やんまの目安箱

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ドラマ(特撮)、アニメ等の話を中心に色んなことをだらだらと、独り言程度の気持ちで書きます。自分のための備忘録的なものなのですが、読みたい方はどうぞ、というスタンス。執筆時に世に出ている様々な情報(つまり僕が知り得るもの)は特に断りなしに書くので、すべてのものに対してネタバレ注意。記事にある情報、主張等はすべて執筆時(投稿時とは限らない)のものであり、変わっている可能性があります。

混沌への挑戦『仮面ライダー555(ファイズ)』 本編感想

ファイズを見終えました。
各話感想はいつも通り追々アップしていくとして、とりあえず映画と全体感想だけ。

 

満足度は10点中9.0。今の気分的には0.5上げてもいいんだけど、"見てる途中"の印象は相当悪かったからその記憶で減点。視聴をやめようと思った回数なら暫定1位。
何が悪いって、とにかく見てて疲れる。"主要キャラクター"が多いので、各人の認識を把握しきれない。僕が主に把握しようと思ったという基準でいうなら、クウガは五代 一条の2人、アギトは翔一 氷川 涼の3人、龍騎は真司 蓮 北岡 浅倉の4人と段々増えてきてるけど、ファイズは巧 真理 啓太郎 木場 長田 海堂 草加の7人。しかもそれぞれライダー態 オルフェノク態 メル友の啓太郎・結花などと色んな面があるので、誰が誰をどのくらい知ってるかを追うだけでも結構大変。

 

テーマを読み取るのもなかなか難しかった。最初は、どこかに向かっているというよりはただ世界とキャラを用意して行く末を見守るような感じかと思ったけど、ちゃんとひとところに収束して良かった。後者だと語りにくいからさ。あ、これは"結果的に"って話ね。
映画を見るまでは確信が持てなくて、色んな要素を覚えてられないと2,3度投げ出した。

 

結論としては、記事のタイトルにもした「混沌への挑戦」。
人間とオルフェノク、夢と現実、正義と悪、真実と嘘、変化と現状維持、大人と子供……JustiΦ'sの歌詞を借りれば、"護ることと戦うこと"。
それらに恣意的な線を引き区別することで、人は分かった気になれる。
僕の最近のテーマである「下手な抽象化による多様性の喪失」と繋がる部分があるんだけどね。

 

人間とオルフェノクの共存というのはさ、社会のステージでは難しいかもしれないけど、個人のステージではできつつあるのよね。巧とか。
最終回の「お前も、人間だ」が象徴的だけども、"人間でもオルフェノクでもある"という状態、つまり矛盾の許容なのよ。
白と黒できっちり分けてしまえば「どっちなの?」で済むから楽だけど、その中間を考え出すと処理が遅くなり負担が増える。聲の形でも似たようなことを思ったけど「障害者か健常者か」とか「被害者か加害者か」というのも、一面的に決まるものではないよね。

 

"網"が人間とオルフェノクの境界線だって話は事前に聞いてて、なんで網なんだろとかずっと思ってたけど、実際に見てみたら分かった。網そのものというよりは、そこに起こる"干渉縞"がキーだった。
2つの概念が対立しているときに生じるズレとか摩擦とかのメタファーであって、そこを超えて行くという意思を体現しているのが巧。

 

オルフェノクって、真司をモチーフにしてるんじゃないかなってふと思った。どちらも"変化"を背負っている者だし、「戦いなんて虚しいだけだ」と周りを自分に寄せようとする様は使徒再生と似てるような気がする。どちらも短命だったし。
もちろん龍騎本編での真司は傾向として正の方向で描かれているけど、その暗黒面を抽出したような。
龍騎では真司と蓮の2人を対立させることでジレンマを描いていたけど、ファイズではそこを一歩発展させて一人の個人の中に矛盾を抱えさせている。
そういう意味で、やっぱり草加の巧に対する「矛盾してるんだよ、君は」という指摘はファイズという作品の中でも最も重要なセリフだと僕は思うんだよね。"主人公を陥れる味方ライダー"という彼の存在自体もそうだし。

 

最近河合隼雄さんの『ユング心理学入門』という本を読んだんだけれど、その中にこうある。

これは、ラッセルが物理化学に対して、「物理学はわれわれが物理的世界についてよく知っているから数学的なのではなく、あまりにも知らないから数学的なのである。われわれが発見することができるのは、ただその数学的な性質にすぎぬのである」と述べているのと同様である。
(中略)
客観科学が成立するためには、ラッセルの指摘しているように、適切な領域の限定を必要とする。つまり、さきに述べたような観察者の主体が事象に関係するようなことや、因果律的な把握を困難とするような事象を、対象外とすることによってこそ、自然科学としての科学性が保たれるわけである。

雑にまとめると、「科学は説明できないものを非科学的だと切り捨てることで科学的たり得る」ということ。

その後この本の中では、シンクロニシティなどの非科学的ではあるが豊かとも言うべき広さを持った視点で様々な話が展開される。
面白いのでおすすめです。

 

他にも分人主義という考え方とか、これらの姿勢というのが、ファイズのそれに似通っていると思うのだ。僕の中でキーワードとなっているのは、"割り切らない"。
"人間"という抽象化された言葉は、その奥にある複雑で豊かな多様性から少し離れたところにある。
もちろんその奥側も含めて認識できる人もいるが、僕が見ている感じ、それらが切り離されて言葉がひとり歩きしているケースも多い。

 

劇中では南雅彦なんかが顕著に言っていたが、コトを単純化することで処理速度は上がり負担は減る。"常識だから"みたいなのはそうだね。
だが、往々にしてその裏には、代償として切り捨てられ犠牲となる何かがある。

 

そういった"楽"な状態に甘んじている状態のことを指してこの作品は"パラダイス"と呼ぶ。ここは映画の話ね。
矛盾を背負い、分かりにくくて大変だが、豊かで"みんな"が幸せになれる世界を夢見て進み出す。追い出されるのではなく自分から楽園を去る(罪を背負う)……そういう話に見えた。
そう考えていくと、1,2話でしつこいくらいパンツパンツ言ってたのも、幸せのキーワードが真っ白な洗濯物……つまり"服"なのも、なんか示唆的だなぁとか思ったりして。

 

最後に言うのもなんだが、本当はこの「ファイズの内容をひとつの記事にまとめる」という行為自体も抽象化であって、見方を狭めてしまう野暮なことなんだよね。書いちゃったけど。
だから、こんな記事なんかよりもぜひ本編を見てください。

 

各話感想

仮面ライダー555(ファイズ) 1,2,3,4話「旅の始まり/ベルトの力/王の眠り/おれの名前」 感想 - やんまの目安箱

劇場版

劇場版 仮面ライダー555(ファイズ) パラダイス・ロスト 感想 - やんまの目安箱

前作

終わりのない戦い『仮面ライダー龍騎』 本編感想 - やんまの目安箱

次作

運命のマッチポンプ『仮面ライダー剣(ブレイド)』 本編感想 - やんまの目安箱

 

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