじゃ馬力が出ないことに関して知っていたのはよく分かんないけど、数回くらいはCRに協力して実戦或いはVRシミュレーションを行ったこともあったのか、それも含めて分析の成果なのか。

・大我が永夢のガシャットを奪ったことについて謝罪する黎斗。エグゼイドのデータが取れなくなるのは自分にとっても不都合だからかな。
体裁的にも前回人手は多い方がいい的なことを言い訳にしていたので、ライダーを減らすような行動を取ったのなら本末転倒だからわざわざ謝りに来たのは意外とちゃんと筋が通ってる。
弱みに付け込まれただけなので一人じゃ力を発揮できないレーザーをあげたんじゃないかっていうのは通説だけど、どうなんだろうね。そもそも、3年前の時点……つまりエグゼイドすらまだ開発されていない頃にそんな変わり種を用意する意味があったとはイマイチ思えないんだけど。

 

医者としての一瞬

・それぞれ色んな思惑はありながらも、ニッシーの体調が悪くなった瞬間に明日那も含めて5人全員が走り出すとこ、あぁこいつらなんだかんだでちゃんと医者なんだな……って感じがして結構かっこいい1シーン。

・自分の方は勝ったら永夢のガシャット返すよう条件取り付けておいて、何気に負けたら自分のを渡すとは言ってない貴利矢はコスいなぁと思ったけど、さらっと流しすぎててこれじゃ大我は「ちゃんと約束した」と勘違いするんじゃないか?(笑) 騙すのと勘違いさせるのは微妙に違って、きちんと「うわ、騙された!(よく聞かなかった自分も悪いな……)」と相手に思わせないと成立しないというか、向こうが「いや、約束したじゃん! 俺悪くないじゃん!」って思うようなのはうまい嘘じゃない。
録音してる訳でもあるまいし、後から言った言わないのトラブルになるのが一番めんどくさそうだけど、嘘つきだけあって口論になったら口八丁手八丁で言い包める自信があるんだろうか。
・アイテムを使用するレーザー。エグゼイド世界の基準で言うと、これだけでも「ある程度ゲームに精通している」ことになるのかな。まぁでも適応能力の高さというか芯のなさというか、飛彩みたいに「これはゲームじゃない、オペだ」みたいな変な意地張らなそうなとこは確かにキャラにあってるとは思うかな。
ガシャットも結局約束した癖に盗んだ……ように見えて、バグスターを分離したのはレーザーだったので、スナイプは「勝負はこれから」と言っているが思ってたほどズルくもない。永夢が特に何もツッコまないで受け入れてたのは、このせいもあるかもしれない。良識あったら「取り返してくれたのはありがたいけど、あんな騙すような真似して……」って思うはずなので。まぁ彼自身が割と手段は問わないタイプではあるんだけど。

・前回ゲージが減って困ったので、様子を見て分離だけ任せてからバグスター退治に参戦……するのかと思ったら、スナイプに襲いかかるブレイブ。
そんなこと口が裂けても言わないからすげー分かりにくいけど、遠回しに永夢のガシャットを取り返そうとしているのかもな。スナイプを邪魔すればレーザーがバグスターを倒して永夢にガシャットが返ってくるし、自分がスナイプを倒してしまえばドライバーとバンバンシューティングも没収できて一石二鳥と言う考えなのかもしれない。


・細かい話だけど「あの言葉の訳を教えて下さい!」と言う永夢、怖すぎじゃない? 飛彩とか大我とかに、丁寧語ながらも反論するときの顔じゃん。患者に優しく接してストレスを与えようって感じではとてもない。
小説の話も踏まえると、ニッシーの言い分である「俺の体なんかどうなったっていい」という、自分の命を軽んじる態度が気に食わなかったのかな。……まぁ気持ちは分かるよ。そういうことは思っててもいちいち口に出すなって僕も思う。いい年してかまってちゃんかよ。

・ブレイブ,スナイプ,ゲンムとは敵対ばかりだった流れで、初めて他のライダーと力を合わせて戦うことになるこの重要なシーンでOP流すのは納得がいくし、何よりもここで繰り広げられてる理屈ってぶっちゃけ全然分からなかったりするんだけど、音楽にノせることで視聴者にちゃんと考えさせず誤魔化す手際は逆に見事。
脚本の指定なのか映像スタッフの判断なのかは分からないけど、こういうのは"演出の妙"として受け入れてもいい。限られた尺に収めなくちゃいけないこともあるし、どこかしらに論理の飛躍というかしわ寄せがくるのは仕方ないことだけど、それが気にならないようにケアするのが演出の仕事だと思うので。


・はー、なるほど。モータスがゲームをやるために商品が必要だから妹をさらう……ってんならともかく、グラファイトがモータスも生まれる前から莉子を誘拐してたのがずっと意味不明だと思ってたんだけど、貴利矢を参戦させるためだったのか。
彼を焚きつけるために友達のニッシーをゲーム病にして、ダメ押しでストレスを与えるために妹を連れて行くと。
・もしかすると、爆走バイクってゲームにもそういうエピソードがあるのかもしれない。レースとは関係ないやつが人質としてさらって、それを取り返すためにレースをするっていう。永夢のよく分からない自信がそこからきてるんだとしたら、まぁ分からんこともない。「ゲームキャラっぽいセリフだな」の一言で完全に理解したのね。

 

意志を持つ道具(バイク)

仮面ライダーレーザーの存在は「バイクにも心がある」という感覚をもたらす。今回データ取りと最終調整のために出てきたであろうシャカリキスポーツはその逆で「道具に心なんて必要ない」というテーマを背負っているから、あんな風にゲンムのいいように扱われているのだろう。
この辺は大森Pの『ドライブ』『ゼロワン』と通ずるテーマかな。乗り物を相棒と呼んで大切にする感覚とか、機械は人間の言うことを聞いていればいいのかとか。
バイクが言うことを聞かず勝手に意志を持って動くというのはなかなか怖いことだし、それこそ機械の"バグ"として捉えられるようなものだけれど、だからこそ意見を通じあわせて協力することに意味がある。


・嘘だとバラすのが早い貴利矢。黙ってれば何かもっと利用することができたかもしれないのに。
彼にとっては騙すこと自体に大して意味ってなくて、ただいつか壊れてしまうから新たな友情を築くのが怖いとか、露悪的な態度をとって距離を取らないと不安なのかもしれない。

・爆走バイクは敵を倒すゲームじゃないので、モータスの検体が残る……はずが、ゲンムが証拠隠滅をするという流れはなるほどなって思ったんだけど、その割にはマフラーからのビームでめちゃくちゃトドメさしてるように見えるし、後々再生したときも普通に倒されてたはずだし、なんか絶妙にスッキリとは理解させてくれないのがエグゼイドだよな。そこが面白い(interesting)のかもしれないけど。


まとめ

記事が短いことからも分かると思うけど、今回はそんなに面白くなかったかも。というか、話が薄味だった気がする。
1話完結スタイルも良し悪しよね。基本としてドラマが駆け足だったり薄味になったりするけど、次の話はまた新しい気持ちで見られる。

 

エグゼイド感想一覧

裏面

仮面ライダーエグゼイド 4話「オペレーションの名はDash!」 否定的感想

 

前話

仮面ライダーエグゼイド 第3話「BANしたあいつがやってくる!」 肯定的感想

次話

……